日本訪問中もツイッターでつぶやき続けるトランプに、日本も世界も翻弄され続けていますね。
その中で中東ではトランプの脅しが効いて、サウジなど3か国がアメリカから9千億円もの武器調達に合意しています。ユダヤ人の票を得るという個人的目標のためにイランを悪者扱いして刺激し、中断していた核開発を逆に再開させました。そして中東に向けて1,500名の米軍の派遣を決め、わざとキナ臭さを漂よわせ、サウジなどはアメリカからの武器購入を決めています。5月25日のNHKニュースを引用します。
引用
アメリカ政府は、イランからの攻撃を抑止する必要があるとして、サウジアラビアなど中東の3か国に日本円でおよそ9000億円分の武器を売却すると発表しました。アメリカのポンペイオ国務長官は24日声明を出し、中東のサウジアラビアとUAE=アラブ首長国連邦、ヨルダンの3か国に対して、軍用機の部品や無人機など合わせておよそ81億ドル(日本円でおよそ8900億円)分の武器を売却すると発表しました。声明で「今回の売却は、イランからの攻撃を抑止し、同盟国の防衛力を高めるためだ」と説明しています。
引用終わり
まさに典型的マッチポンプで、自分で勝手にイランに放火し、消してやるから消火器をオレから買えというのです。
北朝鮮が言うことを聞かないと、日本・韓国も同じ目に遭わされます。今トランプは「金正恩は約束を破らない」と言っていますが、事がうまく進まなくなると第七艦隊を派遣して日本海波高しの状況を作り出し、オマエラもアメリカの武器で準備しろと言い始めかねない。このキマグレ放火魔には要注意です。
米中問題に戻ります。ある読者の方から、米中貿易戦争に関連して以下のような質問を受けました。他の方も同様な疑問を持たれている方がいらっしゃると思いますので、今回はその質問に回答させていただきます。
「中国側は、「対米報復手段」の一つとして手持ち(約1兆ドル?)の「米国債の投げ売り」も考えているという「うわさ」もあるようですが、現実にそうなれば世界経済(金融市場)は大変な状態に陥りそうですね。如何お考えですか?」
この議論は最近マスコミでもよく見られる議論ですね。ではその妥当性を検証してみましょう。
そもそも何故中国が友好国ではないアメリカの国債を大量に保有しているのでしょうか。理由は莫大な対米貿易黒字の結果積みあがっているドルを、現金のままにしておいても1銭のリターンも生まないからで、それを世界で一番安全な金融資産である米国債に投資しておくのは妥当な行動です。日本も中国に次いで対米貿易で黒字を積み上げていますので、保有額は中国に次いで2位です。
どの国であっても、国の外貨準備に積みあがっている資金を損失の可能性のある投資などには回しません。損をすれば非難されるに決まっているからで、対米黒字国は例外なく米国債に投資しています。ではその額がどれほどなのか、中国と日本、そして3位の英国までと海外投資家合計の数字を見ておきましょう。
下記の数字は国別の月別保有高で、単位は10億ドルです。今年3月の中国の保有高は1兆1205億ドル。1ドル110円換算で123兆円です。それに迫る日本の保有高は118兆円です。公表数字は米国財務省の以下のHPで見ることができます。時系列は逆になっています。
https://ticdata.treasury.gov/Publish/mfh.txt
2019 2019 2019 2018 2018 2018
3月 2月 1月 12月 11月 10月
China, Mainland 1120.5 1130.9 1126.7 1123.5 1121.4 1138.9
Japan 1078.1 1072.4 1070.2 1042.3 1036.6 1018.5
United Kingdom 317.1 283.8 273.5 271.7 258.9 263.9
Foreign Gov.TTL 6473.3 6385.1 6334.4 6262.3 6199.9 6200.3
同月の海外勢全体の保有高は6兆4733億ドル、円で712兆円。全体に占める中国の割合は17.3%、日本は16.6%です。3月の数字が公表されているもっとも新しい数字で、トランプが中国に突然関税の25%への引上げを通告した5月下旬より以前の数字です。
5月15日のフィナンシャルタイムズにタイミングよく以下の記事が載っていましたので、私が勝手に翻訳して引用します。( )内は林の注です。
「今年3月に中国はこの6か月で最大の米国債売りを行った。(上の表でわかりますが、売却額は104億ドルです)。しかしその間米国債長期金利は、月初から月末まで一貫して低下した。(2.71%から2.41%に0.3ポイント低下)中国の米国債売却の理由は主に自国通貨の買い支えで、米国債を売却して得たドル資金で元を買うもの。」
売却額は中国の保有額全体からすればわずか100分の1ですが、私に言わせれば「中国は市場に影響を全く与えずに、実にうまく売却した」となります。債券価格は金利とは逆数で、金利の低下は価格の上昇を意味しますので、中国による売却にもかかわらず、米国債の価格は一貫して上昇を続けました。
では、こうした事実から何が見えるかを解説します。
もういちどそもそもに戻りますと、中国が米国債を保有するのは溜まったドルを有効活用するためでした。投資家が自分が保有する大事な外貨資産の価格が暴落するようなバカなまねをするでしょうか。売るにしても普通の投資家であれば、市場に影響を与えないように、うまく売り抜けます。そして中国がアメリカへの報復として大量売却すれば、その間に自分の資産も暴落するため、合理的行動とはいえず、単なるおバカさんになります。
一方、米国債は世界で一番流動性が高い金融資産のため、そう簡単に売り崩すことはできません。流動性とはわかりづらい概念ですが、売買高が常に大きいため、多少の売買ではあまり値が動かないことを示す用語です。
以下の話は何度か差し上げていますが、好例として私の在籍していたソロモンブラザーズによる米国債の大量売却のお話をします。それも1か月ではなく、わずか数日の話です。91年に米国債を巡るスキャンダルに見舞われたソロモンブラザーズは資金繰りに窮し、わずか数日で500億ドルの米国債を市場で売却し、資金繰りをつけて見せました。110円で換算すれば5.5兆円ですから、1日に1兆円もの売却です。その間米国債の価格はほとんど動きませんでした。米国債とはそういう流動性の高い投資対象なのです。
まとめますと、一国の政府は自分の大事な保有資産を、たとえ貿易戦争の最中であっても、暴落させるようなバカなまねはしない。それでも米国憎しで100兆円以上もの米国債を一気に売り出したらどうなるか。安全でしかも金利の稼げる投資対象の枯渇で困り果てている世界中の投資家が、喜んで買い入れるでしょう。ですので、暴落などさせたくともできない、それが米国債という特異な地位を持つ金融資産です。
ということで、現在すでに米国債に投資をされている方、どうぞご安心を。
そして今後投資をしようと待ち構えている方は、中国の投げ売りをもろ手を挙げて大歓迎しましょう(笑)。
最初のご質問「現実にそうなれば世界経済(金融市場)は大変な状態に陥りそうですね。如何お考えですか?」に対して私の回答は、
「全くもって問題なし。むしろ世界の投資家は大歓迎です。」となります。