ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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リーマンショック後10年に寄せて その1

2018年09月29日 | リーマンショック後10年に寄せて

  トランプが国連の演説で自画自賛を始めたところみんなが笑いだし、「こんな反応は予想しなかった」と照れ隠しで言った言葉でさらに失笑を買いました。かわいいトランプちゃん、自分の支持者向け演説と同じように、世界はオレ様を称賛して拍手、いやスタンディング・オベーションが返ってくると思っていたのです。

  では会場の笑いの意味は何か。自分がどの大統領より多くの業績を挙げたというのが、悪い冗談だという笑いです。つまりパリ協定からの離脱やイランの六か国国協定からの離脱、TTP離脱、エルサレムへの大使館移転など、世界にとって大迷惑なのに「業績だって、冗談だろう」という笑いなのです。

そのニュースをBBCのサイトから引用します。

「自分の政権が米国史上「ほとんどどの政権より」も多くの業績を達成したと自慢すると、会場からは笑い声が聞こえ、大統領は「そういう反応が返ってくるとは思ってなかった」と笑い返した。一方で、エマニュエル・マクロン仏大統領やアントニオ・グテーレス国連事務総長は、多国間主義の重要性を熱弁した。トランプ氏はまたイランが中東全域で「混沌(こんとん)と死と破壊」の種をまいていると非難し、加えてグローバリズムを否定した。」

  グローバリゼーションの旗手のはずのアメリカが、グローバルに物事を解決する場である国連でそれを否定し、横暴な振る舞いをしています。

  一方国内ではトランプ陣営の選対本部長で訴追されているマナフォート氏が司法取引に応じ、すべてを白状するとのこと。いよいよ包囲網が狭まっています。そうした中でますます破れかぶれの政策を実行しています。

 貿易問題での強気発言も中間選挙までだという観測が多くみられますが、それはまったくの間違いだと私は思います。中間選挙で負けようが勝とうが、選挙後彼の頭の中は2年後の再選問題でいっぱいになるため、ますます支離滅裂な政策を打ち続けるに違いありません。もちろん負けたらえらいことになるでしょう。

  それにより自分がさらに追いつめられることなど、小学生並みの頭のかわいいトランプちゃんには理解できないのです。

  窮鼠猫を噛む状態のアメリカ大統領が世界平和のカギを握る図など、絶対に見たくはありませんが、それが現実です。

  私はもちろん、中間選挙では下院で共和党の負けを予想しています。キーワードは「女性票」です。トランプの支持率40%は岩盤だと言い立てる人々は、その反対に50%以上の不支持率の岩盤があることを忘れています。今回の選挙は大統領選とはシステムが違い、彼の支持・不支持率はそのまま下院選挙では結果に反映される可能性が強いのです。ちなみに大統領選挙ではヒラリーの得票率はトランプの得票率を上回っていましたが、選挙人の獲得数でトランプが勝利しています。

 

  さて今回の本題です。9月はリーマンショック後10周年でした。それに寄せて、あの金融危機とはなんだったのかをこの時点で振り返ってみましょう。「災害は忘れたころにやってくる」という格言を噛みしめる必要性を今こそ感じるからです。

  まず初めに、まとめの意味で3つの項目を上げます。

第一は、震源地のはずのアメリカが10年後までに先進国諸国では一人勝ちした

第二は、危機後に報道やエコノミストなど誰もが言っていた「アメリカにも失われた10年が来る」というようなことは全くなかった

第三は、金融危機を作り出した側の投資銀行のほとんどが消えてなくなった。含むソロモン・ブラザーズ(笑)

  日本のバブル崩壊の場合、資産価格の下落やデフレの継続により20数年後でも株価は元には戻らず、大都市の一部の路線価だけが最高値に戻っていますが、地方の地価は戻る様子はなく、沈みゆく一方です。

  私は著書で「アメリカ発の金融危機は全治3年」と書きました。3年と言えた根拠は、政府から巨額の支援を受けた巨大金融機関はたった2年間ですべて返済し終わり、倒産した巨大メーカーGMも3年後には再上場を果たして復活したからです。ちなみに日本の場合、公的資金の注入を70兆円の最大値にまで拡大したのが崩壊後9年目の99年です。その後に返済が始まり、最後のりそなの完済は2015年です。なんというスローペースだったのでしょう。

