ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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2013年からの資産運用 その21、 アメリカのREITについて

2013年03月28日 | 2013年からの資産運用
今回からはアメリカのREITのお話に移ります。

アメリカのREITの特徴をまとめますと以下のようになります。

1.1970年前後から40年以上の歴史がある
FTSE NAREIT指数の配当込年平均リターンをドルベースと円ベースで比較すると以下のようになります。
        
          10年   20年   30年
  ドルベース  11.7%   10.3%   9.9%
  円ベース    9.0%  8.9%    6.5%

  10年・20年・30年とみてもとても安定したリターンをもたらしています。

2.バブったのは2回、日本と同じで開始当初70年前半、及びリーマンショック前07年

3.多くのセクターに分かれて専門REITが運営されている
例.オフィス、商業モール、住宅、ホテル・リゾート、病院、倉庫、物流施設などで、日本のようにオフィス(5割程度)に偏ってはいない

4.市場規模は日本の10倍で、市場に厚みと流動性がある

時価総額(1月末); 日本 4.6兆円、米国 43.4兆円


  REITは株式会社の株が投資対象ですから、価格の上下はあって当然だしそこに投資の面白味もあります。アメリカのREITももちろん価格の上下変動はあります。しかしREITができた当初の70年代はじめと40年後のリーマンショック時を除けば、バブル⇒崩壊の繰り返しではありませんでした。

  もちろんリーマンショックは不動産、特にサブプライムを主とした住宅バブルが崩壊したので、REIT市場も大きなダメージを受けています。しかしその後の復元力は日本の土地バブル崩壊とは様相を異にし、20年も価格が低下し続けることはなく、07年のピークから4分の3近く下げた09年の大底から上昇に転じ、すでにピークの8割方まで戻っています。

  ざっくり見るとプラスのリターンを7-10年続け、その後マイナスのリターンが1-2年あるという繰り返しで、長期では実に堅実に成長を続けてきた市場で、今後もそうした堅実さは望めると思います。

  そして、アメリカには「土地の神話」はありませんでした。日本は特にバブルの時代にそうだったように、『土地は限られたもので不動産を持った者が勝つ』という神話がありました。そのため不動産投資とは土地のキャピタルゲイン狙いで、賃貸料からのインカムゲインを狙うものではなかったのです。

  それに対して何度か申し上げているとおり、アメリカでは不動産投資イコール インカムゲインです。賃料がリターンの源泉で、REITは会社全体の儲けの9割を投資家にリターンとして還元します。

  比較のため日本の不動産バブルの崩壊を参考に考えてみます。

  東京の不動産バブルの頂点と崩壊を見ます。90年9月に私のいたソロモンブラザーズはその当時日本最高賃料と言われた大手町の新築ビルに入りました。賃料は坪当たり9万円弱だったと記憶しています。この記録は今後も破られないのでは・・・。
  そのビルの賃料はバブル崩壊後の最低でも4万円くらいで、半分をちょっと下回った程度です。それに対して同じ地区の土地の価格はバブル時と崩壊後の安値では数分の1くらいまでに達しています。

  REITは賃料収入主体の運営のため、不動産バブル崩壊にもかなりの抵抗力を持っているのです。

  REITも所有不動産の時価評価をしますし、ポートフォリオの入れ替えをします。ですので不動産価格の下落はインパクトを及ぼします。しかしアメリカでは一般的に土地価格は不動産価格全体の1割~3割しかないため、バブル崩壊のインパクトは日本で考えるほど大きいものではありません。

つづく
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キプロス問題、通りすがりさんへの回答

2013年03月27日 | ニュース・コメント
通りすがりさんへ

コメントと質問をいただき、ありがとうございます。

  私のブログに「バブル」から行きつくこともあるんですね。確かに市場を見ている者にとり、バブルは最も大事なキーワードです。昨年のブログにはバブルについて私の詳しい考え方が載せてありますので、是非参考にしてみてください。そこでは「アップル株はバブルだ、バークシャー株はバブルではない」として説明をしましたが、どうやらそれは大当たりだったようです。

  では、ご質問に簡単とはいきませんが、回答を試みます。是非ご批判ください。

>********
そうしたリスクを知りながら何故EUがそうような手段を取ったのか、私には全く理解できませんし、コメントのしようもありません。預金のオカネの4割がロシアから来ようがマネーローンダリングに使われていようが、そんなことは別問題です。
********
のくだりですが、報道が確かだとすると私には明白に思えます。
キプロスはタックスヘイブンを行なっており、EU諸国やその他の先進国からするとニガニガしい国だと思います。ロシアでさえ支援にためらっていたのはその絡みでしょ?


