ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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初歩の投資教室 その9

2012年08月30日 | 初歩の投資教室

  前回は、70歳以上の高齢の方が何故証券会社のセミナーに出席するのか、または投資を行うのかについて理由をうかがいたい、とお願いしましたが、回答をいただくことはできませんでしたので、Aさんのお話と、私の勝手な想像をみなさんにお知らせしたいと思います。回答は引き引き続き歓迎いたします。


  これまでブログでも申し上げてきましたし、著書でも申し上げましたが、『高齢の方は運用などせずに使うことが一番大切で、それでこそ残りの人生を楽しく過ごすことができる。運用などでストレスを感じるのは、最も避けなくてはいけない』というのが私の考え方です。

  一方、Aさんの出た証券会社のセミナーに参加されている方は、きっとこれまでも投資経験が豊富で、こう言っては申し訳ないのですが、ほとんどの方は損を積み上げられていると思われます。もし儲かっていれば、人の話など聞かずに、ご自分のやり方を進めればよいので、きっとそうではないのでは、と推定できるのです。

  セミナーにコンスタントに出席されているAさんから、実はとても面白い話を伺いましたので、今回はそれをご披露します。

  高齢の方にとって証券会社のセミナーに出席するのは、『同病相哀れむ』(失礼)ではないか、という推定です。

  時間のたっぷりある高齢者は、病院にで1時間・2時間と待たされるのを意に介していません。繰り返し通ううちに知り合いも出き、話をするようになります。話の内容は「病気自慢」がメインだそうです。孫の話やペットの話もさることながら、同病の方同士が自慢ではなくても、病状や経過を報告し合い、他の病院の情報などを交換し、暇をつぶしながら同病相哀れむ。Aさんはこれと証券会社のセミナー出席者の行動がとてもよく似ているというのです。

断じてそうではない、と言う方がいらしたらごめんなさい。

  特に支店のセミナーなど、ほとんど同じ様な話が毎月2度も3度も行われていて、目新しいことがないそうですが、飽きもせずに同じ様なメンバーがそろって出席する。もしかすると、投資で失敗をしていても、同じ様な仲間がいればそれだけでも安心し、癒されるのかもしれません。Aさんが言うには、どうやら証券会社に薦められた同じ様な投信や株を買っている方が多いようだ、とのこと。

Aさんのこのお話、妙に説得力を持つ話ではないでしょうか。

  一方、私はどう見ていたかともうしますと、セミナーはなんといっても話し手が上手であれば「投資に一歩を踏み出すきっかけを作るための仕掛けになる」と見ていました。よくあるマルチ商法などの熱気で集団心理を煽るセミナーからの想像です。

  投資話でももちろんマルチ商法と同様の手口はあります。例えば新商品を説明し、「今回出席された方から早いもん勝ちで購入可能、限定商品です」というアレです。特に名の知れた証券会社ではなく、限りなく怪しい投資顧問などのセミナーでは、こうしたクラシックな手口が相変わらず横行しているようです。

  証券会社の場合は、もちろん怪しい投資話をしているわけではありません。証券会社にとって重要なのはセミナーの出席者同士が、『みんなで渡れば怖くない』という心理状態になってくれることなのでしょう。投資後にたとえ相場が思惑からはずれても、『みんな損しているんだから』という妙な安心感だけは得られます。それがまたAさんの言う『同病相哀れむ』につながるのかもしれません。

つづく
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初歩の投資教室 その8 追加です

2012年08月28日 | 初歩の投資教室
  前回はある大手証券会社のセミナーにAさんが出席されたときのお話を差し上げました。

その中で私は、

>いったい高齢者の方は暇なのでセミナーに来るのか、資産運用が本当にしたくてセミナーにくるのか、その答えはのちほど。


と書いたのですが、自分で用意した回答に自信がなくなっています。

  そこでもしこのブログの読者の方で、70歳以上の方がいらしたら、投資セミナーに出席される理由や、投資を続ける理由をお伺いしたいのですが、どなたか手を挙げてコメント欄にセミナーに出席したり投資を継続する理由をかいていただけないでしょうか。

すみませんが今日はこれだけで、回答を少しの間お待ちしたいと思います。

もしご本人がネットにアクセスするような方でない場合、代理のかたでも結構です。

よろしくおねがいします。

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初歩の投資教室 その8

2012年08月22日 | 初歩の投資教室
 前回は、東電の債券について私の見方をお伝えしました。コメントをいただいたエディーラブさんは、投資をされたのでしょうか?