  すでにバブル崩壊を経験した日本の多くの識者は私のように楽観的になれなかったようで、「アメリカにも失われた10年が来る」と言い続けていましたが、そのようなことはありませんでした。

  欧米では10年前の危機をリーマンショックとは呼ばず「金融危機」と呼んでいますので、ここでも今後は主にその名前を採用します。何故リーマンショックと呼ばないのかと申しますと、リーマンの倒産は金融危機と言う大きな事象の中の一つの象徴的イベントに過ぎないからです。 

  金融危機後10年が経ち、経済紙や一般報道機関が様々な回顧をしています。しかし共通して欠けていることがあるのを指摘しておきます。それは、株価や不動産価格がピークを付けた後、暴落や雇用の喪失がひどかったことばかりを言い立てますが、「ピークを付ける前までは行き過ぎたバブルがあって、みんなでそれをエンジョイしていた」という事実の指摘です。

  それは日本でも同様で、バブル崩壊後のひどさばかりを言っていますが、崩壊前は信じられないほどバブルに踊り、遊び呆けていたのです。私には「単にその付けが回ってきただけ」と見えます。エンジョイしたことはすっかり棚に上げ、せっかくの好景気が崩壊したと言い立てています。そしてその後長引く不況に対しては「政府が無策だ」と言うのはアンフェアーです。まずは自分たちが踊ってしまったこと自体を大いに反省すべきなのです。でないと、こうしたバブルは形を変えてまたやってきます。

  同様なことはアメリカでもそうで、政府がリーマンを崩壊させなければ、あれほどひどくはなかったはず、というようないいとこ取りをしようとする論調が危機後10周年特集などでも多く見受けられますが、まずはそれを作り出した人々をあぶり出し、踊った人々を糾弾しておく必要があると思います。

  アメリカで言うと、この危機の主犯はもちろん『マエストロ』という称号をいただき主犯の認識なく職を辞し、07年に崩壊が始まったころに自画自賛の自叙伝を出版した元FRB議長のグリーンスパン氏です。本の題名は「波乱の時代」上下2巻、副題は「世界と国家を語る、これからの市場と経済」でしたが、サブプライム問題などこれっぽっちも触れていませんでした。お気の毒に今ではこの副題は笑い話です。サブプライム・ローンやそれを債券化した商品のほぼすべては彼の任期中に積みあがったもので、責任は金融監督庁とFRB議長の彼にあります。

  さすがに彼もそのことを反省して大部の自叙伝の出版から1年後くらいに、自分は間違っていたと反省の書を60ページほどの小冊子の形で出版しています。タイトルは「波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る」です。その小冊子を先に読んでいれば、数千円の上下2巻など買わなくても済んだのに、と思ったのは私だけではないと思います(笑)。まあ、中央銀行のマエストロと言われたトップもこうして間違うのだ、というよい反省材料は提供していただいたので、よしとしましょう。

  さて日銀のクロちゃん、果たして自叙伝を出すほどの成功を収めるか、そしてその後小冊子を出さなくて済むか(笑)、今後が見ものです。

  と書いては見たものの、日本の役人はどんなにひどい失敗をしても成功をしても、決してそれをネタに本を書いたりしません。歴史を綴ることの大切さを知らないのか、黙して語らずが役人の不文律なのか知る由もありませんが、きっと墓場に持っていくのが日本のお役所のお決まりなのでしょう。

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ぽんきちさんへの回答、不動産と米国債投資

2018年09月24日 | ストレスフリーの資産運用

  お約束した日になりましたので、林の回答をアップいたします。

  ここまでに協力いただいたPuffinnさん、Genrechtさん、提案をありがとうございます。ぽんきちさんだけでなく、他の方も大いに参考になるアドバイスだと思います。

  ではぽんきちさんへの林からの回答です。

  ぽんきちさんのご質問を繰り返しますと、現在から19年後の2037年に向け建替え資金を米国債のゼロクーポン債で積み立て投資をしているが、次第に投資期間が短くなり、為替のブレーク・イーブン・レートが高くなってしまい不安を感じるので、何か代替案はないかというご質問です。

