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プーチン負けたり

2023年07月16日 | ロシアのウクライナ侵攻

 NATOの首脳会議が終わりました。ウクライナ側は加入が認められず、将来の期限も示されなかったことに不満を表明していますが、現段階では逆に期限なしの支援継続をとりつけたことをよしとすべきでしょう。

 バイデン大統領は会議後の会見で「プーチンはすでに負けている」と述べています。

7月13日のCNNからの引用です。

 

引用

 バイデン米大統領は7月13日、訪問先のフィンランドで記者会見し、ロシアのプーチン大統領はウクライナでの戦争に「すでに負けた」と述べ、戦争は何年も続かないとの考えを示した。

報道陣からウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への加盟がただちに認められないことはプーチン氏を大胆にさせる可能性があるかと問われたバイデン氏は「プーチン氏がウクライナでの戦争に勝つ可能性はない。すでに負けている」と答えた。

バイデン氏は、「ロシアはリソースをそれほど長く維持できないため、ウクライナでの戦争が何年も続くとは考えていない」と発言。また、「プーチン氏がゆくゆくは経済や政治などの観点からロシアにとって戦争は利益にはならないと判断するだろう」と指摘した。

バイデン氏は、ウクライナ軍が現在展開している反攻で前進し、交渉による解決につながることを望んでいると述べた。

引用終わり

 

 この発言、私は実に現在の状況について的を射ていると思います。

 そもそも開戦当初3日もあればウクライナ全土を手中に収められるという大きな見込み違いで始めた侵略戦争でしたが、1年以上たっても占領地は全土の2割に満たない面積でしかありません。侵略開始当初、北部からキーウに至る地域をロシアが占領しましたが、それらすべてをウクライナは奪還しています。

 キーウに対して今は遠方からミサイルなどで民間人を殺りくする以外、攻撃はできていません。しょせん遠吠えにすぎません。そして東部や南部でも防戦のみで、占領地を拡大できていません。ウクライナ側も反撃の効果は考えていたほど順調ではないとおもいますが、プーチンの計算違いはけた違いです。

 

 その上、東部の激戦地で戦っていたワグネルに武器弾薬を供給できずに、最も勇猛果敢なワグネル部隊を失ってしまいました。ウクライナも弾薬の補充をNATOの国々に要求していますが、ロシアの弾薬不足はもっと厳しいに違いなく、アメリカの情報機関を統括するヘインズ国家情報長官はすでに5月、議会上院の公聴会で、「ロシアは弾薬不足から防御しかできない」と指摘していました。戦況はまさにそのとおりに進んでいるように思えます。こうしたこともバイデンの「プーチンはすでに負けている」の裏付けの一つでしょう。

 

 そしてバイデンが言っている「ロシアにとって戦争は利益にならない」というのもそのとおりで、プーチンも引くに引けないことにさぞかし焦りを感じているでしょう。そもそも自らの野心で始めた戦争で、クリミアの2匹目の大きなドジョウを狙ったものの、ドジョウどころかウツボが出てきて噛まれたのです。世界でプーチンを表立って支持しているのは、同病相哀れむベラルーシのルカシェンコくらいです。

 

 そもそもこの戦争の違法性を、日本のウクライナ大使館はHPで以下のように指摘しています。たくさんありますが、そのまま引用します。https://japan.mfa.gov.ua/ja/news/62845-10-faktiv-pro-zbrojnu-agresiju-rosiji-proti-ukrajini

 

引用

ロシアはウクライナに武力侵攻し、国際法、二国間、多国間合意の基本的規範と原則に違反した。ロシアは、ウクライナへの武力侵攻という形で、以下に示す国際法の基本的規範と原則に違反した。

- 国連憲章(1945年)

- ヘルシンキ最終法(1975年)

- 国際連合憲章に従った諸国間の友好関係及び協力についての国際法の原則に関する宣言(1970年)

- 国連総会決議3314「侵略の定義」(1974年)

- 国家の国内問題への干渉の非許容性および国家の独立と主権の保護に関する宣言(1965年)

- 国家の国内問題への干渉および介入の非許容性に関する宣言(1981年)

