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愚かなる米国債デフォルト騒ぎ

2023年10月01日 | 愚かなる米国債デフォルト騒ぎ

 例によって例のごとく、歌舞伎ワシントン公演がさきほど終了しました。いつもよりかなり際どい決着時間でした。CNNのサイトには面白いカウントダウンのメーターがありましたので、紹介します。政府機関のシャットダウンまで、1秒ごとに残り時間が表示されています。私がチェックした時は、残り時間が約3時間となっていました。

US government could shut down in

  1. 0Days
  2. 2Hours
  3. 56Minutes
  4. 1Seconds

 

 こうしたバカバカしい民主党と共和党の争いに、今回は共和党内の少数派であるフリーダムコーカスと呼ばれる一派が、争いに拍車を掛ける動きをしたためです。すでに数日前から共和党多数派は民主党との妥協案をまとめつつあったにもかかわらず、このトランプをも支持する一派が党内で反乱を起こし、そのためもめにもめたのです。

 

 こんなことを繰り返すため、遂にムーディーズまでダウングレードの警告を発しました。9月26日のロイター電を引用します。

[ニューヨーク 25日 ロイター] - 格付け会社ムーディーズは25日、米議会が期限までにつなぎ予算案を可決できず政府機関が一部閉鎖されれば、他の高格付けの国と比べ米国のガバナンスの弱さが浮き彫りになるため、米国の信用に「マイナス」になるとの見方を示した。

ムーディーズは現在、米国債に最高位のトリプルAの格付けを付与。声明で、政府機関が閉鎖されれば「財政赤字の拡大と債務償還能力の悪化で財政力が低下しているときに財政政策立案が政治的な二極化の激化による大きな制約を受けていることが露呈する」とし「米政府の信用に悪影響が及ぶ」と指摘した。

その上で、政府機関の閉鎖で債務支払いに影響は出ないものの、財政決定が政治的な対立にいかに影響を受けるか露呈するとし、米国の財政政策立案は「トリプルAの格付けを受けている他の国と比べ強固さに欠ける」と指摘。「財政政策が弱体化し、財政赤字が高止まりし、金利コストが予想を上回れば、米国の格付けや格付け見通しに圧力がかかる」との見方を示した。

引用終わり

 

 この声明で大事なことは、「政府機関の閉鎖で債務支払いに影響は出ない」という部分です。つまりムーディーズはたとえ政府機関が閉鎖されたり職員の給与が払われない事態に陥ったところで、米国債などの金利や元本の支払いには影響がないと言い切っています。ということは、さらにムーディーズが踏み込んでダウングレードしてもデフォルトなどに至る危険はないと言っているのと同じです。

 米国債に投資されているみなさんには心配は無用と申し上げておきます。

 以上

 

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歌舞伎ワシントン公演、大団円のうちに終演

2023年05月30日 | 愚かなる米国債デフォルト騒ぎ

 予想通り、そしてシナリオ通り、歌舞伎ワシントン公演が大団円の終演を迎えました。それでも飽きずに報道は「いまだ議会承認が残っており、安心するのは早い」と言い続けています。

 こんなにもエンディングが明らかな演目なのに、この一か月みんな一体なにを心配し騒いでていたのでしょう(笑)。

 一方格付け会社フィッチ・レーティングスが、米国債の将来見通しを下方修正しました。フィッチ・レーティングスとは、米国債の格付けをトリプルAとしているムーディーズ、AAプラスとしているS&Pに次ぐ有力会社です。格付けの将来見通しは主に3通りあります。

1.安定的    変動を見込まない

2.ポジティブ    上方修正の見込みがある

3.ネガティブ  下方修正の見込みがある

 

 今回の下方修正はトリプルAはそのままに、見通しを1から3へ.つまり安定的からネガティブへの変更です。

 この牽制球は的を射ていると思います。要はこの愚かな争いを「いい加減にしろ」という警鐘を鳴らしたのです。

 

 一方あまりニュースにはなっていませんが、IMFも同じようにあきれ果てて、「次からは愚かなことを繰り返さず、債務上限を自動的に拡大せよ」と言っています。

 

日経ニュースを引用します。

国際通貨基金(IMF)は26日、米国に対して政府債務の上限引き上げを巡る交渉が「米国と世界経済の両方に(危機がシステム全体に波及する)システミックリスクをもたらす可能性がある」と警鐘を鳴らした。今後は予算の承認時に自動的に上限を引き上げる仕組みを設けるべきだと提唱した。

引用終わり

 

 しかし私はIMFの言う自動拡大の仕組み導入を的を射た指摘だとは思いません。何故ならこれでは日本と同じで際限のない債務拡大になってしまうからです。

 じゃ、どうすればよいのか。

 対処策は実に簡単で、みんなが大騒ぎしなければいい。どうせシナリオ通りの歌舞伎なのですから。

 その「みんな」とは、主にエコノミストや債券・株式のアナリスト連中、そしてマスコミです。たとえ瞬間的にデフォルトが起ったとしても、それは格付け機関も認知しているテクニカル・デフォルトであって、将来にわたり利払いや元本支払いができないわけではない、一時的な齟齬だという基本的知識をもって「またか」と言って笑えば済むだけの話なのです(笑)。