  私の提案は、「本当に時期が接近してきて不安を感じるなら、何もしない」というものです。たとえリターンがよさそうな投資対象であっても、為替のリスクは大きいので、損失の可能性はあります。それに対する対処の決定版は「なにもしない」ことです。

  私の著書をお持ちの方は、どうぞ「あとがき」の最後のページをご覧ください。そこには以下のとおり書いてあります。

  ウォーレン・バフェットの座右の銘は「すべてのボールには手を出すな」。私の座右の銘は「バッター・ボックスに立つな」です。

  バッター・ボックスに立つと、つい手が出てしまいますので、最初から立たないことがストレスフリーの資産運用の極意だと思っています。

   それではいったい建替えより何年くらい前から投資を停止すべきかと申しますと、金利状況により変わりますので、一律の回答はないと思います。高金利であれば数年でも投資しうるし、低金利だと数年では為替のリスクが高すぎることになるでしょう。以上がひとまずの回答です。

 

   でもこれだけではおもしろくもなんともありませんので、おまけの提案を差し上げます。ちょっと事を複雑にしてしまいますが、現在の投資方針にもかかわりますので、今後じっくりと考えるヒントにしてください。

おまけの提案1.例として10年以上の長期であれば不安を感じないとするなら、37年の償還にこだわらず10年後の米国債に投資し続ける

  たとえばあと5年であっても10年後償還の債券に投資するという意味です。その結果が吉と出るか凶と出るかはわかりませんが、大きな意味でリスク分散になります。

  「37年という1時点だけに為替リスクを集中するのは、本当にそれでよいのか」、という根本的疑問から、分散の必要性を提案しています。ちょっと不安を与えることになり申し訳ないのですが、大事なことなのでストレートに伝えました。

  では償還1時点集中の為替リスクを分散する方策は他にないのでしょうか。いくつか方策はあります。それが提案その2です。

おまけの提案2.償還時期を37年より5年前から5年後までの10年くらいに分散する。

  これだと37年以前の償還はかまわないのですが、金利をもらい損ねることになります。でも金利分くらいならあきらめましょう。そして37年以降に償還される債券は、その時点の時価がキャピタルゲインロス・為替のゲインロス次第で売却することもあればしないこともあるとしておく。売却しないと資金が不足するケースが生じます。為替ロスのため、売却したくないというケースです。その場合、不動産と米国債を担保にして借り入れを起こします。年齢が若ければ不動産担保だけでローンは可能だと思いますが、19年後64歳だと、ローンが下りるか少し不安です。ちなみに銀行に聞いてみる価値はあるでしょう。明確な答えはないかもしれませんが。

   計算上はわずか5年の短期ローンで金額も小さいでしょうから、不動産担保だけでも十分可能ではないでしょうか。ローン後にキャピタルゲインが出たら、その時点で早期返済することも大いにあります。

  また、64歳じゃだめでも59歳なら大丈夫かもしれません。特に仕事を持っていて現役であれば。だとしたら、59歳時点での建て替えも検討する価値はあるでしょう。

  ぽんきちさんの方針のそもそものリスクの指摘から、いろいろ提案が錯綜しました。ただ大事なことなので、是非繰り返し読んで理解していただきたいと思います。

  さらにもう一つ、指摘をしておきましょう。

  それは、償還時期の短期化により、実はリスクは減少するという一般論です。

  そもそも金利自体は、期間の長期化に伴い高くなりますが、それは長期間だとリスクが増すからです。これは理解できますよね。為替も同じです。償還までの期間が短いとブレーク・イーブンは高くなりますが、同時に為替の変動リスクは低くなります。なぜなら短期だから変動幅は少なくなると考えられるからです。

   なので、実はぽんきちさんのご心配はかなり心理的なものだということなのです。絶対的ブレーク・イーブンは高い数値でも、そこまで行く可能性は短期間なので低くなるということです。

   混乱に拍車をかけてしまったかもしれませんが、よく考えていただけば理解できることだと思います。

 

まとめますと、

・一般的に期間が短くなると、リスクも低くなる

・1時点の償還にこだわらない方法も十分に検討の余地がある

・ローンという手段も考慮する

   ということで私の提案は終わりますが、ご質問があれば遠慮なく、なんなりとどうぞ。

 以上

 

