ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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不気味なほど静かだった金融市場と平穏無事な経済動向 その6 日本経済④

2015年05月30日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  今週に入っても、円安が止まりませんね。不幸の連鎖に一段と拍車がかかりそうで心配です。

   前回の記事「私は騙されない」をおさらいしますと、一般の人々の毎日の生活実感はGDPが上昇したと喜べるようなものでは決してなく、特に所得の低い人は物価上昇から「将来の暮らし向きは悪くなり、物価は今後さらに上昇する」ことを見込んでいるというものでした。

   先週、4月の消費者物価統計が発表されました。生鮮食料品を除く総合でプラスの0.3%。3月までは消費税値上げ分の約2%のゲタを履いていましたので、3月の数字は2.3%の上昇でした。消費増税は3%でしたが、物価全体は消費税がない物もあるため影響度合いは2%と計算され、それがゲタと表現されます。4月はそのゲタがほぼなくなり消費税の影響はわずか0.3%が残っているだけですが、それを引くと上昇率は0.0%、つまり前年比で丁度ゼロとなっています。

   物価上昇率という統計の数字には大きな罠が仕掛けられています。「上昇率がゼロになった」というのを喜んではいけません。ゼロとは前年比だけで、2年前と比べるとプラス2%です。ということは、この2年収入が増えていない人にとって4月の物価上昇はゼロではなく、2%なのです。来年の今頃、仮に前年比で物価が2%を達成したとします。収入が依然として増えない人にとって物価上昇率は累積の4%なのです。日本ではベースアップのある大企業に勤める人はとうてい過半数に達していません。年金生活者はベースダウンをくらっています。ベースアップのない多くの人にとって物価上昇率はアベクロ・コンビのスタートから累積で効き続けるのです。

   統計というマジックに十分慣れていないと、こうした本当の現状把握や分析ができません。私の様な数字ヲタクは少数派ですから、世の大多数のマスコミの記事を書くオニイチャン・オネエチャン達の記事にごまかされず、いや、もとい。オニイチャン・オネエチャン達は自分がごまかしていることすら自覚なく、「アリノーママニー」書いているのだということをみなさんには知っておいて欲しいのです。

   さてここまで日本の現状把握を、GDP・物価統計と一般人の生活実感のズレから解説してきました。何故このズレの把握が大事かといいますと、このズレは不幸の連鎖であって、こうしたことがじわりと家計を蝕み、日本経済が体力を喪失していくからです。私はそれに警鐘を鳴らしたいのです。

   日本もいずれは個人消費がGDPの3分の2を超えアメリカの様に7割に近付きます。その時には高齢化の進展から年金受給者が増大し、収入が伸びる要素はほとんどなくなります。その中で医療費・介護費などのサービス消費が膨張し、人手不足から介護費も増大、その上一般物価も順調に2%を達成したりすれば、年金世代や中小企業の方々がその他の消費に回せるオカネは底を突きます。

   GDPを増やすのは簡単です。多くの労働者を雇い重機を使って巨大な穴を掘り、それをまた多くの労働者と重機を使って埋め戻せば増やすことができます。もっと極端に言えば、戦争をして設備を破壊し、復興のため設備投資をすればそれでもGDPは増えます。しかしそれは決して国民みんなの幸せにはつながりません。老齢化が進展して医療費・介護費が増大することは良い意味でのサービス消費の増大などでは決してなく、一国の経済全体の将来を考えると、不幸の穴を掘ってそれを埋め戻すに等しいと私には見えるのです。それでもGDP上はサービス消費が増大し、経済は成長したとなるのです。

   巨大な塊となっている団塊の世代は年金受取側、かつ預貯金取り崩し側に回りました。一部のリッチな人達は消費を楽しむでしょうが、大多数の人はそうはいきません。物価上昇、医療費・介護費の増大に苦しみ、その他の消費を減らし、預貯金を取り崩します。このことは日本にとって確実に起こる未来であって、バクチ打ちのアベクロ・コンビの大芝居で逆転などできません。

   日銀の思惑は4月の物価統計発表にて完全にハズレですが、とても怖いのはクロちゃんがそれをもっていきなりバズーカ3号を発射することです。市場の見方は、「日銀は『秋になったら物価は上向く』と言っているがそうならないとバズーカ3号を発射する」というものです。その市場の読みを欺きサプライズを演出するためには、もう空砲でしかないことが分かっていても暴発したようなタイミングで発射する以外にありません。しかも既に国債が市場では底をつきかけ、株を買い上げる以外にロクな弾がありません。このところの株の連騰にも常に日銀の影がちらついています。株屋さんに言わせると引け近くで株価が安いと必ず日銀の買いが入るのだそうです。株高に沸く証券業界の思う壺に日銀がはまり、一般投資家もはまれば、行く先は見えています。

