ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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今年1年、ありがとうございました

2011年12月31日 | 資産運用 
 3月にブログを解説して以来、6万を超えるアクセスをいただきました。熱心にお読みいただいている皆様、本当にありがとうございました。

 今年も世界は金融問題に振り回された1年でした。来年そして見通せる将来も、市場環境を見ていると、決して平穏に過ごせるとは思えません。その中にあって、どうしたらすこしでも安全に、ストレスを感じることなく運用ができるかを追求していきたいと思います。

 ではみなさん、よいお年を!
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円高トラップに嵌まり込む日本 その13.じゃ、結局何が原因なの?

2011年12月30日 | 資産運用 
 ここまでさまざまな為替の決定理論をみてきましたが、みなさんも感づいているように、圧倒的に説明力をもつ理論はないと思われるます。

 なにしろ相手が相場ですから。これが決定的理論だ、というものがあればみんながそれに集中して取引を実行し相場は行きすぎるので、結局その裏をかく方が勝ってしまうという、相場独特の作用・反作用の法則が働き、理論通りには絶対に動かないのです。ですので大事なことは短期の相場の動きに惑わされずに、長期のトレンドをどう見るかです。

 じゃ、林さんは長期にわたる円高をどう説明するの?

 私は数量的にも把握できて、取引動機もクリアー、反論しようのない経常黒字説が主因だと思っています。こればかりはこの数十年にわたり通奏低音のようにドルをはじめとする外貨を売り続ける動かしようのない円高の原因です。

 最近出版された、「弱い日本の強い円」というタイトルの本があります。元日銀マン、現在は投資銀行で為替のアナリストをされている佐々木融という方が書いた本で、タイトルからして非常に的を射ている優れた本だと思います。
 佐々木氏は著書の中で、「為替は国力に比例しない」と言っています。大賛成です。円高は国力に見合わないと思ってドルなどの外貨をFXで取引したりすると、大きなケガをします。そうした取引自体、しょせんドルを買って円を買い戻す短期の往復取引がほとんどです。

私がここまで述べてきたことをまとめてみます。

1.為替相場は為替取引の結果であってそれ以外の因果関係ではない。

2.取引には動機があってその動機を調べると、一方的な長期の円高トレンドを作り出しているのは、外貨を得た輸出企業が外貨を売る取引と外人の円資産投資である。その対抗勢力は、日本人による外貨投資や最近は海外企業のM&Aなどだが、円高を相殺するほどの量ではない。

3.それ以外の様々な説や投機的取引はしょせん往復取引なのであまり説得力をもっていない。


というものでした。ということは間接的に佐々木説「為替は国力に比例しない」と軌を同じくしていることになります。

 佐々木氏の本は、為替の実務家としての経験やアナリストとしての金融・経済の知識、そして充実した裏付け資料と、これまでの為替の説明本を遥かに凌ぐ出来栄えで、新書ではもったいない気がします。みなさんにも一読をお薦めします。

 私のここまでの説明と比べると理論構成の仕方や考え方はかなり似通っていますが(ちょっとおこがましい、笑)、個々の話題への考え方にはかなり違いがあります。そしてもっとも異なるのは、

今後の為替と日本はどうなるのか?

という将来の見通しです。

つづく
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円高トラップに嵌まり込む日本  その12.為替の決定要因へのコメント④

2011年12月26日 | 資産運用 
 では今回は、「為替心理説」を見てみましょう

 最近の円高を説明するのに、ドルは危ないし、ユーロはもっと危ないので、『消去法で円が買われる』という話をアナリストや評論家がよく使います。

 さて、消去法で円を買うなどという人はいるのでしょうか?

います。

 ということは、心理で為替取引をすることは大いにありうる、ということです。為替の動きだけで勝負する銀行・証券・ファンドのトレーダーや、FXと呼ばりくつはともあれ心理で動くことがかなりあると思われます。円を買うのに消去法という消極性より、他通貨に比べて円が高くなると見れば積極的に円を買います。日本人など円を元々の投資元本として持っている人は、ドルなどの外貨をカラウリすれば、円を買ったのと同じ効果を得られます。

 こうした投資もしくは投機的取引はレバレッジを掛けることができることもあり、数量的には実需の数十倍、時には数百倍もあると言われ、いかにも為替市場を席巻しているように思えます。しかしそれらの取引の大半は短期で反対売買される性質のもので、為替の長期的トレンドに大きな影響があるとは思えません。