- 国際関係における武力による威嚇又は武力の使用を自制する原則の効果の向上に関する宣言(1987年)

さらに、ロシアは以下に示す二国間協定や多国間協定に違反した。

- ウクライナの核不拡散条約加盟に関連する安全保障に関するブダペスト覚書(1994年)

- ウクライナとロシア連邦間の友好、協力、パートナーシップに関する合意(1997年)

- ウクライナとロシア連邦間のウクライナ-ロシア国境の合意(2003年)

- ウクライナとロシア連邦間のアゾフ海とケルチ海峡使用の協力に関する協定(2003年)

- ウクライナとロシア連邦間のウクライナのロシア黒海艦隊の地位と状態に関する合意(1999年)

ロシアの占領およびその後のクリミアとセヴァストポリの併合の試み、ドンバスにおけるロシアの違法行為は、国連総会決議「侵略の定義」(3314(XXIX))の附則3条а), b), c), d), e) ,g)に定めた侵略の定義に該当する。以下の行為は、国際平和に対する重大な犯罪であり、ロシア連邦は国家レベルの国際的責任を負い、ロシア指導部は国際的な刑事責任を負うものである。

引用終わり

 

 大使館によるこの指摘は国際的に十分に通用するもので、ロシアの主張はほぼすべてが虚偽で、戦闘行為は違法です。

 オランダのハーグに本部を置く国際刑事裁判所はすでに3月、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、プーチンに逮捕状を出しています。ロシアが占領したウクライナから子どもたちをロシアへと不法に移送し洗脳している容疑です。プーチンはこれによりプーチン側に立たない国々へ行くことができなくなっています。

 

以上、「プーチン負けたり」でした。

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どうするプーチン3

2023年06月29日 | ロシアのウクライナ侵攻

  残念ながらプリゴジンはあっけなく進軍を止めて退却し、ベラルーシに亡命しましたね。ロシア軍のウクライナ侵攻の拠点基地をいとも簡単に制圧し、住民から歓迎を受けたにもかかわらず、何故モスクワまで200km地点まで行って進軍を突然停止したのか、徐々に真相が明らかになりつつありますね。200km地点はロシア軍の首都防衛線だったとのことですが、それはともかく、ベラルーシのルカシェンコが彼を説得したという話は彼自身による説明からしても信憑性が高そうです。

  そもそもモスクワに進軍してロシア軍と正面衝突した場合、勝利することは不可能でしょう。たった一つ芽があるとすれば、多数のロシア軍勢がプリゴジン側に付くということでしょうが、その見込みが立たなかった。それとFSB(元のKGB)がワグネル幹部の家族を殺害するぞという脅しをかけて進軍を止めさせたとも言われています。

 また途中まで多少の反撃しか受けずに進軍が可能だったのは、ロシア軍の最上層部でプリゴジンと通ずるものがいて、軍に反撃命令を出さなかったと言われています。NYタイムズは「プリゴジンへの内通者は例の狂暴なる指揮官スロビキンだ」と名指ししています。今後プーチンが上層部の誰を粛清するかでそれは判明するにちがいない。

 

 プーチンはとりあえずほっとしているでしょうが、彼の絶対的権力に陰りが出たことは事実として尾を引くに違いない。だからと言って来年の選挙で有力候補が出る余地はないでしょう。よしんば出たとしてもまともな選挙など行われないため、プーチンの一方的勝利で終わるに違いない。

 そもそもプーチン体制に反旗を翻せば、それだけで禁固15年という法律を作ったし、10年くらい前から報道管制が敷かれ、反政府的報道機関はすべて潰されています。つまり反プーチンの意見表明をする場すらない。それは先のトルコ大統領選と同じ。エルドアン以外の候補者の主張など一切報道されずにまともな選挙とはほど遠い選挙でした。

 プーチンはこれまでも反対勢力の有力者はすべて投獄、あるいは暗殺してきました。プリゴジンもいずれは同じ目に遭うでしょう。ベラルーシはロシア同様の独裁体制ですから、暗殺されても誰が暗殺したかなど調査のしようもないのですから。

 