 

  さて、ここまで日本の現状の危うさを私なりに分析してきました。この後は欧州に進むつもりですが、その前にブログの読者の方から米国債でどう自分年金を作るかについていくつかの質問をいただいていましたので、それに回答してから欧州に進むことにします。

  

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不気味なほど静かだった金融市場と平穏無事な経済動向 その5 日本経済③

2015年05月27日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

サブタイトル;一般人の暮らし向き、私は騙されない!

  円が7年ぶりの安値をつけていますね。今回は「不気味なほど静かな金融市場と・・・」というタイトルで解説を始めましたが、ひととおり書き終わらないうちに為替が動き始めてしまいました。「不気味なほど静かだった・・・」に要訂正ですね(笑)

  もちろん今回のシリーズの私の意図は「中央銀行による異常な緩和に支えられた市場も経済も、このままハッピーな状態が続くわけはない」ということで書き始めています。そして何が均衡を破ることになるのか、相場か実態経済か、予想をしてみようと思っていました。このまま円がどんどん安値を昂進し続けると、予想の必要がなくなってしまいますね(笑)。それにもめげずに私のストーリーを続けます。

  前回は物価の中で一番実感しやすい食料品、それも朝食用品に限った価格を、私の買い物カゴの中身からみなさんにお示ししましたが、それに賛同するご意見をいただきました。値上がり率は2年で消費税込約3割という恐ろしい数字になっていました。

 

  ではこうしたことが全国の消費者にはどのようなインパクトを与え消費行動に影響をしているのでしょうか。今回は「生活実感」という数字にしにくい難物を数字で捉えることにします。

   「消費動向調査」という調査があります。政府中枢の内閣府が公式に発表している調査報告です。この統計はじっくりと見る人が少なく報道もあまりされない調査で、むしろ内閣府も報道機関も意図的に無視しているとしか思えないほど可哀想な扱いを受けています。何故か?

   もちろんアベチャンにとって「不都合な真実」に満ち溢れているからです。

 以下ではまず私が尊敬するエコノミストの一人である東短リサーチ代表の加藤出氏の先週のコラムからこの統計に絡んだ記事の概要を引用します。

 引用

  黒田日銀総裁のバズーカ1号が発射される前と現在では、消費者が将来を見る見方が大きく変化し、特に所得階層の違いでその意識の差が鮮明になっている。それをバズーカ発射前の13年4月と直近15年3月の調査結果を比較し見てみる。

 1.      将来の暮らし向き ・・・ 「良くなる」と思う人の数から「悪くなる」と思う人の数を引いて差を%で表したもの。

(林の注)数字がプラスなら将来良くなると思っている人が多く、マイナスはその逆。マイナス幅が大きいほど将来を悲観的に見ている人が多いことになります

年収     950~1200万   550万~750万   300万未満

13年4月    マイナス12.6%  マイナス17.5%  マイナス34.5%

15年3月    マイナス17.0%  マイナス28.7%  マイナス48.3%

悪化度       4.4p       11.2p               13.8p

 

  13年と15年を比較すると、年収にかかわらず将来の暮らし向きが良くなると思っている人より悪くなると思っている人の方が多くなっていて、すべての階層でマイナスの結果が出ています。年収が多い人より少ない人のほうがより悪くなると思っている人が多いことが、悪化度の欄を見ると明らかです。つまりバズーカを2回も発射しても、アベノミクスに対しては懐疑的な人の方がより多くなってきているのが調査結果に出ている。


2.    将来のインフレ予想

将来のインフレが5%以上になると思っている人の比率

 年収     950~1200万    300万未満

13年4月        16.5%             20.5%  

15年3月        17.5%             32.2%  

悪化度       1.0p       11.7p 

      13年では5%以上のインフレを予想する人はさほど多くはなかったが、15年時点では300万円以下の層で2割から3割へと大きく増加している。これは毎日の食料品の値上がりにかなり強く反応し、低所得者層では将来のインフレを脅威と思っている人が多くなったということだ。

引用終わり

 

