ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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金利低下は恐くない

2023年12月22日 | 米国債への投資

 年末が迫ってくる中で米国債金利が大きく低下し、10年物が4%を切ってしまいましたね。

「4%台は買いだ」と何度かこのブログに書きましたが、投資チャンスを待っていた方々は、しっかりと投資できたでしょうか。今年の8月初めに4%台に乗せて以降、先週まで約4か月半も続きましたので、多くの方は目的を達成できたと思います。

 では3%台後半での投資はどうか?

 もちろん為替レートによるところもあり、ドル円レートはなかなか140円台を切るところまでいかずに140円の大台を維持していますので、投資しづらいと思う方もいらっしゃると思います。

 先日も書きましたが、私が前著を出版した2011年8月以降の12年間を振り返ると、3%に乗ったのは実に瞬間的で、しかも2回だけでした。それと比べると依然として投資チャンスは継続していると考えるべきです。

 

 そしてさらに視点を変えてみると、別の景色が見えてきます。それはみなさんの中である程度お年を取った方で、ゼロクーポン債ではなく利付債への投資を志向している方の投資です。「年2回の利子収入を得るための投資であれば、現在の金利低下は恐れるに足らず」ということになるのです。

 何故か説明します。年金の補完的収入を目的に米国債投資をされる方の利回りは低下していないからです。市場の金利低下は債券価格を上昇させるため、最終利回りを低下させますが、証券会社のサイトで、既発外債一覧にある米国債の「利率」と表示されている利付債の金利は変動しないからです。利率とは発行時に決めた年間の利子の率で、償還まで不変です。ただし金利の低下時にはこうした高い利率の債券価格は100を大きく超えていて、例えば115%台になっています。ですので、約30年後の償還時には115で買ったものが100でしか償還されず、15%の損失が出ます。

  もし30年債に投資をする方の年齢が定年を迎えた60歳だとすると、償還時には90歳。その時に投資した元本が減ったか増えたかを気にする必要などない年齢だ、と割り切ることができる年齢です。

 

 例えば直近11月に発行された30年物のクーポン利率は4.75%です。年限はたぶん29.9年と表示されていると思いますが、その債券は金利が低下した今でも、依然として年に4.75%の金利を払ってくれます。

 じゃ、いったいどの債券が4%を割り込み3.8%台の市場金利なのか?それは発行してすぐの10年債で価格100近辺の債券、あるいは過去に10年以上の長期債券として発行され、年限を経て残存10年となった債券の利回りが3.8%に低下したということなのです。「利回り」とは、毎年もらえるクーポン金利と、償還時に返済される元本の変動を加味し計算された「最終利回り」のことです。

 話が込み入ってしまいましたので、付いていけないと思われる方もいらっしゃると思います。この辺りの複雑さが「債券投資は難しい」と言われるゆえんでもあります。

 しかしもっと単純に考えましょう。

・若い年齢の方が満期を迎えるまで複利で運用し、元本をしっかり増やしたいと思うのであれば、ゼロクーポン債の「利回り」をしっかり見て買いましょう。

・ある程度の年齢で高い利子の付いた債券を買いたいと思う人は、価格が100を超えて高くとも、ハイクーポンの債券を買って利子収入をエンジョイする。

 それだけのことです。

 

以上、「金利低下は恐くない」でした。

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米国債ダウングレード、その2

2023年08月11日 | 米国債への投資

 8月1日にフィッチの発表がなされて以降、ドルが円に対して少し上昇していますね。多くのエコノミストや証券アナリストはダウングレードがまるで大きなショックであったような言い方をしていますが、株価だけをとっても各指数はショックというような下落はしていません。為替はむしろドル高です。格下げ前日の7月31日と8月8日までの数字を並べますと、

