ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本  37.じゃ、どうしたらいいの  その21

2012年05月23日 | 資産運用 
前回からちょっと日数があいてしまいました。

  実は来週の講話収録に向けて、追い込み作業中です。今回の講話は、日本経営合理化協会さんでの2度目の講話になります。1回目の講話が好評だったとのことで、2回目の依頼を受けました。ありがたいことです。

  以前3月ごろにみなさんにお伝えしましたが、1回目は単発で70分ほどのスタジオ録音での講話でした。今回はシリーズのセミナー形式で、

「会社と社長のお金を守る具体策(仮)」

というタイトルで、6回分の収録を予定しています。
     
70分 X 6回 = 420分

けっこうな分量です。分量的には1冊の本が十分に書けそうなくらいです。

内容を簡単に記しますと

1. いま経済に何が起きているのか・・・今後2-3年の見通し

2. 会社のお金を守る具体策① 会社の資産の本当の姿

3.    同       ② 会社の資産防衛策

4. 社長の個人資産を守る具体策 ① 資産の本当の姿

5.    同          ② 個人資産の防衛策

6. 危機対応、日本のもしもに備える社長の資産戦略



という具合です。6回分を3回に分け、一日に2回分の講義を収録します。
今後このブログでも、今までと重ならない部分のお話をしていくつもりです。

ということで、ちょっとブログが止まったままですが、ご容赦ください。

その代わりと言ってはなんですが、本日5月23日の日経新聞朝刊にみなさんにも参考になる記事が出ていましたので、紹介させていただきます。

  「マネー&インベストメント」のページの為替動向のお話です。為替分析に有効な指標として、3つの指標が出ていますが、私が注目したのは1番目、「需給要因」です。

   野村証券の為替ストラテジストが、雑音となる投機的売買を除いた需給要因のみを抽出して13年までの予想をしています。需給要因とは、以下の二つです。

1. 経常収支
2. 機関投資家の外貨資産投資

  これを統計的に処理した推計値を円ドルレートと重ねると、2002年から現在まで、実に的確に円ドルレートを追っています。そのまま今後も追うと、11年がボトムで円安方向になる、ということも示しています。

  分析の考え方は私がこれまでみなさんにお示した考え方とほとんど同じで、何といっても為替は需給、という考え方です。そして今後の数値も予想しており、以下のレンジだそうです。

12年末  82-84円
13年末  87―90円


マイルドな円安ですが、なんとなく実現性のありそうな数字だと、みなさんおもいませんか?それが正しければ、やはり70円台のレートは、ドルを買う絶好のチャンスかもしれませんね。

さて、ここまで「バブルの臭いを嗅げ」というお話をシリーズでさし上げてきましたが、そろそろシリーズのまとめに入りたいと思っています。
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円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本  36.じゃ、どうしたらいいの  その20

2012年05月14日 | 資産運用 

前回は、「ハヤリもの」には手を出すな、というお話をさし上げました。今回は投資の神様のご託宣です。ご託宣から投資の極意を読みとってみましょう。


5月9日の日経新聞朝刊の「マネー&インベストメント」は全ページで投資家ウォーレン・バッフェットの特集でした。読んだ方も多いと思います。記事の内容で私の興味を引いたのは、彼の会社バークシャー・ハサウェイ社の最近の株主総会での、彼と株主の質疑応答です。以下のようなやりとりがあったそうです。


株主質問;あなたは昨年IBMに投資しましたが、今のアップルやグーグルをどう見ているのか?

バフェットの回答;素晴らしい利益を出している、価値がもっと上がっても驚きません。しかし、将来どこかで道を誤る可能性もあります。その可能性で言えばIBMのほうがまだ低いと思っています

林の解説;IBMは昔からエクセレント・カンパ二―の代表格でした。しかし80年代の終わりころからコンピューターの世界は大型のメインフレームが苦戦し始め、90年代には小型のサーバーがメインフレームを押しのけるほど隆盛となり、IBMは大苦戦しました。IBMはハードからソフト・サービスへの事業転換に成功しました。浮き沈みの激しいハードに頼らないビジネスモデルで高水準のキャッシュフローを安定的に生みだすようになったのです。バフェットはその構造転換を評価し、安値に放置されていたIBMに投資したのです。


株主質問;ゴールドへの投資はどうか?

