ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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中国リスクについて  その3

2014年03月29日 | ニュース・コメント
 中国のバブルに関して前回のお話しをおさらいしますと、

①中国でバブルを形成しつつある金融商品には銀行の扱う理財商品と信託銀行の扱う信託商品の2種類がある

②両者の合計規模はGDPの35%に達する

③高金利によって不良化する可能性がより強いのは信託商品で、平均利回りは8.8%に達する

④それらの投資先は地方の企業やインフラ、不動産である

⑤日本のバブルと比較すれば不良債権の推定規模はGDP対比で2割と日本のケースの2倍程度はある


 ということで、単純に考えると不良債権が暴発した時には中国国内でのインパクトは日本の2倍くらいを覚悟する必要があります。

 両者とも救いは対外債務がほとんどないことです。

 大きな違いは、政府債務(地方政府込み)が日本の場合は不良債権が深刻化した90年代終わりですでにGDPの130%近くあり、その後現在は240%にまでなっていますが、中国は今でも中央政府の債務はGDP比24%程度、地方政府の35%を入れてもGDPの6割だという部分です。その分、若干インパクトは緩和されるかもしれません。


 では株式市場のバブルはどうか。日本と中国の株式市場のバブルを比較してみましょう。

 日本の株式バブルピークは89年年末、崩壊直後のボトムは2年半後の92年8月で下落率62%です。その後、長期にわたり低迷を続けリーマンショック後一時8千円を割り込み、現在は15,000円前後です。

 対する上海総合指数のピークは、実は意外なことに今を去ること7年前の07年10月に5,905をつけ、ボトムは翌年08年11月、たった1年で70%の下落です。その後も低迷が続き現在も2,000前後とピークの3分の1くらいで推移しています。まとめますと、

日経平均株価  ピーク89年末   その後のボトム92年8月   下落率
             38,915          14,309           ▲62%

上海総合指数   ピーク07年10月  その後のボトム08年11月  下落率
              5,905          1,747            ▲70%

 日本のバブルは、株式が先行してはじけた後1年半後くらいから不動産が大暴落をはじめ、不動産を中心とした銀行の不良債権がGDPの10%に達しました。

 一方、中国のケースでは株式市場は遥か昔にバブルが崩壊し、その数年後に不動産が変調をきたし始めています。この違いを生んだ原因を私は市場の自由度の違いによると見ています。中国の場合、株式市場はかなり自由に取引され、バブルの生成も崩壊も市場次第でかなりのスピードで起こりますが、不動産は大都市の一部を除くと国家と地方政府に相当程度コントロールされながら、株式市場よりは緩慢にバブルを生成さています。

 地方では地方政府が民間の土地や農地(厳密には私有は認められていないので土地の使用権)をいわば収奪し、それを開発業者に売って役人が懐に入れてしまうという野蛮な行為を行ったり、その開発業者が投機的需要を見越して高級住宅を建設し、膨大な空き家が積み上がったりしています。

 この開発業者に資金を出資・貸出しているのが主に信託商品や違法に発行された社債です。理財商品もその信託商品に投資をしているので、間接的な資金提供者です。

 そして開発業者の多くは地方で利権を持った役人とその関係者が多いのです。そのため役人は莫大な資産を作っていますが、それをまた次の投機に使うという典型的なバブルのパターンにはまりこんでいます。

 これが中国バブルの形成過程と主な配役です。

つづく

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中国リスクについて  その2

2014年03月27日 | ニュース・コメント
 前回の記事では3月の全人代で政府が理財商品や社債など金融商品のデフォルトを認める政策変更を行い、実際にデフォルトが発生したことをお伝えしました。

 すでにみなさんもご存知のとおり中国内では膨張した理財商品などの金融商品を巡り、昨年後半からいろいろな情報が飛び交ってきました。投資先は不動産関連や銀行融資の返済に行き詰まった企業が多いと言われています。政府はこれまでデフォルト・リスクの火消しにやっきになっていたのですが、遂に消しきれない所まで来た、というのが私の見方です。

