ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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大塚家具と消費者物価指数

2015年03月31日 | ニュース・コメント

  2月の末の記事で私は大塚家具の騒動に関して以下のように書いています。

「私が株主だったらすでに経営に失敗した実績のある親子の喧嘩など見たくもない」

 そしてもし私が娘だったら、

「企業再生の専門家を連れてきてまかせるので私に投票してね、とするべきだ」とも書きました。

   ご承知のとおり3月27日金曜日に委任状合戦の結果が出て娘の勝利となりました。しかし結果を受け当日の株価は1%ほど下げて終わっています。日経平均も1%弱下げているので下げて当たり前という意見があるかもしれませんが、あれだけ世間を賑わした企業の株価ですから、もし娘の勝利を評価するなら株価は上げて当然。1%下げたということは、「誰も勝利しなかったという評価だ」と見るのが妥当です。そして年度の最終日31日の株価は1,500円と総会前日26日対比でマイナス5.2%です。今後の株価推移が大塚家具のさらなる先行きを見通すことになるでしょう。

   さて、消費者物価の2月の統計が出ました。消費増税の影響分2%を除いた上昇率はクロちゃんが何と言おうとゼロ%になってしまいました。消費者物価については以前から「先見性のある東大日次物価指数がマイナス領域を示しているため、いずれマイナスになる可能性がある」と指摘してきました。どうやらそれが現実のものとなりつつあります。

   同じ日に目立たないように小さな記事にされた「家計の消費支出」の統計が発表されています。GDPの大項目でとても大事な数字なのに何故目立たないようにするかと言うと、もちろん芳しくない数字だからで、景気のいい打上げ花火記事が多い中では真逆の都合の悪い話だからです。2月の家計消費の前年比の伸び率はマイナス1.8%です。前年は3月末まで増税前の駆け込み需要があったという理由ももちろんあるのですが、これまで大本営を支持してきた大新聞の報道による景気のいい話が実態を本当に表しているのであれば、いくらなんでもマイナスはないでしょうというのが私の意見です。今後も食料品などの値上げが実施されるため、全世帯では実質消費はマイナス基調が続きそうです。

   上の「消費者物価」と「家計の消費支出」は密接に関係しています。ベースアップのあった一部の大企業の家計とは違い、ない袖は振れない大部分の家計が、物価上昇に対してNO!という必死の抵抗をしているのが消費支出悪化の原因だと思います。労働需給がタイトになっていることを背景に賃上げが進みつつあるためサービス価格は上昇していると記事にはあり、それは今後も継続すると私も思います。一方賃上げに浴していない家計が必死に抵抗している様子は、もう一つ東大日次物価指数プロジェクトの数値にも表れています。総務省の物価統計がバーゲン品を除いているのに対して、東大の日次調査はバーゲン品を含むPOSデータの集積によっています。私のうちでは常にバーゲンに飛び付くので、東大指数こそ消費実態だと思ってしまいます。それによれば「値上がりした商品やサービスに苦しめられている多くの消費者は、ますますバーゲンハンティング指向を強めている」。これが私の言う「アベノミクス、不幸の連鎖」への抵抗です。

   大塚家具の娘の勝利と消費者物価統計は何も関係ないものをただ最近のニュースとして並べたのではありません。それを結び付けるのは本日の朝刊にあったニトリの決算です。見出しは16年連続最高益」。内容は売上が8%増の4,172億円、純利益も8%増の414億円。純利益率10%とはなんとも素晴らしい決算数値です。商品の9割を輸入に頼るため円安に弱いはずがそれをものともしません。一方の大塚家具は14年12月期の決算は営業利益が赤字という悪い状況です。親の勝久氏の主張した従来からの高級路線に対して、娘は中価格帯もターゲットにした路線修正を示して勝利しました。どうやらまだまだ消費者のマインドは決して高級大塚路線へシフトしているのではなく、安いけど「お値段以上ニトリ」を指向しているのだと思われます。

   実はうちのそばの世田谷区の環八沿いにニトリの進出が決まりました。ニトリがご近所さんを集めて店舗建設の説明会を開催し、私も出席しました。会場には数十名の住人が出席し、見取り図などを見ながら言いたい放題でした。発言をそのまま出してしまいますと、

・店舗ができるのはしょうがないけど、あのでかい緑色のニトリ看板はダサい

・世田谷区のイメージに合わないから小さくしてほしい

・建物の外装を周囲のイメージに合わせ落ち着いた色にしてほしい

・ニトリの前にいた外資系メーカーの本社ビルはレンガタイルで上品だった

   お高くとまった住人の勝手な言い分ではありますが、終わったあとでお互いに話をすると「私、きっと買い物に行くわ」でした(笑)。

   世田谷区の住人は不幸の連鎖をご近所の「Every Day Low PriceのOKストア」と、「お値段以上ニトリ」で吹き飛ばします!