  今回はAさんが証券会社のセミナーに出席したときの経験を語ってくれましたので、その様子を実況中継します。

  Aさんへのセミナーの案内は、2通りあります。一つはAさんが口座を持つ支店でのセミナー、もう一つは証券会社本社が多くの顧客を集める本社主催セミナーです。Aさんはセミナーの案内がくると、勉強がてらほとんどのセミナーに出席していたそうです。
  そこで使われた資料をいくつか拝見しました。資料は大きく分けて二つあり、経済と市場動向についてと、特定の売れ筋商品もしくは新商品のセミナーです。経済動向といいながらも資料の最後には必ず特定の推奨銘柄が載っています。

  実況中継は本社主催の大セミナーです。開催曜日は土曜日、場所は東京駅近くの高層ビルで、会場には1千人近くが入っていたようだ、とのこと。Aさんが驚いたのは客層、それも年齢層です。

  Aさんのざっとした推定ですが、全体の8割ほどが60歳以上。そしてその半分近くが70歳以上、つまり全体の4割近くが70歳以上だったそうです。さらにもしかすると80歳以上の人も2割近いのではないか、足がおぼつかない高齢者もかなりの人数がいた、とのこと。
  
  あとの2割の内訳は、40歳代・50歳代の現役のビジネスマン・ビジネスウーマンがほとんどで、それより若い人は皆無だそうです。

  週末開催の割に全体の4割が70歳以上というのはかなりショックな数字ですが、Aさんの出席している支店の平日セミナーでは、8割が70歳以上で、自分と同世代のリタイアしたての60歳代の人にはあまりお目にかかったことがないとのこと。
  いったい高齢者の方は暇なのでセミナーに来るのか、資産運用が本当にしたくてセミナーにくるのか、その答えはのちほど。


  セミナーは前半が証券会社の看板エコノミストによる経済動向と相場の見方。相場といっても株式相場のみで、債券の話はほとんどなく、為替の相場については経済動向の中で見通しがあったそうです。

  それで、エコノミストは今後の経済をどう見ているの?という私の質問に対しては、「いやー、アメリカだ欧州だ新興国だと次から次へと出てきて、何が言いたいのかようわからん。日経新聞を毎日全部読むくらいな人じゃないと、ついていけないと思うよ」とのこと。

  実際の資料を見せてもらうと、それこそ私が投資銀行時代に作成し、プロの顧客との話で使った資料と同じような内容で20ページ以上あり、金・石油・その他の商品相場の話まで網羅されています。

  しかもチャートはカラーの線が何本も入り乱れ、同じ様な色が絡まり合い複雑怪奇で読みとれません。相場の話になればVIX指数などまで持ちだし、とても8割を占める60歳以上の方々が理解できるようなしろものではありませんでした。

  前半が終わると別の部屋でお茶とお菓子が用意されていて、「ご自由に」というのですが、おじいちゃん・おばあちゃんでごったがえしている上に、すさまじい食べっぷりに圧倒され、ろくにありつけなかったとのことです。Aさんの印象では、おじいちゃん・おばあちゃんの目的の半分はこのお茶菓子にあるんじゃないか、というくらいすごかったそうです。みんなきっとお金持ちの人たちなのにね・・・
  
  後半は会場がいくつかにわかれ、具体的商品の説明になります。といっても資料を見るとすべてが投資信託です。資料作成も説明も、すべて主催した証券会社ではなく、商品を作り運用している会社が行っていたそうです。

つづく
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初歩の投資教室 その7

2012年08月20日 | 初歩の投資教室

前回の記事に、山ちゃんより以下のコメントが付きましたので、その回答をさせていただきながら、続きの記事をアップすることにします。


<コメントの引用>
東電債 (山ちゃん)   2012-08-19 19:34:02
 林さん、こんにちわ。わけのわからないことがあるので、お聞きしたいので、よろしくお願 いします。Aさんの退職は昨年ですね。退職を前後して、投資に踏み切っておられるわけですね。つまりは3.11以降の話だろうと思うのですが、証券会社の 提案商品の中に、東京電力債があるのが解せません。東電は誰の目にも事実上、破綻しています。プロの投資家にとっては、面白い投資物件かもしれませんが、 リスクを取りたくない人物、しかも、引退して退職金を投資するに当たっては、絶対に買ってはいけない物件だろうとおもいます。どういうことでしょうか。
<引用終わり>