 政府は政策変更のコメントで「個別のデフォルトは起こるかもしれないが金融システム全体への波及は阻止する」と述べています。これまではすべてデフォルト寸前に救済していたのを突然救済しなくなりました。本当に金融システム全体を守りきれるのかについても黄色信号が点滅し始めています

 このバブル崩壊が世界経済全体に与えるインパクトを考えるにあたっては、日本との対比がわかりやすいと思いますので、それをこれから試みることにします。

 中国の金融商品バブルの破綻インパクトを日本と比較しやすくするため、まず大きさをGDPとの対比でつかまえておきましょう。絶対的大きさの比較でなく、GDPとの対比で比べるのは、GDPが大きければ破綻の吸収余力が高いので、そのほうが有効だからです。

 中国政府は意外にもこうした債務の実態に関して、かなり詳細な調査を行い、公表しています。その信憑性についてはこれまた意外にも日本、アメリカのリサーチレポートなどで数多く引用され、信用できないとのコメントはあまりありません。私はその中で、大和総研の14年1月28日のレポートが最新なのでそれを使いますが、内容中の数字は他社でも同じ物を使っています。

 それによれば今後問題となりそうな金融商品はおおまかに二通りあり、それぞれ個人の富裕層から機関投資家までが投資しています。規模は以下の通りかなり巨額で、その中からデフォルトが発生し始めています。  1元=16.7円で換算

① 銀行の理財商品;    165兆円  平均利回り5% GDP比17%
② 信託銀行の信託商品;  168兆円  平均利回り8.8% GDP比18%
          合計333兆円   対GDP比率;35%


 このうち不良資産がどれくらいかは、公表数値はありません。大和証券も不良資産の推定を行っていませんが、それぞれの商品の投資先と金利によって不良化する可能性がより強いのは②の信託商品で、平均利回りがとても高い8.8%に達しており、地方の企業やインフラ、不動産に多くを投資しています。

 この場合の利回りとは、投資家が受け取る利回りです。信託銀行が投資家に8.8%も金利を払うためには、投資先の企業や不動産からはそれをはるかに上回る収益を上げる必要があるということで、かなりの高利貸しと言えます。

 また①の理財商品の利回りは5%と低いのですが、理財商品の投資先のなんと30%は②の信託商品に投資されています。つまり銀行は8.8%と5%の差を収益にしているということです。どうやらこの信託商品がハイリスク・ハイリターンの商品であることは確かなようです。サブプライムでも結局高利の商品が不良債権化したのと同じ構図です。

 中国では地方政府が「陰の銀行(シャドウバンキング)」や「融資平台」と呼ばれる機関を通じて資金調達をしていて、それが不動産に投資され不良債権化しつつあるという問題が指摘されています。中国では地方政府は債券発行が禁じられていますので、それらの債券は実質的に違法債券です。それらに資金を供給しているのが、上記の2つの商品です。

 フィナンシャルタイムスは大胆にも米系投資銀行の不良債権推定方法を利用して計算し、不良債権の規模はGDPの2割程度と推定しています。上記の高利の信託商品全体がGDP比18 %程度で、それにある程度銀行の理財商品も加えると、およそ2割という数値は当たらずしも遠からずといえるかもしれません。そこで不良債権化する可能性のある数値としてはとりあえずこのGDP対比2割程度という数値を採用してみます。

 では日本のバブル崩壊に伴う不良債権の規模はどの程度だったでしょう。日本経済の分析で定評のある一橋大学名誉教授野口悠紀夫氏の詳細な集計では90年代の終わりのピーク時で日本の銀行に溜まった不良債権は48兆円程度、対GDPでは10%程度でした。

