ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

「証券会社が売りたがらない、米国債を買え」のパチものについて

2018年01月27日 | 米国債への投資

  私の著書「証券会社が売りたがらない、米国債を買え」とそっくりな本が出版されているとまーくんから情報をいただことを前回の記事で書きました。

 タイトル;「証券会社がひた隠す米国債投資法」杉山暢達著 KKベストセラーズ

   それをPuffinさんが早速読み、読後感想文をコメント欄に寄せてくださいました。みなさんにもお知らせするため、以下そのまま本文に掲載させていただきます。

 Puffinさん、ありがとうございました。

引用


パチモノ (Puffin)

2018-01-26 20:10:05

最近、書籍はAmazonで殆どKindle版、長らく愛読したい良書は書籍版をネット注文するので、書店に足を運ぶことが皆無で、こうした本が出ているのは知りませんでした。
近頃の大型書店はイスとテーブルが用意されており、買う前にじっくり目を通せるのは知っていたので、15分ほどかけて速読してみました。

結論:パチモノ(主にバッグや財布、時計など高級ブランド品の偽物をさす)ですね。

内容は、一言で言って、「複利効果の高い30年物のゼロクーポンを買いなさい」。
他の金融商品との比較や為替変動リスクへの対応についても、我々林先生の著書の読者には既視感がありましたが、具体的な数字を根拠にしていない為に、説得力がありません。
章のタイトルにも、「ストレスフリーの米国債」などの言葉が用いられているあたり、これは、先発品を明らかに参考にした後発品(ジェネリック)ですね(但し、価格は後発の方が高い!)。
違いについて強いてあげれば、具体的な証券会社名や購入の方法(といっても、口座を開いて年1回買いの電話するだけ)の記載と、最近の投資環境の変化に合わせた(便乗した?)「積み立てNISA」や「iDeCo(個人型確定拠出年金制度)」に触れている点ですがこれも「一緒にポートフォリオに加えると良いですよ」という記述のみでその理由もなし。

法的に著作権に抵触するのか、は専門家に任せるとして、倫理的にはアンフェアーです。先の名著を参考にしたオマージュ、というのならば、その旨を記するべきでしょう。

著者は、ゴールドマンサックスの債券営業部に在籍、パートナーに選ばれるもこれを辞退(?)、16年間在籍したそうです。主に富裕層の資産運用を手掛けたそうで、「富裕層だけが知っている米国債投資」とのことですが、資産規模の全く異なる投資家が同じことをしても駄目だと思います。
1年1回額面1万ドル(30年物だと今は4500ドルくらいで買えますから、ここは富裕層との違いを考慮してだいぶスケールダウンさせていますね)のゼロクーポンを買うことを提唱していますが、何もしないよりはマシ、といった感じでしょうか。

パチモノが出るということは、一級品の証でもあるので、2011年に出版された林先生の著書の凄さが際立つ結果になりました。
まあ、これで少しでも米国債の認知度が上がればそれはそれで悦ばしい事かも。ただ、人気が出て買いが多くなると、価格が上昇して金利は下がってしまうジレンマがありますが。

何だか時間を損した気がして、モヤモヤした気持ちの残る読後感でした。
このブログを2011年の過去ログからずっと読破した方が遥かにタメになると思います。

拙いレビューですが、ご参考になれば幸いです。

以上、引用終わり

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「証券会社が売りたがらない、米国債を買え」・・まがい品(笑)

2018年01月25日 | 米国債への投資

  読者のお一人、まーくんから以下の情報をいただき、早速出版社にチェック依頼しました。

まーくんのコメントを引用します。

林先生こんばんわ。
さて、既にご存知かもしれませんが、
先生のご著書をパクったような本(タイトルがそっくり!!)が出版されています。
その名も「証券会社がひた隠す米国債投資法」
杉山暢達 KKベストセラーズ 
内容は30年もののゼロクーポン債をひたすら買え!らしいです(手にとるのも馬鹿らしいので読んでません)
ちょっと酷いと思いましてご連絡しました。