バフェットの回答;あなたがゴールドを1オンス買ったとして、100年経っても1オンスのままですよ(笑)


林の解説;私が著書でゴールドを「金は金の卵を生まない」と言ったのと同じことをバッフェット氏も返答していますね。キャッシュフローを生まない資産など、投資価値はないのです。相場変動のリスクだけを全面的に取らされ、価格が下がってもいずれは利子などのキャッシュフローがそれを補う、というメカニズムが働きません。


  さて、アップルですが、アップルはこれから出されるスマートTVが成功すれば、株価的にはもうひと山作れるかもしれません。しかしその後の売上の伸び率と利益率の高さの維持は、簡単ではないと私は思っています。きっとバフェット氏もアップル社の業績はヒット商品の連続によって保たれているが、10年単位での継続性は可能性が薄い、と考えているのでしょう。それが「道を誤る可能性」、という言葉になったのだと私は思います。

  私がバフェットに寄せる信頼は、非常に大きいのです。彼の考え方は40年以上全くブレがなく、投資の基礎の基礎、「キャッシュフローの確かさ」に拠っています。そしてキャッシュフローを一番確実にもたらしてくれるのが、実は債券です。債券は英語では「フィクストインカム」、つまり「決まった所得をもたらす」と呼ばれています。それをバフェットは株式投資で実践しているのだと私は考えています。株式ですから成功すれば債券よりプラスアルファのリターンがもたらされます。そのリターン、フィックスはされていませんが。

神様のご託宣から読みとれる投資の極意とは、「キャッシュフローの確かさを求めろ」ということでした。

Q;なそんなに確かなバークシャーの株なら、林さんは投資してるの?

A;いいえ、していません。株式投資はしない主義なんです。

Q;どうして?

A;自分でも株式投資をしている人の話は、多かれ少なかれポジション・トークになるからで、私はそうした肩入れと、特定の株を擁護するため論旨が偏ってしまうのを避けたいのです。

Q;ポジション・トークって?

A;自分の保有する投資対象を推奨して、株価などをサポートすることです。この細々としたブログを運営する私には、相場を動かす力などハナからありませんが(笑)、ポジションを持たないことは、中立性・客観性を守る証にはなると思います。

つづく
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円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本  35.じゃ、どうしたらいいの  その19

2012年05月10日 | 資産運用 
  GWの最中は、とんでもない天候に翻弄された方も多いかと思います。私は最後の5月6日に御殿場でゴルフをしたのですが、8:30にスタートし幸い雨にも降られず最後の18番ホールまできました。
  最終ホールは難しいパー5のホールで、ティーショット、2打目とナイスショットをして、グリーン手前70ヤードのところまで来ました。ところがそこでにわかに黒雲が立ち込め雷が鳴り始め、サイレンが鳴ったのです。サイレンは「すぐに雷よけの小屋に入れ」を意味します。同じパーティーの3人も「えー、あと5分もかかんないのに!」とぶつぶつ言いながらキャディーさんの指示でボールをそのままにして、避難小屋に逃げ込みました。

  するとどうでしょう、1分も経たないうちに集中豪雨、それがあっという間に直径1cmほどのヒョウに変わり、目の前のグリーンは雪が積もったように真っ白です。誰かが「このヒョウの大きさがゴルフボールの大きさになったら、みんなの車はボコボコだね(笑)」。とても冗談じゃ済まないほどのひどい降りでした。避難してよかったー!

