選挙直前のこの時期に、これだけはっきりと「このままでは国家財政は破綻する」と財務省次官が発言するとは驚きですね。しかもそれに対して経済団体の首脳までが「そのとおりだ!」と述べていますし、私も当然そのとおりだと思います。
各党の選挙公約を見て、よほど腹に据えかねたのでしょう。各党の選挙公約はバラマキ一色で、財政的裏付けなど一切なし。いや、すべて国債発行でまかなうとなっています。
しかし今回の選挙に関する意識調査を見ると、選挙民は決して愚民ではありません。10月15日の読売新聞ニュースによると、政府の経済政策について「国の借金が増えても経済対策を優先すべきだ」と「国の借金が増えないよう財政再建を優先すべきだ」のどちらに考えが近いかを聞くと、「財政再建を優先」が58%で、「経済対策を優先」は36%だったのです。
矢野事務次官の発言は文芸春秋のインタビューで出てきた内容ですが、実際の記事のサマリーが文春のサイトに行くと見られます。直接お読みになりたい方は、以下の文春オンラインにありますが、以下にそれを引用しておきます。
https://bunshun.jp/articles/-/49082?page=2
引用
タイトル;「このままでは国家財政は破綻する」矢野康治財務事務次官が“バラマキ政策”を徹底批判
本文サマリー;
「もちろん、財務省が常に果敢にモノを言ってきたかというと反省すべき点もあります。やはり政治家の前では嫌われたくない、嫌われる訳にはいかないという気持ちがあったのは事実です。政権とは関係を壊せないために言うべきことを言わず、苦杯をなめることがままあったのも事実だと思います。
財務省は、公文書改ざん問題を起こした役所でもあります。世にも恥ずべき不祥事まで巻き起こして、『どの口が言う』とお叱りを受けるかもしれません。私自身、調査に当たった責任者であり、あの恥辱を忘れたことはありません。猛省の上にも猛省を重ね、常に謙虚に、自己検証しつつ、その上で『勇気をもって意見具申』せねばならない。それを怠り、ためらうのは保身であり、己が傷つくのが嫌だからであり、私心が公を思う心に優ってしまっているからだと思います。私たち公僕は一切の偏りを排して、日本のために真にどうあるべきかを考えて任に当たらねばなりません」
矢野康治氏
“破滅的な衝突”を避けるためには……
「昨今のバラマキ的な政策論議は、実現可能性、有効性、弊害といった観点から、かなり深刻な問題をはらんだものが多くなっています。それでも財務省はこれまで声を張り上げて理解を得る努力を十分にして来たとは言えません。そのことが一連のバラマキ合戦を助長している面もあるのではないかと思います。
先ほどのタイタニック号の喩えでいえば、衝突するまでの距離はわからないけれど、日本が氷山に向かって突進していることだけは確かなのです。この破滅的な衝突を避けるには、『不都合な真実』もきちんと直視し、先送りすることなく、最も賢明なやり方で対処していかねばなりません。そうしなければ、将来必ず、財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかかってきます」
国家財政をあずかる現役トップ官僚の告発「財務次官、モノ申す 『このままでは国家財政は破綻する』」全文は「文藝春秋」11月号(10月8日発売)に掲載される。
引用終わり
この発言に対して政治家、経済学者などこころある方々は賛成の意を表しています。一方いつもの「国家は破綻しない」派の面々がいつもの根拠のない反論を試みています。私から見ると反論に有効打は見当たりませんでした。
代表例は、
1.国内債務で破綻した国はない。円建て債務なので返済は可能である
2.日本国は売る資産をたくさん保有している
3.日本は経常黒字国で、債権国だ
というような具合です。
では上記の議論に私が反論して差し上げましょう。
1の「国内債務で破綻した国はない。国債は円建て債務なので返済は可能である」と、2の「日本国は資産をたくさん保有しているので売れば返済可能である」をまとめて反論します。日本はもちろん破綻した経験があります。
そもそもこうした「破綻しない派議論」は、国債などの利払いができなくなった時の経済状態がどうなっているか、またその時為替レートはどうなっているかの議論を避けています。
日本を含め過去に破綻したどの国も同じですが、破綻する時はその国だけでなく世界経済が大恐慌に陥ったり、為替レートが乱高下したり株式市場が混乱して閉鎖されたりします。日本の敗戦直後45~46年、97年のアジア通貨危機の時のアジア諸国、同時期のロシアなどがそれにあたります。
日本の為替レートは1ドルに対して明治の初めは1円程度、第2次大戦前の40年には4円程度、戦後49年に一気に360円となった歴史があります。つまりたとえ国家は債務返済をしたとしても、返済される時の通貨価値は何分の1,いや何百分の1になりえます。であれば、それは支払い不能と同じです。
