ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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2021年のアメリカ金利見通し

2020年12月28日 | 債券相場

    いよいよコロナ禍での年末が迫っていますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。私はかなり慎重にこの1年を過ごし、どうやら無事に年末を迎えています。

 

  アメリカではお騒がせ男のトランプが最後の悪あがきをしていたため財政出動が遅れそうになりました。遅れるとコロナによる失業者の多くが手当てをもらえなくなる瀬戸際だったのですが、突然予算書にサインをしたために事なきを得ました。彼の主張が通ったわけでもないのに全くの気まぐれです。まあ、こうしたキマグレ男によるまぜっかえしもあと3週間ちょっとで終りですので、その間に何かあっても無視すれば済みます。

 

  今回はコメント欄に定年退職さんからいただいた今後のアメリカの金利見通しに関してです。

  金利の予想は通常でもとても難しいのですが、コロナという大きな不確定要素があり、その予想が当たらないと全く正反対の動きになりかねませんので、より困難です。来年にかけてコロナをおおむね制圧できるか否かで、経済活動の正常化見通しが左右されるからです。

  そこでまずコロナ感染に関しておよその前提を置いてみます。まずアメリカですが、この先1年の範囲では私自身はあまり楽観的には見ていません。愚かなトランプがいなくなっても、彼を支持していた愚かな白人系アメリカ人がワクチン嫌いであるのと、ラテン系とアフリカ系の人にワクチン不信感を持つ人が多いため、ワクチンの接種率は高いものにはならないという予想が出されているからです。

  WHOは「ワクチンが有効な感染防止策になるためには、人口の65%から70%の人が接種を受ける必要がある」としています。では接種希望の世論調査を見てみましょう。

12月7日の共同発AP電を引用します。

AP通信は9日、新型コロナウイルス感染症ワクチンの実用化が間近に迫っている米国で、「ワクチンの接種を希望する人は半数にとどまる」との世論調査結果を発表した。接種したいかどうか分からない、接種したくないとの回答がそれぞれ約4分の1。多くは、安全性を懸念し、当初は様子を見たいとしている。

 米ファイザーとドイツ企業、米モデルナがそれぞれ食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可を申請したワクチンは、いずれも約95%の高い有効性が話題に。しかしAPは、5月の世論調査時と希望者の割合は変わっていないとした。

 12月3日~7日に約1,100人の成人を対象に調査。接種するつもりがないと答えた人の7割は副作用を懸念していた。米国では白人に比べ黒人や中南米系の死亡や入院の割合が高いが、接種すると回答したのは白人の53%に対し黒人で24%、中南米系は34%にとどまった。(共同)

引用終わり

 

  ワクチンに関する世論調査はかなりたくさん実施されていますが結果にはばらつきが多く、その範囲は接種希望5割から7割に分布しています。そこで私は安全をとって当初半年の接種率は5割以下にとどまるとみることにします。しかしその後接種をした人に大きな副作用が少なく、かつ有効であるという結果が出る可能性が高いと思われるため率も上昇し、来年末にはWHOの言う7割近くを達成できる可能性が高く、アメリカではコロナがおおむね克服される範囲に入ってくるのではないでしょうか。しかし一方で変異種が今後もたくさん出てくるでしょうから、最初に申し上げたように1年という範囲では楽観的にみることはできません。

 

  これを前提とするなら、アメリカ経済は株価が示すほど順調な回復とまではいかず、腰折れ状態も出かねないため、今年の減速分を来年中にすべて取り戻すとまではいかない可能性が強いと思われます。このシナリオを前提に金利レベルを検討してみます。

 

  金利は本来「物価と雇用」に大きく左右されますが、最近は中央銀行のスタンスがこれに加わります。アメリカでいえばFRBですが、FRBは23年まで緩和を維持するというスタンスを強く表明しています。この見通しは「物価と雇用」のレベルが回復してもなおFRBが緩和を続けることがありうるという強いシグナルです。

  アメリカの消費者物価CPIは20年の年初に2.4%もあり、大事な目標2%を超えていたのですが、5月にはコロナのせいで0.1%まで下がりました。それが現状11月はその半分ほどを戻していて、プラス1.1%です。ちなみに同時期の日本を見ますと、年初は0.7%、5月0.1%、11月は▲0.9%というていたらくです。

