ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

最近の講演会内容・・・みなさんの復習をかねて

2024年01月30日 | 投資は米国債が一番

 しばらくブログの更新ができなくて、申し訳ありませんでした。理由は講演会が続いたこと、そしてその間にスキーも志賀高原と赤倉高原ホテルスキー場と2回続いたことによります。仕事もさることながら、好きな遊びにも追われていました(笑)。

 スキー場は相変わらず外国人スキーヤーが多く、日本人のスキー人口減少を補い、スキー場経営や地元に貢献してくれていますので、大歓迎です。私はゴンドラやリフトで一緒になった方とは日本人外国人を問わず、必ず話をするようにしています。それは10分~20分にもなる搭乗時間をとても楽しくすることにもなります。一日で10回はゴンドラなどに乗るため、20人近い方と会話ができるのです。

 では今回出会った方で印象に残った方とのエピソードを2つ。一人目はゴンドラに乗り合わせたオーストラリア人女性とのお話。40歳台くらいの彼女は家族や友人たち7人で日本にきているのですが、まず東京に3日滞在。そして長野県のスキー場に移動してキチネット付きコンドミニアムに滞在し、地元のスーパーで買い物をして自炊しているとのこと。実はこうした自炊組はとても多いと感じます。しかも3ベッドルームのコンドでルームシェア―をするため、1週間単位で滞在してもコストはとても安く抑えられると言っていました。

 その後彼らは大阪に移動、さらに京都見物をして合計2週間の日本滞在をエンジョイするとのこと。日本ではすべてがバーゲンセールだと言っていました。そして彼女の仕事はかつての私と同じインベストメント・バンカー。話が合って楽しい時間を過ごせました。

 

 二人目はスキー場までわずか30分くらいで来られる新潟県の直江津市から来た20歳台の男性。地震のことを聞いてみると、「いやビックリしたし結構被害がありました」とのこと。家中でたくさん物が落ちて食器類がかなり壊れたこと。そして近所では液状化現象が起きていたそうです。そのためいつもなら正月早々スキーを始めるのに、今になってやっとスキー場に来たと言っていました。やはり震災の影響は広範囲にあったんですね。

 

 次は私の2回の講演会内容をみなさんにお知らせします。初めは高校まで在籍した成城学園の同窓会からの依頼で、私と同世代の70歳台、あるいは少し若い世代の50名ほどの方を対象に行いました。そして次は同世代の友人が主催する経済金融問題研究会の例会で行いました。こちらのメンバーはほとんどが70歳台60歳台で、金融機関出身者や研究機関在籍者が多く、錚々たるキャリアをお持ちの方々でした。

 

 以下が講演会で配布したプレゼンの項目と内容の要約です。元の資料がパワーポイントのため、行間などがまちまちですが、その点はご容赦ください。

 

講演会タイトル;ストレスフリーの資産防衛

副題;政府主導のNISAに騙されず、自身と子供たちのためにも賢く備える

 

1.アベノミクス検証

・政府が低金利を頼り、放漫財政により累積赤字を積み上げた

・独立しているはずの日銀が政府と一体になりアベノミクスを推進

・日銀は国債を買いまくり市場にオカネをばらまいたつもりが、日銀に巨額のブタ積み当座預金500兆円が残っただけ

・我々の手元にオカネは届かず巨額の累積赤字でおびえることになった

・家計は防衛に走り、2千兆円の金融資産が積み上がっているが、株などの投資には向かわず1千兆円も現預金に滞留。しかしNISAの掛け声に動きが出始めた

・企業も自己防衛のため500兆円の内部留保を預貯金で貯めこんでいる

・そもそも金融政策では経済成長力をアップできない

 

2.アベノミクスにもかかわらずGDPは大幅減少

円建てGDP   アベノミクススタート時500兆円、現在590兆円、  年率わずか0.9%の成長

ドル建てGDP スタート時 6.3兆ドル、現状4.1兆ドル 3分の2へ減少

(ドル円レート86円→140円 4割の円安)

・世界を見るには、基準をドル建てで考えるクセをつけるべき。でないと世界を見誤る

・一人当たりGDPの比較では、かつてトップクラスだった日本は韓国と同レベルで30位程度にまで落ち込んでいる

 