 そして私の将来予想は、「オレ様独裁者は並び立たず」です。プリゴジンしかり、ルカシェンコもプーチンと並ぶオレ様独裁者ですから、いずれはぶつかり合うに違いない。

 

  気の毒なのはワグネルの軍人やプリゴジンと握手したり歓迎したロシア人です。動画で撮影された証拠があるので、いずれFSBによる投獄や拷問が待っています。

 

  それでも我々外部の人間が多少でも光明を見いだせたのは、そのような反プーチンの一般人が実は多数存在し、実際に行動に出たという事実です。それだけはフェイクなどではなく、厳然とした事実です。今後ワグネルを失ったロシア軍は徴兵を強化し、戒厳令すら出すかもしれません。それが逆に本格的反プーチン運動につながるかもしれません。それを首を長くして期待しましょう。

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どうするプーチン 2

2023年06月24日 | ロシアのウクライナ侵攻

  プリゴジンが牙をむき、プーチンが本気で怒っていますね。

いよいよ内戦かと思わせるほどのののしり合いが始まりました。そもそも日本で報道されているプリゴジンの枕詞、「プーチンの料理人」。そしてレストランの経営者で財を成した、という決まり文句は全くの間違いです。

 ちょっと考えれば、そんなことで5万人以上の軍人と武器を調達し実戦投入なんかできっこないことはわかります。実際には彼の経済力の源は、アフリカなど国内で混乱を極める国々の独裁者に軍事的支援をし、見返りとして資源の利権を得て莫大な財をなしているのです。

 今回の反乱は、私が5月4日の投稿で指摘したプリゴジンの反プーチン的言動がいよいよ言葉から実際の行動に移されたものだと思われます。

 そこでまず5月4日の投稿を再掲しておきます。

5月4日 投稿

タイトル;どうするプーチン、ワグネル・プリゴジンの驚くべき声明

再掲

やっと今頃になってロシアの民間軍事会社ワグネルのプリゴジン氏の「悲痛な叫び」が報道されるようになりました。

 私が最初にそれをTVで見たのは4月中旬テレビ朝日の番組ワイドスクランブルでした。日本ではそれ以外の報道はあまり見かけませんでしたし、欧米のメディアもプリゴジンの泣き言など信用できないとか、自己アピールのプロパガンダという評価が多く、報道はほとんどされていませんでした。

 しかし私はプーチンに反旗を翻したとも取れる声明を、ウソや冗談で語るとは思えず、いつかはこれを投稿しようとため込んでいました。その内容をサンケイニュース4月15日から引用します。

引用

ロシアによるウクライナ侵略で、露軍側で参戦している露民間軍事会社「ワグネル」トップのプリゴジン氏は14日、「プーチン政権は軍事作戦の終了を宣言すべき時だ」とする声明を交流サイト(SNS)上で発表した。同氏はまた、露軍は「東部ドネツク州全域の制圧」とする主目標を達成できそうもない上、ウクライナ軍の反攻で敗北する可能性があるとも警告した。

ワグネルの部隊は最激戦地の東部ドネツク州バフムトを巡る攻防で露軍側の主力を担当。プリゴジン氏は、露軍側の戦力低下を認識し、作戦の終結を求めた可能性がある。ただ、プーチン政権は「軍事作戦は目標達成まで続ける」としており、現時点で停戦に動く可能性は低いとみられる。

プリゴジン氏は声明で、ロシアはウクライナ領の重要地域を占領し、露本土と実効支配するクリミア半島を結ぶ陸路も確保するなど十分な「戦果」を達成したと指摘。侵攻開始から1年に当たる今年2月24日時点の前線を停戦ラインとすべきだと主張した。停戦しない場合、露軍はウクライナ軍の反攻で占領地域を奪還され、威信も失う恐れがあると指摘。「ウクライナはかつてロシアの一部だったかもしれないが、今は国民国家だ」とも述べ、「ウクライナはロシアの一部だ」とするプーチン露大統領の持論に暗に異を唱えた。

引用終わり

  この声明ではプーチンが侵略の根拠としている「ウクライナはロシアの一部だ」という歴史認識を事実上否定し、戦線の膠着は今後敗北につながるとまではっきりと言っていました。SNSテレグラムを使ったこの声明自体、国家反逆罪で終身刑に値する犯罪行為です。これを取り締まれないということは、「プーチンにはオレ様を逮捕する力はない」と言っているに等しいのです。