 山ちゃんのおっしゃるとおりです。Aさんに持ちこまれた商品のうち、もっとも許されないのが東電債、それも最低投資額1千万円の案件です。

 Aさんはそもそもリスクをできるだけ取らない投資方針を証券会社に表明しています。にもかかわらず、みなさんもお気づきのように、持ち込まれた商品はどれもハイリスク商品ばかりで、投資方針など全く無視しています。その上問題なのは東電債の最低金額の1千万円です。社債は個人向けでないかぎり、売買単位は通常1億円程度が多いのです。それを1千万円に分割して販売しているということは、私の想像では、証券会社が自分の保有リスクを早くはずしたいので、なりふりかまわず個人向けに販売している、ということです。

 債券取引は株式とは違い、注文を受けてもそれを市場で簡単に調達できるものではありません。ないものはないのです。証券会社や銀行などがディーリング目的(売買益を狙う取引)で債券を買い、投資家がニーズを出してくれば、手持ちの債券から販売するのが通常のやりかたです。

 さて東電債の1千万円です。そもそもAさんは運用資産を3千万円と伝えて投資を開始したのです。にもかかわらずS&Pなどの格付け会社からすでに投資不適格のジャンクに格付けされた東電債を、資産全体の3分の1も買わせようとする。投資家保護の規制が厳しい国では、お縄を頂戴するような販売姿勢です。日本ではこうした投資家保護は謳い文句だけで、実態は野放しで、詐欺行為どとでも認定されない限り罪になることはありません。私は大いに怒りを覚えます。

 ちみに東電債の現状ですが、ジャンクですので利回りは高いです。17年3月満期の約5年債はクーポン1.73%ですが、価格は88.5のため利回りは4.734%もあります。まー、一時の半値よりはだいぶ価格は戻しています。しかし実は東電の5年のCDSスプレッド(倒産の保険料)は500bp(5%)に近いので、保証料が利回りを上回るトンデモ商品なのです。個人投資家はCDSスプレッドの推移など、知っているとは思えませんし、Aさんにそうした説明はもちろんなかったそうです。

 では、その他の商品を見てみましょう。リスクが大きいことを初めから謳っているのは、新興国株式ファンド、新興国債券ファンド、通貨選択型ハイイールド債券ファンドなどですが、Aさんにうかがうと、そうしたリスクの大小は自分ではわからない、というのが実態でした。

 逆にリスクが大きくなさそうな、世界のREITファンド、日本株成長ファンド、などはどうでしょうか。これらは投資タイミングをあやまらなければ、リターンをもたらす可能性くらいはあると思います。

 ではそうした商品の投資成績はどうかといいますと、私がこれまでアドバイスをさせていただいた方々や、このブログで今までの投資の実績を開示したいただいた方々の成績は、決してかんばしいものではありませんでした。

 アンケート結果にあった「投資をしている方の7割が損失を出し、損失の率は平均で3割」、これを思い返してください。

 結局証券会社の提案する商品からご自分なりにうまく選択したつもりでも、しょせんこの程度の成績しか得られていない。

これが私の書いた損失理由、

『3.証券会社など金融機関のアドバイスに乗るから』


ということなのです。

つづく
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初歩の投資教室 その6

2012年08月18日 | 初歩の投資教室
前回の「その5」で、損失理由の「円高が進行したから」の中で年号の数字に間違いがありました。訂正させてください。太字が正しい年号です。失礼いたしました。

「損失の原因は
2.外貨建て投資では、円高が進行したから・・・バブル崩壊後でみても90年初の146円が00年初102円、10年初83円、12年8月現在78円」


 投資で損を出す原因の3番目は、『証券会社などの金融機関のアドバイスに乗るからだ』というお話を前回差し上げました。

 では実際の例を証券会社に取り、そこに行くとどんなアドバイスがもらえ、それに乗ると何故損をするのかを具体的に見てみましょう。

「そんなことはとっくに経験済みだよ」というベテランの方も、ご自分の経験と照らし合わせて反省材料にしてみてください。



 昨年リタイアして退職金を得たAさんを例に取ります。Aさんは私の先輩で、現在64歳。東京郊外に住み、自宅は持家で奥様と二人暮らしです。彼は証券会社と銀行からの投資勧誘を事細かに私に話してくれました。それを基に私が証券会社と銀行の手口の解説を交えてお伝えします。きっとみなさんの役に立つと思います。
 
 Aさんはまず、自宅近くの大手証券会社の支店窓口に直接出向きました。課長というタイトルのついた男性から20歳代と思われる女性担当者がアサインされ、以降その女性担当者が連絡窓口になり事が進行します。
 最初の手続きは、様々な書類に記入するところから始まります。
書類と手続きの概要は