3.破綻に向かう日本財政

・23年度予算 歳出額115兆 歳入80兆 単年度赤字35兆

・単年度赤字を国債発行でまかなうが、実際の国債発行額は大本営発表の35兆円ではなく、 23年度は借換債を含む236兆円と巨額

・国債累積発行残高1,000兆円、借入金含む債務総額はGDP比250%

・日本財政破綻のきっかけは円安インフレ金利上昇、国債を抱えすぎている政府日銀への信頼喪失、格付け低下による資本逃避

・MMT理論や日銀と政府を合算すれば借金は無くなるというナンセンスな議論、最近は聞かなくなった

・バラマキで破綻しないなら、税金など徴収しなければよい

世界中の国々も同様にすれば国家破綻はなくなる

 

4.破綻への備えは外貨資産へのシフト

・円安のインパクトとは金融資産に対してだけではない。将来の給与や退職金、年金、不動産、すべてが円建て

・防衛策は外貨建てへの転換

・しかも超安全なドル資産に限る

5.備えあれば憂いなし

・成長段階を終えた日本に、安全地帯はない

・世界で一番安全な金融資産=米国債

  根拠は

・イノベーション力、人口増加+優秀人材吸収力

・世界最強の軍事力+エネルギーと食料の自給

 

5.米国債投資の驚くべき投資実績

・1冊目の著書の出版時2011年まで・・・1981年に30年債に投資し2011年に償還を迎えたケースでは、ドル建て元本は24倍、ドル円レートは240円が3分の1の83円になっていたがそれでも8倍になった

・2冊目の著書の出版時・・・同様に1993年に30年債に投資し、2023年に償還を迎えたケースでは円で7.8倍になった

・1冊目の出版時2011年に米国債30年物に投資をすると、現状でドル建て元本は100が172、ドル円は83円が140円。すでに両方で290%にもなっている

 

6.1ドル150円でもまだ買える米国債

  • 1,000ドル、15万円から買える米国債

 1ドル150円で1千ドルの米国債を買うと、15万円必要

 米国債は複利運用が可能、金利4%でも威力抜群

 10年後に1,000ドルが約1,500ドルに

 円高に転じた場合のブレーク・イーブンは100円

 計算は 150,000円 ÷ 1,500ドル = 100円

 もしドルが150円のままだと、10年後は225万円になる

 1,500ドル X 150円 = 225万円・・・1.5倍

 

7.世界の金融資産、半分以上は債券

・22年5月初旬の時点で債券が6割

・株式時価総額 100兆ドル

・債券残高総額 120兆ドル

 世界の投資家は平均で6割を債券に投資

・日本の債券残高1,300兆円、株式時価総額1,100兆円

・日本では債券投資が成立しなくなり、ギャンブル性の高い株式投資だけになっている

・政府は非課税枠NISAでの債券投資を認めていない

・日本を含む各国の年金運用は国債がメインだが、日本ではほぼ不可能になりつつあるため、年金も株式にシフトしている

 

8.米国債の買い方

・「証券会社は売りたがらない」が、どうしても欲しいと言えば買える

・1,000ドル単位、1年~30年物まで

・種類は若年層向け複利運用のゼロクーポン債、あるいは2回利払いを受けたい高齢者の場合は利付債

・実際には新規発行分は買えない、日本の証券会社が買い付けた既発債の在庫のみ

・証券会社の外債サイトで売り物の一覧表がある。ブレーク・イーブン為替レートも表示されている

 

8.証券会社と生保に騙されるな

・米国債を買いたいというと、「債券ファンド」を薦めるのが常とう手段。毎年のフィー収入が欲しいため。ファンドは手数料を毎年取られるだけでなく、元本の変動が激しく、売り時を計るのは困難で、株式ファンドと同じ

・債券は償還期限(満期)まで持ち切れば、必ず100%で償還

・生保は外貨建て年金を薦めるが、これは生保にフィーを払って米国債を買うようなもの。しかも売りたいときに売れない

9.投資の安全性は流動性がすべて

・高い流動性とは、いつでもいくらでも売りたいときに売れ、買いたいときに買えること。代表格が米国債

・国が市場を閉鎖したり、価格に介入したりする資産ほど危険な資産はない

・日本国債は日銀が保有しすぎているため、全く売買のできない日がしょっちゅうある

・流動性が高いか低いかの判断基準は、売りと買いの売買スプレッド=差額が大きいものほど、流動性が低い

 

   以上がプレゼンテーションの内容です。みなさんには従来からお伝えしている内容が大半ですが、その復習としてどうぞご活用ください。

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トランプの支持層とは?