 

  一方アメリカの雇用は物価と同様に、最悪期を脱しつつあります。失業率は20年の年初は3.6%でしたが、コロナの感染爆発により4月には最悪の14.7%を記録。現状11月は6.7%です。このレベルは実は経済を安定運用できるレベルに近いのですが、最近ではまだ不足だと言われるレベルになってしまいました。

  その声の主は証券系のエコノミストたちです。アメリカでは雇用の流動性が常に高く、労働者への需要が多くても一時的ミスマッチによる自然失業が生じます。自然失業率のレベルは議会予算局、CBOの試算によれば90年代で6%程度。2000年代は5.5%程度という数字になっています。現状の6.7%はそれよりもわずか1%くらい高いだけで、景気は本来循環するものだと考えれば、騒ぐほどのレベルではありません。

  なのに景気対策が必要だと声高に騒ぎ続けるのは、常に株高を演出したがる証券系エコノミストたちの性だと言うべきです。政治家や中央銀行のバンカーもまんまとそれに乗せられて、常に株高を演出し続けようとしています。

  従来はそうした人為的株高に対しては、債券相場つまり金利が警鐘を鳴らす役目を担っていたのですが、政治家とタッグを組んだ中央銀行が金利という温度計を壊してしまったため、警鐘は鳴らなくなってしまいました。

  さらに説明しますと、先行する株高に経済実態が追い付いていく頃になると金利水準も上昇します。株高が行き過ぎると金利がますます上昇して企業業績を抑え、株式相場に冷や水を浴びせて落ち着かせるのですが、その温度計を中央銀行が壊したままにしているため、株高に歯止めが利かなくなっているのです。

  金利の予想という元のストーリーに戻しますと、物価や雇用のレベルに沿って順調に上昇してよいはずの金利が人為的に抑えられているため、今後も株高→経済回復→金利高という単純図式になりそうもありません。

  ではアメリカのFRBが宣言している「23年まで緩和を続ける」というスタンスによって23年まで金利のレベルは低金利が続くのでしょうか。

 

  私はそうは思っていません。FRBはコロナからの回復のためのアナウンス効果を狙って超緩和のラッパを吹きまくっていますが、将来のインフレ率を予想する期待インフレ率は、すでに上昇を始めているのです。話が複雑になるので詳細の説明は避けますが、アメリカではインフレ連動債の相場により、期待インフレ率が計算可能です。それによると期待インフレ率はすでに2%を上回る水準になっています。21年末までにコロナワクチンの接種率が7割近くになるようだと、実際のインフレ率も2%に向かい上昇し、雇用も回復が見込まれることから、金利レベルも徐々に上昇するだろうと思われます。

 

  10年物長期金利で21年中に2%到達は難しいとは思いますが、22年には十分にありえるでしょう。FRBのスタンスは、経済実態やインフレ率が上昇してくれば、日銀と違い政策を変更する柔軟性を持っているからです。

 

  以上が私の今後の金利見通しです。米国債を買いたいと思われている方は、焦らずに「待てば海路の日和あり」と思っていてください。

 

  今年一年、私のブログをお読みいただき、誠にありがとうございました。おかげ様で累計のアクセス数も392万となり、来年は400万の大台に乗りそうです。

  今年はフェースブックを使って個人相談の窓口を開設し、受付を開始しました。まだ相談数は多くはありませんが、受けた方のほぼすべての方から「今後の人生を見通すことができ、とても有用なアドバイスでした」と言っていただいております。

  最初はメールやエクセルシートを使ってのやり取りから始まり、最後は面談で終わります。コロナ禍で直接の面談はどうかと思っていたのですが、3割くらいの相談者の方は直接の面談を希望され実際にお会いしました。それ以外の方々とはスカイプやラインのTV電話を使って面談を行い、それでも十分にお話しできることを確認しました。来年も本年同様相談を続けていくつもりです。よろしくお願いいたします。

 

  ではみなさん、コロナには十分に注意して、どうぞよいお年をお迎えください。私の年末年始はいつものように忙しいキャットシッターの家内に代わり、主夫をして過ごします(笑)。