引用終わり

それに対する私の反応コメントを引用します。

おどろきましたね。
昨晩までスキーに出かけていて、返事が遅れ申し訳ありません。
お知らせ、大変ありがとうございます。
こんなに同じようなタイトルをつけるとは、驚きです。
私は、著書はこの1冊ですから、こうしたことへの対処はどうしてよいのかわかりません。とりあえず私の著書の出版社、ダイヤモンド社へ問い合わせ入れてみました。
ちなみにアマゾンで検索すると、「この本を買われた方は・・・・」として私の著書がトップで紹介されています。
ありがたいことです(苦笑)

引用終わり


ダイヤモンド社から早速返答がありました。

「法務部門に著作権の侵害があるか、チェックをさせる」とのことでした。

法務部門チェックとの回答は、私にとってむしろ意外です。というのは、どのような主旨の本でも似たようなタイトルの本は存在するし、似た内容の本はたくさんあるからです。

こんな地味な運用方法なのに、二匹目のどじょうを狙う方がいるとは(笑)。

そして私にとって喜ばしいことは、2011年8月の出版後6年以上を経ても、米国債投資が賞味期限を失っていないという事実が証明されたことです。

まーくんは「パクったような本、タイトルがそっくり」と書いてくれています。私も内容は読んでいませんが、たぶんそのとおりなのでしょう。


私が11年春、出版社に原稿を持ち込んだ時にまずチェックされたことは、「ユニークな内容であるか、2番煎じでないか」、という点でした。そして結論は、

「全くユニークな債券投資法の提唱である」でした。

しかもおまけに、書籍出版部門のほとんどの人たちから「私も米国債投資をする」という反応があったとのこと。嬉しい限りでした。

今回の出版社は、そのようなチェックをしていないのでしょうか。また著者の方もチェックしていないのでしょうか。

だとすると、今頃アマゾンを見て真っ青かもしれませんね(笑)。

6年も前にほぼ同様なタイトルの本が出ていて、しかも主旨や内容が古くなっていないことは全く驚きです。投資本の多くは賞味期限が半年~1年程度。そうでないものは投資の聖書として後世に残るような立派な本です。

私の著書は米国債投資の教科書としての側面もさることながら、最も強調したかったことは、世の中には相場に一喜一憂されない「ストレスフリーの資産運用」があるということ。

それに従って投資を実践された方のその後の人生に、希望とゆとりが出ることです。

このブログに集まっていただいている読者の方々からも、そうした反応を数多くいただいています。また実際に2010年から11年にかけて米国債投資を実践した友人たちからも、とても感謝されています。

ダイヤモンド社の法務部門からどのような反応が返ってくるか、興味津々です。

そして同時に、アマゾンで「この本を買った方は、こちらも購入しています」の紹介に誘われる方がいてくれると、なお嬉しいですね(笑)。

最近は物理的に「重版」ということがなくとも、電子書籍として販売が継続します。そのため販売額に応じて印税をいただけるのは、とてもありがたいことです。

購入をしていただいた皆様に、あらためて感謝いたします。

ありがとうございました。

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ユーラシアグループ、今年の10大リスク

2018年01月19日 | ニュース・コメント

  「フェイクニュース賞 by トランプ」 が発表されました。

  トランプはベストセラー間違いなしの「炎と怒り」が突きつける矛先を、これでなんとかかわそうとしているのですが、メディアはまんまとトランプに引っかかっています。

「こんな賞を出す大統領に共和党議員もよく付き合っていられるな、お気の毒に」

というのが私の感想です(笑)

 

  さて、今年の10大リスクです。最近ユーラシアグループを率いるイアン・ブレマー氏の発言報道が多く流れるようになりました。先日もNHKのドキュメンタリー番組で、インタビューされていたことを、みなさんにお伝えしました。彼はまだ48歳ですが、2011年に「Gゼロの世界」という言葉を使い注目を集めて以来、世界の地政学上のリスクに関する報道では、必ずインタビューされるようになってきています。注目を集める理由はもちろん彼の見通す「世界の地政学上のリスク」が、過去の実績から見て非常に的確だからです。