2024年01月17日 | アメリカ大統領選24年

 24年大統領選の初戦であるアイオワ州での予備選が終わり、共和党では予想通りトランプが51%で勝利。デサンティスが21%、ヘイリーが19%という結果でした。アメリカ中西部のアイオワ州は農畜産業中心で保守的な白人が多いため、その層を掴んでいるトランプが5割を超えています。民主主義などいらないというトランプ主義者たちが、民主主義の象徴である選挙で投票をするということをしている。道理も何もない、トランプの言う事だけが正義だというおかしな人たちですね。

 そして次の予備選は1月23日のニューハンプシャー州ですが、世論調査では興味ある結果が出ていますが、それは後ほど。

 

 まずトランプという人間のひどさを並べてみます。特に悪質かつ裁判で結果が出ているものは★印を付けます。

 

・大統領在任中、SNS上でのウソ2万件。マスコミによるファクトチェック済。それ以外に口頭でのウソは多すぎてカウント不能。特に前回の選挙を覆そうとする演説は最初から最後まで全部がウソ。

・対トランプ訴訟4千件(16年の選挙の時までは3千件)、その多くは詐欺、名誉棄損など

★ME TOO!と言わせた女性20人程度。なかでも23年5月9日米作家ジーン・キャロルさんが90年代にトランプから性的暴行を受けたとして損害賠償を求めた民事裁判で、NY連邦地裁の陪審は性的暴行と名誉毀損を認める評決を下し、トランプ氏に500万ドルの支払いを命じた。

★トランプの最側近であった弁護士のコーエン氏は、トランプと関係を持ったポルノ女優の口止めに関する罪で禁固3年

★トランプの顧問弁護士だったジュリアーニ元ニューヨーク市長が、2020年大統領選の開票作業をめぐりジョージア州の選挙管理職員が不正を行ったと主張し名誉毀損で訴えられた裁判で、ワシントンの連邦地裁の陪審は、選挙職員2人に計1億4800ドル(約210億円)を支払うよう、ジュリアーニ弁護士に命じた。ジュリアーニ氏はこのため自己破産に至った。

★トランプ寄りの放送局として知られたFOXは、選挙不正に関する名誉棄損で1千億円を払うことになった。それについては、時事ニュース2003年4月の以下の記事を参照ください。「2020年の米大統領選で不正に集計結果が操作された、とする虚偽の報道で名誉を毀損されたとして、投票機器メーカー「ドミニオン・ボーティング・システム」がFOXニュースに損害賠償を求めていた訴訟で、23年4月18日、FOXが7億8750万ドル(約1千億円)を支払うことで和解した。」

 

 このように彼自身だけでなく、彼をサポートしていた弁護士や報道はことごとく禁固刑や莫大な損害賠償の判決が確定しています。また選挙結果を覆そうとする試みに関してトランプが指示したことを認め、州レベルの最高裁は有罪判決を下しています。しかしこの訴訟は連邦最高裁まで行くと、トランプが選んだ保守寄り判事が州の判決を覆す可能性がある。

 

 こうした罪状の張本人であるトランプの支持率が高率を保っているのは何故か。単にアメリカ人はトランプにまんまと乗せられる愚か者だからだという理由では説明できません。

 一つにはキリスト教福音派による支持が指摘されています。福音派とは端的に言うと「聖書の言葉にすべて従う」という一派で熱心な信者が多く、テレビを通じた布教活動で知られています。全人口の4分の1程度を占めると推定されています。

