「現在の日本の株価を主導しているのは半導体産業だ」と言ったら、驚かれる方がいらっしゃるかもしれませんが、それは紛れもない事実です。日本の半導体産業は駆逐されてしまったというのが一般的評価ですから。思い返しますと、
50年代;トランジスタ時代
60年代;IC時代
70年代;LSI時代
80年代;VLSI時代
このあたりまでは日本の半導体メーカーが世界を席巻していました。89年の世界ランキングでは、
1位NEC
2位東芝
3位日立
・
5位富士通
・
7位三菱
・
9位松下
・
と、ベスト10に実に7社も入っていました。
現在の半導体メーカーのランキングは以下のように日本のメーカーは一つも入っていません。
23年世界の半導体メーカー別ベストテン(百万ドル) ガートナー調べ
23年売上 シェアー
1 |
2 |
Intel |
48,664 |
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9.1% |
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2 |
1 |
Samsung Electronics |
39,905 |
|
7.5% |
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|
3 |
3 |
Qualcomm |
29,015 |
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5.4% |
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4 |
6 |
Broadcom |
25,585 |
|
4.8% |
|
|
5 |
12 |
NVIDIA |
23,983 |
|
4.5% |
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|
6 |
4 |
SK hynix |
22,756 |
|
4.3% |
|
|
7 |
7 |
AMD |
22,305 |
|
4.2% |
|
|
8 |
11 |
STMicroelectronics |
17,057 |
|
3.2% |
|
|
9 |
9 |
Apple |
17,050 |
|
3.2% |
|
|
10 |
8 |
Texas Instruments |
16,537 |
|
3.1% |
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|
日本には半導体メーカーが全くないのではなく、過去の上位だったメーカーが連合体を作り、ルネサス、ラビダス、キオクシアなどがありますが、全くのランキング外になってしまったということです。
80~90年代くらいまでは、日本が得意としたメモリー・チップとそれを動かすCPUという大きくは2つの区分でしたが、現在は半導体がより多くの製品に細分化されたため、単純には比較できません。
たとえばSONYはCMOSと呼ばれる画像センサー半導体の分野では世界最大手で40%ものシェアーを有します。それはアップルなどを含む世界中のスマホ、デジタルカメラやセキュリティ用カメラ、車載カメラなどに搭載されています。それでも規模は小さいということです。
上記のランキングで注目されるのは、生成AI向け需要の急拡大で絶好調のNVIDIAです。売り上げが前年比56.4%増と急成長を遂げていて、前年の12位から5位へと大きく順位を上げ、初のトップ5入りを果たしています。今やAIの旗手といわれるほどで、株価も猛烈に上昇し時価総額は2兆ドル、300兆円です。日本のトップはトヨタの60兆円ですから、なんと5倍。
しかしこのメーカー・ランキングには半導体世界トップと言われる台湾のTSMCが入っていません。理由は、TSMCはブランド名を持たないファウンドリだからです。ファウンドリはブランド名を持つメーカーの下請け工場の役割を担っていて、それを加えるとダブルカウントになってしまうため、ランキングでは通常除いてカウントします。
このような状況にありながら、今回の投稿タイトルは、「日本半導体産業の復活」としました。どこが?といわれそうですが、次にその理由を説明します。日本の半導体関連企業は上記メーカーなどに向けて非常に重要な半導体の材料や製造装置を作っているのです。つまり広い意味で半導体産業は復活し、現在の株高もそうしたメーカーが支えているのです。
今週号のダイヤモンド誌は5,000号記念ですが、「一冊丸ごと半導体」という特集号になっています。その記事によれば、半導体部材製造の48%、半導体製造装置の31%は実は日本のメーカーなのです。
ではそれらの企業を現在株高に沸く上場企業時価総額ランキングで見ていきます。半導体関連は注書きを入れてあります。
2月29日の日本株時価総額ランキング
1位 トヨタ
2位 三菱UFJ銀行
3位 東京エレクトロン・・・半導体製造機器メーカー
4位 キーエンス・・・・ファブレス
5位 NTT・・・・半導体
6位 SONY・・・CMOSメーカー
7位 ファストリテーリング
8位 三菱商事
9位 ソフトバンクグループ・・・半導体設計アームなどの大株主
10位 信越化学・・・フォトレジストと言われる感光材をウエハーに塗布
半導体に関わる企業はトップ10社中7社を占めます。驚くべきランキングです。これが株高を演出している日本企業の現在の姿で、要はのき並半導体関連銘柄が注目を集め市場を席巻しているのです。
上記のランキング外でも半導体の部材や製造装置で名を馳せるメーカーを挙げておきます。
・大日本印刷(フォトマスク制作)
・TOPPAN(フォトマスク制作)
上記2社で世界の5割強
・SCREEN HD(旧大日本スクリーン、フォトレジスト塗布)
・フジミインコーポレーテッド(シリコンウェハーの鏡面研磨材世界1位9割)
・アドバンテスト(完成品検査)
コロナによるパンデミックの最中世界は半導体不足となり、いまや半導体の塊である自動車のメーカーは製造をストップせざるを得ない状況にまで追い込まれました。ところがそれが終わると一転。半導体の市況はまさにシリコンサイクルのダウントレンドに巻き込まれ、23年の世界の半導体売上が前年比でマイナスにまで落ち込みました。しかしその最中から今度はAIのブームが始まり、AI関連の企業は世界的に注目を浴びています。その旗手がNVIDIAで、実は裏方でサポートしている日本のメーカーが、したたかに復活しているのです。
そして特記すべきは研究開発中の量子コンピュータとNTTの光電融合デバイスです。演算スピードが飛躍的に高くなる量子コンピュータは世界中が競争していますが、NTTの光電融合デバイスはおそらく独自の開発で、電力消費量を劇的に下げる大きなメリットを持っています。その概要を、新会社であるNTTイノベーティブデバイス株式会社のHPから引用します。
引用
光電融合技術とは、電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を融合する技術のことです。NTTは新中期経営戦略「IOWNによる新たな価値創造(構想から実現へ)」の一環として電力負荷問題を提起しており、それにつながる解決策として「光電融合技術」の研究・開発に取り組んでいます。
引用終わり
以上が「日本半導体産業の復活」というわけです。
私は日本の製造業の専門家でもなければ半導体の専門家でもありませんので、投稿の内容中に不備があるかもしれません。専門家の方で間違いなどにお気づきでしたら、どうぞ遠慮なくご指摘、訂正をおねがいします。