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ふるさと納税、全国おバカさんランキング

2018年09月17日 | ニュース・コメント

ふるさと納税おバカさんランキング、1位は大阪泉佐野市です。

   かねてからおかしな制度だと思っていたふるさと納税について、ずいぶんと話題になっているのでどなたも指摘していない、でも最も大切な指摘をしておきます。

  今回のタイトルは「おバカさんランキング」です。住民の方には失礼ながら、日本一のおバカさんは大阪府泉佐野市で獲得したおバカポイントは135点です。ふるさと納税額は日本全体で昨年は3,653億円。その3割は約1,000億円にものぼります。

   日本全体の損得を簡単に計算してみましょう。ふるさと納税の仕組みを単純化して納税者は一律3割の返礼がもらえると仮定します。例えば東京の納税者が昨年地方に昨年は230億円程度移転しました。東京はマイナス230億ですが、地方はプラス230億なので、全体ではプラマイゼロ。でも返礼分は誰が負担するのでしょう。移転を受けた地方自治体です。ということは、地方は230億の3割を返礼したとすると、約70億のマイナスとなります。返礼率が3割だとその他の自治体分を合計すると、損失が日本全体では1,000億円になるわけです。2割だとしても700億円にものぼります。

   実際には納税の受け入れ側は濡れ手に粟で、例えば泉佐野市は135億円もらい、3割程度返礼品に使って100億円残ったとなるため痛みを感じません。でも35億円は消えてしまったのです。

   市町村別のランキングが出ていたので上位を以下に記しますと、

1位 大阪府泉佐野市 135億円

2位 宮崎県都農市   79億円

3位 宮崎県都城市   75億円

4位 佐賀県みやぎ町  72億円

5位 佐賀県上峰町   66億円

 

  一般の議論や報道内容は、「この返礼品はその地域に関係ある」とかないとか、枝葉末節の議論に終始しています。しかしトータルで見れば明らかに巨額の損失が生じるのに、何故このようなおバカな制度を導入したのでしょうか。

   もちろん返礼分で商品を買うことになるので消費が増えるということはあるでしょうが、税収の減少分はとても補いきれません。そしてもちろん私のようにそんなことはしない人たちが、公平であるべき税制上で不公平な扱いを受けています。特に私の住む世田谷区は流失額で全国の上位に位置し、なんと40億円も失っています。

   ふるさと納税の本来の趣旨がどうだ、メリットがどうだということもあるでしょうが、まずは日本全体の税収の減収分がいくらになっているのかをしっかりと把握したうえで枝葉末節の議論をしてもらいたいものです。

   導入を決めた官房長官に一言。

 「なにやってんの菅さん!」なのです。

 以上、おバカさんランキングでした。

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日光を見ずして結構と言うな

2018年09月13日 | 旅行

  先週、4年前についで生涯で4回目の日光見物をしてきました。ハイライトは改装なった東照宮の陽明門です。実は観光だけに行ったわけではなく、日本中のゴルフ仲間と年に一度のゴルフツアーを楽しみました。毎年場所を変えて6・70人が全国から集まり、ハンディなしのスクラッチ戦を楽しみます。今回は私の大好きなコース設計家、井上誠一設計の日光カンツリークラブです。男体山から流れ出る大谷川(ダイヤがわ)の河原を埋めて作られましたが、もちろん河川敷コースの風情は全くなく、立派な松の木に囲まれた風格ある林間コースです。

  何故プレミアム・コースなのかと言えば、ここでは男子の日本最高のトーナメントである日本オープン選手権を過去に開催し、2020年には日本プロゴルフ選手権が行われるというメジャートーナメント開催にふさわしいコースだからです。井上誠一のコースは日本に30数か所あるのですが、そのうち3分の1程度のコースがトーナメントコースに使われています。

  ところで、このコースの名前は「カントリークラブ」ではなく、「カンツリークラブ」と付けられています。カントリーとカンツリー、いったいこの差はなんなのでしょうか。

  ゴルフ場の名前をリスト化すると多くはカントリークラブなのですが、一定の法則をもってカンツリークラブという名前がつけられていることに気づきます。その法則とは、どうも戦後数年目くらいまでに作られた比較的古いコースはカンツリークラブ、その後はカントリークラブになっているのです。