  今年も年初にグループの年頭行事として、世界の10大リスクが発表されています。それらがどういうものかを単に並べるのはニュースサイトを見ればわかることですので、それとは違う私の見方をみなさんに紹介させていただきます。

  今年のリスク予想の最大のポイントは、「トランプリスクが消えたこと」です。去年は第一番に掲げ最大のリスクだと言明していたトランプリスクが、少なくとも発表された10項目のタイトルからは消えています。今年のリスク項目を上げる前に、彼の昨年の予想を簡単にレビューしておきましょう。

  昨年の第1番目のリスクは「我道を行くアメリカ」というタイトルで、トランプのアメリカが世界のリーダーシップを取らなくなるリスクを上げていました。まさにGゼロの世界を体現し、ものの見事に的中させました。

  トランプは就任演説で「アメリカ・ファースト」を繰り返し、これまで国際社会が長きにわたって築き上げた世界秩序を破壊し、国際社会の連携を切り裂き、大国の責任を放棄する宣言をしました。そうすることが国益にかなうという誤った認識を世界に押し付け、トランプリスクの本質が現れた1年でした。

  国際的合意であるTPPやパリ協定からの離脱、イランの核問題合意の破棄、エルサレムへの大使館移転などは、国際間の合意をさしたる理由もなく破棄するという全くの暴挙として列挙できます。それは、「アメリカとは話し合いなどしても無駄だ」という各国首脳の反応となって跳ね返りました。韓国でさえ慰安婦問題の日韓合意を破棄するとまでは言わず、合意は合意だとして「再交渉はしない」と言っているのに、トランプはすべて破棄だと宣言し、世界を混乱させました。

  リスクの2番目にあげていたのは、「過剰反応する中国」です。昨年秋に共産党大会を開き習近平を毛沢東や鄧小平と同等に神格化し、共産党一党支配を確固たるものにした中国は、一帯一路を掲げ国際社会へ大きく進出を図りました。しかし、ブレマー氏の掲げた「過剰反応する中国」、つまり世界の様々な対中国政策に過剰反応し混乱させるということはあまりなかったと思います。私が最も印象に残った中国の動きは、トランプに過剰反応する中国ではなく、これまでの世界におけるアメリカの役割を取って変わろうとする中国でした。

  たとえばトランプが暴走しパリ協定を破棄すれば、「中国が世界の温暖化対策のリーダーシップをとる」と宣言し、TPPから離脱すれば「中国が自由貿易の旗手になる」と宣言。「おいおい」という以外ありませんが、実際にこうした宣言を習近平は世界に向けて何度もやっています。

  リスクの3番目は、「メルケルが力を失い、求心力を失う欧州」を挙げていました。その予想通り、メルケルの与党は選挙で議席を大幅に減らし、やっと第1党にはとどまったものの、昨年中に組閣すらできないという情けない結果になりました。欧州は強力な旗手を失ったに等しく、今後に懸念を残しました。

  3大リスクを顧みると、2つは的中し、1つは若干的をはずしたと私は評価しています。

  では、今年のリスクをブレマー氏はどう予想しているでしょう。今年の10大リスクの第一は中国です。と、ここまで書いてくると、やはり昨年と今年の10大リスクを並べたほうがわかりやすいと思いますので、順番に掲げてみます。