経済的大混乱は株式や不動産価値の大暴落を伴うこともよくあることです。そのような破綻国家の資産を誰が買うのでしょうか。日本人はもちろん、海外投資家も見放すに違いない。つまり国家に資産があっても価格は暴落し続け、あてにできないのが国家破綻時の資産価値です。例えば日本政府保有の国有企業の株式や国道・橋・堤防などはもちろんだれも買いません。収入を上げられる港湾施設・空港・高速道路などは買いの手が出てくる可能性はなきにしもあらずですが、高齢化が進み経済発展の見込めない国の施設に買いの手が入るかは極めて怪しいのです。買われるときはとんでもない安値になっている可能性が大です。
その3.「日本は経常黒字国で、債権国だから大丈夫だ」という議論、これは国が民間企業や投資家の資産を収奪するということです。
そもそも経常黒字を作り出したのは民間企業で、その黒字を海外や国内に蓄積しているのもその企業です。国ではありません。それなのに国が赤字を垂れ流した後始末をどうやって企業に負担させるのでしょう。国家の命令で内部留保を収奪する以外に方法はありません。そんな事態が予想されれば、みなさんはどうしますか。もちろんどうやって自分の資産や会社の資産を隠すか、あるいは逃避させるかを考えますよね。みんながそうした行動を取れば、その頃には円はさらに暴落していることでしょうし、その前に海外投資家は先物を売りたたいて、あらゆる市場であらゆる日本の資産価格を暴落させるに違いないのです。ロシアなどの破綻国家はそれを経験しています。
この私の議論、著書でも書いているしブログでも何度も書き、講演会でも何度も説明しました。しかしそれに対する有効な反論を受けたことはありません。相手にされていないのかも(笑)。
私は逃げも隠れもしません、いつでも受けて立ちますので遠慮なくカウンターパンチを繰り出してください(笑)。
ちなみにGDP対比で現在の国家債務とちょうど同じ240%のレベルに達していた戦時の国家債務を、戦後日本政府はどう処理したのでしょう。もちろんすべてロハにしていますが、実に姑息な手段でデフォルトではないと主張していました。その手口は以下を参照してください。一口に言えば「国民の預金を封鎖して召し上げ、国家の債務を税金として奪い取り返済したことにした」。それを研究者が歴史の経緯として説明していますので、興味のある方は以下をお読みください。ちょっと長いですが、さほど難しことはかいてありません。将来の参考になりますよ。
日本総合研究所調査部主任研究員河村小百合氏によるレポート
引用
昭和21年10月19日には、「戦時補償特別措置法」が公布され、いわば政府に対する債権者である国民に対して、国側が負っている債務金額と同額の「戦時補償特別措置税」が賦課された(図表5)。これは、わが国の政府として、内国債の債務不履行は回避したものの、国内企業や国民に対して戦時中に約束した補償債務は履行しない、という形で部分的ながら国内債務不履行を事実上強行したものである。そしてこれも、国民の財産権の侵害を回避すべく、「国家による徴税権の行使」という形であった。
政府の戦時債務の不履行や、旧植民地・占領地における対外投資債権請求権の放棄等により、企業、ひいては民間金融機関の資産も傷み債務超過となった。このため同じ10月19日には、「金融機関再建整備法」および「企業再建整備法」も公布された。これを受け、民間金融機関等の経営再建・再編に向けての債務切り捨ての原資として第二封鎖預金が充当された(実施は昭和23年3月、図表6)。要するに、債務超過状態を解消するために、本来であれば国が国債を発行してでも調達すべき、民間金融機関に投入する公的資金を、国民の預金の切り捨てで賄ったのである。
国債が国として負った借金である以上、国内でその大部分を引き受けているケースにおいて、財政運営が行き詰まった場合の最後の調整の痛みは、間違いなく国民に及ぶ、という点である。一国が債務残高の規模を永遠に増やし続けることはできない。「国債の大部分を国内で消化できていれば大丈夫」では決してないのだ。
無論、世界大戦の敗戦国という立場に陥り、社会全体が混乱のさなかにあった当時と、平時の現在とは状況が全く異なる。政府債務残高の規模が、当時とほぼ並ぶGDP比250%の規模に達したからといって、すぐに財政破たんするというものでもなかろう。しかしながら、国債の大半を国内で消化するという現在の状況は終戦当時に通じるし、現時点で債務の膨張に歯止めがかかる見通しは全く立っていない。
今後のわが国が、市場金利の上昇等により、安定的な財政運営の継続に行き詰まった場合、それが手遅れとなれば、終戦後に講じたのと同様の政策を、部分的にせよ発動せざるを得なくなる可能性も皆無ではなくなろう。この点こそを、現在のわが国は、国民一人一人が、自らの国の歴史を振り返りつつ、しっかり心に留めるべきである。
引用終わり
大変興味深い歴史の考察です。こうした政府による姑息な手口があることを国民はしかと頭に入れて、自分の資産をどこに置くのが安全か、準備をおこたりなくすべきでしょう。