トランプとバノンの泥仕合、面白くなってきましたね。アメリカの国内ニュースはほとんどこれ一色です。トランプは暴露本に対して、徹底抗戦を挑んでいます。イギリスのBBCニュース・ジャパンから引用します。
引用
「著書内のバノン氏の発言内容が1月3日に明らかになって間もなく、トランプ大統領は声明を発表し、「スティーブ・バノンは僕や僕の政府となんの関係もない。解任された際に、仕事を失っただけでなく、正気も失った」と反論した。
「我々の歴史的勝利にスティーブはほとんど何も関わっていない。僕たちが勝ったのは、この国の忘れられた人々のおかげだ」と、トランプ陣営へのバノン氏の関与はほとんどなかったと強調した。」
引用終わり
ほんとにそうでしょうか?
選挙後の勝利演説のステージでスティーブ・バノンを真っ先に抱きしめたのは誰でしたっけ。「首席戦略補佐官」などという仰々しい新ポストを作り、バノンを座らせたのはだれでしたっけ。ホワイトハウスの大統領執務室の隣の部屋にバノンを置き、廊下を通らずともバノンが直接執務室に出入りできるようにしたのはだれでしたっけ。バノンを国家安全保障会議のメンバーにオブザーバー参加させて批判を浴びたのはだれでしたっけ。
相変わらず見え透いたウソを並べるトランプですが、この泥試合は今後の政権運営には非常に大きなダメージとなるに違いありません。だいたいにおいて「オレ様がイチバンだ」という者同士の泥仕合はどこまでも足の引っ張り合いになります。「たとえ今回の暴露本のなかで多少のフェーク・ストーリーがあろうとも、おおむね政権内部の様子はこのとおりだ」、というのがほとんどのアメリカのコメンテーターの意見です。
さて、前回の続きです。前回はイアン・ブレマー氏のご託宣を示しました。それは、
「北朝鮮がアメリカを攻撃するはずもなく、アメリカも先制攻撃を行わない」
というものでした。
このご託宣は、18年1月1日にNHKのBSで放映された大越キャスターの「激動の世界を行く」で大越氏がイアン・ブレマー氏にインタビューし、その中で語られた言葉です。テーマは北朝鮮をめぐる世界の情勢についてでした。
大越氏はNHKの花形番組「ニュースウォッチ9」のキャスターを数年務めていましたが、NHKでは珍しく自分の意見を言う気骨あるキャスターです。NW9で、集団的自衛権の強引な成立過程に若干批判的でした。それが官邸の不興を買って降板させられたと言われています。その後は自分の名前を関した上記の報道番組を担当しています。彼が降板させられた時のNHK会長はほかでもない、かなり右寄りの籾井氏で、籾井―百田尚樹―官邸ラインが工作したものと言われています。こうした政府の報道介入により、「世界の報道の自由度ランキング」で、なんと香港と同等の72位まで一気に何十位も落とされました。安倍政権直前の11年は11位だったものがここまで凋落していること、我々は忘れないようにしましょう。
さて、新年の特集「北朝鮮」では大越氏が年末に北朝鮮にかかわりのある各国をアメリカ中心に回り、外交・情報当局者や軍司令官の経験者、政治学者、そして一般市民などにインタビューしたものをまとめていました。
例えばアメリカの元海兵隊司令官および元国防次官補でもあったウォレス・グレグソン氏は、現在のトランプのやり方を批判的に見ていて、対北朝鮮政策に関し以下のようなコメントをしていました。
・トランプが考えているような先制攻撃をすべきでない。それが歴史の教訓だ
・大統領であるトランプがセールスマンとして武器を日本に売りに行った。そんなことをすべきではない
・重要なのは問題を見極め、どんな戦略を立てれば北朝鮮情勢が悪化しないか考えることだ
では、イアン・ブレマー氏へのインタビューをそのまま一問一答形式で以下に記述します。そこに北朝鮮の脅威は騒ぐほどのものではないという回答が含まれています。以下では番組の翻訳テロップをそのまま記します。
大越氏の質問;北の脅威をどうみているか?
・事態が戦争に近づいているとは思っていない
・金正恩が自殺志望者か精神を病んでいないかぎり、誰もICBMや核兵器のことを真剣に受け止める人はいません。脅威などではない
・何故なら北朝鮮がアメリカを攻撃するはずもなく、アメリカは先制攻撃を行わないから
・朝鮮半島には多くの米軍が韓国に駐留し、同盟国である韓国の国民が何百万もいる。先制攻撃で命を失うような危機に彼らをさらすわけにはいかないでしょう
質問;でもトランプは予測不能ですよね
・トランプの場合、ホワイトハウスがどう機能しているかや、彼と話せるのは誰かなど、明らかにわかっています。
・国も安全保障政策についても、トランプは何も知らない。彼自身も何の専門性もないことを分かっているので、周囲に頼っているのです。
質問;安倍首相はトランプを完全に支持していますが
・個人的に安倍首相と話した時に言いました。トランプに依存するのは得策ではない。
・安倍首相はアメリカの強力な同盟国であるドイツのメルケルを見習ってはどうか。彼女は歴史や共有できる価値観を元にアメリカとの関係を重視している。だからと言ってトランプのいいなりにはならない。イギリスのメイ首相やフランスのマクロン大統領も注意深く行動している。先進国の中で安倍だけがアメリカに「何があっても味方だ」と言っています。
・しかし世界第3位の経済大国である日本が何故そこまでトランプに依存するのか、私には理解できない
・中国の役割はどんどん重要になっている。日本にはアジアで果たすべきもっと重要な役割があるはずです。アメリカへ依存し続ければ、そのうち地域から疑問があがるでしょう
ここからは私の注釈を入れます。トランプは政権内部で重用している人材のほとんどが軍関係者、それも戦争経験者で占められていて、彼らは軍事作戦のコストがいかに高くつくかを痛いほど知っています。また以前私が取り上げましたが、現在の参謀総長ですら「トランプの攻撃命令が合法でなければ従わない。」と明言しています。日本では軍関係者は一般的に好戦的と見られますが、アメリカのように戦争を多く経験していると、そのような単純な図式でみることはできないのです。ブレマー氏はトランプが誰に何を聞くのかまで把握した上て、予測可能だと言っているので、かなり信頼できるのです。
またブレマー氏は、私がなんども批判した安倍首相の盲目的トランプ追従をやはり批判しました。それが逆にリスクだということを安倍首相は認識していないようです。
インタビュー後の大越キャスター自身のコメントは、
「トランプ大統領への不安を聞いたつもりが、逆に日本が宿題をもらうことになりました。日本はアメリカだのみになっていないか、アジアの当事者として問題解決の意識を持てているのでしょうか。」と穏やかに締めくくっていました。
地政学上のリスクの専門家であるイアン・ブレマー氏の言葉は非常に重いものがあると私は思っています。私には大きな安心材料になりました。
新年になってにわかに韓国・北朝鮮関係に改善の兆しが出てきました。ブレマー氏がこうしたことまで予想していたとは思えませんが、無駄に金正恩を刺激し続けるトランプや安倍首相には反省材料となるかもしれません。北朝鮮の甘い言葉に引っかかるな、と警鐘を鳴らすむきもありますが、あれだけ関係が悪化していたのですから、むしろ乗るだけ乗ってみるほうが賢いのではないでしょうか。対話ができるようになっただけでも大進歩だし、オリンピックの開催期間中テロを起こされないのであれば、それを評価すべきだと私は思います。