17年の10大リスク           18年の10大リスク

1.わが道を行くアメリカ         1.真空を愛する中国

2.中国の過剰反応            2.アクシデント

3. 弱体化するメルケル         3.世界的なテクノロジー冷戦

4. 改革の欠如             4.メキシコ

5. テクノロジーと中東         5.アメリカとイランの関係

6. 中央銀行の政治化          6.機関・機構の衰退

7. ホワイトハウス対シリコンバレー   7.保護主義2.0

8. トルコ               8.イギリス

9. 北朝鮮               9.南アジアの独自政治

10.南アフリカ              10.アフリカの安全


   タイトルだけではわかりにくい2018年の10大リスクの内容をサマリーしますと、

1.中国・・・米国にかわり世界秩序構築に乗り出す             

2.偶発的衝突・・・サイバー攻撃や北朝鮮で起こる可能性        

3.最新技術の冷戦・・・AIやビッグデータをめぐる覇権争い         

4.メキシコ・・・NAFTAの再交渉や大統領選                

5.米・イラン関係・・・核合意のなりゆき次第で地域紛争にも          

6.機関や機構の衰え・・・国際機関、政府や官僚、メディアの信頼が低下    

7.保護主義2.0・・・農産物や工業製品に加えデジタル知財にも保護主義     

8.英国・・・EU離脱問題が内政にも影響                  

9.南アジアの「独自主義政治」・・・イスラム主義や嫌中感情などの台頭    

10アフリカの安全保障・・・テロや内戦への対応に国際社会が距離を置く

  以上のように、トランプリスクを直接指摘する項目はなくなりました。もちろん中国とトランプは摩擦を起こすでしょうし、偶発的危機では北朝鮮をめぐりアメリカは当事者になる危険性は大きいと思います。それでも昨年一位だったトランプリスクが消えているのは一体何故でしょう。それについてブレマー氏自身は説明をしていません。またこの話題の報道や専門家も私のような指摘はしていません。

 

  私の見方は、「口先だけのトランプを、ブレマー氏は重大リスクとはみなさなくなった」というものです。北朝鮮問題でも、ブレマー氏ははっきりと「米朝戦争など起こらない」と言っていました。トランプはやりたい放題やってはみたものの、税制改革以外に目立った成果は上げられず、むしろ世界から鼻つまみと見られ続け、彼の国際貢献とは、紛争のタネをまき散らしただけだったからでしょう。

  しかし私自身はトランプはやはり今年も最大のリスクだ、と思っています。

  以上がユーラシアグループ発表の「今年の10大リスク」に関する私の見方でした。

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中国の米国債売却ニュース

2018年01月12日 | 米国債への投資

定年退職さんから、最近のニュースへのコメントを求められましたので、以下簡単に回答をさせていただきます。

質問

>ところで、昨日の新聞記事に、中国が米国債購入停止を検討というのがあり、為替は円高に動きました。(中略)
>米国債を巡っての最近の動きについてはいかがお考えでしょうか。
我々の米国債投資にどのような影響があるのでしょうか?

回答 

ガセネタ、あるいは中長期の政策のことだ、とのニュースもその後に流れていましたね。真偽のほどはわかりません。

まずトレーディングの基本からおさえておきましょう。

 中国が本当に売りたければ、当然「売る」などとは言わず、むしろ「買うぞ」と言って売るでしょう(笑)。

売るぞと言っただけで価格が下がるのであれば、逆に買うぞと言って価格を上げてから売りますよ。

中国の米国債売却ですが、これまでも何度か申し上げていますが、米国債市場とは一国が売却したからと言って、それだけで崩壊するような柔な市場ではありません。安全資産を求める世界の投資家が金利上昇を待望しているくらいです。

抜群の信用力、流動性の大きさ=大量の売買でも価格変動が小さい。それらを信頼していなければ100兆円を超える投資などできません。だから敵国アメリカの象徴でもある国債を、中国は恥も外聞もなく買うのです(笑)。

 売るときも、もちろん相場に影響すれば自分が損するので、ステルス作戦です。

しかし財務省が毎月国別保有高を発表するので、ステルス作戦も完全には機能しないのが米国債市場です。


要は米国債投資を考えている我々にとり、この程度のニュースは騒ぐほどのことではない、ということです。むしろ売却は金利を上げてくれるので、中国の売却が本当なら大いに歓迎してあげましょう(笑)。

ひところ中国は自国民の元売り逃避により為替の下落に悩んでいました。そのため米国債売り=ドル売りで為替にも介入し、元を買い支えたと言われています。

しかし中国の為替はこのところ安定を回復していますので、早期にドルを大量売却などする必要はありません。売却してもその分のドルの持って行き場はありません。なので米国債も大量売りを本格的にはしないでしょう。ただ、貿易戦争をしかけてくるトランプへの報復的売りは、可能性としてなくはないでしょう。