 しかしトランプの行動にはモラルのかけらもなく、宗教人であれば非難こそすれ支持するなどありえないハズ。また福音派とも重なる白人の低所得者層が、トランプを支持していることに対する説明は、「忘れ去られた人々の声を聞き、彼らの希望をかなえる政策を実行したため」と言われています。彼らはトランプが犯罪人であろうがなかろうが、無批判に今年の選挙でもトランプに投票するのは間違いないでしょう。

 

 しかし年が明けてから風向きに変化が生じています。アメリカ事情に詳しいアメリカ在住の評論家、冷泉彰彦氏の1月8日のコメントでは、

「CNN調査によるとニューハンプシャー予備選の事前調査ではトランプ39%に対してヘイリーが32%と猛追している。他の調査も含めた直近の平均値でもトランプ42%、ヘイリー29%(政治サイト「ファイブ・サーティーエイト」による)となっており、昨年までの構図が大きく変化している。

ヘイリーとしては、まずアイオワでの敗戦を最小限にし、あわよくば2位のデサンティスに肉薄しておく、その上で、ニューハンプシャーでトランプに限りなく迫るという戦略です。その勢いを駆って、ニューハンプシャーの翌日に予定されている彼女の地元である、サウスカロライナ予備選でも善戦すれば、全国ニュースが一気に彼女の「旋風」を話題にするという計算をしているはず」と解説しています。

 

 すでに終わったアイオワの結果はまさにこの冷泉氏のシナリオどおりで、ヘイリー氏がデサンティス氏にわずか2ポイント差で肉薄。次のニューハンプシャー次第では有力候補としてその後の台風の目となりうるかもしれません。

 バイデンという頼りない本選の対抗馬より、同じ党内のヘイリー氏がまずはトランプという世界の攪乱要因を取り除いてほしい、それが私のはかない願いです(笑)。

来週のニューハンプシャー州の予備選を待ちましょう。

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24年の10大リスク by イアン・ブレマー

2024年01月12日 | アメリカ大統領選挙 24年

 例年通り、イアン・ブレマー氏率いるアメリカの調査会社ユーラシア・グループが1月8日に今年の10大リスクを発表しました。まずそれら10項目と簡単な要約をNHKニュースから引用します。

1「アメリカの分断」
11月の大統領選挙に向けてさらに政治的分断が深まり、地政学的な不安定さを世界にもたらす可能性がある。

2「瀬戸際に立つ中東」
イスラエルとハマスの戦闘を終わらせる明確な方法はなく、この戦闘をめぐる政治的分断が世界に影響を与える。イエメンの反政府勢力フーシ派による船舶への攻撃で物流網への影響なども懸念される。

3「ウクライナの事実上の割譲」
ロシアは現在、戦場での主導権を握っており、アメリカの支援などが滞る中、ウクライナの領土が事実上、ロシアに割譲される可能性がある。

4「AIのガバナンス欠如」
企業がほぼ制約を受けないままさらに強力なAIモデルなどが開発され、政府のコントロールを超えて普及する可能性がある。

5「ならず者国家の枢軸」
ロシア、北朝鮮、イランというならず者国家が、ロシアによるウクライナへの侵攻以降協力関係を深め、既存の制度や原則を弱体化させようとしている。

6「回復しない中国」
すでに外国人投資家の撤退など不調の兆候があったが、中国政府が金融のぜい弱性や需要不足に対応できず、中国経済の回復は難しいだろう。

7「重要鉱物をめぐる争奪戦」
重要鉱物はイノベーションから国家安全保障まで事実上すべての領域で大切だが、その生産地は一部地域に偏り、生産国政府は価格変動を増大させるなど保護主義的な措置をとる可能性がある。

8「インフレによる経済的逆風」
しぶといインフレに起因する高金利が、世界中で成長を鈍化させるだろう。

9「エルニーニョ現象の再来」
異常気象によって、食糧難、水不足、物流の混乱、病気の流行、政情不安などをもたらすだろう。

10「分断化が進むアメリカでビジネスを展開する企業のリスク」
大統領選挙が近づくにつれて国内市場が分断され、全米に展開する企業は特定の州の市場からの撤退などを迫られる可能性がある。

 

