ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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株価と為替のカップリング、再考

2013年10月26日 | 2013年からの資産運用

 ある方から、「株と為替のカップリングは続くのか、この先はどうなるのか?」

という問い合わせをいただきましたので、今回はそれに回答させていただきます。現在の株価は確かに為替に相当程度左右されていると思われます。少し前にもこの議論はしているのですが、今回は視点を変えて見てみます。

 
  今年の初めくらいから最近まで、昨年11月を起点にして株価と為替を対比させた「アベチャン指数」なるものをお示ししながら、株価と為替のカップリングについて述べてきました。為替が常に株価を動かしている重要な要素であることは事実だと思いますし、カップリングは今でも続いています。

  本来、為替も株も相互に影響を与えながらも独立した相場を作っていて、それぞれの参加者のニーズや思惑で動きます。昨年以来、株と為替がここまで同じ様に動くカップリング相場は、歴史的にはむしろ珍しい現象と言えるかもしれません。

  たとえば非常に長期で大雑把ですが、バブルの形成時代と崩壊後、そして現状の株と為替相場を比較しますと、

・バブルの形成時代     株式は一方的に高謄、為替は円高に
・バブルの崩壊後       株式は一方的に下落、為替はさらに円高に
・アベノミクス以降       株式は一方的に高謄、為替は円安に


  このように実はあまり関係がないことが見てとれます。もちろん上の単純な図式は期間にかなりの差がありますし、その他の経済環境も違うため単純比較するのは無理があります。しかし大きくとらえれば、傾向や法則は導き出せすはずです。でも上記か言えることは、

「株価は必ずしも為替に依存して動くわけではない」


さらに言いますと、今回の株高は円安とカップリングしていますが、

「株高はいつも円安によって実現するわけではない」ということです。

  では次に、今後の株価と為替について私の意見を申し上げます。

「ここまでの株価上昇は「錯覚」による部分があるので、いずれ錯覚部分はなくなり正常化する可能性がある」と思っています。

  錯覚だという理由の一つを解説します。ちょっとわかりづらい論理かもしれませんが、なるべくわかりやすく!を心がけます。

現在の貿易構造は赤字が慢性化していますので、申し上げるまでもなく、

〇 輸出より輸入が大である

〇 円安は輸出にはプラス、輸入にはマイナスの効果を及ぼす

じゃ、どちらのインパクトがより大きいか?

〇 輸入が輸出より大きいということは、輸入産業への逆風のほうが輸出産業への順風より大きい

これは数量的にも簡単に裏付けられます。

  これが正しいとすると、「輸出産業の利益上昇期待による現在の株価上昇は間違っている部分がある」となります。もちろん株価はそれだけによって動くわけではありませんが、為替とのカップリングが非常に強いため、誇張して申し上げています。

  経済動向の新聞見出しや、株価全体の動向は目立つ企業に左右されがちです。つまり日本では花形の輸出産業の利益上昇の目立ち方が、輸入産業の目立たない利益低下より大きく取り上げられるため、株価は錯覚により上昇している部分がかなりあるのです。原材料を輸入に依存している食品・飲食サービス関連中小企業や地味なエネルギー関連企業より、輸出依存型の花形経団連銘柄が目立つ、と言い替えてもいいかも知れません。

  実際の円安のインパクトは輸入のマイナス効果のほうが大きいはずなのに、数字ヲタクでないアナリストや評論家はそうした分析をしていないので、円安のプラス効果を過大評価している部分があるのです。

  じゃ、株価の錯覚部分が取れて正常化するとはどういうことか。いつも申し上げていますが、株価は将来の収益見通しが最も重要です。目立たない輸入産業も含めた全体の収益動向こそが、株価を左右する最も重要な要素だと思います。

 アベノミクスの提唱以来、海外株に比べて早い上昇過程をたどっていた日本株の独走状態が、このところ少し変化しはじめています。原因の一つは円安の過大評価が修正されていることかもしれません。

以上
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日本の金融資産を世界遺産に!