  でもヒョウも3分ほどでストップし、うまい具合に雨に替わり、真っ白だったグリーンが雨に洗われて緑に戻りました。その雨もすぐにやみことなきを得ました。プレー再開までたった10分でしたが、映画の1シーンを見ているように荒天は通り過ぎました。まさかその間に関東では竜巻が襲っているとはツユ知らず・・・

  では本題に戻ります。前回は、国の債務がバブルの状態になっているかの判断になりうる指標として、3つの項目を上げて説明しました。まとめてみますと、

1. 収入と利払い・・・企業で言えば黒字分の利益が、金利の支払いに対して何倍あるかという指標で、利益が金利支払い分の数倍はないと不安視されます。日本の財政は赤字なので、倍率は計れません。アメリカも赤字のため計測不能。

2. 収入と借金の大きさ・・・住宅ローンで言えば限度は収入の5-6倍。日本は税収の24倍なので、超バブルのレベルにある。アメリカは6倍程度。

3. 債務とGDPの比率・・・日本は220%とかつて戦後のデフォルト時237%だったレベルに近付いている。アメリカは110%。あと2年程度でかつてのデフォルトのレベルに達する。

  国家の債務は株価のようにチャートで表すことができないため、見た目で簡単な判断をすることができません。でも上の3つの目安を使えば、およその判断ができます。私の債務バブルの判断は、以上のような数値を目安にしています。

  さて、ここまで「投資にあたって、本当に肝心なことは何か」というテーマで、「バブルの臭いを嗅ぎ分けろ」というお話をさし上げてきました。
  株はPERの倍数を指標として使い、チャートを見て、「東京タワーが立っていたらバブっている証拠だ」と申し上げました。株のお話では、アップルとバークシャー・ハサウェーを例にとり、「アップルはバブルの気配あり」と指摘しましたが、果たして今後どうなるでしょう。

そしてもう一つの指摘は、以下のとおりでした。

>例えば就職をする時でも、そこに何かバブルの匂いがしたらそれを避ける。ゲーム産業が破竹の勢いなら、決してそうした企業に就職してはいけません。消費者ローン会社と同じような運命をたどるのは目に見えているからです。

  と書きました。その舌の根が乾かないうちに、なんとSNSゲーム産業の株は暴落しています。あんな子供を騙すたぐいのボロい儲けが続くわけがないのです。みなさんもゲーム産業のバブルぶりは気づかれていましたか?


   バブルのお話しの最後は、「ハヤリものを見分けるクセをつけよう」というテーマです。これがある程度身につけば、相場で踊らされ続けて大損ばかり、ということも防げると思います。

  世の中は「ハヤリもの」と、「ハヤラセもの」にあふれています。雑誌やネットの仕掛けによる「ハヤラセもの」にはみなさんも踊らされることはないでしょう。まだ流行ってもいないのに、「今年の流行はコレだ」というアレです(笑)。

  しかしすでに周りでハヤリ始めている「ハヤリもの」には逆らえず、つい一緒に踊ってしまうことも多いかと思います。そしてハヤリものの中から出て「ホンマもん」は生き残り、いつのまにか定番として定着します。

  相場観をつかむには、日常生活においてもこうした判断を自分なりにして、判断の目を鍛えることが必要です。これはハヤラセものか、ハヤリものか、はたまたホンマもんか。そうしたことを常に気を付けて見ることで目が鍛えられます。

  日経新聞の先月の「私の履歴書」は、演出家の蜷川幸雄が書いていました。私はサラリーマン社長の履歴書は経団連の会長であろうが、全く読みません。波乱も万丈もないのでつまらないし、必ず「晴天の霹靂のように、突然社長を仰せつかった」(ウソだろうー)という決まり文句が書かれているからです(笑)。サラリーマン以外はけっこう読みます。蜷川幸雄のオヤジさんは、「電車は反対に乗れ」と子供時分の彼に言ったそうです。みんなと一緒にラッシュアワーの電車に乗るのではなく、反対に向かう空いた電車に乗れ、と。

  わかっていてもそれを簡単にはできないのが人間です。しかしそれができなければ相場には決して勝てません。自分は反対行きの電車にとてもじゃないけど乗れない、と言う人は、「相場もん」には手を出さないことです。

つづく

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円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本  34.じゃ、どうしたらいいの  その18

2012年05月01日 | 資産運用 


   前回は、アメリカの住宅ローンで元本返済を必要としないローンもあると言う例を使い、借金は必ずしも全部をまとめて返す必要はない、ということをお話ししました。企業で言えば、もともと永続性のある組織なのと、業容を拡大していくことができれば当然運転資金も多くなるので、借金を一時期にすべて返済する必要はない、ということを示唆しています。

では国家はどうか?