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三菱東京UFJ銀行のプライマリーディーラー返上

2016年06月09日 | 債券相場

  三菱東京UFJ銀行のプライマリーディーラー返上に関してです。前回のブログで私は「実に大変なニュースです」と書きました。その理由を解説します。

   「少し太ったうさぎ」さんからも以下のコメントが付きました。

>プライマリーディーラー返上についてご意見聞かせてください。また、メガバンクで最初だと思います、強気の行動だと思います、大好きな日本が心配です。

 私も大好きな日本が崩れていくのを嘆かわしいと思っています。しかもその原因が政府・日銀にあるとなっては、本末転倒です。

   そもそも日本国債のプライマリーディーラーとは何か、簡単に歴史的背景とともに、説明します。目的は国債の安定消化とその後の流通市場での流動性確保です。

 プライマリーディーラー制度の概要は、財務省のサイトで見ることができます。

http://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/pd/index.html

 冒頭の部分を引用します。

 国債の大量発行が今後も続くと見込まれる中、我が国では2004年10月以降、「国債市場特別参加者制度」を導入しています。これは、欧米主要国におい て、国債の安定消化促進、国債市場の流動性維持・向上などを図る仕組みとして導入されている、いわゆる「プライマリーディーラー制度」を参考としています。
   この制度は、国債入札への積極的な参加など、国債管理政策上重要な責任を果たす一定の入札参加者に対し、国債発行当局が「国債市場特別 参加者」として特別な資格を付与することにより、国債の安定的な消化の促進、国債市場の流動性の維持・向上等を図ることを目的としています。

引用終わり

 (注)政府系のサイトは2004年を平成16年と書いてありますが、私はことを複雑にする非合理的な元号は使いませんので、そこだけは修正しています。ついでに、長たらしい銀行名を書くのは面倒だから早く名前を変えてくれーとも当たり散らしておきます(笑)。

   では以前はどうなっていたのでしょう。

   60年代から国債の引き受けには「シンジケート団」方式がありました。ほとんどの金融機関が参加していましたが、実質的には大手証券会社が仕切っていました。早い話、旧大蔵省との大手証券の官製談合組織です。そこに風穴を開けたのが80年代に日本の国債市場のディーリングで圧倒的シェアーを占めたソロモン・ブラザースです。80年代終わりには外資系唯一のシ団メンバーになっていました。なれた理由は単純で、ソロモンというウォールストリートの帝王と呼ばれたボンドに強い投資銀行が、日本の国債市場に最も大事な「流動性」を供給する役割を果たしていたからです。大蔵もその存在を無視できなくなり、シ団メンバーの地位を与えました。

 横道;ソロモンは私が入社してしばらくたった91年にアメリカで、米国債の違法入札をしたとして、一時的にプライマリーディーラーの地位をはく奪されました。ソロモンが入札という入札でほとんどを買い占めてしまうため、「1社の入札は全体の3分の1以下にする」というルールを米財務省が作ったのですが、それを破って実質的に9割を買ってしまったためです。  

   もどります。

  官製談合は国債の大量発行が始まるとそもそも制度として意味が薄れます。国債が発行されるときの入札はシ団引き受け分と競争入札分があり、しだいに低価格を提示する競争入札が多くなったため、シ団方式は意味を失い廃止されました。そこで先ほどの財務省HPにあったように、アメリカの制度を参考にしてプライマリーディーラー(PD)の制度を導入したのです。

  現在PDは22社で、財務省が発行条件を決めるにあたり意見交換をするときのメンバーでもあります。そして以下の責任も課されます。

・入札責任(1社で発行額の4%)

・落札責任(1社で発行額の1%)

・流通市場での責任(流動性供給)

   日本のPDには証券会社と銀行が入り混じっています。そもそも証券会社の主要な役割は、引き受けた国債を幅広い投資家層、つまり銀行、生保、郵貯、地銀から信金・信組にまで販売する仲介機能です。