  一般的に「名門」と呼ばれるクラブは古いコースが多いので、カンツリークラブが多いのです。例えば20年のオリンピックでゴルフ競技を開催する霞が関カンツリークラブ、霞が関と同様、入会条件が原則世襲になっている相模カンツリークラブ。関西では茨木カンツリークラブなどがそれにあたります。

  カンツリーという名前が名門の必要条件ではありません。古くとも「ゴルフクラブ」という名称も多くあるからで、同じく世襲でも霞が関の隣の東京クラブや関西の広野ゴルフクラブ、日本で多分一番敷居の高いゴルフ場である軽井沢ゴルフクラブなどがあります。むしろ名門の必要条件は入会が世襲限定であること、なのかもしれません。

  カンツリーの名前を色々調べてみると、どうやらカンツリーという表記は、ビルヂングと同類の表記らしいことがわかりました。

  丸ビルは丸の内ビルディングではなく、正式には丸の内ビルヂングです。私の入社当時のJALの本社は中央郵便局の並びの東京ビルヂングでした。いずれも三菱地所のビルです。

  調べてみると外来語の表記は文科省によってこうしなさいというガイドラインがあって、1952・3年までとその後は比較的大きくガイドラインが変わったようで、その時にビルヂングはビルディングになり、カンツリーはカントリーになったのではないかと思われます。確証はありませんが。さらにその後1991年と2015年にも表記のガイドラインは改定されたようです。

  話をもとに戻します。日光のことでした。4年前に訪れたとき、東照宮にあるあの有名な陽明門はすべて幕に覆われていて見ることができませんでした。平成の大修理の最中だったのです。13年から17年の初めにかけて修復工事が行われ、あの豪華絢爛な門が見事な姿を再び見せてくれました。

  その修理を請け負ったのは古美術や古い建築物の修理を専門とし、なんと寛永年間から300年以上も歴史の続く小西美術工芸社です。まあ、世界最古の会社と言われる金剛組の800年に比べれば半分以下ですが、それでも300年以上の歴史とはたいしたもんです。ウィキペディアから会社概要を引用します。

「株式会社 小西美術工藝社は、日本の東京都港区に本社を置く、社寺等の伝統建築や邸宅の設計や施工、国宝や重要文化財などの文化財の修繕と補修を業務とする企業。2016年時点で日本の文化財装飾に関わる4割の職人を抱える業界最大手企業である。」

  4割とはすごいシェアーですね。そして不思議なことにこの会社の現在の社長はデービッド・アトキンソンというオックスフォード出のイギリス人で、実は私のソロモンブラザーズ時代の同僚の一人です。

  彼は90年代の初め、ソロモンの東京オフィスで日本の金融業界のアナリストをしていました。その後ゴールドマンに移り、マネージング・ディレクターになってのちリタイアし、何故か茶の湯の道に入り、宗真の名を持っています。日本好きのイギリス人なのですが、数年前に彼に会ったとき、なんで小西工芸の社長になったのと聞くと、「軽井沢の別荘の隣に小西さんと言う会社のオーナーが住んでいて、会社の窮状を聞かされ助けることにした」と言っていました。要は偶然だよと言うのです。

  それでも彼の日本好きは筋金入りで、「観光立国日本論」など日本再生に関する著書をはじめ、日本政府観光局の特別顧問まで勤めていて、日本の観光ブームに大いに貢献しています。

  我々の仲間のゴルフの今年の優勝者は福岡在住のげんさんで、彼の職業はこれまた珍しい「宮大工」です。彼は昨年瀬戸内海ゴルフクラブで開催された時も優勝しているので、連続優勝です。しかし昨年の優勝スコアはパープレーの72ストローク。今年のスコアは80ストローク。井上誠一のコースの難しさがわかるというものです。瀬戸内海ゴルフクラブも男子プロのミズノオープンを毎年開催するトーナメントコースではあるのですが、難易度は格段の差があります。

  げんさんは日本中の社寺の由来や建築関係に非常に詳しくて、こうした時、いつもみんなの観光ガイド役を務めてくれます。その彼も小西美術工芸のことはよく知っていて、機会があったら社長に紹介してくれと言っていました。

  みなさんも是非新装開店の東照宮陽明門をご覧あれ!