基本的には国家も成長に見合った借入増加であれば、借換え続けることは困難ではなく、投資家も格付会社も許容します。しかし日本の場合を考えますと、経済成長はマイナスで、債務がどんどん積み上がっています。その積み上がり方は許容範囲を超えつつあり、債務バブルの様相を呈していると私は見ています。


どうして債務バブルなのか?

今回はそのお話をします。

理由その1.収入と利払い額

  元本は返済せずに借換えができたとしても、金利は払い続ける必要があります。金利を払うための原資は、企業で言えばやはりキャッシュフロー(利益)です。しかもキャッシュフローのすべてが金利支払いに消えては不健全です。そこで例えば銀行や格付会社は、企業が金利の何倍のキャッシュフローを生み出せているか金利とキャッシュフローの倍率を常にモニターしていています。その倍率はインタレスト・カバレッジ・レシオと言われます。その比率が下がると、企業はたちまち格付けを下げられたり、銀行の貸出態度が変化します。この倍率は、相当程度借入が多い企業でも、数倍の余裕は必要です。つまり支払い金利の数倍は利益がないと不健全とみなされます。日本の場合、企業のキャッシュフロー・利益にあたる財政の収支は慢性的に赤字ですから、すでに度を超えた債務バブルのレベルに達しているとみてよいでしょう。

理由その2.収入と借金のレベル

  個人の住宅ローンの場合、年間収入の5-6倍が借入の目安だ、と言われています。それは元本を期限内に返済し終わる必要があるためですが、必ずしも全部を返済しなくてもよい国家で危険水域の目安があるのでしょうか。
  実はこの5-6倍という目安は、国の場合でも歴史的には有効です。以前紹介した『国家は破綻する』というタイトルの本にそれが出てきます。約800年間の世界のデフォルトの歴史を検証した本で、統計の残されている90近い国のデフォルトを分析しています。
  その本によると、公的債務のデフォルトが起こった時の歳入と債務総額の比率の平均値はなんと5倍をちょっと下回る4倍台と低いのです。ただしこのデフォルトのほとんどは対外債務のデフォルトです。世界の国のデフォルトの多くは国内債務と対外債務の両方が積み上がった結果で起こることが多いのですが、国内債務だけのデフォルトももちろんあります。

  日本の歳入と債務の比率を見てみましょう。今年度予算での比較では、なんと5倍をはるかに超え、24倍ほどになっています。ちなみに債務が多いと言われるアメリカは6倍程度です。両国とも自国通貨建て債務ですが、両者の差は際立っています。

理由その3.債務とGDPの比率

  最後にもうひとつ重要な指標があります。よく使われる債務全体とGDPを比較した数値です。日本の債務は名目GDPの220%ほどですが、ギリシャが160%であるとか、アメリカは110%ほどだ、と言うお話をいままでさし上げてきました。

  今回はあたらに、「現在の比率は過去のデフォルト時の数字に近付いてきている」という指摘をしておきます。同じく『国家は破綻する』という本には、日本がデフォルトを起こした1944年の国内債務とGDPの比率は237%だったと記載されています。このところの債務の積み上がりは年間50兆円、GDP対比10%程度です。あと2年するとほぼ44年の数値と一致します。3年後の2015年を待たずに過去の数値を超えます。

  2015年は家計の金融資産と国家債務がクロスする可能性のある年であり、また日本の経常収支が赤字に転落する可能性がある年として、私がみなさんにお伝えした年号です。これらの事象は、それぞれが全く別の推計をしているのですが、不気味に同期してしまうようです。こんなことは書きたくないのですが、この2015年あたりが、いわゆる『デッド・クロス』の年にならないことを祈ります。

今回はここまでです。

つづく

(注)デッド・クロスとは、例えば日々の株価が移動平均線を上から下にクロスし、将来の下げを暗示する指標とされています。
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