つづく

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中国リスクについて  その1

2014年03月24日 | ニュース・コメント
 3月16日の記事でウクライナ問題とともにもう一つ指摘したことは中国問題です。
「ウクライナ危機は一時的撹乱要因、中国問題ははより大きな撹乱要因になりうる」と書きました。2月にも私は「激震の走る株式市場」というタイトルで激しく上下した株価についてコメントを書きましたが、その中でも私は「最大のリスクは中国だ」と書いています。

 では何故中国リスクがより大きなリスクなのか。まずはそのことを数字で簡単にみておきます。

 私は基本的に世界の勢力図は経済のサイズに比例しつつあり、政治や軍事の位置づけが昨今はとても低くなっていると思っています。その可否の議論は棚上げして、まず単純に世界経済に占める日米中ロの大きさを比較してみます。中国の大きさが存在感を増し、影響度合いが大きいことがわかります。

 世界のGDPを100として国別比較をすると、アメリカが断トツの1位で中国がその半分の11%。日本が3位で8%、ロシアは2.6%とずっと離れていて、中国との比較では4倍の開きがあります。
                                       (2012年)
                 アメリカ  中国  日本  ロシア
世界のGDP(100%)     21%    11%    8%    2.6%


 では日本にとってどこが重要な国か。これを経済的視点から見るために貿易高で比較します。貿易高には輸出と輸入がありますが、その両者を加味して比較するために、日本の輸出入合計を100として、貿易相手国別の輸出入合計を比較します。

 すると日本にとって一番重要な相手は中国で全貿易額の2割を占めています。2番目がアメリカで13%。ロシアはずっと離れて2.0%です。中国とロシアでは10倍の開きがあります。
                                        (2012年)
                     対アメリカ  対中国  対ロシア
日本の輸出入合計(100%)   13%    20%    2.0%


 以上の2つの比較数字はとても単純な比較ですが、世界経済に占めるその国のサイズ、すなわち世界経済への影響力と、日本にとってどこが重要な国か十分に認識できると思います。
 その経済面で非常に重要な中国に、見過ごせないリスクがあることをこれから見て行きましょう。

 ウクライナ問題のおかげで影は薄くなりましたが、この2~3週間は世界の株式市場は中国リスクを意識せざるを得なくなってきました。特に3月初旬の中国共産党の全国人民代表大会における党の方針変更が注目を集めています。このところの中国の経済指標がかんばしくないことに加えて、この方針変更は要注意です。重要な方針変更点は以下の2点です。

  一つ目は中国政府が膨らんでいる金融商品バブルのデフォルトを容認したこと。そして実際にデフォルトが全人代以降たった2週間ですでに3件起こったこと。

 二つ目は今後の成長率について、リコノミクスを主導する李国強首相が、「7.5%が達成できないこともある」と公に言及したことです。ちなみに米系投資銀行のゴールドマン・サックスがこの1-3月期のGDP成長率の見通しを最近6.7%から5%と低めに修正しています。

 成長率の低下は地下上昇率の鈍化あるいは下落を通じてバブルの崩壊をもたらしかねませんので、純粋経済的にも重要な指標です。それに加えて中国では経済成長のスローダウンは、政治的混乱を招く最大の要素の一つです。


つづく
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ウクライナ情勢と株価 その2

2014年03月22日 | ニュース・コメント
 ウクライナを巡る情勢はクリミアの国民投票が予想されたとおりの結果となり、その後ただちに行われたプーチンの併合宣言に欧米などが効果的制裁を加えることができず、ひとまず落ち着いています。

 金融市場はプーチンが「ウクライナに対しては手を出さない」と言ったことで、安心感が拡がりました。クリミア併合宣言の翌日、世界の株価は暴落と思いきや上昇しました。もちろん事態の展開がどうなるか結論は出ていませんが、私は前回お知らせしたとおり、ウクライナ問題は世界の金融市場に激震を走らせるほどには至らないと思っています。金融市場も落ち着いてよく考えれば、さすがのプーチンも最悪の事態は望んでいないということを理解したのでしょう。