  さて、みなさんはこの調査をどう思われますか。

    この数字を見れば、内閣府の消費動向調査が実に的確に一般人の暮らし向きを捉えていることがわかります。所得が300万未満の層では将来の暮らし向きがよくなると思っている人の数は半分程度しかいませんし、このところの食料品物価の高騰で将来インフレ率が5%を超えると思っている人が大きく増えています。

   では一般勤労者の賃金の動向はどうでしょうか。最近3月の賃金の確報が発表されましたので、引用します。

   「2014年度の毎月勤労統計調査の確報によると、実質賃金指数は前年度比3.0%減と4年連続減少し、1990年度の統計開始以来、最大の下げ幅を記録。現金給与総額は同0.5%増の31万5,984円と、4年ぶりに増加した。」

   解説しますと、14年度の賃金そのものは4年ぶりに0.5%上昇したが、物価の値上がり分を差し引いた実質賃金は3%減少し、統計開始以来最大の下げとなったということです。なんとも悲しい結果が示されています。

   年金受給者など所得の上昇がない方は、3+0.5=3.5%くらい実質収入が減ったと読みとれます。これではとてもとても将来に明るい見通しを持つことはできません。

   さて、加藤出氏のコラムの数字は3月調査の数字で、その後に定期昇給やベースアップの数字が決まり、4月になると消費者態度指数などは改善するはずと思われていました。しかし5月中旬に発表された4月調査の数字は悪化していました。消費動向調査の中でもっともよく引用される消費者態度指数などの概要を内閣府のHPから引用してみます。

 

引用

(1)消費者態度指数

平成27年(2015年)4月の一般世帯の消費者態度指数は、前月差0.2ポイント低下し41.5であった。

(2)消費者意識指標

消費者態度指数を構成する各消費者意識指標(一般世帯)について、平成27年(2015年)4月の動向を前月差でみると、「耐久消費財の買い時判 断」が0.9ポイント低下し39.7、「暮らし向き」が0.4ポイント低下し38.4、「収入の増え方」が0.1ポイント低下し39.3となった。一方、 「雇用環境」は0.8ポイント上昇し48.6となった。また、「資産価値」に関する意識指標は、前月差0.3ポイント上昇し43.4となった。

引用終わり

 

  大事な消費者態度指数は改善していません。明るい未来を描こうとする政府・日銀、それにちょうちん記事を書く報道がどう言おうと、内閣府の消費動向調査は4月になってもさらに低下しています。

  今回みなさんにお示しした二つの統計、内閣府の消費動向調査と厚労省の毎月勤労統計に、庶民の実感は比較的正しく反映されています。 つまり実質賃金が増えない中で物価だけだ上昇し不幸の連鎖となっていることが説明されているのです。なのに内閣は自ら調査している統計を無視し、日銀もそれに乗じて不幸の連鎖などどこ吹く風と強弁を続けています。

   消費者は将来の物価上昇や消費税値上げに対して実はかなり不安を感じていて、この先ますます自己防衛的にならざるを得ません。ここに来ての円安でさらに物価の一段の値上がりが見込まれると、エンゲル係数は上がるばかりになり、その他の消費を落とさざるをえなくなります。

  政府が笛吹いて踊るのは一部の高収入消費者だけで、大多数の一般庶民は決して騙されることはなく、消費に踊るなどということはないと私は思っています。

  以上、「一般人の暮らし向き、私は騙されない!」 でした。

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不気味なほど静かな金融市場と平穏無事な経済動向 その4 日本経済②

2015年05月24日 | ニュース・コメント

  前回お約束した、GDPが伸びていることと個人消費の伸びに大きなギャップがあることを分析しておきましょう。それが今後の日本経済を読む上でも大事な要素になると思われるからです。

  さて、GDP全体は2.4%の伸びを示し、日銀のクロちゃんも22日の政策決定会合で日本経済の景気判断を上向きに変更しました。その変更とは日経新聞によれば、

 「穏やかな回復基調」 を 「穏やかな回復」に一歩前進させた。

   とのことですが、私にはこの言葉で前進したのか意味不明です。

  このところの政策決定会合で目立っている審議委員の方が約1名います。それは木内登英審議委員です。彼は日銀が年に80兆円のペースで資金供給を続けていることに、「たった一人の反乱」を起こしています。効果がなく後で後遺症が大変だからもういい加減にしろ、というのが彼の言い分ですが、もちろんそんな激しい言葉ではなく、「効果が思ったほどないのだから供給量を減らすべきだ」、と穏やかに反対票を1票投じているのです。現在の政策の維持を全会一致ではなく、8対1として自分の考えを曲げずに警鐘を鳴らす役割をきちんと果たしています。きっと彼も任期が来ると替えられてしまうのでしょう。それともアリバイ作りのため、一人だけは残すのかもしれませんね。