以上、「日光を見ずして結構と言うな」でした。

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トランプ政権、囚人のジレンマ

2018年09月10日 | トランプのアメリカ

  アメリカでは全米オープンテニスでの大阪なおみ選手の勝利を称賛するニュースの直後に、セレーナ・ウイリアムズ選手のペナルティに関して賛否両論が渦巻いています。彼女が審判のペナルティ判定は男女差別によるものだと発言をしたためです。問題はコート外のコーチがセレーナにサインで指導したためというものですが、セレーナは否定していても、コーチ自身はあとで犯行を認めてしまっています。アメリカでは熱狂的なセレーナファンのみが彼女を支持、アメリカのマスコミや世界のマスコミは、セレーナを非難したりしない大阪選手を逆に讃えています。ナオミやったね、おめでとう!

 

  本日の話題は「囚人のジレンマ」です。

  囚人のジレンマとはゲームの理論の一つですが、解説をウィキペディアから引用します。

「ゲーム理論におけるゲームの1つ。お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる、というジレンマである。」

  トランプ政権では現在このゲームが二つ進行中です。一つはトランプと何人かの弁護士のどっちが先に白状するかの争いで、ゲームの理論を応用した司法取引合戦になっています。もう一つはホワイトハウス内の匿名投稿犯人捜しです。トランプ政権の内部では大統領のあまりのひどさに遂に高官が匿名でNYタイムズに内部告発記事を投稿しました。タイミングとしてはちょうど著名ジャーナリストのボブ・ウッドワード氏が政権内部の暴露本を出版し、その内容が漏れ伝わりはじめたところなので、連係プレーの可能性なきにしもあらずです。まず高官の内部告発の内容ですが、日本語版では最も詳細に書いていた朝日新聞記事を引用します。9月6日付です。

引用

  政権幹部は論評でまず、「トランプ氏はまったく分かっていないが、我々のジレンマは、トランプ政権の高官の多くが、トランプ氏の政策や、彼の最悪の考えをくじくことに絶えず努力しているということだ」と指摘した。

 続けて、「大統領は我が国の健全性に有害なやり方で行動している。だからこそ、トランプ氏に任命された者の多くは、トランプ氏が政権から出ていくまで、彼の見当違いの衝動を防ぎながら、民主的な制度を維持するためにできることをやると心に誓った」と吐露している。

  その上で、トランプ氏が抱える問題の根源の一つに、政策を決める時、当初の原理・原則をすぐに曲げてしまうことを挙げた。同幹部は「トランプ氏は会議で、話題が大きく変わり、脱線する。繰り返しわめくし、衝動的に物事をきめるため、生焼けで情報不足、時おり無謀な決断をしてしまう」と説明した。

  同幹部の懸念は外交政策にも及ぶ。「トランプ氏は、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長のような、専制君主や独裁者を好む。一方で、同盟国や友好国との絆にはほとんど理解を示さない」と指摘した。政権幹部に何度も、ロシアとの衝突を避けるよう文句を言い、ロシアへ経済制裁を続けることにも不満だったという。

  この幹部は、自分や同僚の行為について「我が国を第一に考える政権内の人々による静かな抵抗運動だ」と表現した。さらに分断や党派を乗り越え、国民的な対話を取り戻すことを呼びかけた。

  これに対し、トランプ氏は5日、記者団に「私が大統領でなくなれば、ニューヨークタイムズやCNNなどウソつきメディアは商売できなくなる。なぜなら、書くことが無くなるからだ。失敗している新聞が匿名の論評を載せたとして、誰が信じる? 『匿名』とは意気地無しだ。意気地無しの論評だ」と反論した。(ワシントン=土佐茂生)

 引用終わり

  投稿者は政権内部の心あるグループの代表者として、一方的にトランプを非難するのではなく、自分たちも責任があり、トランプを正しい方向に向けさせることが必要で、必死の努力をしているとしています。まともな人間も側近には多いのだということが証明され、ちょっとだけ安心しました。

  なおこの高官はキャリア官僚ではなく、ポリティカル・アポインティー、つまりトランプ自身あるいは政権が政治任用した人物だということだけ分かっています。そのため政権内部の囚人たちは「おれじゃない」と我先に叫び、嫌疑を晴らそうとゲーム理論的争いをしています。CNNは、政権内部の現役高官が匿名とは言え一流紙の社説に並ぶコラムへの投稿を行うのは極めて異例で、「自分の職を賭して踏み切った」と言っていました。