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その13. 日本財政の問題点ーー1

2015年03月27日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  前回のお話しは、国の債務は過去に財政赤字で作った1,144兆円に加えて、社会保障の将来債務1,600兆円があるということを、企業会計を例にして解説しました。

   そして75歳以上の逃げ切り世代に比べて35歳の若い世代は、所得代替率でおよそ2倍の世代間格差をつけられてしまう可能性があるという推定を示しました。

  それに対して、救われた投資家さんや目白のおっちょこちょいさんから、今後の自分年金の目標数値がはっきりしたとのコメントをいただき、私も懸命に数値化した甲斐があったと嬉しく思っています。


   今回からいよいよ日本財政の問題に入ります。

 「日本政府の債務1,144兆円は過剰だと言うが、本当か?いったいいくらくらいまでなら借金をしていてもよいのか」

   これに対する明確な回答はあまり見たことがありません。しかしとても重要な議論ですので、それに対するおよその説明を試みたいと思います。

   私は2000年代の10年間ほど企業買収の専門家でした。金融機関にいて買収のアドバイスをするということではなく事業法人の買収担当で、買い手として買収に携わっていたのです。アドバイザーは買収が完了すればおさらばですが、買収側はそうはいきません。買収後のマネージこそが勝負ですから、買収対象企業の評価は厳しく見る必要があります。しかも私のいた事業法人は51%の資本を英国企業が保有していますが、決してお金持ちではなく、全く一般的な非上場の中小企業でした。そこで買収対象企業はかなり際どい企業、例えば債務超過で今にも倒産しかねない企業が多かったのです。理由はそうした企業はとてつもなく安く買うことができるからです。そこで必要とされる目利きとは、赤字だったり債務超過の企業でもぎりぎり生き残れるか否かを見極めることでした。では超赤字の日本株式会社は果たして生き残れるか、私なりの目利き力を試してみたいと思います。

   企業は過大な債務があるとそのせいで倒産してしまうということがよくあります。国ももちろん同じで、これまでの歴史を振り返れば日本を含めいくらでも倒産あるいはハイパーインフレで倒産同然になった国々があります。企業と国の比較をすると、いつも「企業と国は違う」という訳のわからない反論をする人がたくさんいますが、もちろんそんなことはなく、倒産するのはどちらも同じです。

   しかし企業にしても国にしても「借金はすべて返済しなければならないということはない」のです。なんか少し逆っぽいことを言っているようですが、しっかりとこの後の話を聞いておいてください。日本の行方を見る上で、非常に重要なお話です。

  どんなに優秀な企業でもある程度の借金を背負っています。例えば日本国より格付けのよいトヨタ自動車ですが、バランスシートを見てみましょう。総資産は47兆円、負債は30兆円、その差の自己資本は17兆円程度で自己資本比率は36%です。3月末での売り上げ見込みは27兆円、純利益は3兆円弱なので、純利益の10倍もの負債を背負って経営をしているということです。では利益の10倍の借金について、トヨタの返済力に不安はあるでしょうか。全くありませんよね。トヨタに貸している銀行はトヨタからの返済は実は望んでいません。むしろそのまま借り続けて金利だけしっかりと払って欲しいのです。優良企業は貸し手の銀行にとっても優良なことに変わりはなく、かなりの低金利であっても安全性が高いため、借り続けて欲しいと思っています。

  今のアメリカや日本の国債の低金利も、これに近い状況にあることを理解してください。もっともこのブログを主催する私や読者のみなさんは、日本国債は危ういと思っているので、若干の違和感を感じるかもしれません。しかしアメリカ国債について考えれば、アメリカ政府が借金をしなくなって投資ができなくなるより、借換(投資家から見れば再投資)にいくらでも応じるから、発行を続けてほしい。金利だけしっかり払ってくれれば実はそれでいいのです。