 恒例の10大リスクの発表ですが、この発表はことの重要性の順序になっていて1番にアメリカの分断をあげています。そのため進行中の2つの戦争は2番目と3番目になっています。その理由はもちろん、アメリカの大統領選挙の結果が世界により重大な影響を及ぼすからです。そこでこの項目のみ発表資料の中身をより詳細にサマリーしてみます。

 

サマリー1.アメリカの分断

前例のないほど機能不全に陥った米国の選挙は、世界の安全保障、安定、経済の見通しに多大な影響を与えるだろう。 その結果は全世界80 億人の運命に関わることになるが、発言権を持つ米国人有権者はわずか1億6000万人に過ぎず、さらに勝敗はほんの一握りの激戦州の数万人の有権者によって決定される。民主党であれ共和党であれ、負けた側はその結果を不当なものと考え、受け入れようとしないだろう。世界で最も強力な国が、自由で公正な選挙、平和的な権力移譲、三権分立による制度的チェック・アンド・バランスなど、基盤となる政治制度に対する重大な挑戦に直面している。連邦の政治はとんでもない状況にある。

 

 以上、ブレマー氏はこのように結論付けていますが、私は選挙結果を認めないとんでもない状況をつくりだしているのは、あくまで共和党、それもトランプであり、民主党は混乱を作り出す側には立たないと思っています。その点ではブレマー氏に賛成しかねます。

 

 さらに「もしトラ」と言われる、「もしもトランプが当選したら」どなるかについてブレマー氏はより詳細に分析していますので、長い文章ですがそのまま引用します。なお私なりに重要と思われる部分は太字にしてありますので、読み飛ばしたい方はその部分だけを読んでみてください。また私がブレマー氏の意見に異論を感じる場所には(←・・・)として私の意見を述べています。

 

引用

2016 年のトランプの大逆転劇には、米国の左派に恐怖を呼び、同盟国の指導者たちからは懸念の声が上がったが、米国のビジネスリーダーたちからはおおむね好意的な反応が示され、世界の金融市場からも楽観的な見方が示された。トランプ政権の減税、規制緩和が米国経済にプラスに働くと考えられたのだ。第 2 次トランプ政権への反応はどうなるかわからない。第1次政権よりガードレールが少なくなり、財政的余裕が縮小し、米国の各州が 急進的な政策対立により分断される政治が続くことになる。

 第 2 次トランプ政権は行政権力を強化し、チェック・アンド・バランスを弱め、法の支配を弱体化させる措置を取るだろう。トランプは、障害とみなす数千人の公務員を更迭し、経験の浅い忠実な職員を引き入れて連邦政府機関を支配しようとするだろう。

閣僚の多くは共和党幹部となるだろう。ニッキー・ヘイリー、ロバート・ライトハイザー、マイク・ポンペオ(いずれも政策コミュニティーで知られる有能な人物たち)らが復帰する可能性が高い。(←ニッキー・ヘイリー氏はトランプの対抗馬として予備選に出馬してトランプの復讐対象となるので、私はトランプは彼女を政権幹部に選ばないと思います)。

主要政策のリスクとしては、広範な10%の輸入関税や中国からの最恵国待遇の剝奪を目標とする貿易保護主義が挙げられる。国防総省では、幹部にジム・マティス前国防長官よりもマイク・フリン元大統領補佐官のような政治的忠誠心の強い人物が任命され、不確定要素となるだろう。同時に、ホワイトハウスに入るトランプ大統領の政策顧問の中核(スティーブ・バノン元首席戦略官、スティーブン・ミラー大統領顧問、カシュ・ パテル元国防長官代行首席補佐官といった人物)は、エリートビジネスリーダーや外国の要人との関係をほとんど持たず、関係を優先する意欲も限られている。