 彼は4月末になってさらに以下のような声明を出しました。4月30日、TBSのニュースサイトから引用します。

引用

東部の要衝、バフムトで激しい戦闘が続く中、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者は、「ロシア軍が弾薬供給で協力しなければ前線を離脱する」と述べました。
複数の独立系メディアによりますと、ウクライナへの軍事侵攻で戦闘員を送っているワグネルの創設者・プリゴジン氏は29日に公開された軍事評論家のインタビューで、「ワグネルへの弾薬供給の問題をめぐりロシアのショイグ国防相に対し最後通牒として手紙を送った」と明らかにしました。
4月28日までに問題が解決されなければ、ウクライナ東部の要衝バフムトを去るとしています。
インタビューでプリゴジン氏はワグネルについて「間もなく存在しなくなる」とも語っています。また、プリゴジン氏はウクライナ側の反転攻勢が5月15日までに開始されるとの見方を示したうえで、ロシアにとって「壊滅的な結果をもたらす可能性がある」と指摘しています。
プリゴジン氏は、今年2月にもワグネルに弾薬が十分に供給されていないとショイグ国防相らを批判していました。

引用終わり

 

  主力軍の司令官がこれほどの弱音を吐くというのは、プーチン政権に対する積年の恨みを込めた声明にも思えます。2度目の声明となると、さすがに日本のメディアも注目せざるを得なくなり、あわてて報道を始めていますね。一方アメリカではこうした流れに呼応するように、報道官から以下の声明が流されました。

5月1日のロイター電です。

引用

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は1日、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトでの戦いでロシア軍の死傷者は過去5カ月間で10万人に上るとする米情報機関の推計を明らかにした。

カービー氏は記者団に対し、このうち死者数は2万人を超え、その半数はロシアの民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員と見られると語った。その上で、ロシアは軍事備蓄や軍部隊を使い果たしたとし、「ロシア軍が主にバフムトで試みた攻勢は失敗に終わった」と指摘。「ロシアは実質的に戦略的かつ重要な領土を掌握することはできなかった」と述べた。

さらに、ロシア軍がバフムトで達成した一定の前進は「ひどい犠牲」を伴ったとし、10万人を超える12月以降の死傷者数については、第2次世界大戦のガダルカナルの戦いにおける米軍の死傷者数の3倍に相当すると述べた。

また、同地域におけるウクライナの防衛は引き続き強力としたほか、米政権が新たなウクライナ向け軍事支援パッケージを近く発表すると見通しとした。

引用終わり

 まさか太平洋戦争でのガダルカナル戦が比較として出てくるとは驚きです。そしてまた5月4日に3回目となるプリゴジンの非難がクレムリンに対して行われました。「ワグネルが消滅したら、クズ官僚のせいだ」。この悲痛な叫びともいえる牽制にプーチンは反論もせず、さしたる反応すら示していません。打つ手を持たない証拠でしょう。

 それとともにロシア国内ではテロ行為とおぼしきカフェでのプーチン支持派の爆殺や列車の転覆、そして燃料施設の爆破などが続いています。極めつけは、5月4日、遂に無人機でクレムリンを攻撃したとのニュースが入りました。ウクライナは犯行を認めていません。

 それでもクリミア半島セバストポリの軍事燃料施設を大規模に破壊したり、ウクライナに近いロシア側で貨物列車が別々に2回、爆発装置で爆破され脱線する大きな事故が起きています。すべてをひとくくりにはできないと思いますが、ロシアの占領地を含む内部構造は、意外にもろい可能性があります。

 クレムリンを2機のドローンで攻撃した件について、日本の軍事専門家は午前3時という時間を考え、またスピードの遅いドローンを早めに迎撃できていないことを理由に、ウクライナからの攻撃ではなく、自作自演、あるいはワグネルの実行説を指摘しています。5月9日第2次大戦の戦勝記念日にプーチンが姿を見せれば、自作自演説も有力になるでしょう。彼は暗殺を極端に恐れていますので、ウクライナ側、あるいはロシア国内の反プーチン派の攻撃であれば、出てこれないはず。クレムリンへのドローン攻撃が自作自演か否かが判明するかもしれません。