   アメリカ国債を例にしてこう考えると、「借金はすべて返済しなければならないということはない」ということを理解していただけるでしょうか。さきほどのトヨタと銀行の関係と同じです。この考え方の延長線上にあるのが、償還期限のない永久債です。長期の投資家は超安全な債券であれば再投資の心配のない永久債への投資も十分に魅力的なのです。もちろんオカネがいる時には売却すればいいのです。

   プライマリーバランスさえ達成できればそれでいいというのは、やはりこの考え方の延長線上にあります。

つづく

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その12.社会保障、年金の世代間格差 ーー2

2015年03月21日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  シリーズに戻ります。シリーズの番号をまた間違えました。10番が二つになってしまったので、今回は12番です。

   前回の要約をしますと、専門家である鈴木亘氏の計算によれば、

社会保障全体の「将来純債務」は

 ・年金が1,000兆円。その内訳は厚生年金900兆円、国民年金100兆円、共済年金200兆円で計1,200兆円だが積立が200兆円あるので1,000兆円

・保険は医療保険、介護保険、労働保険などの将来債務は合計で600兆円になる

・年金と保険の合計で将来純債務は1,600兆円に及ぶ

・将来債務は現時点までの国の累積債務1,144兆円(3月末見込み)とは別に支払いが約束されたもの

   ということでした。この中に出てきた重要な言葉、将来債務に関して説明します。「将来なんだから今は関係ない」のではなく、私に言わせれば「国民の誰もが抱く漠然とした不安を数値化したもの」だから非常に重要なのです。

   将来債務は決して難しいものではないのですが、およその概念をつかんでいただくために、まず企業会計で説明してみます。例えば昔企業ではバランスシートを小さく見せるために、生産設備を買わずにリースするということが行われました。生産設備は普通であれば銀行から借金をして投資をします。するとバランスシートでは右側の欄にある借金が増えます。その分左側の欄に設備が固定資産として計上されて左右のバランスがとれます。しかし借金と資産が増えることでバランスシート全体が肥大化し、自己資本比率が低下してしまいます。

  これに対して設備をリースすると設備投資のための借金も増えないし、固定資産も増えず、バランスシートをスリムに見せることができます。しかしリースの契約は例えば10年であれば10年先までの支払いを約束しますので、それが抜けおちた会計報告はインチキに近い。企業の債務全体を把握するにはリースも債務に含める必要があります。そこで最近の会計基準では短期のオペレーティング・リースを除き、リース契約だとしても、設備を買ったものと同じくバランスシート上に載せ、将来の支払いを約束したリース債務も載せることにしています。

   政府は、すでにしている借金は債務として合計額を明らかにしていますが、年金や保険などのように将来の支払いが決まっていても、それを債務だと認識し数値を公表していません。企業で言えばオフバランスの処理をして、いかにもスリムだと見せているのです。

    年金や保険は毎年加入者が保険料を支払いますので、将来の支払約束額そのものが問題なのではなく、保険料収入でカバーできない赤字部分が問題なのです。その将来の赤字部分だけの合計を先ほどの記事の要約では純債務といい、合計額を算出しています。対象となる国民は現在生きている人で将来生まれる人はカウントされません。これは企業の退職金債務の計算と同じで、現在の従業員が全員退職するとしたら退職金はいくら必要か、という計算をします。こうして年金と保険を合計した将来債務全体が1.600兆円にもなるという計算です。もう一度言いますが、この莫大な金額は支払い額全体ではなく、保険料収入ではまかなえない赤字部分だけです。

    将来債務は逃げ切り世代が自分で使った分の一部しか払わずに、ツケを後の世代に回した分です。そのツケは後の世代が税金や保険料の値上げで払うか、もらえる保険額・年金額などを削減する以外に対処できません。

  では世代間の格差の問題に戻ります。団塊の世代の最後が遂に65歳となり(私です、笑)、年金や保険の支払い側から受け取り側になってしまいました。では一世代を30年として、現在35歳以下の若者たちと団塊の世代もしくはそれ以上の逃げ切り確定世代とはどの程度の格差が見込まれるのでしょうか。