それでも本格敵報復作戦は自分が損をするのが目に見えているので、しないと思います。


ついでにひとこと追加するなら、為替の博徒たちは材料が欲しいので、羽音で脅かしてやろうということも大いにありうることです。乗せられないことです。

定年退職さんも博徒になることは道をあやまることになるのでやめておきましょう(笑)

さらに追加です。フィッチ・レーティングスが、米国債にダウングレードのイエローカードを出しました。恒例の財政サーカス・ショーが始まったからです。もちろんショーはやがて終わりますので、問題ありません。

以上です。

 

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トランプは何故支持され続けるのか8 イアン・ブレマー氏のご託宣2

2018年01月07日 | トランプのアメリカ

  トランプとバノンの泥仕合、面白くなってきましたね。アメリカの国内ニュースはほとんどこれ一色です。トランプは暴露本に対して、徹底抗戦を挑んでいます。イギリスのBBCニュース・ジャパンから引用します。

 引用

「著書内のバノン氏の発言内容が1月3日に明らかになって間もなく、トランプ大統領は声明を発表し、「スティーブ・バノンは僕や僕の政府となんの関係もない。解任された際に、仕事を失っただけでなく、正気も失った」と反論した。

「我々の歴史的勝利にスティーブはほとんど何も関わっていない。僕たちが勝ったのは、この国の忘れられた人々のおかげだ」と、トランプ陣営へのバノン氏の関与はほとんどなかったと強調した。」

引用終わり

   ほんとにそうでしょうか?

  選挙後の勝利演説のステージでスティーブ・バノンを真っ先に抱きしめたのは誰でしたっけ。「首席戦略補佐官」などという仰々しい新ポストを作り、バノンを座らせたのはだれでしたっけ。ホワイトハウスの大統領執務室の隣の部屋にバノンを置き、廊下を通らずともバノンが直接執務室に出入りできるようにしたのはだれでしたっけ。バノンを国家安全保障会議のメンバーにオブザーバー参加させて批判を浴びたのはだれでしたっけ。

  相変わらず見え透いたウソを並べるトランプですが、この泥試合は今後の政権運営には非常に大きなダメージとなるに違いありません。だいたいにおいて「オレ様がイチバンだ」という者同士の泥仕合はどこまでも足の引っ張り合いになります。「たとえ今回の暴露本のなかで多少のフェーク・ストーリーがあろうとも、おおむね政権内部の様子はこのとおりだ」、というのがほとんどのアメリカのコメンテーターの意見です。

 

  さて、前回の続きです。前回はイアン・ブレマー氏のご託宣を示しました。それは、

「北朝鮮がアメリカを攻撃するはずもなく、アメリカも先制攻撃を行わない」

というものでした。

   このご託宣は、18年1月1日にNHKのBSで放映された大越キャスターの「激動の世界を行く」で大越氏がイアン・ブレマー氏にインタビューし、その中で語られた言葉です。テーマは北朝鮮をめぐる世界の情勢についてでした。

   大越氏はNHKの花形番組「ニュースウォッチ9」のキャスターを数年務めていましたが、NHKでは珍しく自分の意見を言う気骨あるキャスターです。NW9で、集団的自衛権の強引な成立過程に若干批判的でした。それが官邸の不興を買って降板させられたと言われています。その後は自分の名前を関した上記の報道番組を担当しています。彼が降板させられた時のNHK会長はほかでもない、かなり右寄りの籾井氏で、籾井―百田尚樹―官邸ラインが工作したものと言われています。こうした政府の報道介入により、「世界の報道の自由度ランキング」で、なんと香港と同等の72位まで一気に何十位も落とされました。安倍政権直前の11年は11位だったものがここまで凋落していること、我々は忘れないようにしましょう。

   さて、新年の特集「北朝鮮」では大越氏が年末に北朝鮮にかかわりのある各国をアメリカ中心に回り、外交・情報当局者や軍司令官の経験者、政治学者、そして一般市民などにインタビューしたものをまとめていました。

   例えばアメリカの元海兵隊司令官および元国防次官補でもあったウォレス・グレグソン氏は、現在のトランプのやり方を批判的に見ていて、対北朝鮮政策に関し以下のようなコメントをしていました。

 ・トランプが考えているような先制攻撃をすべきでない。それが歴史の教訓だ

・大統領であるトランプがセールスマンとして武器を日本に売りに行った。そんなことをすべきではない

・重要なのは問題を見極め、どんな戦略を立てれば北朝鮮情勢が悪化しないか考えることだ

   では、イアン・ブレマー氏へのインタビューをそのまま一問一答形式で以下に記述します。そこに北朝鮮の脅威は騒ぐほどのものではないという回答が含まれています。以下では番組の翻訳テロップをそのまま記します。

大越氏の質問;北の脅威をどうみているか?

