本日の為替レートは144.5円程度、米国債10年物のイールドは3.85%くらいです。このレベルはもちろん投資に値する金利レベルです。これから円をドルに換える方にとっては、若干躊躇する為替レートかもしれません。しかし10年物債券を1年間保有すれば3.85%の金利が付いてきます。その分を現在の為替レートから引き算すると144.5円は139円と同レベルです。ドルベースでは10年で4割もリターンを得られるのです。
今後の為替レートや金利の見通しを予想するのは困難ですが、にもかかわらず投資を考えている方には「チャンス継続中」と申し上げます。
今後半年程度の期間の単なる可能性ということで申し上げるなら、米国債金利は上昇するより低下する可能性が高いと思います。理由はFRBによる利上げが長く継続はしないし、いずれ景気がスローダウンすると思われるからです。そしてドルが高くなる可能性と安くなる可能性を比べるなら、金利と並行してドル安の可能性が若干高いと思われます。長期では金利を優先して考えるべきだというのが、私の一貫した考えで、長期の実績もそのとおりになっています。
一方、日銀の企業短期経済観測調査によると大企業を中心に先行きに楽観論が拡がったようで、発表後当日の株価は564円高と大きなリバウンドになりました。株式投資をされている方にはご同慶の至りです。もっとも翌日と本日の株価はその半分以上を帳消しにしています。
では本題です。
先日、救われた投資家さんへの返信投稿で、次回は「投資決定の基礎的考え方は、株式であろうが債券であろうが不動産であろうが同じだ」ということを申し上げました。今回はその中身を解説します。
株式、債券、不動産が同じ考え方で説明できる?ほんとかなと思われる方が多いことと思います。投資理論中の最も大事な部分ですので、少し難しい部分もありますが、是非みなさん基本的考え方だけでも勉強してみてください。
まず初めにみなさんへの問かけです。株式の妥当な価格はどのように計算されるのでしょうか。みなさんは株式投資をされる時に現在の価格の妥当性を理論的に考えたことはありますか。あったとしても会社の収益予想からのPERや過去のトレンド、類似企業の株価比較、あるいは日経平均との連動性などを基におよそ見当をつける方がほとんどですよね。
ではもっと極端な例として、非上場会社で株価の付いていないA社を買収する場合、どのようにして妥当な株価を算定するのでしょうか。その場合、一般的にはDCF法と略されるDiscounted Cash Flow法により計算されます。日本語では収益還元法と訳されます。考え方は企業の将来にわたる収益見通しを使い、それを株式価格にまとめ上げるのです。この考え方は実は債券価格の決定方法と同じです。
債券の場合、利子の合計と償還元本額は将来にわたり決まっています。それを単に金利で割り引いて合計することで価格は決まります。金利で割り引くとは、例えば償還額100ドルの1年物債券の利回りが5%とすると、1年物の現在価格は95.0 ではなく、95.24になります。1年物のゼロクーポン債の計算例を示します。下の計算を見てください。95だと少し足りないのです。
100 ÷ 1.05 = 95.24・・・現在価格
これが1年後の償還価格100を5%の金利で割り引くという計算です。
検算は、 95.24 X 1.05 = 100
ちなみに95だと以下のとおり100に達しません。
95.00 X 1.05 = 99.75
ではみなさんが投資されるような長期債でかつ利付債の場合の現在の債券価格はどう計算するのでしょうか。
10年債で考えます。半年ごとにもらえる20回分の利子額と最後の償還元本額をそれぞれの年数分、割り引いたうえで合計する必要があります。1年で5%割り引かれるのが2年だと5%の2乗分割り引かれ、以下年数が増えるごとに割り引く乗数が3乗分,4乗分と大きくなります。この場合、実際の数値的には先ほどの例にあるように、1.05%で割り引きます。2年であれば1.05%の2乗ですから1.10%で割り引きます。
一つの数式でそれを表すのはとても複雑な式となるため、ここでは避けます。興味のある方はネットで「収益還元法」、あるいは「債券計算」というキーワードを検索すると、詳しい解説を見ることができます。もちろんこうした面倒な債券計算は債券計算サイトやエクセルでも数値を入れれば計算してくれます。