 今後西側からの最新型戦車やハイマース、ミサイルを迎撃するパトリオットなどの武器を支援してもらったウクライナの5月攻勢に期待したいところです。ゼレンスキー大統領も近日中の反転攻勢を語ってはいますが、5月2日のTV朝日のワイドスクランブルで解説していた東大先端科学技術研究センター講師の小泉悠氏は、「それほど簡単ではないはない」と解説していました。彼は昨年の侵略直後から頻繁にTVに出演していますが、海外からの情報を多くつかみ、いつも的確な見通しを知らせてくれます。反転攻勢が簡単ではない理由の一つは、戦車の台数が見込みより少なく、弾薬なども十分とは言えないからとのこと。

 いよいよ地面が乾いてくる5月に入ったため、私はウクライナの反転攻勢に期待したいと思います。

 さー、どうするプーチン?

再掲終わり

 

 いよいよ尻に火が付いたプーチンですが、はたして本当に内戦状態にまでなるのか、逆に雨降って地固まるのか。

 今回のののしり合いは単なる言葉の応酬だけではないように思われますので、しっかりとフォローしていきましょう。もちろん私の希望的観測はプリゴジン・ワグネルのモスクワ侵攻です。それで勝てずとも、プーチンに重大な危機をもたらすだけでもウクライナには大きな支援材料になります。

 

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ダム崩壊はどちらの仕業か

2023年06月10日 | ロシアのウクライナ侵攻

 ウクライナのダムの決壊問題が深刻かつ大きな問題になっていますね。ウクライナとロシア双方にとって直接の洪水被害は甚大だし、南部のロシア占領地帯に攻勢をかけるための支障にもなるため、とても心配です。

 お互いに責任のなすり合いをしていますが、ウクライナ側もロシア側も自分たちは真相を知っている可能性はあります。なぜなら自分たちが実行したかしないかはわかっている。であれば、自動的に相手がやったか否かもわかるからです。私自身はどちらが実行したのか、もちろんわかりませんが、一つ考慮すべきなのは、事故や老朽化による崩壊かもしれないということです。

 6月6日のダム崩壊以降、多くの報道で様々な角度から分析が行われていますので、それを参考にしながら分析を試みます。

 ダムの完成は1956年とかなり古いもので、貯水湖は全長が240㎞、幅は広いところで23㎞、面積はなんと琵琶湖の3倍もあります。貯水量は日本全体の1年分の水を賄える量だそうです。

 破損したのは水門部分、つまり発電所部分です。私が注目したのは、5月28日、決壊前の画像と、決壊前日6月5日一部分決壊の比較写真です。まだ6月6日の大きな決壊にはいたっていませんが、ダムの上にある道路が破損して道路は寸断、水が流れ込み始めていました。それがアリの一穴となり、翌日の大崩壊につながったとすると、自然崩壊説もかなりの説得力を持ちます。

 その後の西側の分析によると、ダムの崩壊時点で爆発によると思われる地面の振動を観測したそうですが、一方で発電機が爆発したという分析もでています。しかし最も確かなのは5月28日と6月5日の写真による一部崩壊ですので、私にはどうも自然崩壊説が有力に思われます。

 では、今回の浸水被害での損得はどうか。洪水による住宅地・農地の被害面積は、日本の全農地の10分の1にも相当するということですので、ウクライナという国の大きさに驚きます。ちなみに国の面積は60万平方キロ、日本は37万平方キロなので、1.6倍もあり、しかもほとんどがフラットな可耕地です。いわゆる豊かな黒土地帯の大きな部分を占めています。そのためか崩壊後一瞬、シカゴ市場で小麦の先物価格が上昇していましたが、さほど大きな上昇ではなく、むしろその後値を戻していました。