 

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 まだつづく、愚かなる米国債デフォルト騒ぎ、アップデート

2023年05月25日 | 愚かなる米国債デフォルト騒ぎ

 チキンゲームがまだ続いていますね。ある方が、これは「いつものシナリオ通りの歌舞伎だ」と言っていました。崖っぷちを落ちそうになりながらチャンバラを続け、最後は大団円で終わる歌舞伎のシナリオだというのです。いいたとえですね。

 この愚かな争い、最後は妥協するにしても、そこまで戦い抜いたという言い訳をするため、民主共和双方ともギリギリまでファイティングポーズを取り続けざるを得ない、という事情が大きいからでしょう。

 たとえデフォルトが起っても、格付け会社はすでに「これはオカネがなくてデフォルトしたのではなく、手続き問題によるテクニカル・デフォルトだ」と認定することを示唆しています。

 テクニカル・デフォルトとは、本当にお金がなくて払えないのではなく、議会承認などの技術的問題だけの理由によるデフォルトであることを指します。

  では一般の投資家にとってテクニカル・デフォルトが起った場合、どのような影響があるのでしょうか。私は何も影響はないと思っています。

 

えっ?なんで? と思われるでしょう。

 

 理由は簡単。米国債のデフォルトとは、「米国債の利払いもしくは元本の償還ができない場合のみが定義上のデフォルト」だからです。つまり6月1日にカネ繰りが詰まったとしても、米国債はテクニカル・デフォルトにもならず、ただ滑って転んだだけのスリップダウンにするからです。

 なんだか禅問答の様ですね。解説します。

 さきほど申し上げたとおり、米国債のデフォルトとは、アメリカ政府が期限までに「利払いもしくは元本償還ができなかった時」だけに適用されるので、財務長官のイエレンおばさんは米国債投資家への利払いや償還は約束通り実行し、その他の日常的歳出を減らすか止めればいいだけだからです。

 アメリカ政府の支出額のうち利払いや元本償還など微々たるもの。それに比べ通常の歳出額は膨大です。例えば社会福祉関連支出や公務員給与、ウクライナ支援を含む膨大な軍事支出や途上国援助支出、年金支出などがあります。それらを一部をカットするくらいで利払い・償還費は簡単に捻出できます。ちなみに利払い費は全歳出額のわずか6%程度にすぎませんし、償還額もそれを上回る程度です。

 

 もちろん米国民にとって年金や公務員給与の支払い遅延、政府サービスの一部停止は大問題です。しかし米国債のデフォルトはたとえテクニカル・デフォルトに過ぎなくても、世界の金融市場に与える影響は甚大ですし、国際的信用を損なうことになります。デフォルトの定義などの知識を持たない投資家が大半ですから、世界中がパニックに陥りますので、イエレンおばさんは決してそのような愚かな決断はしません。

 財務長官はそうでも、大統領は様々な公約を果たせなくなるため、次の選挙を控え簡単に歳出先延ばしや削減はできないのです。共和党もしかり。政府機関の閉鎖や年金支払いの遅延などが起れば、国民の不満は一気に共和党に向かう可能性が大だからです。

 

 一方、米国債投資を考えている方にとっては、もしこの騒ぎが高じて利回りが上がったら、それこそ「絶好のチャンス到来」です。このところまた若干ですが長期債の利回りが上昇し、良い投資チャンスが続いています。しかし不思議なことにドルは下げるどころか、上げています。その理由は利上げによるものだと説明されていますが、一部は日本など海外勢の米国債投資への準備でドルを調達しているからかもしれません。そして投資をしてすぐにデフォルト問題が解決すれば、瞬間的に債券価格は上昇するに違いない。

 

 この債務上限問題、私はこの政争を一貫して愚かだと言っていますが、債務上限の仕組み自体は評価しています。なぜならそのタガがないと、日本のように政府は使いたい放題になり、単なるチキンゲームではなく、本当の崖に向かって目をつぶったままアクセルを踏み続けることになるからです。

 以上、愚かなる米国債デフォルト騒ぎ、アップデートでした。

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愚かなる米国債デフォルト騒ぎ

2023年05月12日 | 愚かなる米国債デフォルト騒ぎ

  年中行事とまでは言いませんが、またぞろデフォルト騒ぎが起きていますね。私のところに個人的に質問がきていますので、いかにこれがナンセンスな政争にすぎないかを解説します。

  最初の著書でもこのブログでも何度か解説しましたが、この問題は共和党と民主党の政争です。基本的に大きな政府派、つまり歳出を大きくしがちな民主党に対して、小さな政府派、歳出をセーブし税金も少なくする派の共和党が政権に揺さぶりをかけるためにおこなうお決まりのパフォーマンスです。

