ギリシャ問題は依然として決着できずに市場の不安定要因のままです。25日がヤマ場のはずが、27日に先送りされました。チプラス首相は相変わらず悲劇の主人公を演じ続けていますがさてどうなるか、週末には決着するはずですので、それを高見の見物といきましょう(笑)。
繰り返しになりますが、私の見方は変わりません。何らかの妥協、先送りの案を双方が飲んで本当の解決には至らないがデフォルトは避ける、というものです。そしてよしんばギリシャがデフォルトを選択したとしても、09年から11年にかけての事態とは異なり、他のユーロ圏には波及せず、市場はさほど動揺しないと見ています。
前回の記事は、ECBの緩和策が大規模な量的緩和にまで踏み込んだが、インフレ率は若干上向きになった程度で、まだまだ安心はできない。しかしGDPは四半期ごとに改善していて、意外にもその改善はこれまで劣等生とみられていたスペインとイタリアが貢献しているということでした。
では今後をどう見通すかが今回のテーマです。
私は量的緩和がユーロ安にも貢献し、各国とも雇用が改善しつつあるため、ユーロ圏の経済は最悪期を脱し回復期に入りつつあると見ています。雇用の改善と物価の落ち着きは個人消費を増加させ、今後のユーロ圏経済は比較的安心して見ていられる段階に入ると見ています。
ドイツの金利上昇は大幅低下の反動もありますが、そうした回復の反映だと思います。そしてギリシャ問題が最悪の事態に至っても、ユーロ圏の回復に大きな影響はないと見ています。もちろんその瞬間は通貨ユーロと株価は暴落することもあるでしょうが、むしろそれは買い場を提供することになるでしょう。
経済が回復しつつあるユーロ圏ですが、通貨ユーロは長期的に見て投資に値する通貨かどうかを見てみましょう。私のブログのテーマには為替のバクチは入っていませんので、あくまでスコープを長期投資に限定します。
ちょっと歴史を振り返ります。欧州連合が生まれたそもそもの理由は、ユーロペシミズムとまで呼ばれた欧州諸国の長期低迷からの脱出でした。計画段階から実行までは弱者連合と言われましたが、通貨ユーロの導入は世界経済の地図を塗り替える強烈なインパクトを持ったと思います。
私は債券の専門家ですので、世間で一般的に語られる株式投資の世界からの見方とは別の見方をみなさんにお示しします。世界標準の投資の考え方とは、債券の世界の考え方が基礎だということも、是非みなさんにも勉強していただきたいのです。
まず世界の金融商品を株式と債券の2つに分けると、債券の方が株式の時価総額より大きいことを理解してください。日本を考えても株式の時価総額約600兆円に対し、債券の時価総額は国債の800兆円を含めて1,330兆円です。
ここからはドルベースになりますが14年末の数字で、アメリカは株式26兆ドル、債券36兆ドルとやはり債券が大きいのです。そして日本を含む世界全体は株式64兆ドルに対して、債券は82兆ドルです。2010年に私が著書を書くために比較した時は債券が株式の2倍でしたが、その後株式価格の上昇が効いて差は1.3倍にまで縮まりました。
突然ですが、投資家にとって運用で一番大切なことは何でしょう?
たびたび申し上げるようにそれは対象資産の『流動性』です。株式の投資家は流動性について考慮が不足していますが、債券の世界では流動性がすべてなのです。それは例えば株式の世界ではトヨタの上場株はすべて同じですが、債券は同じトヨタでも上場債は少なく、何年発行、何年償還で細かく再分化され、よほど大きな発行額でないと取引がなく流動性を保てないのです。
元に戻りますが、流動性の大小はまずは発行通貨の大きさによります。欧州諸国がマルクだフランだリラだと分かれていると、各々の通貨量は小さいため、そもそも通貨そのものが流動性に欠けるのです。投資家から見ると流動性に欠ける通貨はボラティリティが大きく、つまり変動リスクが大きいので投資を避けるようになります。それがユーロという一つの通貨になると一気にドルに次ぐ巨大通貨市場が生まれ、巨大さゆえ大きな流動性を備えることになります。流動性はコストの低下に直結します。実需の為替取引しかり、株式や債券の取引もコストが低下し、発行体にとっても投資家にとっても大きなメリットになるのです。そこで通貨ユーロはスタートから世界の投資家に大歓迎を受けたのです。
こうした説明はユーロの誕生時に欧米では当たり前にされたのですが、日本では全く見られませんでした。債券が日本では投資対象としてまともに認識されていないため、世界標準の投資基準の重要性を誰も気に留めないからです。
通貨ユーロは金融市場で最も大切な流動性を担保する意味では、極めて大成功した例なのです。
つづく