  これに対してトランプは、「臆病者め、誰だか調べろ」と吠えていますが、それは昨年出版された「炎と怒り」に対し出版差し止めを言い出したトランプに対して私が指摘した「差し止め請求自体が本当の話であることの証左だ」というおバカな轍をまたもや踏んでいます。

 

  ではもう一方のボブ・ウッドワード氏の暴露本です。彼はすでに多くの報道がなされているように、ニクソンをやめさせた2人の男のうちの一人として、超有名で、歴代大統領の内幕本を書いています。そしてニクソンの件で報道に携わる人として最高の栄誉であるピュリッツァー賞を受賞しています。

  彼の暴露本のタイトルは「恐怖 ホワイトハウスのトランプ」です。中身はトランプ政権内部の最初の暴露本、前年出版の「炎と怒り」と同じように内部の人間による告白・告発をまとめた本なのですが、「炎と怒り」の著者とボブ・ウッドワードでは、ジャーナリストとしての認知度、信用度、影響度は格段に差があります。そして以下に掲げた内容の多くが「炎と怒り」と同じ内容を含んでいるため、お互いに信ぴょう性を高め合っているとみることができます。登場人物の一人一人のトランプ評、あるいはトランプによる反論を内容の記事から箇条書きにしてみます。

・かつてゴールドマンCOOで元国家経済委員会委員長のコーン氏は、大統領を「プロのうそつき」とみなしている。

・トランプ大統領はウィルバー・ロス商務長官に向かって、あんたを信用していないと告げたという。大統領は、「もうこれ以上、交渉を任せたくない」、「お前はもう峠を過ぎた」と本人に言ったそうだ。

 最初の首席補佐官、ラインス・プリーバスのことはネズミと比べていた。「ただその辺をうろちょろするだけだ」と。

 ・トランプ氏は、ジェフ・セッションズ司法長官について公の場で叱責を繰り返しているが、内々での会話になるとさらに輪をかけて罵倒を重ねているという。ロブ・ポーター秘書官には、セッションズ氏のことを「あいつは知恵遅れだ」と発言したとされる。「あれはただの、馬鹿な南部の人間だ。自分だけじゃ、アラバマの田舎弁護士だって務まらなかった」と見下していたという。

ロブ・ポーター元秘書官「これはもう大統領の政権じゃない。ここはもうホワイトハウスじゃない。あの人はただ単に、ありのままに振舞っているだけだ」 

ケリー首席補佐官はトランプ氏のことを何度も、「ばか者」と呼んでいる。「説得しようとしても無駄だ」とも言ったという。

マティス国防長官は側近に、大統領は「5、6年生なみ」(つまり11歳か12歳なみ)にしか外交政策を理解できていないと話したという。

・ケリー氏の前任者、プリーバス前首席補佐官は、大統領の寝室スイートを「悪魔の作業場」と呼んでいる。トランプ氏は毎朝と週末にその寝室から、乱暴なツイートを連発するからだ。

 レックス・ティラーソン前国務長官と大統領との関係は、ティラーソン氏がトランプ氏を、放送禁止用語を使って「まぬけ」呼ばわりしたという報道以降、回復しないまま終わった。

 

  これらの登場人物は、政権の中枢中の中枢の閣僚で、トランプが直接面談の上、気に入ったとして採用した人物です。彼は金正恩と会う前にさんざん「オレ様は会って5分で人物を見抜く、いや1分あれば十分だ」と豪語していました。それがこのザマです。

 

  そして著者のボブ・ウッドワード氏との直接対話の際、自分を含む様々な情報を得たトランプが彼に対して言っていたのは、次のしおらしい言葉でした。

「誰も教えてくれなかった。ぜひとも君と話がしたかった。君には何でも話す。それはそっちも知っているだろう。君はいつも公平だったと思うから」 

  きっとすぐに「この大ウソつきやろー、仕返ししてやる」となるに違い、ありません(笑)。

  

  今後アメリカ政治の焦点は中間選挙に集中するため、トランプの言動はますます激しさを増し、外交、貿易、防衛、財政、すべては選挙に勝つための手段に利用され、日本をはじめ世界は大迷惑を受け続けること間違いなしです。

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