 為替心理説は、「こうした取引が実際に行われる」というだけで、恒常的円高に対する説明力には欠けます。

 もちろん中には反対売買をすぐにはぜずに長期の投資もあります。心理説からちょっと離れますが、例えば日本株の外人保有シェアーはバブルの頂点では5%を切っていたのが、90年代終わりには20%程度、その後も増え続け最近の5年間では25%を上回る数値で推移しています。この間に反対売買はあっても、長期で保有されているのがみてとれます。ちなみに現在の投資残高は70兆円程度です。一方、日本の債券は国債・社債を問わず外人保有比率は少なかったのですが最近になって7-8%に上昇しています。金額的には本年6月末で株式同様70兆円程度です。両者を合わせると円資産への外人投資残高は140兆円程度です。
 
 これらは資本取引の実需とみなせ、すぐに反対売買がおこなわれる投資ばかりではないことをあらわしています。こうした投資は、株式投資や債券投資と為替取引が組み合わさっていますので、純粋な為替勝負とは言えません。

 しかし、例えば円高を見越して円を買い持ちにして短期で資金を円に滞留させる場合、短期の政府証券を買う場合もありますが、そうした短期証券への投資も、いずれは反対売買を伴うため、長期トレンドには大きな影響はありません。

 ついでにもうひとつ。円高になっている相場を説明するときに、「円キャリーの巻き戻しで円が買われた」ということもよく聞く理屈です。これも冷静にみれば、おかしな理屈です。

何故か?

 円を買うのが巻き戻しなら、その前にドルを買って巻いているはずです。そのときに「円キャリーを巻いているのでドル高です」という話はアナリストから一度として聞いたことはありません。だいいち、それによる取引高がどの程度か、つまり相場を大きく動かす力を持つほどなのか、数字を示して説明してくれたアナリストは一人もいません。

 しょせん円高の説明に都合のよい理屈を見つけて言っているだけで、私に対しては全く説得力をもっていません。本当に賢い投資家は、買う時も売る時も息を潜めて実行するものです。巻き戻しの時だけ大声で「巻き戻すぞ!」などと叫ぶことはありえません。つまり相場を動かしてしまうようなへたな取引はしません。何故なら円を買い戻す取引である巻き戻しだけ大声で叫んだら、自分で自分の墓穴を掘るだけだからです。円が安いうちに買い戻さないと、利益は吹っ飛んでしまいますから。

 さらに、円キャリー巻き戻しで相場が動くということは、取引規模が少なくとも兆円単位でないと説明力を持ちません。そうしたリスキーな取引をするのはヘッジファンドなどですが、そんなリスキーな投資に果たして円を供給する邦銀が何兆円も貸し込むことがあるでしょうか?もちろん貸付に担保を取るとしても、兆円単位で差し出せる債券などを保有するファンドは限られています。

 ということで、「円キャリーの巻き戻しで円高に振れた」という理屈は実務的に考えるとあまり説得力を持たない議論です。

つづく

(注)円キャリー取引とは、金利の低い円で資金調達して、金利の高い通貨、例えばドルに投資するもので、利益が出ても出なくても、いずれは借りたカネを返済するため、投資先通貨を売って円を買い戻して円資金を返済しますが、その買い戻しして返済する動きを「巻き戻し」と表現しています。
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円高トラップに嵌まり込む日本  その11.為替の決定要因へのコメント③

2011年12月21日 | 資産運用 

 今回は金利平価説を見てみます。金利差に着目した為替投資は、長期でも短期でも非常に多く行われているのはみなさんもご存知と思います。一日勝負のFXトレードでも数か月の勝負でも、数年以上であっても金利差を要素とした取引は行われています。FXトレードでのスワップポイントなどがいい例です。また私自身の著書「証券会社が売りたがらない、米国債を買え」も金利差に着目した長期投資を薦めています。そうした投資の影響度を数量的に計測するのは簡単ではありません。それに関する統計がないからです。

 金利差については最近よく説明力があるとされているのは、日米の2年物金利差とドル円レートの関係です。日銀の白川総裁も8月に、「2年物の金利差の説明力が高い」と発言しているくらいです。