「ディープステート(闇の政府)」を一掃したトランプは、法の支配を破ることへの制約が少なくなる。彼の最初の仕事は、FBI、司法省、内国歳入庁(IRS)を自らの武器とし、トランプ自身や味方の害となる手続きを妨害し、政敵を迫害することだろう。バイデンとその家族もその対象になるだろうが、野党議員、メディア関係者、献金者、批評家など、この報復主義的マッカーシズムがどこまで突き進むかは非常に大きな問題だ。政治的左派から右派まで全体の行動を左右することになるからだ。良くて政治的な反対意見を冷え込ませる程度だが、最悪の場合はほぼ完全に封殺するだろう。 第 2 次トランプ政権が無法な行動をとった場合、連邦レベルではそれを抑制する救済策はほとんどないだろう。議会が分裂した場合、あるいは共和党が支配する場合、トランプの行き過ぎた行動をチェックすることはできないし、する気もないだろう。民主党優位の議会ですら弾劾や罷免は見送られている。保守的な最高裁は、その3分の1がトランプによって任命され、独立性を保つだろうが、言うことを聞かない大統領に対して判決を執行する権限は限られている。南北戦争の終結以来米国が経験したことのないような憲法上の危機が発生する可能性がある。 米国の分散されたシステムは、ワシントンの機能不全を補うものとなるだろう。連邦政府が弱体化すれば、各州に権力が委譲され、競合する政治・経済戦略の自由市場が活発化することになるからだ。(←トランプは独裁者として君臨したがるので、各州に権力が移譲されることにはならないと思われる)。この分権化の裏返しとして、共和党州と民主党州は、政策面だけでなく、居住、ビジネス、投資の誘致先という点でも、ますます分極化が進むだろう。州によって政策や規制が異なるため、企業にとって困難なビジネスおよび投資環境の分断を生むだろう。立地の選択が暗黙の政治的主張となる。 外国企業は米国の政治的地理を理解するのが難しくなり、トランプの政治組織に逆らわないようにするために時間を費やすことになるだろう。連邦政府全体との関係、中でもトランプを動かせる共和党議員との関係は、外国政府にとって、1 期目よりもさらに不可欠になるだろう。また、投資家は規制緩和された産業に大きなビジネスチャンスを見いだすと思われるが、その一方で米国の財政状況に対する懸念はますます強まるだろう。 具体的な政策を市場がいかに前向きに捉えようとも、属人的、権威主義的で、気まぐれな トランプ大統領の復活は、米国の民主主義に深刻な打撃を与えるだろう。また、投資先としての米国の長期的な安定性、金融面での約束の信頼性、海外パートナーとの約束の信頼性、グローバルな安全保障秩序の要としての役割の持続性についても、根源的な疑問が生じ始めるだろう。

引用終わり

 

 とまあ、「リスク」を専門とするブレ―マー氏ですから、あらゆるリスクを網羅して掲げています。私はたとえもしトラが実現しても、これほどまでには至らず、話半分。さほど悲観する必要はないと思っています。

 とはいえ、何故これほどまでにアメリカ国内と世界を分断し、つぶしてしまうようなトランプの人気がアメリカ人の間で高いのか。次回はその疑問をぶつけてみたいと思います。

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 クリティカル11、飛行機旅行の心得

2024年01月04日 | ニュース・コメント

 羽田の事故が大惨事にならなかったのは本当に不幸中の幸いです。

みなさんの意識が「燃えている飛行機からの脱出」ということに集中した今、私から一言アドバイスを差し上げたいと思います。

 それがタイトルにある「クリティカル11と、飛行機旅行の心得」です。旅行中はみなさん楽な服装に合わせてカジュアルな靴を履いていることと思います。一部ビジネストリップをされる女性の方がヒールのある靴を履いているのを見かけることがありますが、これはご法度です。今回のような事故でシュートでの脱出時に邪魔になったり、自分の足がひっかかり怪我をするおそれがあります。CAはもしかすると脱出時にハイヒールを脱げという指示を出すかもしれません。

 そして何より、乗っていた飛行機が今回よりひどく炎上している時は、シュートで降りてから猛ダッシュで逃げる必要が出ます。それも滑走路脇にある軟弱な芝生の上を走ることも多いにあるのです。

 

  いま一つのアドバイスは、機内でリラックスするために履き替えるスリッパについてです。スリッパの着用は、水平飛行中だけにしましょう。表題のクリティカル11とは、離陸時の3分と着陸時の8分に航空機事故が集中するので使われる言葉です。私はある時、自分のいた会社の社長とロンドンまで行く機会がありました。その方は機内に座るや否や靴を脱ぎ、備品のスリッパに履き替えたのです。その時私は、「上昇が終わるまでは靴のままでいたほうが安全ですよ」と言いました。理由は「クリティカル11」だからということです。