  まずタックスヘイブンについてです。もし課税率の低い国を罰するべきだとしたら、香港やシンガポールのようなところはどうするのでしょう。ましてやカリブの小国や英国領のマン島などほとんど課税率ゼロの小島は?

  タックスヘイブンは国や地域の政策として行い、犯罪をほう助するようなことがなければ、他国が罰することはできません。キプロスの政策が罰に価するのであれば、EU加入を認めないでしょう。

  犯罪をほう助しているのであれば、それはその罪で罰することができますしそうすべきです。たとえスイスの銀行でもマネーローンダリングで巨額の罰金を科されました。今はスイスで匿名口座を持てなくなりました。

  今回の救済案でEUはそうしたダークさの処罰の意味で多額預金者から3-4割を召し上げるとは言っていません。あくまでルールに則った銀行の破綻処理で行おうとしています。私が記事で述べたように、召し上げは株主、債券保有者、預金者の順、しかも修正案で小口預金は預金保険の仕組みに従って守られるようです。

  

  私が噛みついたのは、ルール以上のことをEUがやろうとしたのを「全く理解できない、コメントもできない」ほどひどいと言ったのです。EUはその案を引っ込めましたね。

  報道はキプロスとロシア人の預金の関係を面白おかしく報道していますが、それは「報道」にすぎません。


>そこで質問ですが、自国の利益を得るためにダークな事をしていた国(人)が行った金融取引損を助けるために、なぜ上のような手段を取ったことが理解できないかを知りたいです。支援する国の人々や議会が納得すると思えないのですが。ちなみに、小額預金からも一律課税するというのは私も反対です。

  上記タックスヘイブンの説明でいかがでしょうか。「通りすがり」さんのおっしゃるダークなことをしていた国(人)がキプロスとすればそれは違うと思います。上記の説明のとおりで、キプロスの銀行がマネーローンダリングをしていれば、それはそれで罰するべきです。もしダークなことをしているのがロシアの富豪の課税逃れということであれば、ロシアとキプロスの租税条約によって解決(課税)可能です。

>********
しかしそれだけではすまないと私は思っています。一番の問題は、EU首脳の責任問題もしくは失態をどう始末するかです。
********
これも疑問です。
タックスヘイブンを行なっている国や巨大金融市場を相手にEUは良くやったと私は評価しています。この点についてはどう評価されていますか?

  これも最初の説明にあるように、ダークでは罰せられないし、タックスヘイブンだけでは罰せられません。一国内も国際社会も国際法を含む法律や条約で金融市場を規制し破綻も処理するのがルールです。おっしゃりたいことは重々わかるのですが、感情論を差し挟む余地は残念ながらありません。

  ですので私の評価は、最初の案はダメダメ案、次の案はまあまあという評価で、EUはダークを相手に何もしていませんので、正義感に基づく評価はできないのです。

  タックスヘイブンを利用した課税逃れが法律・租税条約の穴をうまく突いていれば、現在でも国を問わず罰することはできないのです。それを専門とする法律家・会計専門家が世界で何万人もそれで食べていますし、日本の一流国際企業のほとんどもそのクライアントです。

>ちなみに、ダイセルブルーム・ユーログループ議長発言は無しで評価お願いします。あれは余りにも酷いので。


「通りすがり」さんもこれはひどいと思われるのですね。この処理方法をEU内で一般化しようという発言ですからね。

  私の今回の記事は、彼の発言前に出ていますが、私もこの発言が最悪だと思います。市場も折角「こんな処理(小口にも課税)はできっこない」と無視していたのに、彼の発言に大きく拒否反応を起こし、彼もビックリして発言を取り消しました。

以上、私の考えを長々と述べましたが、ご理解いただけましたでしょうか。

異論・反論があれば遠慮なくどうぞ。
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2013年からの資産運用 その20、 日本のREITは買えるか