  この人は元々白川総裁時代からいる人で、当時から積極的緩和派として知られていたため、黒田氏に代わってからも生き残っていたのですが、面白いことに他の審議委員がトンデモ積極論者にすげ替えられたため、今や同じことを言っていても消極派に分類されてしまっています。超積極派の代表選手が就任時に「2年で2%が達成できなかったら辞任する」と高らかに宣言し、できていないのに辞任しない岩田規久男副総裁です。

 木内さん、ガンバレ!

   

  では個人消費の話に戻ります。多くの一般の方々の生活実感は「穏やかな回復」って何だ、なのではないでしょうか。収入は増えない中で一方的に物価がどんどん上昇し、私が指摘してきた「不幸の連鎖」の真っただ中にいる。しかも消費税がそれに追い打ちをかけた。

   物価について以前「実感ではすごく上がっているのに、物価統計上は上がっていないのは何故ですか」という問いに対して私は、「物価の評価をする時には消費増税分の3%が除かれるということと、衣料品や家賃などが上がっていないためだ」という返答をしました。それは相変わらずそのとおりなのですが、目の前での食料品の値上がりはほっておけないほどのものがあります。

   私は普段から物価については興味津々なのでよく見るようにしていますが、最近の食料品の値上がりは驚異的です。例えば私がよく行く近所の安売りスーパー、OKストアで値上がりの目立った朝食用の食料品価格を2年前と比較しますと(消費税抜き)、

 

  パイナップル半分 150円 → 225円   50%

  キウイ5ケ    278円 → 378円  36%

  バター      290円 → 370円  27%

    いちごジャム    550円 → 650円  18%

  ロースハム    279円 → 356円  28%

  食パン半斤    149円 → 178円  19%

  タマゴ10個    189円 → 209円  11%

  ヨーグルト    139円 → 168円  21%

  コーヒー豆450g     980円 → 1,190円 21%(これのみ成城石井、安いので)    

  単純平均               26%

 

  この平均26%に消費税の値上がり分3%が加わるので、うちの朝食代は平均でも3割くらい値上がりしている勘定になります。男性の方で普段あまり買い物をされない方は、是非奥様に最近の食料品価格について尋ねてみてください。

   よく見ると一番値上がり率の低い卵を除くと、ほとんどが原材料を輸入に頼っている商品です。ドルが2割以上値上がりしているので、それに沿った動きと見てもよいのかもしれません。それにしてもこの値上がり率、まるで第一次オイルショックを彷彿させるほどのひどさです。

 つづく

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不気味なほど静かな金融市場と平穏無事な経済動向 その3 日本経済

2015年05月21日 | ニュース・コメント

   2回にわたりアメリカ経済を概観してきました。このところ発表される経済指標にスローダウンの兆しが出ています。しかし私は『こうした小さな動きは単なる経済の循環と相場のアヤに過ぎず、いちいち解説するほどのことではない』とのべました。「解説」の言葉はあまり適切でないかもしれません、解説していますので(笑い)。「反応」と変更させてください。

  そして前回の終わりでは『アメリカが他国に比べて力強く成長するであろうトレンドに変化はないと見るのが妥当だ』とも述べています。昨日アメリカでは4月の新築住宅着工の数字が発表されましたが、なんと前年対比でプラス20%と、誰も予想しなかったほどの数字が出てきました。そして地域別に見ると、北東部では3月に比べて4月の増加率は異常とも言える86%にもなっていて、1-3月期のGDPのスローダウンの原因は寒波である可能性が高いと報道されています。前回取り上げたサンフランシスコ連銀による季節調整の方法による大きな成長率の齟齬ついても、どうやら見直すらしいとの報道も耳にしました。いずれにしろ様々な毎月の統計など変動が激しいので反応し過ぎない方がよいということを、改めて示しているのだと私は思います。

 

   さて今回からは欧州の順番のはずでしたが、昨日丁度日本のGDPの1-3月期の数字が発表されましたので、順序を替えて日本にフォーカスすることにします。あしからず。

  ではまずGDPの報道から見てみます。ロイターニュースを要約して引用します。

「2015年1─3月期国民所得統計1次速報によると、 実質国内総生産(GDP)は前期比プラス0.6%、年率換算でプラス2.4%だった。輸出の伸びや設備投資がプラスに転じて景気改善が確認できたが、民間在庫投資が実力以上に成長率を押し上げた面がある。個人消費に加速感が出ず、原油安や雇用・賃金増加の効果は、事前の期待ほど寄与していないようだ。