 離陸時がわずか3分で、着陸時は何故11分なのか。理由はスピードによる飛行機の安定性の違いです。離陸時は加速する必要からアクセル全開、パイロット用語で言えばフル・スロットルにして推力が増すため、飛行機は非常に安定します。それに対して着陸時はスロットルを絞りつつスピードをどんどん下げるため、飛行機は非常に不安定になり、その状態は結構長く続きます。特に危険なのは着陸までの11分と言われます。3分の上昇時とプラスしてクリティカル11分なのです。

 横風が強い状態でも着陸せざるを得ない場合、飛行機がフラフラしながら飛んでいるという体験をされた方もいらっしゃると思いますし、最近はその様子を動画に撮ってアップしている方もいますので、ご覧になった方も多いと思います。

 かつて機体にカメラが設置され、機内のモニターが前方を映していた時代は、その様子がよくわかりました。横風で着陸をする場合、パイロットは機体の向きを風が来る方向に少し向け、しかし機体は直進する状態を保とうとします。つまり機体の向きを滑走路とは違う方向に向かせるのです。すると機体が横にスライドしながら着地するという際どい状態になります。着陸時のスピードは250㎞―300㎞くらいあるのですが、後輪が着地したとたん、機体の向きが風の来る方向から滑走路と並行にグイと変わる瞬間があります。これぞパイロットの腕の見せ所です。

 そして強風で不安定だと着陸寸前にゴーアラウンドといって加速し直し、旋回をして着陸をやり直すということもままあるのです。そうした不安定状態にある飛行機はちょっとした気象条件などで事故に見舞われる可能性があるのです。

 

 ですので、みなさんもクリティカル11の間は靴を履いておいてください。以上、元JALからの飛行機旅行の心得でした。

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明けましたのに、おめでとうと言えなくて、残念です

2024年01月03日 | ニュース・コメント

 新年早々、なんという悲劇の連続でしょう。驚くとともに亡くなった方々の

ご冥福をお祈りします。

 

 昨日2日、夕方のNHKニュースで震災の映像を見ていたら、突然羽田空港の航空機火災事故に切り替わりビックリでした。JAL機の着陸時に爆発的火災が生じそのまま滑走路を走っているのを見て私は家内に、「あれはきっと離陸態勢に入っていた機材がいて、着陸機とクラッシュして炎上したに違いない。でないと着陸の瞬間にあんな爆発的火災など起きない」と即座に言いました。

 しかしニュースではしばらくは単独の火災事故だとの前提でアナウンスが進んでいました。NHKの記者が偶然能登地方に向かうために空港ロビーにいて、そこから局にレポートしていました。

 私が何故即座に単独事故でないと確信したかを説明します。着陸する機材も離陸する機材も当然向かい風に向かって同じ滑走路から離着陸します。着陸時は頭を上げ気味にし、お尻を低くし後輪を先に着地させてブレーキングします。すると頭が下がって前輪が着地します。その様子はみなさんも体験していると思います。

 着陸後の映像では、機首が無事であるのに爆発的発火が見られました。一般的に爆発的になるのは翼に積んである燃料に一度に着火するためです。ところが少なくとも左の翼はもげたりせずほぼ水平を保っていて、しかも翼端のランプが点滅していました。右翼からも爆発的火災は見えませんでした。ということは、別の機体にお尻がぶつかりそちらの燃料が爆発したのだと推定できたのです。

 

 これから様々な調査が行われると思いますが、私の推測は「海上保安庁機のミス」

 

 JAL機は東京湾に近づいて木更津上空に来るまでに当然着陸許可をもらっています。その後海側からC滑走路にアプローチしますが、滑走路がクリアーであることも確認しますので、ミスをする余地はありません。

 そして管制塔の管制官が、着陸許可と離陸許可を同時に出すこともあり得ない。当然海保機はアプローチの待機場所で待機せよと指令を出します。その後滑走路に向かえと指示を受け、右を見て着陸機の来ないことを確認しなければならず、今回はそれを怠ったに違いないのです。