2013年10月23日 | 2013年からの資産運用
「金融ニッポン」という特集が本日(10月23日)から日経新聞で始まりました。第1回目の記事は「成長マネーを創る」と題して、以下のような書き出しで始まります。

引用
ニッポンの財産は世界でも指折りの金融資産。家計には1,590兆円、事業会社には845兆円もの残高がある。だがこれが生かされていない。6月末時点で銀行などに預けられた預貯金は1,261兆円。融資に回っているのは682兆円と54%にすぎず、残りは主に国債で運用されている。成長分野にもっとお金が回るようにならないか。
引用終わり


 こうした議論はかつての首相で現財務大臣の麻生氏をはじめ、与野党の党首からヒラの議員、そしてチマタのエコノミストまでが頻繁に使う、日本のジョーシキです。

 いま一度最初の記事をよく見てみましょう。単なる無知か、それとも意図的かわかりませんが、初歩的なミスを指摘することから始めます。

 「事業会社には845兆円もの残高がある」とのことです。

これはウソです。そのうちの408兆円は企業間信用(売掛金など)や子会社への出資金、またその他の直接投資などで、ほとんどがカウント外で、すぐ現金化できる金融資産などではありません。

 実際の現預金は220兆円しかありません。しかも企業は当然融資を受けていて、それが326兆円あります。ということは

企業の現預金220兆円 ― 借金326兆円 = ▲106兆円

企業のふところの純キャッシュはマイナス106兆円で、お金は余ってなどいません。

 日本経済新聞のジョーシキはこの程度です。私の計算とは950兆円も差があります。みなさんもご興味があれば、日本銀行の発表する資金循環勘定の6月版を見てみてください。日銀のサイトですぐ見つかります。URLは
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf


 では次に、マイド・マイド私にバカにされている家計の金融資産のお話しに移ります。

 家計の預貯金は1,261兆円。「融資に回っているのは682兆円と54%にすぎず、残りは主に国債で運用」と書いてありますので数字を確認しますと、

 家計の預貯金1,261兆円 - 682兆円 = 579兆円

国債で運用されている約580兆円は無駄に眠っているので、それを活用しろという議論です。

 しかしこれは無駄などではなく、まさに日本国の命脈をつなぐ大事な資金です。それをもし他の投資に使ったら、売りにだされる580兆円の国債は誰が受け皿になるのでしょう。外人ですか?ありえません。

 麻生氏は借金大国の財務大臣で、常にこの国の財政を心配して、夏以降「消費税は必ず上げなければならない」と何度も言っていました。なのに家計の金融資産を有効活用するとはどういう意味なのでしょう。580兆円の国債を売却されてもいいのでしょうか。

 もっとも今年4月以降は異次元緩和のクロちゃんがちょっとだけ応援してくれています。毎月数兆円、合計70兆円を国債購入に充てると言っています。しかし異次元程度のはした金ではとても足りません。その8倍、8次元緩和でもしますか(笑)。

 預貯金の1,262兆円ですが、預金を下ろせば返って来ると思っている家計のみなさんはとてもしあわせですね。

 ある晴れた日、アソウ君の言うとおりにみんなで預金を下ろしに行くと

「ごめんなさい。お金はコンクリートに化けてしまったので返せません」

と言われて、しあわせな日々は終わりを迎えます(笑)。

 それでも「返して!」と叫べば、きっと「少し待っていただけば、クロちゃんが『半分返す』と言っています」と言われ、泣きべそをかいて帰ることになるでしょう(笑)。

 このブログをお読みのみなさんは数字ヲタクの私の議論の一端くらいは信じている方が多いと思いますので、日経新聞の記事を鵜呑みにはされないと思います。しかし世の中では、日経新聞の方をはじめ、大臣からエコノミストまで、このナイーブな議論に染まっているのです。

 日本食が世界遺産に登録されることを記念して、この際「ニッポンの財産は世界でも指折りの金融資産という幻想」を、世界遺産に登録しようではありませんか!