2013年03月26日 | 2013年からの資産運用

  日本のREITは買えるか、という具体的お話しに入りました。その中で、☆のやの話でちょっと横道的に逸れましたが、みなさんの参考にはなったと思います。では2000年代初めにスタートしてからJREITの歴史をちょっと見ておきましょう。

  前回は、実は日本のREITにはおかしな仕掛けが付いたREITがあるということをお話ししました。その仕掛けとは「親のゴミ溜め」という仕掛けです。2000年代初めからスタートしたJREITですが、それが07年後半からのREITバブル崩壊の一因となったことは明らかです。

  もちろん不動産会社がスポンサーでない、比較的クリーンなREITもあります。外資系の大半がそれです。外資系REITには、自分の失敗投資を組み入れる、というようなみえみえREITはないようです。

  REITバブル崩壊の二つ目の原因は、REITの投資家が利回りより株価上昇に目がくらんだことにあります。
  
  REITの項の初めに申し上げた通り、REITはキャピタルゲインではなく、利回り採算が重要で、利回りが低下したときは必ずバブっているのです。

  前回のREITバブルのピークとボトムを見ておくとそれがよくわかります。

  頂点は07年5月末、指数は2,613に達しました。その時の利回りは2.6%くらいで、それがやはり利回りのボトムでした。

  その後は大暴落。ピークからわずか1年半後、08年10月に指数は704でボトムをつけました。指数の下落率なんと73%利回りは7.9%にも達しています。株のバブルが89年末をピークに崩壊したのにも増して、恐ろしいほどの速度でのバブル崩壊でした。

  人間というのは、なんと浅はかな生き物でしょう。あのバブルからちっとも学ばずに繰り返すのですね。REITのことをちょっと知っていれば、つまりREIT市場を利回りで見ていれば、こんな見事なバブルと崩壊は手に取るように予見できたのに。

  先ほど述べたとおり、崩壊後の08年10月末の利回りは7.9%にも達し、それが利回りのピークです。その後若干利回りは低下しましたが、すぐまた09年の2月にもピークと同じレベルをつけ、ツイン・ピークとなっています。

  では現在の位置を指数と利回りで見てみましょう。

  その後REIT指数は長い間1,000程度、利回りは5%くらいで低迷していました。私が著書でも指摘した、「おいしい水準」でしたね。それがアベチャン出現前の昨年秋ころから上昇を始め、現在は1,500を超えていて、予想利回りは3.5%程度まで低下しています。

  このタイミングからの投資、みなさんならどうしますか?

  利回りだけを見れば、これまでの青信号が黄色信号になったと私は思います。まだまだ指数は上昇する可能性があると思いますが、黄色から赤信号は時間的に短いことが多いので、ここからの投資はあまりお薦めしません。

  本来であればこの利回りは単純に比較するのではなく、国債のリスクフリーレートを差し引いたスプレッドで見るべきです。

  その見方の詳細は、すみませんが私の著書のREITの話を参照ください。現在の日本の国債利回りが長期に渡りあまりにも低位安定しているので、スプレッドをうんぬんするほどのことはなくなっています。

  私なら、ここからのJ-REITへの投資は見合わせです。むしろコメントをいただいたPuffinさんへの返答に書いたとおり、保有REITは売りのタイミング探しをすべきでしょう。

  日本ではまだREITの歴史は10年あまりで、市場もREIT会社も経験不足で、なにより投資家が一番経験不足です。そのためバブルと崩壊は今後も繰り返されるでしょう。しかしそれを逆手にとれる自信がある方には、面白い投資対象でしょう。

  REITは重要な点を投資家に教えてくれています。それは、「会社は儲かったら投資家にリターンをするものだ」、という単純なことです。
  これまでの日本企業は利益を配当せず貯め込んで当たり前。成長企業でもないので設備投資にも回さず、貯金をしたり株式投資で失敗したり、なんとなく衰退しながら自己資金を失っていくという道をたどる企業が多かったようです。

  ところがREITはそうはいきません。利益の9割を常に半ば強制的に投資家に還元せざるをえないので、世界と同じスタンダードで会社運営をすることになります。利益を投資家に還元するという資本主義では当たり前の原則です。

  REITの投資家もそれに気付き、価格の上昇のみに目を奪われることなく、利回りが低下すれば売る、ということに徹すれば市場も成熟していきバブル⇒崩壊の悪循環から抜け出せると思います。