   逆にもともと銀行は最終投資家としての役割を期待されていたのです。三菱東京UFJ銀行は、銀行としては最大規模の投資家でした。しかし彼らはクロちゃんの就任よりずっと前から日本国債はリスクとリターンが見合わないとして、高リスクの長期債を売り短期債にシフト。デュレーションと呼ばれる平均残存年数の短期化を図っていました。そしてクロちゃんの爆買いに合わせてどんどん売却しています。これは三菱UFJ特有のことではなく、日銀にはどの銀行も投資家も大量に売却しています。銀行全体の国債保有シェアーは異次元緩和導入時の110兆円から50兆円に激減しています。

   私は三菱UFJの取ろうとしている行動は、理にかなっていると思います。理由は、

・日本国債のリスクとリターンが見合わない

・特にマイナス金利の国債を引受ける責任など絶対にとりたくない

・国債のディーリングではすでに儲けがなくなっている

   彼らは決してそうは言いませんが本音は「財務省と日銀に反旗を翻した」のです。先週の講演会内容でも指摘した通り、マイナス金利そのものに対して三菱UFJの社長が反対を表明していました。

   この動きについて様々な解説がありますが、大事なことは「大三菱銀行が反旗を翻すほど国債市場は日銀に蹂躙された」ということです。

  本来であれば大本営と大政翼賛会は蜜月を続けるハズなのに、遂に袂を分かつほどまでに冷え切ったのです。私が従来から申し上げている「日本経済は金利という体温計を失った」というくらいでは済まないところに至ったのです。

   私は、日銀より三菱の方がはるかに現実に即した行動を取っている。本当に将来の日本を憂えているなら、みんなでもっと日銀をバッシングすべきだ。こう考えています。だからと言って、引受シェアーがはるかに大きく敗戦まで翼賛会に留まる証券会社がいるため、発行市場に対する影響は大きくないと思われます。

   しかし本当に返上が実行されると一番の問題は、最大手の投資家が国債を見限った、とみなされることにあります。

  海外の金融関係メディアは「日本国債への反旗」というような捉え方をしていて、今後も要注意だ、と警鐘を鳴らしています。


  私は最初にプライマリーディーラー制度とは、「国債の安定消化とその後の流通市場での流動性確保」だと書きました。

  日銀は安定消化どころか、自ら消化器官がこわれるほど爆食し、流動性を完膚なきまで叩き壊したのです。

  以上

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日本国債10年物、取引不成立

2015年09月25日 | 債券相場

  昨日、9月24日の国債市場で、最も流動性の高いはずの10年物新発債の取引が成立しないという異常事態が起こりました。体温計を壊した日銀のおかげです。

  以前にも申し上げましたが、日本では市場と言えば株式市場のため、債券のニュースは専門家以外気にする人がいませんので、普通のニュースにはなりません。しかしこれは大ごとです。債券市場の規模は株式の時価総額よりよほど大きな資本市場なのですから。もし米国債10年物でこの事態になったら、世界が震撼します。

  このニュースについて本日の日経新聞を引用します。

引用

長期金利の指標となる新発10年債の取引が成立しなかった。取引不成立は1年5か月ぶり。日銀が異次元緩和の一環として大量の国債を買い入れ続ける中、市場に出回る国債の不足が一段と深刻になっている。前回の14年4月の不成立は、13年ぶりの異例の事態だった。

引用終わり

  この異常事態に政府も日銀も何もコメントしません。

  もっとも今日のクロちゃんは8月の物価統計が発表され、生鮮食品を除く総合指数がマイナスに沈んだので、顔を見せられないのでしょう(笑)。甘利経済相が、「変動の激しい食料とエネルギーを除けば0.8%上昇している」とフォローを入れました。

  じゃ、物価に反応する金利はどう動いたのか。きのうは----なので比較できません(笑いごとじゃない)。

  一方、アベチャンはオリジナル3本の矢がどこかに飛んで行ってしまったので、新しい矢を放ちました。きっと私が大声で、

It’s the Economy, Stupid!

と言ったのが聞こえたのか(笑)、はたまたヤバイ安保法制から目を逸らさせるためか、「新3本の矢を用意しました」とのこと。

  今度はどうやら「新3本の矢、私は騙されない!」シリーズを書く必要がありますね(笑)。

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