民間最終消費は前期比プラス0.4%。3期連続でプラスとなり、10─12月期と同じ伸び率を維持したが、力強さには欠ける。雇用、賃金の持ち直しや原油安による実質購買力の増加により消費の伸びが高まることが想定されていたが、やや期待外れの結果となった。

輸出は前期比プラス2.4%。10─12月期からは鈍化したものの、しっかりとした伸びになった。一方、輸入も前期比プラス2.9%と高い伸び。原油や天然ガスが増加した。このため、外需寄与度でみれば前期比マイナスで、成長率を押し下げる要因になった。外需寄与度がマイナスとなったのは4期ぶり。」

引用終わり

  さらに簡単に要約すれば、「個人消費はだめだったが在庫投資が全体を押し上げ、輸出はプラスだが輸入も大きくて外需の寄与はマイナスだった」となります。

  では14年度として見た3月末までの1年はどうだったか、ロイターをそのまま引用します。

「同時に発表された2014年度の成長率は、消費税引き上げの影響もあり消費、設備投資など内需がさえず、実質マイナス1.0%となった。リーマンショック以来、2009年度(マイナス2.0%)以来、5年ぶりのマイナス成長となった。名目GDPはプラス1.4%だった。」

   なんと一年の実質成長率はマイナスに終わっています。14年12月までの暦年の1年でもマイナス成長でしたが、1-3月期のプラス2.4%を追加してもまだなお実質では1%のマイナスなのです。

   GDPの速報値に関して長々と引用しましたが、その理由はこのところの様々な経済指標や株価、新卒採用状況や賃金上昇の報道などを見ていると、いかにも日本経済が順風満帆になりつつあるように思える報道が多いので、そうたことを総合的に表すGDPの数値は決して芳しいものではないということをみなさんに認識してもらうためです。

  ではどうして報道に現われる経済実態とGDPは乖離しているのでしょうか。一番の原因は株価の上昇による景況感の好転、二番目の原因は報道は大企業と大都市を中心としていてGDPが日本全国ベースの状況を表しているのとは乖離があるからだと思われます。このブログでも時々地方にお住まいの方から、「ちょっと違うんじゃない」というようなコメントをいただきますが、それが数字ではっきりと表れるのがGDPの数字だと思います。

  GDP報道そのものでも今朝の日経新聞朝刊の3ページのトップで解説記事があり、見出しは「消費浮上、景気押し上げ」とあります。でもこれは単なるウソですよね。何故ならGDP全体が2.4%増加しているのに6割を占める消費はたった0.4%の増加で、全体の足を引っ張っているからです。名目では消費はなんとマイナス0.1%です。こうした日経など政府のちょうちん持ちの記事が、実態の見方を誤らせるのです。その点、冒頭のロイター記事では「個人消費に加速感が出ず、原油安や雇用・賃金増加の効果は、事前の期待ほど寄与していないようだ。」とあり、よほど実態をあらわしています。

  それにもかかわらず、政府・日銀の思惑に沿った経済指標が多くなりつつあるのは事実だと思います。

例えば、

1. 物価指数

総務省の発表する指数は低迷が続いていますが、私がよく引用し先行性のある東大日次物価指数はマイナスの域を脱して、今月に入ってプラス領域にまで回復しました。ちなみに直近5月18日の指数は前年比プラス0.44%で、同じベースでの3月の総務省の物価指数0.41%を若干上回っています。総務省指数は月一回なので遅れていますが、それでも比較において上回るのは久々です。東大指数に先行性があるとすれば、今後消費者物価はさらに上昇する可能性があるかもしれません。

2. 経常収支

財務省が5月13日に発表した2014年度の国際収支統計速報によると経常収支は7.8兆円の黒字となり、4年ぶりに黒字が増加しました。14年度は原油安で貿易赤字が縮小したのが主な原因です。14年度の経常黒字が増えたのは貿易赤字が縮小した影響が大きく、貿易赤字額は前年の11兆円の赤字から6.6兆円へと減少しています。

3. 株価

改めて申し上げるまでもありませんが、好調な企業収益の結果を受けて2万円を再び超えています。円が120円前後で推移していることが大きいと思われます。そして昨日は東証の時価総額がバブルのピークの591兆円を超えたとの報道もありました。