  最初に起きたのがオバマ政権下の2011年8月で、私は前著の最終原稿のゲラを出版社に渡し、家内とニューヨークの友人を訪ねる旅に出る寸前でした。出版社から大丈夫かとの問い合わせがあり、「大丈夫です」と言い残して飛行機に乗ってしまったのですが、「やはり簡単でもいいから解説を入れてほしい。今印刷をストップして待ちます」と出発の空港で電話がきました。機内で1ページほどの解説文を手書きで書いて、到着空港のKinko’sでファックスしたのを覚えています。

  内容は、

・米国は本当のデフォルトなどしない

・その証拠に米国債のデフォルトに対する保険料率は、騒ぎの発生以来、ピクリとはしたものの、ほんとんど動いていない。つまりデフォルトに対して保険をかけようという動きにはなっていない

・たとえ本当にデフォルトしたとしても、それはボクシングで言うスリップダウンで、勝敗を決する点数には影響しない

いうものでした。その時以来、実はたびたび米国政府はオカネに詰まって様々な費用支払いをできずに政府機関が閉鎖されたことがこれまで3度ほどありました。今回もその延長線上にあるのですが、「今回は深刻度が違う」というアナリストがけっこういます。もちろん私は「またか」としか思っていません。

 

  そこでよしんばデフォルトになるとどうなるかのシミュレーションを簡単に行いましょう。国債の元利金を期限までに支払えないと格付け会社はデフォルトを認定します。しかしこれは支払い能力がないという本来のデフォルト認定ではなく、支払い能力はあるのに政治的あるいは技術的問題で支払えない「テクニカル・デフォルト」という認定になります。私がよく言うスリップダウンです。こうしたことは民間企業などでも時々なんらかの手違いで起こすことがあります。それがたび重なると、格付けを下げられることは大いにあり得ます。たとえ企業の財務部の支払いシステムが故障しただけでも、そんな企業は信用がおけないとなるのです。

 

  2011年7月にこの問題が大きくなり、8月5日金曜日には有力格付け企業の一つであるS&Pがアメリカ国債をトリプルAからダブルAプラスに一段格下げしました。しかしムーディーズはその時も今もトリプルAのままです。もう一社のフィッチレーティングスを入れて大手3社と呼ばれますが、格下げしたのはS&Pだけでした。

  そのあたりから発表後にかけて何が起きたか。週明けの8月8日月曜日、アメリカ株式は3指数とも大暴落しました。そしてドルも暴落し、世界の金融市場に大きなショックが拡がりました。株式・債券・ドルのトリプル安となれば、世界でも金融ショックが拡がるでしょう。

 ところがこの時はなんと肝心の米国債は逆に買われたのです。これぞまさに絵に描いたような「資本の逃避」です。アメリカや世界の金融市場に一兆事があると、世界のマネーは米国債に逃げ込むのです。それはアメリカ発のリーマンショックでも同じことでした。

 

  これにはまだ後日談が続きます。ダウングレードをした当のS&Pの計算が間違っていたことを財務省が見つけて告発。米国政府の歳入・歳出の赤字を10年間で2兆ドル、当時のレートで約170兆円も過剰に計上し、そのためダウングレードしたのです。しかも指摘されるとそれをS&Pも認め、当時の社長も9月早々に辞任しています。

  「だったら取り消せばいいのに」というのが私だけでなく、アメリカの権威ある関係者も語っていました。例えば私が投資家として尊敬するウォーレン・バフェット氏、ノーベル経済学賞を得ているポール・クルーグマン教授などです。なかでも傑作は毒舌を吐くので有名な映画監督のマイケル・ムーアで、「社長を捕まえてブタ箱に入れろ」とまで言っていました(笑)。しかしS&Pは社長が辞任しても挙げたこぶしを降ろさず、いまだに格下げをしたままです。

 

  ということで、たとえデフォルトが発生しても格付け会社はテクニカル・デフォルトと認定する可能性が高く、一瞬そのために世界の金融市場が動揺を来たしたとしても、逆にそれこそバフェット爺さんが喜ぶ株式の絶好の買い場を提供することになるでしょう。

  もし動揺が激しく米国債の価格が瞬間でも下げる、つまり利回りがどっと上昇したとすれば「チャンス到来!」。みなさん、それこそ本腰入れて投資しましょう。普段は金利上昇で買われるはずのドルが米国債と一緒になって売られて下げていたら、なおさら「ビンゴ―!」と叫びながら買いましょう。

 

  するとバフェット爺さんはきっと暴落をした株を買った途端、「オレ様が政府に当座の資金を貸して、流動性を供給してあげるよ」といって相場を押し上げ、大儲けするに違いないのです。

 

  以上、「愚かなる米国債デフォルト騒ぎ」でした。

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