        7月31日  8月8日   変化率

NYダウ     35,559   35,176   ▲1%

日経平均      33,192        32,473         ▲2%

ドル円      142.3   144.8     +2%

  この間の株価を言葉で表すなら、日米とも相場は「ベタナギ」だったということになりますし、ドル円レートも格下げされたドルがむしろわずかに上昇しました。私が前回書いたように、アメリカのメディアは、「直後の債券市場の反応は価格が上昇し、金利は下げた。つまり投資家は安全資産へ向かった」。そして「日経平均は過剰反応した」。本当のショックであれば、御本尊の米国債こそ価格が暴落して当然ですが、そうはなりませんでした。日本では株価の下げた原因を格下げの影響としたいらしく、相変わらず「米国債のダウングレードにより株価が下げた」と言い続けています。

  8月9日付けの日経新聞のフィナンシャルタイムズ論説欄に、格下げに対する非常に説得力のある解説がありましたので、それを紹介します。日経新聞はフィナンシャルタイムズと提携していて、毎日一面ほぼ全部を使ってフィナンシャルタイムズの論説を掲載しています。中でもこの日の解説員のジリアン・テッㇳ氏の解説はいつも読み応えがあります。長い文章ですので、かいつまんで部分引用します。

 

引用

タイトル;米国債格下げ、主因は政治

フィッチによる発表の日、一方ではトランプが起訴された。理由は「米国の民主主義への前代未聞の攻撃」を仕掛けたというもの。この二つ、関係がなさそうで実は大いにある。フィッチの発表内容は重要ポイントがみんなに見過ごされている。過去数十年にわたり格付け会社は主に国の経済と金融のファンダメンタルズを分析することで米国の信用力を評価してきた。フィッチも今回の発表でいくつかの財政と経済の指標を対比させている。

しかし米国は他国と決定的に違いがある。それはドル紙幣を印刷するという超特権を持っている国であることだ。政府がそうと決めれば国はいつでも債務を返済できる。つまりデフォルトなどしないということだ。

 しかしフィッチの分析はさらに米国政治の極端な二極化を懸念し、政治的妥協ができないとデフォルトが瞬間的にはありうると考えていることを指摘している。その二極化の主因こそがトランプによる国の分断である。デフォルトの定義からして瞬間でも元利払いができないとそれはデフォルトと認定されるので、フィッチの懸念は的を射ていて、見当違いではない。トランプはFRBの独立性を脅かし、財政的裏付けのない大型減税を実施した。彼のおかげで米国は先進国というより、政治的リスクの大きな新興国と判断され、格下げされたのだ。

というように、実は8月1日に起こった2つの事象は連携していているのだ。

引用終わり

 

 この論調はいつも繰り返し私が述べている、「たとえ政治的理由でデフォルトしたとしても、それはボクシングで言うスリップダウンで、起き上がれない本当のダウンなどではない」という主張と同じことを述べています。

 

  ですので論説員の付けたタイトルは、「米国債格下げ、主因は政治」という具合になるのです。

  すでに発表から一週間以上経過していますが、日本のマスコミやアナリストなどのはやし立てる「ダウングレード・ショック」など、数字的に考察しても大したことはなく、一格付け会社の意見表明に過ぎないのです。

 米国債投資を検討されている皆さんも、ダウングレード問題などに怯えることなく、10年物で4%台の利率をしっかりとつかみ取りましょう。

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米国債のダウングレード

2023年08月03日 | 米国債への投資

 お待たせしました。ダウングレード問題です。

 世界で最も安全な金融資産である米国債が、フィッチ・レーティングスにより1段階だけダウングレードされました。AAAからAA+への変更です。

 フィッチ・レーティングスはアメリカの2大格付け会社、ムーディーズ、S&Pに次ぐ第3の格付け会社で、100年の歴史を持ち世界的に信頼を得ている会社です。

 

まず、当日の市場の反応を見てみましょう。

 ダウングレードのインパクトを数値で見てみますと、発表後のNYダウはその日71ドルのプラスで引けていますので、無反応と言っていいレベルでした。ちなみにロンドンの8月1日17時に発表されたのですが、NY時間では12時です。一方その翌日、2日の日経平均はなんとマイナス768円。過剰反応というレベルです。