4. ベースアップ

このところ定期昇給はあってもベースアップはほとんどなかったのが、4月からの新年度では経済団体の報告でも労働団体の報告でもベースアップを回答した企業が多くなっています。政府の鳴り物入りの圧力も、効いていることは確かです。

 

  では、こうした上向きの指標とGDPとのギャップ、それも個人消費とのギャップはいったいどうなっているのでしょう。次回はその辺りを詳しく解説してみます。

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不気味なほど静かな金融市場と平穏無事な経済動向

2015年05月19日 | ニュース・コメント

   新たなテーマとして、「不気味なほど静かな金融市場ととても平穏無事な経済動向」をどう見るかを取り上げています。

   一回目はアメリカ経済全体の構造について、GDPの構成比をもとに説明しました。大事なことは個人消費が約7割を占めるためその影響力が非常に大きく、その他の項目の影響力は小さいということを数字で示しました。

  そして1-3月期は成長率が0.2%とそれまでに比べ低成長でしたが、それを言い当てたアトランタ連銀のGDPナウキャストが今とても注目されていて、4-6月期も現時点の見通しは0.7%成長と、やや低調になっていることを伝えました。

  ところが昨日のアメリカの報道でサンフランシスコ連銀「1-3月期GDPの数字は季節調整の方法によってはプラス1.8%になる」という研究レポートを出しています。「季節調整」の詳細についてはまたの機会に譲りますが、要は経済指標は季節性が強いため、それを生の数字では出さず、一定のフォーミュラで均して見ることに決めている、ということです。日本でもその他の国でも同じですが、季節調整の方法は種々あります。

 

  さて今回はアメリカ経済の先行きに対し低成長見通しもある中で、株式市場と債券市場が若干違う方向を目指しているようだ、ということを指摘します。

  このところ発表されるアメリカの経済指標は若干スローな数字が多いのは事実ですが、ここにきて金利は逆に若干上昇し、子なし爺さんからも「いつの間にか2%超え」とのコメントが入っています。金利はむしろ回復の兆しを読んでいるように思われますが、それをどう解釈したらよいのでしょうか。

  昨年の秋FRBは量的緩和の方向を転換し、今は利上げの時期を探っています。私は金利の上昇はそうした政策転換の方向を素直に示しているものと考えます。

  では、実態経済がスローダウンしているのに金利はむしろ上昇するという相反する状況下で、株価が昨日史上最高値を更新するほど堅調なのは何故でしょうか。先日のブログに書きましたがバフェットじいさんは「金利が上昇してくれば今の株価レベルは割高だ」と言っています。金利の上昇と株価の高値は相反します。

  ではそうした矛盾する現実をエコノミストはどう説明するのでしょうか。説明ぶりとしては例えば以下のようになります。

「実体経済のスローダウンは一時的なもので、順調な雇用情勢を背景に個人消費は堅調さを維持するだろう。これまでの経験からすると中央銀行による金利引き上げの第一段では株は買いだ。特に金利が歴史的に見て超低金利であるため、多少の引き上げでは実体経済に水を浴びせることにはならない。株価の堅調な推移は今後経済がふたたび成長軌道に戻る可能性を見ているためだ」、てな具合です。

これは私が勝手に付けた理屈でエコノミストの誰かが言っていることではありませんが、説明しろと言われればこんなものかな、というごく当たり前の説明ぶりを書いてみました。ではみなさんはこの説明に納得できますか。私は特に間違いはないかなと、勝手に思っています(笑)。

   

  次のように言っては元も子もないのですが、実は私は『こうした小さな動きは単なる経済の循環と相場のアヤに過ぎず、いちいち解説するほどのことではない』と思っているのです。

   こうした小さな動きとは、

・GDP経済成長率が0%台にスローダウンした

・10年物金利が1.9%前後から2.2%を越えてきた

・ダウ平均が1万7千ドル台から1万8千ドル台に回復し高値を更新した

   株式投資をされている方にとっては、とても大事な動きなのだろうと思います。それは自分が保有する株価の先行きを必死に見通したいということからだと思うのです。しかし私のように常に数年先を見通しながら目先のアヤにとらわれない者から見ると、このところの細かな動きがどうあれ、「アメリカが他国に比べて力強く成長するであろうトレンドに変化はない」、と見るのが妥当だと思っています。そうした長期視点を常に保持することこそ、先を誤らないための最重要点だと思います。

  エコノミストでないことは、とても気楽なことですね(笑)


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