 衛星画像による分析では今回の洪水予想面積は、ウクライナ側1とするとロシアの占領地区はおよそ2~3倍で、影響はロシア側の方がかなり大きいのです。それとロシア軍部隊の一部が洪水に飲み込まれたという情報もありました。するとウクライナの仕業か?しかし一方、ウクライナの攻勢を防御するために、ロシアは占領地帯の外側を泥沼にして進軍を防ぐことは有効であるといわれ、ロシアの仕業かともとれます。

 どちらにしろ洪水で被害を受けている地域に住む住人にとっては大きな災害であることに間違いありません。

 

 そして絶対に許せないのは、ロシア軍がウクライナ側の洪水被災者の避難所を攻撃し、死者まで出したことです。まさにプーチンとその軍隊の残虐ぶりを体現する悪魔の所業です。

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どうするプーチン、ワグネル・プリゴジンの驚くべき声明

2023年05月04日 | ロシアのウクライナ侵攻

 やっと今頃になってロシアの民間軍事会社ワグネルのプリゴジン氏の「悲痛な叫び」が報道されるようになりました。

 私が最初にそれをTVで見たのは4月中旬テレビ朝日の番組ワイドスクランブルでした。日本ではそれ以外の報道はあまり見かけませんでしたし、欧米のメディアもプリゴジンの泣き言など信用できないとか、自己アピールのプロパガンダという評価が多く、報道はほとんどされていませんでした。

 しかし私はプーチンに反旗を翻したとも取れる声明を、ウソや冗談で語るとは思えず、いつかはこれを投稿しようとため込んでいました。その内容をサンケイニュース4月15日から引用します。

引用

ロシアによるウクライナ侵略で、露軍側で参戦している露民間軍事会社「ワグネル」トップのプリゴジン氏は14日、「プーチン政権は軍事作戦の終了を宣言すべき時だ」とする声明を交流サイト(SNS)上で発表した。同氏はまた、露軍は「東部ドネツク州全域の制圧」とする主目標を達成できそうもない上、ウクライナ軍の反攻で敗北する可能性があるとも警告した。

ワグネルの部隊は最激戦地の東部ドネツク州バフムトを巡る攻防で露軍側の主力を担当。プリゴジン氏は、露軍側の戦力低下を認識し、作戦の終結を求めた可能性がある。ただ、プーチン政権は「軍事作戦は目標達成まで続ける」としており、現時点で停戦に動く可能性は低いとみられる。

プリゴジン氏は声明で、ロシアはウクライナ領の重要地域を占領し、露本土と実効支配するクリミア半島を結ぶ陸路も確保するなど十分な「戦果」を達成したと指摘。侵攻開始から1年に当たる今年2月24日時点の前線を停戦ラインとすべきだと主張した。停戦しない場合、露軍はウクライナ軍の反攻で占領地域を奪還され、威信も失う恐れがあると指摘。「ウクライナはかつてロシアの一部だったかもしれないが、今は国民国家だ」とも述べ、「ウクライナはロシアの一部だ」とするプーチン露大統領の持論に暗に異を唱えた。

引用終わり

  この声明ではプーチンが侵略の根拠としている「ウクライナはロシアの一部だ」という歴史認識を事実上否定し、戦線の膠着は今後敗北につながるとまではっきりと言っていました。SNSテレグラムを使ったこの声明自体、国家反逆罪で終身刑に値する犯罪行為です。これを取り締まれないということは、「プーチンにはオレ様を逮捕する力はない」と言っているに等しいのです。

 彼は4月末になってさらに以下のような声明を出しました。4月30日、TBSのニュースサイトから引用します。

引用

東部の要衝、バフムトで激しい戦闘が続く中、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者は、「ロシア軍が弾薬供給で協力しなければ前線を離脱する」と述べました。
複数の独立系メディアによりますと、ウクライナへの軍事侵攻で戦闘員を送っているワグネルの創設者・プリゴジン氏は29日に公開された軍事評論家のインタビューで、「ワグネルへの弾薬供給の問題をめぐりロシアのショイグ国防相に対し最後通牒として手紙を送った」と明らかにしました。
4月28日までに問題が解決されなければ、ウクライナ東部の要衝バフムトを去るとしています。
インタビューでプリゴジン氏はワグネルについて「間もなく存在しなくなる」とも語っています。また、プリゴジン氏はウクライナ側の反転攻勢が5月15日までに開始されるとの見方を示したうえで、ロシアにとって「壊滅的な結果をもたらす可能性がある」と指摘しています。
プリゴジン氏は、今年2月にもワグネルに弾薬が十分に供給されていないとショイグ国防相らを批判していました。