 では肝心の米国債の価格=金利はどうか。10年物国債の前日終値は3.97%、当日終値は4.03%と若干上昇、つまり価格は若干の低下。まあこの程度は日常茶飯事のレベルと言えます。では為替市場はどうか。このところのアメリカ経済は強いという見方を引き継いだままで、むしろ金利上昇をテコに1円弱ほどドル高に動きました。しかしそれも日常レベルの範囲でしょう。

 

  では一般のニュース報道はどうか。私がチェックしたのはいずれも英語版で、BBC、ブルームバーグ、ウォールストリート、ロイター、CNBCですが、どこもがトップ記事はトランプの起訴、例の国会乱入を煽った罪に対する起訴の記事がトップで、ダウングレードは小さな扱いでしかありませんでした。一応ダウングレードに関するロイターの英語版タイトルと記事の冒頭だけ引用します。

タイトル;U.S. markets may not see lasting impact from Fitch downgrade

内容;The 10-year U.S. Treasury yield declined about 3.6 basis points (bps) to 4.0109% immediately after Fitch’s decision, indicating investors’ preference for safer assets.

引用終わり

 タイトルを訳せば「アメリカ市場はフィッチによるダウングレードの影響は続かないと見ている」。記事の冒頭では「直後の債券市場の反応は価格が上昇し、金利は下げた。つまり投資家は安全資産へ向かった」と言っています。いつもの質への逃避が起ったといっているのです。

 ダウングレードなのに、安全資産に向かったとは驚きです。ベイーシス・ポイントとは、100分の1%ですから、見えないほどではありますが金利低下=価格上昇でした。報道の扱いを含めこれらの反応をまとめますと、要は日本を除いては無視に近いものだったということです。

 この欧米の反応には前触れが影響しているのかもしれません。フィッチはすでに5月24日にダウングレードの可能性の警鐘を鳴らしていました。それは6月末の財政の崖問題が佳境に入った時期です。もちろんその後、崖問題はいつものシナリオどおり大団円に終わりました。

  世界のニュースと市場の反応は大きな影響なしというものだったことがわかります。しかし私のような専門家の目は、ニュース内容に以下のような疑問をいだきました。解説します。

 今回の発表内容で、「おいフィッチ、大丈夫か?」という疑問を持った部分があります。以下はNHKニュースですが、まずご覧ください。

NHKニュース8月2日、冒頭のみ引用、

大手格付け会社「フィッチ・レーティングス」は1日、外貨建のアメリカ国債の格付けを最も信頼度が高い「AAA」から「AA+」に1段階引き下げたと発表しました。

引用終わり

おいおい、アメリカ政府は外貨建て国債など発行したことはないし、する必要もないけど?翻訳の間違い?

念のためFitchの発表資料を英語版で見てみましょう。

Tue 01 Aug, 2023 - 17:13 ET

Fitch Ratings - London - 01 Aug 2023: Fitch Ratings has downgraded the United States of America's Long-Term Foreign-Currency Issuer Default Rating (IDR) to 'AA+' from 'AAA'. The Rating Watch Negative was removed and a Stable Outlook assigned. The Country Ceiling has been affirmed at 'AAA'.

この発表資料はNHKとは微妙に違い、「長期外貨建て発行体の格付け」となっていますが、完全な翻訳間違えではなさそうです。NHKの言う「外貨建てのアメリカ国債」ではありませんが、それはよしとしましょう。しかし「外貨建て発行体」という言葉が気になります。そこで私はこのヲタクっぽい疑問を日本のフィッチの問い合わせ窓口宛に確認メールを入れてみましたので、返事が来たらまたみなさんにお伝えします。

 先ほどのNHKニュースには続きがあります。格下げの理由についてですので続きを引用します。

引用
格下げの理由について格付け会社は、今後3年間にアメリカの財政が悪化する懸念や政府の借金の上限、債務上限問題にみられる政治の混乱などを挙げています。

債務上限問題を巡っては、過去20年にわたって政治対立を繰り返し、土壇場で解決が図られるのは財政運営の信頼を損なわせるものだと指摘しています。
大手格付け会社がアメリカ国債の格付けを引き下げるのは、かつてのスタンダード・アンド・プアーズ、今のS&Pグローバル・レーティングが2011年8月に最も信頼度が高い「AAA」から「AA+」に引き下げて以来、およそ12年ぶりです。