  それまでは「JREITはバブル崩壊の時だけ買う」という方針で臨みましょう。

  日本のREIT運営会社も次第に勉強して賢くなり、バブル⇒崩壊の振れ幅が縮小し、アメリカのREITに近い手堅い投資対象になって行く可能性はあると思います。そうなれば本格的にキャッシュフローをコンスタントに得るための投資対象として、信頼性が増していくでしょう。

つづく
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2013年からの資産運用 その19、 REITのはなし、Puffinさんへの回答

2013年03月24日 | 2013年からの資産運用

  以前からたびたびコメントをいただくPuffinさんからコメントと質問をいただきました。Puffinさん、ありがとうございます。

  みなさんにも参考になると思いますので、引用させていただきながら私の返答を本分に書かせていただきます。

>ご無沙汰しております。
その後も、米国債・世銀債を順調に毎月買って積み上げております。安倍バブル?でだいぶ円安に動いてますが、それと連動するように利回り上昇(価格は低下)して、思ったより初期投資は少なくて済んでおります。


  円高には動いているものの、安全性の高い高格付け米ドル債の長期投資を目指す方には金利の上昇は好ましく映っていますね。私はこうしたPuffinさんの投資方針には賛成です。

>いま、その☆のリゾートの総本山、☆のや軽井沢に宿泊してこれを書いております。ここは、本当に居心地がよくて年10回ほど利用しており、従業員さんたちにも名前と顔を覚えられています。

  わおー、羨ましいですね!
私は彼が買収し運営する伊豆の老舗旅館しか宿泊したことがないのですが、サービス・食事とも素晴らしく改善し満足しました。彼のマネージメント力には本当に感服します。

>REITの噂は聞いていたので、今急速に全国展開して、各地の老舗名門旅館(但し、旧態然として経営は傾いている所)を次々と傘下に加え、今のご時世にあって飛ぶ鳥を落とす勢い。投資対象としておもしろそうだと思って関心を持っていたのですが、残念ながら「不可」ですか!

  彼のことなので、コンプライアンス上の問題を解決するような工夫はされると思います。もし私の書いているようにすべてを自前で完結するのであれば「異議あり!」ですし、とても残念なことです。それでも投資家にとっては魅力があるでしょうから、きっとパフォーマンスはよいものが期待できると思います。

  私なら、次のような仕組みにします。まずREITは第三者に組成させて投資家を募り、旅館の買収価格は売り手の☆のやリゾートと買い手のREITがしっかりとバトルする。また、リース料も同様に運営会社の☆のやリゾートとREITがしっかりとバトルした上で決定する。その後の運営こそまさに彼が受け持つことでREITの価値を上げて行く、そうした仕組みを作ります。

  それでREIT、REITの投資家、☆のやリゾート運営会社、みんながハッピーになることを目指すべきでしょう。

  上場時早目に手に入れ、きっとバブルでしょうからその時にしっかり売るという自信があれば、余裕資金での勝負はおもしろいかもしれません。

>今、 保有資産の三分の一を占める日本株式を、この安倍バブルにのって少しずつ整理しては外貨建て資産に移しておりますが、REITだけは継続保有しようか迷っていたところです。とにかく配当性向が、株式のそれとは比較にならない(初めての配当時、1ケタ間違えているのでは?と思ったくらい)ので、地震リスクなどはありますが、今も継続して買い足ししている数少ない円建て資産です。銘柄については厳選しているつもりですが、これからも保有一覧などに注意 して行こうと思います。

  株式投資をこれまで長くされていた方は、Puffinさん同様に今売りに回っています。外人と新規の日本人が買い手です。私も徐々に売却することに賛成です。またとないチャンスをくれたのですから。

  保有しているREITをどうすべきかはこう考えます。Puffinさんが驚かれるほどの利回りということは、かなりよいタイミングで仕込んでいるのでしょうから、すぐに売るというよりはREIT全体が利回りで3%を切るようなバブル状態になったら売るという方針でよいと思います。ピークを予測するのは難しいですが、買い値が安ければ、ピーク後に下がる局面でも売ることができるでしょう。そしてまた利回りが上昇したときに買えばよいと思います。そのあたりは今後じっくり説明します。