引用終わり

 

  主力軍の司令官がこれほどの弱音を吐くというのは、プーチン政権に対する積年の恨みを込めた声明にも思えます。2度目の声明となると、さすがに日本のメディアも注目せざるを得なくなり、あわてて報道を始めていますね。一方アメリカではこうした流れに呼応するように、報道官から以下の声明が流されました。

5月1日のロイター電です。

引用

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は1日、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトでの戦いでロシア軍の死傷者は過去5カ月間で10万人に上るとする米情報機関の推計を明らかにした。

カービー氏は記者団に対し、このうち死者数は2万人を超え、その半数はロシアの民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員と見られると語った。その上で、ロシアは軍事備蓄や軍部隊を使い果たしたとし、「ロシア軍が主にバフムトで試みた攻勢は失敗に終わった」と指摘。「ロシアは実質的に戦略的かつ重要な領土を掌握することはできなかった」と述べた。

さらに、ロシア軍がバフムトで達成した一定の前進は「ひどい犠牲」を伴ったとし、10万人を超える12月以降の死傷者数については、第2次世界大戦のガダルカナルの戦いにおける米軍の死傷者数の3倍に相当すると述べた。

また、同地域におけるウクライナの防衛は引き続き強力としたほか、米政権が新たなウクライナ向け軍事支援パッケージを近く発表すると見通しとした。

引用終わり

 

 まさか太平洋戦争でのガダルカナル戦が比較として出てくるとは驚きです。そしてまた5月4日に3回目となるプリゴジンの非難がクレムリンに対して行われました。「ワグネルが消滅したら、クズ官僚のせいだ」。この悲痛な叫びともいえる牽制にプーチンは反論もせず、さしたる反応すら示していません。打つ手を持たない証拠でしょう。

 それとともにロシア国内ではテロ行為とおぼしきカフェでのプーチン支持派の爆殺や列車の転覆、そして燃料施設の爆破などが続いています。極めつけは、5月4日、遂に無人機でクレムリンを攻撃したとのニュースが入りました。ウクライナは犯行を認めていません。

 それでもクリミア半島セバストポリの軍事燃料施設を大規模に破壊したり、ウクライナに近いロシア側で貨物列車が別々に2回、爆発装置で爆破され脱線する大きな事故が起きています。すべてをひとくくりにはできないと思いますが、ロシアの占領地を含む内部構造は、意外にもろい可能性があります。

 

 クレムリンを2機のドローンで攻撃した件について、日本の軍事専門家は午前3時という時間を考え、またスピードの遅いドローンを早めに迎撃できていないことを理由に、ウクライナからの攻撃ではなく、自作自演、あるいはワグネルの実行説を指摘しています。5月9日第2次大戦の戦勝記念日にプーチンが姿を見せれば、自作自演説も有力になるでしょう。彼は暗殺を極端に恐れていますので、ウクライナ側、あるいはロシア国内の反プーチン派の攻撃であれば、出てこれないはず。クレムリンへのドローン攻撃が自作自演か否かが判明するかもしれません。

 今後西側からの最新型戦車やハイマース、ミサイルを迎撃するパトリオットなどの武器を支援してもらったウクライナの5月攻勢に期待したいところです。ゼレンスキー大統領も近日中の反転攻勢を語ってはいますが、5月2日のTV朝日のワイドスクランブルで解説していた東大先端科学技術研究センター講師の小泉悠氏は、「それほど簡単ではないはない」と解説していました。彼は昨年の侵略直後から頻繁にTVに出演していますが、海外からの情報を多くつかみ、いつも的確な見通しを知らせてくれます。反転攻勢が簡単ではない理由の一つは、戦車の台数が見込みより少なく、弾薬なども十分とは言えないからとのこと。

 いよいよ地面が乾いてくる5月に入ったため、私はウクライナの反転攻勢に期待したいと思います。

 

 さー、どうするプーチン?

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