8月26 日金曜日、ジャクソンホールでのパウエルFRB議長の講演がよほど効いたとみえ、NYダウは1千ドル安になりました。きっと週明け月曜日の日経平均も影響を受けるでしょう。
毎年夏に行われるアメリカの地区連銀主催によるシンポジウムですが、世界の金融界の耳目を集めます。実は去年パウエル議長はこの講演でミソをつけています。どういうことか。
その当時すでにアメリカのインフレ率は5%台と、ここ10年ほど2%にすらのせることのなかった数字はトレンドを大きく上抜け、5.4%に達していました。しかし彼はその数字を「一時的だ」と言い放ち、放置したのです。その後もインフレ率はじりじりと上昇を続け、ロシアがウクライナに進行する直前の1月に7.5%に達してしまいました。つまりこのところのインフレはロシアのせいばかりではないのです。
そこにきてあの悪魔皇帝プーチンに追い打ちを食らい、物価はさらに急上昇しました。あわてたFRBはリーマンショック後下げ続けていた政策金利をこの3月に久々に上げたのです。通常であれば市場がショックを受けないよう月ごとに0.25%ずつ程度上げていくところを、倍の0.5%としました。しかし後の祭り。その次の利上げもまた0.5%としましたがインフレは全く収まらず、遂にその後は1回で0.75%を2回も続けたのです。それでもインフレ率は6月には9.1%とこの数十年なかった数字に達してしまいました。この後追い利上げはパウエル氏の信任を損なう結果となりました。
そこで今回、パウエル氏は金曜日の講演で、「成長鈍化などの痛みを伴ったとしても、インフレが抑制されるまで金融引き締めが必要」という超タカ派の見解を示しました。成長鈍化は雇用の悪化を招く可能性がりますが、それをもいとわずという強い言葉です。その結果がダウの千ドル安につながったのです。
このところ為替や金利のアナリスト達はかなりしんどい夏を過ごしていることと思います。一時の円安高進が7月に140円寸前で収まり、つい最近までアナリスト達は「円安はピークを打った、今後は120円台への円高方向だ」と言っていたのですが、あっという間にまた137円台まで円安になってしまいました。
米国債金利もしかり。年初までしばらく1%台だった10年物金利ですが、ロシアの侵略によるインフレで一時3.5%程度まで高進しました。そこで私が買いサインを出したのですが、それから間もなく3%を切り2.6%程度に戻ってしまいました。しかし現時点でまた3%台に戻しています。
その間にアナリスト達は、「FRBは足元と秋以降の景気動向が弱そうだと見て政策金利引き上げ幅を縮小し、年内には利下げに転じる可能性すらある」とまで言っていました。ところが昨日のパウエル氏の発言ですっかり見通しが狂い、苦しい言い訳を始めることでしょう。お気の毒様です。
為替も金利も的確な予想は実に難しいですね。ではこんなに為替も金利も大きく動く時期、米国債投資を考えている方はどうしたらよいのでしょうか。ドルが安くなったらドルを少しずつ買い進み、金利が高くなるまでは債券への投資は待つ。金利が高くなった時期に少しずつ投資するという以外に適切な方法はありません。金利が高い時はドルも高く、円から直接米国債には投資しづらいので、2段構えが必要なのです。
そんな中、低金利であえぐ日本では、債券投資の世界でひどいことが起っています。多くのみなさんはご存じないと思いますし、関心もあまりないでしょう。しかしこの問題は日本の金融機関のリスクを顕在化させる大きな問題でもあるので、要注意です。
8月25日付の日経新聞の記事をかいつまんで紹介します。
見出し;高リスク仕組債 総点検
小見出し;相次ぐ苦情受け金融庁・監視委員会 販売実態 立ち入り確認
内容の主な点は、「有力地銀などが傘下の証券子会社を使って企業や個人の富裕層向けに儲けの大きな仕組債を販売。地銀の中には利益の8割を仕組債販売で上げているところもある」というものです。そして投資家によってはわずか3か月で投資額の8割を失った例もあるというのですから驚きです。
そもそも仕組債そのものを根本的に理解するのはシロウトでは100%無理です。これは90年代に仕組債で食べてきた私が言い切るのですから、間違いありません。
銀行・証券会社は顧客に、商品内容のリスクを明確にすることが義務付けられています。それをやっていたら、まさか3か月で投資金額の8割を失う商品を薦めないし、買わないでしょうから十分な説明はしていないと思われます。私のいた投資銀行ではリスクを取るプロの投資家のみを相手にしていましたので、この記事の内容とは異なることを申し添えておきます。日本の銀行証券は儲け優先で説明を怠るので、危うい商品の販売で利益を上げているのです。
私からみなさんへのアドバイスはたった一つ、「君子、危うきに近寄らず」です。
もし私の著書をお持ちの方がいらっしゃれば、P.166にある「これだけは許せない!買ってはいけないEB債」の箇所を読み返してみてください。あくどい仕組債の例を挙げています。
しかし一方、この記事を書いた日経新聞にも噛みついておく必要があります。その理由は、何故銀行証券が危ない商品を作り顧客がそれに食らいつくのかの分析がないからです。その理由はたった一つ。
超低金利を続ける、「クロちゃん、あんたが悪いからだ!」
以上