・事態が戦争に近づいているとは思っていない

・金正恩が自殺志望者か精神を病んでいないかぎり、誰もICBMや核兵器のことを真剣に受け止める人はいません。脅威などではない

・何故なら北朝鮮がアメリカを攻撃するはずもなく、アメリカは先制攻撃を行わないから

・朝鮮半島には多くの米軍が韓国に駐留し、同盟国である韓国の国民が何百万もいる。先制攻撃で命を失うような危機に彼らをさらすわけにはいかないでしょう

 

質問;でもトランプは予測不能ですよね

・トランプの場合、ホワイトハウスがどう機能しているかや、彼と話せるのは誰かなど、明らかにわかっています。

・国も安全保障政策についても、トランプは何も知らない。彼自身も何の専門性もないことを分かっているので、周囲に頼っているのです。

 

質問;安倍首相はトランプを完全に支持していますが

・個人的に安倍首相と話した時に言いました。トランプに依存するのは得策ではない。

・安倍首相はアメリカの強力な同盟国であるドイツのメルケルを見習ってはどうか。彼女は歴史や共有できる価値観を元にアメリカとの関係を重視している。だからと言ってトランプのいいなりにはならない。イギリスのメイ首相やフランスのマクロン大統領も注意深く行動している。先進国の中で安倍だけがアメリカに「何があっても味方だ」と言っています。

・しかし世界第3位の経済大国である日本が何故そこまでトランプに依存するのか、私には理解できない

・中国の役割はどんどん重要になっている。日本にはアジアで果たすべきもっと重要な役割があるはずです。アメリカへ依存し続ければ、そのうち地域から疑問があがるでしょう

 

  ここからは私の注釈を入れます。トランプは政権内部で重用している人材のほとんどが軍関係者、それも戦争経験者で占められていて、彼らは軍事作戦のコストがいかに高くつくかを痛いほど知っています。また以前私が取り上げましたが、現在の参謀総長ですら「トランプの攻撃命令が合法でなければ従わない。」と明言しています。日本では軍関係者は一般的に好戦的と見られますが、アメリカのように戦争を多く経験していると、そのような単純な図式でみることはできないのです。ブレマー氏はトランプが誰に何を聞くのかまで把握した上て、予測可能だと言っているので、かなり信頼できるのです。

   またブレマー氏は、私がなんども批判した安倍首相の盲目的トランプ追従をやはり批判しました。それが逆にリスクだということを安倍首相は認識していないようです。

 インタビュー後の大越キャスター自身のコメントは、

 「トランプ大統領への不安を聞いたつもりが、逆に日本が宿題をもらうことになりました。日本はアメリカだのみになっていないか、アジアの当事者として問題解決の意識を持てているのでしょうか。」と穏やかに締めくくっていました。

  地政学上のリスクの専門家であるイアン・ブレマー氏の言葉は非常に重いものがあると私は思っています。私には大きな安心材料になりました。

  新年になってにわかに韓国・北朝鮮関係に改善の兆しが出てきました。ブレマー氏がこうしたことまで予想していたとは思えませんが、無駄に金正恩を刺激し続けるトランプや安倍首相には反省材料となるかもしれません。北朝鮮の甘い言葉に引っかかるな、と警鐘を鳴らすむきもありますが、あれだけ関係が悪化していたのですから、むしろ乗るだけ乗ってみるほうが賢いのではないでしょうか。対話ができるようになっただけでも大進歩だし、オリンピックの開催期間中テロを起こされないのであれば、それを評価すべきだと私は思います。

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