では最初の問いに戻ります。非上場であるA社の株価はどう決めるかです。その決定も債券と同様の方式で決めることができます。企業が毎年生み出すであろう予想収益額を現在価値に割り引き足し上げることで理論価格が割り出せます。予想収益額とは買い手にとって利子をもらうのと同じことです。例えば毎年投資額の5%の収益を出せる企業であれば、利回り5%の債券と同じ計算になります。
債券は償還期限と金額が決まっていますが、企業の場合、毎年の収益額も継続見込み年数も決まっていません。5年は大丈夫そうな企業もあれば、より長期に渡り大丈夫そうな企業もあり、かつ収益額も一定程度の額が継続される場合もあれば、毎年少しずつ成長する企業もあるでしょう。その見通しは買い手と売り手がそれぞれ独自に想定し、計算結果としての合計価格をお互いに売り希望価格、買い希望価格として提示し、売買するか否かを決めます。
私は10年ほど企業買収に関わってきましたが、株式価格のついていた上場会社1社の買収を除くとほとんどがこうした計算を繰り返し、価格を決めて交渉に臨んでいました。
実は不動産価格も同様なDCF方式で価格を決めるのが世界標準です。最近は日本でもこの方式による価格の査定が一般的になってきました。例えばオフィスビルに投資すると仮定します。その場合、投資額に対する毎年の利回り収入を計算し、妥当な価格を判断します。利回り収入とは毎年の見込み賃貸収入からコストを引いた残りで、それを見込み利回り率で割り引くのです。計算の中に不動産の値上がり益は見込まず、保守的に見て価格は現状維持とするケースが多くなってきています。
ここまでをまとめますと、「投資とは、債券であろうが株式であろうが不動産であろうが、資産が生み出す将来のキャッシュフローを現在価値に割引き、価格決定をする」ということができます。
ではその割引をする際に使う割引率はどうするのか?
債券の利子率なら簡単です。発行時に決めて発行されるからです。リスクが大きな社債の場合利子率は高く設定されます。ドル債の場合、ある社債の利回りを決める時、同年限の米国債利回りに何パーセントプラスするかで決めています。その差を国債に対するスプレッドと呼びます。例えば格付けがシングルAの社債はトリプル Aの国債に比べプラス1%、BBBだとプラス3%という具合です。利回りが大きいということは割引率が大きいことなので、現在価値は低くなります。
債券以外の場合、割引率は買い手が求めるリターンの率で決めます。5%でよければ5%で割引くし、10%欲しければ10%で割り引いて価格を決めます。もちろん取引相手は少しでも高く売りたいので、買い手の提示より高い価格を提示した上で交渉に臨むでしょう。
日本のバブル時代はこうした世界標準のDCF法を一切無視し、売買益を得ることこそ不動産投資であるという愚かな考え方で売買が行われた結果、利回り採算を無視した法外な価格で不動産が取引されていました。そしてそれに輪をかけたのが銀行の愚かな融資姿勢でした。銀行もDCFをまともに計算などせずに、収益力ゼロの地面の買取りにどんどん貸し込んでいました。その結末はみなさん知ってのとおりです。あの時代はゴルフ会員権もしかり、株式相場もしかり。利回りではなく、単なるキャピタルゲイン=価格上昇のみを前提とした狂乱投資の時代だったということです。
ここまでで世界標準の投資理論のおよその基礎を解説しました。ご理解いただけましたでしょうか。正確な理論式を覚える必要はありません。投資とはキャピタルゲインを目指すのではなく、確実な利回りを求めるものだ、ということです。
株式投資で大成功をおさめ続けるバフェット爺さんの投資哲学も全く同じです。毎年確実なキャッシュフロー収益を生み出す株式に投資して果実を得る。売ったり買ったりを繰り返しません。その収益を蓄積していくのが彼の投資方法です。ですので、金=ゴールドを投資対象にはしません。金塊は金の卵を一個たりとも産まないからです(笑)。
このように、投資理論の基礎を最初に編み出したのは、株式投資ではなく、より厳密な債券計算でした。利子額と償還額が確定しているため、価格が厳密に計算できるからです。もし経済情勢の変化などで金利が上下すれば、保有既発債の価格は計算し直して価格を再設定します。証券会社は毎日そうした計算をして、保有債券の値洗いをしています。また新発債を発行する場合、その時の市場金利を参考にして発行することで実勢金利に合わせることができます。
この債券計算のDCF法を、株式投資や不動産投資でも応用したのです。
以上、債券計算こそ投資理論の基礎だ、でした。