    前回の年金の話では厚労省自らシミュレーションをしていて、その最悪ケースでは現在75歳の人達の年金受給レベル、つまり所得代替率は6割くらいで、55年にもらい始める人(70歳でもらい始めるとすれば、今30歳)は35%程度だということでした。所得代替率とは現役時代にもらえる平均金額に対して、年金は何割もらえるかの率です。

  しかし35%払ったら年金基金の貯金はゼロになってしまう計算なので、そうならないようにするためには30%くらいでとどめないといけません。すると逃げ切り確定世代6割と将来世代3割ではもらえる金額で約2倍の格差がつくことになります。

   厚労省のこうした推計や将来の政策に年金と保険で差はないとすれば、やはり保険でも逃げ切り世代と背負わされ世代では2倍くらいの差が出ることは覚悟する必要がありそうです。その中間に位置する方は、ご自分の年齢でおよその推定をしてみてください。6割と3割の間でどれくらいかを計算すると最悪ケースの数字が出てきます。

   ということは、今30歳の方が今75歳の方と同じ様なレベルのリタイア生活をするには、自分がもらえる年金と同じ額を自分でも積み立てておく必要があるということです。

   さらに暗くなる話をして恐縮ですが、この計算には現在の国の借金1,144兆円は入っていないので、それは1円も払わない前提でこのひどさです。

   すみません、数字のお話ばかり延々としてしまって。もうなんだかわけわかんなくなっている方も多いと思います。こうして書いているうちに、林と言う人間はトコトン数字ヲタクだなと自省しています(笑、いや爆、いや自爆か)。

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敗戦を認めない日銀総裁

2015年03月19日 | ニュース・コメント

  昨日の日経新聞朝刊のトップは昨日の日銀の金政策決定会合後の黒田日銀総裁の記者会見をカラ―写真入りで報じていました。

大見出し;脱デフレ半歩前進

小見出し;日銀総裁「物価、着実に改善」

  しかし小さい字で始まる記事の最初に書いてあることは、黒田総裁は物価について「若干のマイナスになる可能性も排除できない」です。

こういうのを普通は、看板に偽りありと言います(笑)。クロちゃんもお気の毒ですが、日経新聞もお気の毒さまです。

  期限があと1ヶ月に迫った「2年で2倍にして2%」は達成できないことを認めようとしません。エネルギー云々と言い訳しても、エネルギー・食料除きの指数も低下一方で前年比0.4%程度です。彼は一方で2%の達成時期を2年ではなく「15年度を中心とする期間」と微妙な言い回しで修正を始めています。岩田副総裁のようにまず素直に敗北を認めてから、改めて目標を設定し直せばよいのです。

  普段は経済統計の発表や要人の発言などにいちいち反応しない私が、何故こうした黒田発言を時々ブログで取り上げるのかといいますと、約束が達成できなかったことを素直に認めない人間は、何をするかわからない怖さがあるからです。

  市場関係者は提灯を持ちながら「バズーカ3号」はいつ発射されるかと催促を始めています。クロちゃんにはこれ以上打つ手が残されていないにもかかわらず、市場を驚かすためにきっと次のサプライズを考えているのでしょう。国債をこれ以上買うことはできないし買い取り数字だけ増やしても意味はないので、株式や円安狙いで外貨資産でも買うのでしょうか。しかし政府関係の金融機関や年金を使ってつり上げている株価を日銀がさらに人為的につり上げれば、あとの崩壊はまたまた悲惨なものになります。

  

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その10  社会保障、年金の世代間格差

2015年03月16日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

    シリーズに戻ります。このシリーズの核心は、年金逃げ切り世代と背負わされ世代の世代間格差がとても容認できないレベルに達しつつあり、このままでは財政・年金・社会保障などが破綻に瀕してしまうという点です。

    前回の記事では日本財政の債務レベルはGDP対比でおよそ230%にも達していて、そのうち甘めに見てもGDPの100%、500兆円くらいは若い世 代が言われのない債務を背負わされているということでした。しかしこれはまだ序の口です。どこまでできるかわかりませんが、若い世代が社会保障の何をどれ だけ背負わされているのか、数字で検証したいと思います。