 
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リーマンショックから5年 

2013年10月20日 | 2013年からの資産運用
 しばし本題の株式投資のお話しからずれているので、すこし舵を戻すために、今回はリーマンショックと株式投資、あるいは買収のお話しです。


 リーマンショックから5年が過ぎ、このところ新聞や雑誌で「リーマンショックから世界は回復したのか」というような特集記事を多く目にします。

 本日(10月20日)の日経新聞でも「危機は去ったか」というシリーズ記事の第8号で2つの検証をしていました。

1.野村証券のリーマン事業の買収結果

2.バフェット氏の金融会社への投資結果


内容を一口で述べますと、

1.野村はリーマンのアジアと欧州の人材・システム・商圏を買収した。買収で支払ったのはわずか2.3憶ドルだが、人件費のコミットは2年で25億ドルにものぼり、結果は完全に失敗。リーマンの人材は雲散霧消し、野村の株価は下げたままだし、買収に携わった経営陣は引責辞任。そして株価も低迷を抜け出せていないというもの。

2.対してウォーレン・バフェット氏は危機の最中にリーマン・ブラザースからの資本注入要請を断り、リーマンが倒産して世界の資本市場が大混乱する中、ゴールドマンサックスに50億ドル、GEキャピタルに30億ドルを新規の資本注入の形で投資し成果を上げた。

 記事はそこまでの内容です。

バフェット氏はその結果100億ドルもの利益を上げています。その差はどこから出るのか、私なりのコメントを付け加えてみます。

 野村証券はリーマンの中身や、投資後のマネージメントの検証もろくにせずにわずか3日で投資を決めた。それに対して金融会社を数多く傘下に置いているバフェット氏のバークシャーは、ゴールドマンもGEキャピタルもマネージメントの優秀さを十分に知り尽くしていた。その上で彼の資本注入が呼び水として両社の事業の立て直しに貢献すると判断し、投資に踏み切った。

 簡単に言えば野村とバフェット氏では、投資家として経験の厚みが違いすぎるのです。

 突っ込んで言えば、会社の品格の違いとでも言いましょうか。方や顧客を食い物にして儲けることしか考えていない日本のジョーシキ的株屋さんと、方や株主とともに繁栄を目指す会社と経営者の哲学の差なのでしょう。

(注)私がカタカナで「ジョーシキ」と書いた時は、「日本のジョーシキは世界の非常識」の意味で書いています(笑)

 ではバフェットじいさんの経営するバークシャー・ハサウェイ社の株価がどうなっているかを見ておきましょう。

リーマンショック前ピーク 07年12月   14万1千ドル
リーマンショック後ボトム 09年2月    7万8千ドル
教科書出版時        11年8月   11万ドル
現時点            13年10月   17万5千ドル



 このバークシャー株は私が教科書で「世界で買っても言い株はたった一つ、バークシャーの株だけだ」と言った株です。その時点での為替レートは81円でしたから、もし読者の方が私の言葉を真に受けて買っていると、株価で6割、為替で2割、〆て8割の利益になっています。

(注)教科書とは「証券会社が売りたがらない、米国債を買え」です。読者のみなさんから「テキスト」とか「バイブル」とかおっしゃっていただいているのですが、一応このブログでは「教科書」と呼ばせていただきます

以上、日経記事にかこつけたインフォマーシャルでした(笑)
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米国債のデフォルト騒ぎ、その4

2013年10月17日 | ニュース・コメント
 腰痛になっていました。すみませんこんな大事な時期にご無沙汰して。ゴルフで腰痛になったことはなかったのですが、今回は部屋の重いキャビネットを動かし、同時に天井のよごれを取るため1時間もリビングの天井と格闘したのが効いてしまい、ついに腰痛を発症。深刻ではないものの、ゴルフをちょっと自粛します。

 
 さて、チキンゲームは下院共和党ベーナーの負けで終了。そして今後も同じ轍を踏むための先延ばしとなりました。米国債のデフォルトはなかったわけですが、今回の騒動で共和党はだいぶ支持を失ったようです。今後また同じ轍を踏まないようにしないと、共和党有利と言われてきた来年の中間選挙にも影響が出るかもしれません。

 では今回の騒動と私の出版時点、11年8月の同じ騒動をちょっと比較しておきます。教科書をお持ちの方は、146ページを開いてください(笑)。書いてあることをまとめますと、