2011年に初めてアメリカ国債が格下げされたときは、世界で株価が下落するなど金融市場が動揺しました。今後の市場の反応が注目されます。

引用終わり

 この格下げに対し、財務省のイエレン長官はすぐに以下の反応をしています。

NHKニュース同日の引用です、

「フィッチ・レーティングス」がアメリカ国債の格付けを引き下げたことについて、イエレン財務長官は1日、声明を発表しました。この中でイエレン長官は「フィッチ・レーティングスの決定に強く反対する」としたうえで「アメリカ国債が依然として世界有数の安全かつ流動性の高い資産で、アメリカ経済が強いという投資家や世界中の人々の認識を変えるものではない」と強調しています。
また「アメリカ政府は財政が持続的になるようしっかりと取り組んでいる。債務上限に関する法律には1兆ドル以上の財政赤字削減が盛り込まれ、財政の道筋は改善された」などとして今回の国債の格下げは恣意的(しいてき)で古いデータに基づいたものだと批判しています。アメリカ国債はアメリカ政府と基軸通貨であるドルに対する信頼を背景に長く世界で最も安全な資産とされてきました。
さまざまな投資商品に組み込まれ、アメリカ国債の利回りは金融市場の重要な指標となっています。

引用終わり

 

  以上、欧米での反応は「だからどうしたの?」という反応でしたが、日本では「サプライズ」でした。そしてイエレン長官は発行主体の張本人ですから反論は当然と言えるのですが、私はむしろ「せっかくの警鐘を大事にせよ!。でないと日本になっちゃうよ」です。アメリカ国債自体はドル建て債務のためデフォルトは技術的にもありえません。ありえるとすれば議会の邪魔だけです。

 投資をしている方にとっては、もし今後利回りがさらに上昇するようであれば4%台は大チャンスだ、とあらためて申し上げておきます。

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投資は米国債が一番、10年物金利の4%台乗せは、絶好のチャンス

2023年07月09日 | 米国債への投資

 週末のアメリカ市場では米国債10年物金利が4%台に乗せ、にもかかわらずドル円は一気に142円そこそこを付けるという珍しい状況になっています。ここまで米国債金利に沿うようにドルレートは高くなっていたのが、真逆に動いています。

 

 為替レートはともかく、

「10年物金利が4%に台に乗せたら、腰を入れて買うべし!」

 というのが私の意見です。22年の10月末にも4%台に一瞬乗せましたが、その時ドルはいまより5円も高く147円台でした。10年物4%台はその前をたどると14年も前の08年秋までさかのぼらないとその機会はありませんでした。

 08年の秋は、私が1冊目の著書のアイデアを作りはじめた時期でしたが、執筆を始め時間の経過とともに金利は低下し、出版した11年夏に10年物は3.12%。ただし為替レートは81円という超円高局面でした。ちなみにその時30年物金利は4.37%と、超長期物を買うには理想的なタイミングでした。

 この先為替介入で突然意味もなく円高になることはあるかもしれませんが、金利が低下してしまう可能性も考えると、この4%台のチャンスをしっかりとつかむことに分があると思います。

 

 

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米国債は依然買い時継続中、債券計算こそ投資理論の基礎だ

2023年07月05日 | 米国債への投資

 本日の為替レートは144.5円程度、米国債10年物のイールドは3.85%くらいです。このレベルはもちろん投資に値する金利レベルです。これから円をドルに換える方にとっては、若干躊躇する為替レートかもしれません。しかし10年物債券を1年間保有すれば3.85%の金利が付いてきます。その分を現在の為替レートから引き算すると144.5円は139円と同レベルです。ドルベースでは10年で4割もリターンを得られるのです。

 