    社会保障の制度にのっているのは様々な年金や保険です。しかし社会保障制度に関わる数字は財政問題のように累積債務はいくらだというような数字として はほとんどみかけません。なんとなく若い世代は年金をこれまでの世代の様には払ってもらえないだろう、健康保険や介護保険も高齢になった時点では今のよう には払ってもらえないかもしれない、というくらいの認識しかないと思います。ではまず年金からです。

    「年金100年安心プラン」という言葉を聞いたことのある方は多いと思います。2004年に厚労省が年金制度を見直し、これで将来も安心だという制度 を作り上げた時から独り歩きしている言葉です。その後年金制度は5年ごとに実情に合わせて見直しがされることになっています。09年は見直しの必要はない とされそのままでしたが、昨年は04年から10年が経ち見直しが必要かもしれないとされ、6月に厚生省が年金の長期試算をやり直し、結果が発表されていま す。

   ご自分の年金の仕組みがそもそもどうなっているのか、一度みなさんも厚労省のサイトで見ておくべきだと思います。制度などの解説は以下のサイトです。

 http://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/verification/

    昨年14年に見直しが行われたということは、04年の制度改革は100年安心なんかではぜんぜんなかったということです。14年の試算は人口や経済成 長率の前提条件をいろいろ変えて、様々なシミュレーション結果を示していますが、どの可能性が高いかには触れていません。以下の厚労省のサイトで中身を見 ることができます。

 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf

   シミュレーション結果はAからHまで8通りもあります。それを以下で最善、真ん中、最悪の3とおり見てみましょう。それぞれのシミュレーションは、最後 の「所得代替率」に集約され、高いほど多くもらえることを示しています。現役世代の平均的なボーナス込みの手取り賃金に対する年金額の割合を所得代替率と呼んで、給付水準設定の基準としています。例えば代替率が50%なら、現役世代の平均所得の5割程度を年金として受け取ることができるとうことです。計算結果のうち3つのケースを見てみます。

        物価上昇率 賃金上昇率 運用成績率 実質成長率 所得代替率

   最善A;    2.0           2.3            3.4           1.4            50.9

      中間E;    1.2     1.3     3.0      0.4      50.6

   最善H;    0.6%   0.75%   1.7%    ▲0.4%   35-37

   ちなみに最悪ケースは、物価上昇0.6%、賃金上昇0.75%、運用1.7%、実質経済成長▲0.4%の前提で、厚労省は『マクロ経済スライドによる調整を機械的に続けたとしても、国民年金は2055年度に積立金がなくなり、完全な賦課方式に移行する。その後、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は、所得代替率35%~37%程度』と言っています。

    この内容を解説します。マクロスライドとは「そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕 組み」です。最悪ケースではたびたびマクロスライドが発動され、機械的に給付を減少させたとしても55年には年金の貯金は底をつく。つまり年金収入以上に 支払いを続けるので、貯金はゼロになってしまう。その後はその時の現役世代が払う保険料と財政で補助しても、平均所得の35%~37%程度しかもらえませ んよ、ということです。もちろんその時に財政が社会保障を補助できるほど健全であればの話です。

    よく見ると結構ひどい話です。これまでの年金制度の見直しは、いつも下方修正されてきました。将来の人口減少や成長鈍化など、わかりきっていてもさら に下方修正してきたのです。それに懲りたか、今回は最悪ケースまで作ってはあるのですが、どうも最悪を覚悟する必要があると私には見えます。そしてそれが 現実になると55年には積立金はゼロになり、その時にもらえるのは現役のときの3割台の年金だと平気で言っているのです。次第になくなっていく積立金の運 用成績がいくら良い成績でも、だんだんなくなるのでそんなものは焼け石に水です。

  04年時点の所得代替率は59%と約6割でした。それが徐々に低下し55年になると30数パーセント、しかも積立金はゼロになるということは、今年金を受け取っている世代と比較すると半分になってしまうという大きな格差があるということが言えそうです。

    このスタディーの中身一つ一つをどう見るかの検証はしません。人口の前提が厚労省の言う中位で、それ自体かなり怪しいからです。そこで我々は念のため 「最善は達成が難しそうだ、最悪を覚悟する必要があるかもしれない」くらいに見ておくべきだと思うのです。なにせ潜在成長率はすでに1%を切ってほとんど ゼロパーセントに近付いているという見方がコンセンサスなのですから。

 つづく

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