 ちょっと説明します。日米の2年物の金利差とは、お互いの国債金利の差だったり、スワップ金利の差だったりします。スワップは難しい概念の為、ここでは国債金利を使いますが、両者に傾向的に大きな差はありません。金利差というといかにも米国の金利と日本の金利が動く中で、その差を取るように思われますが、実は日本の2年物を含む短期金利はほとんどゼロに近く、この10年まともに動いていません。例えば本日の2年物金利は0.13%という雀の涙ほどの数字です。一方米国の2年物金利ですが、近年のピークは5年ほど前、06年の半ばに5%を若干超えていました。その後は一貫して下げ続け、本日は0.25%です。つまりこの5年間は、「金利差が低下した」というより、「米国金利は下げ続けた」、というのが正しい表現です。

 一方、為替レートはどうか。5年前の円ドルレートは120円弱でした。その後07年に一瞬125円台になりましたが、あとは一方的に下げ続けて現在は77・8円です。
一方的に下げ続ける為替レートと、これまた一方的に下げ続ける米国金利の二つのグラフを重ねて「両者は同じ動きだ」と言われても、私には「あっ、そう。それで・・・」としか思えません。決してバカにしているわけではないのですが・・・

 日米の2年物金利はほぼゼロに近いところでくっついてしまいました。じゃ、今後はどうなるのでしょう?両者がゼロ近辺の為、金利差はなくなって動きようがありません。

 何が言いたいか、もうちょっと説明します。『年限ごとの金利のグラフをたくさん並べてドル円レートの相場と比較したら、たまたま2年物金利差のグラフの動きが一番似ていただけではないか。』実は10年物の差でも4年物の差でもさしたる差はなく、為替と同じ様に動いています。

 2年物金利には重要な注目点もしくは指標性があって、これこれの理由でドル円レートに最も影響力を持つ、という明確な理屈を教えていただければ、私も「なるほど」と納得するかもしれませんが、そうした説明は白川さんからも聞こえてきません。

 通常、金利にかかわるプロが見ている指標性のある金利とは、翌日物、3カ月物、1年物、5年物、10年物という具合です。

 ちなみに、本日の2年物金利差は0.12%という見えないほどの金利差ですが、それを動機に為替の取引をする人がいるでしょうか???

78円に対する0.12%はたった9銭です。

為替取引において金利差は重要な動機になることについて、もちろん私もそう思っていますが、2年物金利の説明力については、どうもタマタマのように思えるのです。

ちょっと今回は横道すぎましたかね。

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円高トラップに嵌まり込む日本 その11 為替の決定要因へのコメント②

2011年12月15日 | 資産運用 


 前回は為替の決定要因の一説、インフレ格差説について私のコメントを述べました。それについてもう一つコメントを加えます。インフレ格差は長期では為替の決定要因であるとの説ですが、日米はたしかに為替レートの方向が一致するのですが、中国のケースはどうでしょうか。

例えば07年から11年までの5年間の毎年のインフレ率を単純平均しますと、以下のようになります。

 中国;3.51% 
 アメリカ;2.17% 
 日本;0.25%


インフレ率が一番高いのは中国で、アメリカは真ん中、日本はほとんどゼロに近い数字です。「アメリカのインフレ率は日本より高いので、円高になる」というのであれば、何故中国のインフレ率はアメリカより高いのに、元はドルに対して安くならないのでしょうか。中国は為替のコントロールをしていますが、それは元高を抑える方向ですから、元はもっと高くてもいいはずです。インフレ格差説はとても有力な説の一つと考えられていますが、こうした個別の検証には耐えられない説のようです。

 もうひとつおまけに、購買力平価で計算した各通貨の理論値はどの程度かに関する数値を見つけましたので、それを引用します。これは2010年の理論値なのでちょっと古いですが、実勢レートがかなりかい離していることはたしかのようです。

OECDが発表する2010年における各国通貨の対ドルの購買力平価から計算した理論値。・・・以下の数字は、10年末の実際のレート

•アメリカドル 111.39円/ドル・・・82
•オーストラリアドル 73.64円/豪ドル・・・83
•ユーロ(フランス) 126.45円/ユーロ・・・108
•イギリスポンド 170.97円/ポンド・・・126
•スイスフラン 73.75円/スイスフラン・・・86


 円はドルとポンドに対して3割以上過大評価され、ユーロに対しては10数パーセントの過大評価、豪ドルとスイスフランに対しては10%ほど過小評価されていることになります。

こうして見ると、どうも為替レートについては様々な理論が示されてはいますが、決定打はなかなかないようです。

 次回はその他のあまり有力とは思えない説について、簡単にコメントしてみます。
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