  今後の為替レートや金利の見通しを予想するのは困難ですが、にもかかわらず投資を考えている方には「チャンス継続中」と申し上げます。

 今後半年程度の期間の単なる可能性ということで申し上げるなら、米国債金利は上昇するより低下する可能性が高いと思います。理由はFRBによる利上げが長く継続はしないし、いずれ景気がスローダウンすると思われるからです。そしてドルが高くなる可能性と安くなる可能性を比べるなら、金利と並行してドル安の可能性が若干高いと思われます。長期では金利を優先して考えるべきだというのが、私の一貫した考えで、長期の実績もそのとおりになっています。

 

 一方、日銀の企業短期経済観測調査によると大企業を中心に先行きに楽観論が拡がったようで、発表後当日の株価は564円高と大きなリバウンドになりました。株式投資をされている方にはご同慶の至りです。もっとも翌日と本日の株価はその半分以上を帳消しにしています。

 

では本題です。

 先日、救われた投資家さんへの返信投稿で、次回は「投資決定の基礎的考え方は、株式であろうが債券であろうが不動産であろうが同じだ」ということを申し上げました。今回はその中身を解説します。

 

 株式、債券、不動産が同じ考え方で説明できる?ほんとかなと思われる方が多いことと思います。投資理論中の最も大事な部分ですので、少し難しい部分もありますが、是非みなさん基本的考え方だけでも勉強してみてください。

 まず初めにみなさんへの問かけです。株式の妥当な価格はどのように計算されるのでしょうか。みなさんは株式投資をされる時に現在の価格の妥当性を理論的に考えたことはありますか。あったとしても会社の収益予想からのPERや過去のトレンド、類似企業の株価比較、あるいは日経平均との連動性などを基におよそ見当をつける方がほとんどですよね。

 ではもっと極端な例として、非上場会社で株価の付いていないA社を買収する場合、どのようにして妥当な株価を算定するのでしょうか。その場合、一般的にはDCF法と略されるDiscounted Cash Flow法により計算されます。日本語では収益還元法と訳されます。考え方は企業の将来にわたる収益見通しを使い、それを株式価格にまとめ上げるのです。この考え方は実は債券価格の決定方法と同じです。

 

 債券の場合、利子の合計と償還元本額は将来にわたり決まっています。それを単に金利で割り引いて合計することで価格は決まります。金利で割り引くとは、例えば償還額100ドルの1年物債券の利回りが5%とすると、1年物の現在価格は95.0 ではなく、95.24になります。1年物のゼロクーポン債の計算例を示します。下の計算を見てください。95だと少し足りないのです。

 

100 ÷ 1.05 = 95.24・・・現在価格

これが1年後の償還価格100を5%の金利で割り引くという計算です。

検算は、 95.24 X 1.05 = 100

ちなみに95だと以下のとおり100に達しません。

95.00 X 1.05  =  99.75

 

 ではみなさんが投資されるような長期債でかつ利付債の場合の現在の債券価格はどう計算するのでしょうか。

 10年債で考えます。半年ごとにもらえる20回分の利子額と最後の償還元本額をそれぞれの年数分、割り引いたうえで合計する必要があります。1年で5%割り引かれるのが2年だと5%の2乗分割り引かれ、以下年数が増えるごとに割り引く乗数が3乗分,4乗分と大きくなります。この場合、実際の数値的には先ほどの例にあるように、1.05%で割り引きます。2年であれば1.05%の2乗ですから1.10%で割り引きます。

 一つの数式でそれを表すのはとても複雑な式となるため、ここでは避けます。興味のある方はネットで「収益還元法」、あるいは「債券計算」というキーワードを検索すると、詳しい解説を見ることができます。もちろんこうした面倒な債券計算は債券計算サイトやエクセルでも数値を入れれば計算してくれます。

 

 では最初の問いに戻ります。非上場であるA社の株価はどう決めるかです。その決定も債券と同様の方式で決めることができます。企業が毎年生み出すであろう予想収益額を現在価値に割り引き足し上げることで理論価格が割り出せます。予想収益額とは買い手にとって利子をもらうのと同じことです。例えば毎年投資額の5%の収益を出せる企業であれば、利回り5%の債券と同じ計算になります。