 さて一方、日本の株価は大きく変調をきたしています。特に3月7日から14日までの一週間で日経平均は947円の下げとなりました。その間にNYダウが396円の下げであったのと比べますと、大きく乖離しています。しかもその間、円ドルレートはほぼ同じレベルを保っているにもかかわらずです。

 この原因はもちろんこれまで見てきたように、海外投資家の動向によります。この3月第2週の1週間で海外投資家の日本株売りが9,753億円と約1兆円にも達しているのです。1月に大きく売り越した海外投資家は、2月月間ではわずか829億円の売り越しと、マイルドな売り越しで終わりました。このため日経平均も月間でわずか73円の下落とほとんど動いていません。しかし3月第2週に海外投資家は再び大きく売り越しました。

 その後第3週の株価はクリミアのロシア帰属が決定しウクライナ情勢が大きく動いたのに、わずか100円程度の下落に終わっています。投資家別動向は1週間遅れで発表されますので、どうなっているのかはまだ不明ですが、海外投資家の売り越しは大きくないかもしれません。

 この日本株の変調がいつまで続くのか、予想は難しいのですが、私はアベノミクスに対する外人投資家の受けとめかたが失望に変わりつつあるので、少なくとも昨年のようなユーフォリアは来ないと見ています。従って日本経済復活の兆しと言われながらも、株価はそれに強く反応しないだろうと思います。

 昨日、NISAが本格的に稼働しはじめ日本の個人投資家が勉強を始めている、というニュースが流れました。ある証券会社が投資セミナーを開催したのですが、その会場がなんと両国の国技館だというのです。株価動向がどうの、個別株の見分け方がどうのということを講師は解説しているのですが、今年になってからの株価変調を前にして私にはかなり空しく聞こえました。

 会場を出た個人投資家がインタビューに応えて言っていたことは、
「大きく儲けようと思ってはいません、少しでも増えてくれればそれでいいんです」

 私がもし会場にいたら

「だったら証券会社の売りたがらない米国債を買いなさい」

と言ってあげたいところです(笑)。セミナーの内容にもちろん債券の「さ」の字も書いてありませんでした。書いてあったのは、日本株や日本株投信、そして買ってはいけない米国ハイ・イールド投信の文字でした。

 次回はウクライナ情勢より世界経済に与える影響の大きな中国について書くつもりです。
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資産運用とアート エッセイのお知らせ

2014年03月18日 | お知らせ


  金融市場は、先週にくらべて若干落ち着きを取り戻したようです。

今日はアートの好きなみなさんへのお知らせです。

3月から月に一・二度のペースで、「資産運用とアート」についてエッセイを投稿することになりました。投稿先は翠波画廊という東京八重洲にあるギャラリーのHPです。
URLは  http://www.suiha.co.jp/?p=4178

 そのHPに私とある開業医の先生が同時期に投稿を開始しています。依頼を受けた画廊の社長さんは私と同じマンションの住人で、管理組合の仕事を通じて知り合いました。その方は私の著書をお読みになり、またサイバーサロン(ネット上のクローズドなサロン)への投稿も読んでいらして、私の書いたものに興味をお持ちになったとのこと。

 私はあらゆる分野のアートが好きで、東京にいるときだけでなく日本や海外を旅行するときに美術館やギャラリーを巡ることを楽しみにしています。若手のアーティストやギャラリストの知り合いも多く、お金があったら若手のアーティストを支援するギャラリーをやりたいとまで思っているほどです。

 第1回目は「インテリアとしての絵」としてすでにアップされており、2回目は「一枚の絵との出会い」、3回目は「旅先での絵との出会い」というタイトルで掲載予定です。その後は「資産運用とアート」をテーマに何回かに分けて書いていくつもりです。不定期ですが、お時間のある時に翠波画廊さんのサイトを覗いてみてください。

URL http://www.suiha.co.jp/

 エッセイ執筆のお知らせでした。
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