・デフォルトはもちろんしない

・為替や株式市場の参加者はシロウトを含めて多種多様なので大きく動いている

・債券市場はプロが大半を占める市場のため、動揺していない

・CDSのスプレッドはピクリとだけした


そして結論は「たとえデフォルトしたとしても、それはスリップダウンだ」と書いてあります。

 よくご覧いただけば、この書きっぷりは今回私が書いていることと全く同じです。そして、実際の市場はどうだったか2回を比較しますと、

・株式市場は上下動は結構あったが、11年と今回では振れ幅は半分以下

・債券は11年も今回も微動だにしなかった

・CDSのスプレッドは11年も今回もピクリとだけした


 要するにこうした騒ぎを材料としてはやし立てて何とか動きを作ろうとしてがんばる株式市場だけが動いて、その他は冷静であったということです。特にご本尊の債券市場は微動だにしていません。株式市場の変動幅の縮小は、市場もいくらかは学習効果が働いて賢くはなっている、ということでしょう。

 では格付け会社の動きはどうだったか。11年8月の時は、7月末にS&P社が米国債をAAAからAA+に一段階引き下げました。今回はフィッチレーティングス社がダウングレード・ウォッチに入れました。

 その後S&P社は先ごろ米国債の将来見通しをネガティブから安定的に変更し、今回は反応していません。S&Pは以前にも書きましたが、ダウングレードの決定をした理由の中で、米国財政の赤字見通しを100兆円も過大計上していて、CEOが辞任しています。今回はその反省もあったのかもしれません。

 依然としてチキンゲームが予想される中で今後フィッチがどのように米国債を扱うかが注目されます。

 ということで、残念ながら今回は「デフォルトに乗じて米国債を暴落時点で買う」という逆張りをすることはできませんでした(笑)。

 そして今回もう一つ明らかになったのは、「株式市場でさえ学習していたのに、政治家は全く学習していなかった」ことです。じゃ、次回までに学習するか否かこれも注目です。

  最後に今から申し上げておきますが、「来年初めに次回の騒動があったとしても私の予想は全く変化しません(笑)」

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米国債のデフォルト騒ぎ、その3

2013年10月11日 | ニュース・コメント

  前回は頭の中のシミュレーション目的として、プロの世界ではこんなこともありますということをお知らせしました。それに関して彷徨さんから2度のコメントをいただきました。

  彷徨さんの主旨は「デフォルトが瞬間的にでも起こると、さまざまに甚大な影響が起こる」ということだと思います。私もそのとおりだと思いますが、我々個人投資家としては特に懸念をする必要もなければ、実害が及ぶことはないと思っています。

  そしてアメリカ政府の立場も冷たく言えば「CDSなど知ったことか。ギャンブラー達の勝手な賭け事だ」ということでしょう。従って、「慰謝料もなにも関知せず」でしょう。

  ですので我々も市場の混乱などでヒヤヒヤしたりせず、「混乱こそ絶好の買い場だ」と考え、虎視眈々と狙いを定めて待つのが正しい個人投資家の行動だと思います。


  そうこうしているうちに、案の定妥協案が共和党から示され、徐々に歩み寄りが始まりました。アメリカの世論は共和党にはついていません。ウォールストリート・ジャーナルとNBCの最近の共同世論調査では、今回の一部の政府機関の閉鎖の責任は共和党にあるとする意見が53%、オバマ政権にあるという意見が31%で、ついでに共和党に対するネガティブイメージはポジティブイメージの2倍にも及び、こうような大きな差は調査を開始した89年以降最大だそうです。

  まだ結論を出すには早いのですが、私は次の様に考えています。

どんなに対立が激しくとも、「双方ともにデフォルトなどさせたくない」し、共和党の論点はデフォルトさせようとするものではないので、心配には及ばないのです。

  
  そして、もっともっと可笑しいのは、双方とも同じ人質を取って、「オレには人質がいる」と言っているのです(笑)。人質が死んだら、双方とも負けるのにね(爆)。

彷徨さんのおっしゃる
>仮に(デフォルトが)あったら世界中からいい笑いものになるのではないでしょうか

そのとおりですよね。

だから、「デフォルトなんかしっこない」 のです。
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