>ところで、海外のREITについては如何でしょうか。個別の銘柄は状況の把握が難しいので、投信を購入しております。見通しなどについてご教授願えれば幸いです。

  私は一貫してアメリカのREITをお薦めしていました。それはいまでも変わりありません。他の外国はお薦めしません。仕組み、経験、市場の厚み、経験が他国とは格段に違うからです。これも後ほどさらに説明します。

  Puffinさんの投資方針は他の方の参考になることがとても多いと思いますので、今後も是非コメントをお願いしたいと思います。


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キプロス問題をどう見るか

2013年03月21日 | ニュース・コメント

  キプロスの問題が市場のかく乱要因になっています。為替市場で一瞬鋭く円高に振れました。しかし実際にはすぐに戻しています。

「9.9%の預金召し上げ」

「それを議会が否決」


  普通であればありえないような措置の発表と、市民と議会の反乱に市場は大きく揺れそうですが、株・為替・債券市場とも実際にはたいした動揺はありませんでした。何故か?

  この問題に対する私の見方を皆さんにお伝えしておきます。

  端的に言えば、『EUともあろうものがそんな初歩的なドジをするのか、議会が拒否したのは当たり前だ』ということなのです。
つまり誰が考えても、『預金の一律召し上げなどあり得ない』のです。

  みなさんには意外な回答かもしれませんね。解説します。

  何故「預金の一律召し上げ」がありえないのか?それはこの方法がまかり通ったら、金融危機はすべて解決不能になってしまうからです。

  事の発端は、ギリシャ国債というギャンブルに入れ込んだキプロスの銀行の救済です。銀行と限らず倒産には決められた処理方法が確立されていて、債権を持つ関係者の権利の順序というものがあります。
(注)債券と債権、紛らわし言葉が並んででてきますが、使い分けていますので、どうかご注意ください

会社が倒産したら誰のカネから召し上げられるか?

  順番は、株主が最初で以下、優先株保有者劣後債券保有者、その後に普通債券保有者など一般債権保有者集団となっていて、例えば給料などの労働債権は最後まで守られるほうの債権です。

では預金は?

  基本的には銀行にとって預金者は一般債権の保有者です。しかし現実問題として金融機関の破綻は連鎖を避けるため、預金者は別途国の制度的保護を受けますので、労働債権に近いものと言えるかもしれません。ただし保護を受けられる限度はペイオフ限度額まで、日本で言えば1千万円です。

  今回のキプロス問題では、EUがキプロスの銀行システムを守り、ひいては国の破綻をさせない代わりに、いきなり小口を含めた預金者という債権者から一律に9.9%を召し上げる、としたのです。

  預金封鎖をされ小口預金までも守られないということが実際に起こると、確実に金融危機が起こりEUのPIIGS各国に波及します。何故なら、EU加盟国で自国に不安を感じる人々が、そんな方法を次に自国で取られてはかなわんと、預金を下ろす動きが始まるからです。そうでなくとも隣のギリシャでは預金引出に列ができたのは記憶に新しいところです。

  そうしたリスクを知りながら何故EUがそうような手段を取ったのか、私には全く理解できませんし、コメントのしようもありません。預金のオカネの4割がロシアから来ようがマネーローンダリングに使われていようが、そんなことは別問題です。

この封鎖措置に市場はどう反応したかともうしますと、私と同じ見解のようです。つまり

「そんなバカなことはできっこない」なのです。

瞬間的には悪い連想をして株価が下げ、格付けの低い債券価格も下げ、銀行間の貸出レートは逆に若干上げましたが、それでおしまい。日米欧とも市場は驚くほど冷静でした。

では今後どうなるのか?

  すくなくとも少額預金はまるまる保護し、銀行の経営陣・株主などはかなりの責任を取らされ、その後国はギリシャのようにほそぼそと長期にわたり借金を返済することになるのでしょう。

  しかしそれだけではすまないと私は思っています。一番の問題は、EU首脳の責任問題もしくは失態をどう始末するかです。今後同様な問題が生じた場合、今のEU首脳にまかせることはできなくなってしまったのが一番問題です。

せっかくユーロ問題が首脳陣のおかげでうまく収まったかに見えたのに・・・

教訓;人災も忘れた頃にやって来る
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