・投資家としてのAさんの経験や資産全体の把握
  Aさん「投資経験はなし、退職金3千万円の運用を考えている」

・投資方針の確認(リスクを取るか取らないかなど)
  Aさん「大きなリスクは取らずに、安全第一でいきたい」

・損しても文句は言いませんという誓約書


などで構成されています。

 曲者は投資方針です。Aさんは投資経験がほとんどないため、あまりリスクを取らず、安全第一を方針にしました。

 一通りの書類記入が終わると、早速初歩の投資講座が始まるのかと思いきや、いきなり投資の情報提供が始まりました。『現在の売れ筋商品』のパンフレットのオンパレードです。

 本来であれば、株・債券・外貨投資など、それぞれをどのような比率で投資するかとか、現在のそれぞれの相場環境はどう見るべきか、そしてそれぞれの投資タイミングはよいのか悪いのか、といったところを説明すべきなのでしょう。

『そんなことは損して覚えろ』


というのが日本の証券会社や銀行のアドバイスの実態のようです。

 日本人の弱いところは、「みなさんこれを買っています」という言葉にいとも簡単に乗るところでしょう。ネット通販を見ても、『この商品を買った人は、こちらも買っています』とか、『こちらも見ています』と必ず出てきます。

 『今年の秋の流行はこれだ』
という人をバカにした記事しか載っていないファッション誌もそのたぐいです。秋が始まってもいないのに、雑誌から「流行はこれだ」と言われ、アパレルメーカーは雑誌と結託して商品をふんだんに用意する。流行とはハヤったモノではなく、ハヤらしたモノというのが日本の商売の常識です。

 証券銀行もご多分にもれずに同じ仕掛けを作り、いきなり「売れ筋はこれだ」とくるのです。それでもファッションより多少ましなのは、売れ筋とは実際に売れたもので、これから「売れるはず」でないだけ、マシということでしょうか。

 しかしファッションなら乗せられて買って自分には似合わなくても、みんなと同じものなら「まっ、いいか」で済みますが、投資はそうはいきません。乗せられて買って損をしたら、取り返しがつかないのが今の相場です。

 投資の格言は『人の行く、裏に道あり花の山』。つまり『ハヤリものには手を出すな』なのです。証券会社・銀行は「買うから上がる、上がるから買う」の循環を作り出して、上昇しては崩壊することを繰り返し、自分達はひたすら手数料を稼ぎ、リスクはすべて投資家にかぶせるのです。

 さてAさんに戻りましょう。Aさんが当初薦められたのは、以下のような商品でした。みなさんもきっと見覚えがあるでしょう。

① 毎月配当型、高格付け外貨建債券ファンド
② 新興国株式ファンド
③ 通貨選択型ハイイールド債券ファンド


 いずれも私が「買ってはいけないファンド」の筆頭にあげるような商品です。そして謳い文句は「今、当社で一番人気のある商品です」という、絵にかいたような殺し文句とともに紹介されたそうです。

 彼は全くのシロウトですから、ハイイールド債券が実は投資不適格な「ジャンク・ボンド」だとか、新興国株式が最も変動の激しい投資とは名ばかりのバクチだ、というようなことは一切知りませんでした。それでもリスクを意識したのか、

 「一番安全なのはどれですか?」と聞き、「高格付け外貨建債券ファンドです」という回答を得て、手始めにこれに10分の1の300万円を投資しました。彼はその時点ですでに年金をもらう手続きをしていましたが、年金額が少ないため補う意味もあり毎月の配当をもらうことにしたのです。

 その後、彼のところには証券会社から3日と空けずに電話がかかりました。投資セミナーの案内と、新商品の案内です。それらをざっと並べてみます。

セミナー;毎月の投資セミナー(市場動向・見通し、ほとんどが株式とファンドの案内を伴う)、エコノミストの経済・市場動向解説セミナー、有名講師による世界経済・政治動向セミナー  などなど
商品提案;新興国株式ファンド、新興国債券ファンド、通貨選択型ハイイールド債券ファンド、世界のREITファンド、日本株成長ファンド、外貨建年金型生命保険(ドル・豪ドル)、東京電力債券(最低1千万円)

 彼の投資方針「大きなリスクは取らずに、安全第一でいきたい」は、いったいどこの行ったのでしょう?

 私が金融当局だったら今後は証券会社に「Aさんの投資方針の確認書」と「大きなリスクは決してとらせません。もしそれに反する商品でAさんが損をしたら、それはすべて証券会社が責任を取ります」という誓約書を書かせます。それが真の消費者保護でしょう。


つづく
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