 債券は償還期限と金額が決まっていますが、企業の場合、毎年の収益額も継続見込み年数も決まっていません。5年は大丈夫そうな企業もあれば、より長期に渡り大丈夫そうな企業もあり、かつ収益額も一定程度の額が継続される場合もあれば、毎年少しずつ成長する企業もあるでしょう。その見通しは買い手と売り手がそれぞれ独自に想定し、計算結果としての合計価格をお互いに売り希望価格、買い希望価格として提示し、売買するか否かを決めます。

 私は10年ほど企業買収に関わってきましたが、株式価格のついていた上場会社1社の買収を除くとほとんどがこうした計算を繰り返し、価格を決めて交渉に臨んでいました。

 

 実は不動産価格も同様なDCF方式で価格を決めるのが世界標準です。最近は日本でもこの方式による価格の査定が一般的になってきました。例えばオフィスビルに投資すると仮定します。その場合、投資額に対する毎年の利回り収入を計算し、妥当な価格を判断します。利回り収入とは毎年の見込み賃貸収入からコストを引いた残りで、それを見込み利回り率で割り引くのです。計算の中に不動産の値上がり益は見込まず、保守的に見て価格は現状維持とするケースが多くなってきています。

 ここまでをまとめますと、「投資とは、債券であろうが株式であろうが不動産であろうが、資産が生み出す将来のキャッシュフローを現在価値に割引き、価格決定をする」ということができます。

 

 ではその割引をする際に使う割引率はどうするのか?

 債券の利子率なら簡単です。発行時に決めて発行されるからです。リスクが大きな社債の場合利子率は高く設定されます。ドル債の場合、ある社債の利回りを決める時、同年限の米国債利回りに何パーセントプラスするかで決めています。その差を国債に対するスプレッドと呼びます。例えば格付けがシングルAの社債はトリプル Aの国債に比べプラス1%、BBBだとプラス3%という具合です。利回りが大きいということは割引率が大きいことなので、現在価値は低くなります。

 債券以外の場合、割引率は買い手が求めるリターンの率で決めます。5%でよければ5%で割引くし、10%欲しければ10%で割り引いて価格を決めます。もちろん取引相手は少しでも高く売りたいので、買い手の提示より高い価格を提示した上で交渉に臨むでしょう。

 

 日本のバブル時代はこうした世界標準のDCF法を一切無視し、売買益を得ることこそ不動産投資であるという愚かな考え方で売買が行われた結果、利回り採算を無視した法外な価格で不動産が取引されていました。そしてそれに輪をかけたのが銀行の愚かな融資姿勢でした。銀行もDCFをまともに計算などせずに、収益力ゼロの地面の買取りにどんどん貸し込んでいました。その結末はみなさん知ってのとおりです。あの時代はゴルフ会員権もしかり、株式相場もしかり。利回りではなく、単なるキャピタルゲイン=価格上昇のみを前提とした狂乱投資の時代だったということです。

 

 ここまでで世界標準の投資理論のおよその基礎を解説しました。ご理解いただけましたでしょうか。正確な理論式を覚える必要はありません。投資とはキャピタルゲインを目指すのではなく、確実な利回りを求めるものだ、ということです。

 株式投資で大成功をおさめ続けるバフェット爺さんの投資哲学も全く同じです。毎年確実なキャッシュフロー収益を生み出す株式に投資して果実を得る。売ったり買ったりを繰り返しません。その収益を蓄積していくのが彼の投資方法です。ですので、金=ゴールドを投資対象にはしません。金塊は金の卵を一個たりとも産まないからです(笑)。

 

 このように、投資理論の基礎を最初に編み出したのは、株式投資ではなく、より厳密な債券計算でした。利子額と償還額が確定しているため、価格が厳密に計算できるからです。もし経済情勢の変化などで金利が上下すれば、保有既発債の価格は計算し直して価格を再設定します。証券会社は毎日そうした計算をして、保有債券の値洗いをしています。また新発債を発行する場合、その時の市場金利を参考にして発行することで実勢金利に合わせることができます。

この債券計算のDCF法を、株式投資や不動産投資でも応用したのです。

 

以上、債券計算こそ投資理論の基礎だ、でした。

 

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