 

 航空機のランディング・ライトは非常に明るくて遠方から見えます。私のマンションからでも20km先の羽田に木更津方面からアプローチしてくる旅客機のライトは、3つ、4つ、時には5つも見えるほどです。

 海保のパイロットがチラリとでも右を見れば、絶対に見えるハズ。非常に勝手な憶測ではありますが、パイロットミス以外の原因は考えられません。

 

 その後は消火活動をしている様子がテレビに映っていて、後方の窓から機内が燃え始めているのも見えました。しかし機外には消防士以外は見えませんでした。家内が「乗客はどうなったのだろう」と心配していましたが、私は「多分すでに脱出しているよ」と言いましたが、家内は「そんな早く逃げられるの?」とのこと。

 

 私はそのフライトが516便だと言っていたので、即座に「これは札幌発だ。1月2日の夕方着だと満席だろうね」。長年JALにいたので、フライトナンバーだけですぐに札幌発羽田行きの夕方便であることはわかるのです。5は東京=札幌間、最後の偶数は羽田への上り便を表すからです。

 

 何故旅客が脱出済だと推定したのか?

それは、旅客機というのはそもそも座席数にたいして満席の場合でも全員が90秒以内に脱出できるよう出口の数が決められていて、しかも全員の脱出を誘導できるだけの客室乗員を乗せているからです。

 みなさんも機内への搭乗が終わるとドアのそばのジャンプシートという席に乗員が後ろ向きに座るのをご存知でしょう。あれはいざという時に備えドアのそばに座るのです。しかも後ろ向きというのは飛行機がクラッシュした時に衝撃を背中で受けるため、怪我をしにくいからです。だったら全席そうすれば?という声が聞こえてきそうですが、さすがにそれはできません。景色が見にくいのと、飛行機は離陸時に10度から15度くらい機首を上げて上昇するため、後ろ向きだとつんのめるので足を踏ん張ることになって乗り心地が悪いからです。

 

 その昔JALに入社直後のことですが、地上勤務の社員も全員が飛行機からの脱出訓練を受けました。それも当時の主力機であるジャンボ機の2階席にあるドアから脱出シュートで降りるのです。高さは確かビルの4階程度だと言っていました。そこから滑り台で降りる、というより落ちるのを体験しました。 

羽田の近くにある訓練所のモックアップからシュートを出して行います。我々は服の上に整備員が着るジャンプスーツを着用し、軍手を付けて階段で上まで行き、客室乗員の指示に従ってシュートに向かって飛び降りました。勢いをつけて飛び降りないと途中で止まり後の人がつかえるから「勢いをつけろ」と言われました。女性社員は恐くてなかなか降りられない人もいました。

シュートは荒く目の強いナイロン製のため、降下中摩擦はかなりあり、手を出していると火傷をするほどです。強い素材でないと、靴のヒールで破いてしまうため強化されています。

社員は実際の事故を想定して訓練するので、降りたのちは後から来る乗客を安全地帯まで誘導しろと言われました。社員数が多いので、実際に客として事故機に乗り合わせる可能性はままあるのです。

今回の事故では火災が起きたあと乗客全員が無事に脱出したそうです。CAの誘導が非常に的確だったと思われます。機内はライトが落ちたとのこと。従ってマイクでのアナウンスはできないので、予備のメガホンを使い乗客を落ち着かせ、「慌てないでください。荷物を持たないでください」と言いながら、ドア付近で飛び降りるのを手伝ったのでしょう。それと客より早く降りて、上から来る乗客が立ち上がるのを手伝い、遠くに誘導する役目も負います。

ですが後で事故機の映像を見ると機首が低くなっていて、シュートは水平に近かったのでスムーズに滑り降りることはできず、きっと脱出時間は相当程度かかったと思われます。

 

いやー、後輩たち、本当に「グッジョブ!」。 お見事でした。

 

 あの燃える機体から無事にみなさんが脱出できたのは本当に幸いでした。海保機の乗員の方はお気の毒で、ご冥福をお祈りします。パイロットの方は重症だそうですが、証言はできそうです。今後のために事故原因が特定されることを祈ります。

 

 

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