ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本  27.じゃ、どうしたらいいの その⑪

2012年03月31日 | 資産運用 

   前回は、債務がローンの形であればさほど膨らむことはない。それが債券の形となると膨らみやすい、というお話をさし上げました。おもしろい話を聞きましたので紹介します。出所はNHKの特番だったと思います。

   話は江戸時代です。幕府は資金に窮して大商人にローンを借りました。具体的には、1813年に三井家をはじめとした商人に54万5千両を借りた記録が残っています。現在の価値で436億円相当だそうです。ということは、千両箱1個は1億円弱の価値があったんですね。借入の返済期限は50年で、元利をすこしずつ返済し年利は3分、つまり3%です。これって今とかわりないかも、という超低金利ですね。江戸幕府も信用あったんですね。

   でも貸し手の三井家の記録では当初1万両を貸し1842年まで返済が行われ、その時点の残高は6千両。それが滞るようになって期限を1863年から1882年に延伸。もちろん68年の明治維新で残高はすべてパーになりました。記録のあるものでは、日本国のデフォルトその1ですかね。

   国家でもローンの形だととても今のように1千兆円の債務を積み上げるなんてことはできっこありません。ローンの使い勝手が悪いのは、特に借りてにとってです。みなさんが住宅ローンを借りると、毎月返済をしなければなりません。会社も銀行融資はすこしずつ返済をしています。江戸幕府もそうでした。

   しかし債券は償還期限まで途中返済はなく、借り手にとってはとても好都合です。債券という武器を持つと、自分の返済能力の限界をいとも簡単に突破できてしまうのです。武器は容易に膨張し、いつの日か投資家の手元で爆発するのです。

  今後も世界を震撼させる火薬庫は膨張した債券です。そしてそのありかは日本です。そのバブルの匂いをしっかりと嗅ぎ分けましょう。

  国家債務の膨張ということでは、アメリカも決して例外ではありません。ただ日本との違いは、財政赤字の膨張を止めるメカニズムが機能する国なので、いまのところそして予見できる将来に問題はありません。予見できる将来とは、国家予算の予想が示されている数年間です。アメリカは日本と違い予算は単年度主義ではなく、数年先までの見通しも立てています。そしてなにより日本と違うのは、経済が成長しているので税収の自然増があり、返済能力が成長とともに高まるところです。しかしそれらの条件が大きく変わるようだと、たとえアメリカでもバブルの匂いが立ち込めるかもしれません。今後も注意していきましょう。

  ということで、投資対象が株であれ債券であれ金などの商品であれ不動産であれ、常にバブルの匂いがしないかを嗅ぎ分けるようにしましょう。それが投資で一番大切なことです。

  バブルの匂いを嗅ぎ分けるには、どうしたらいいの?

  みなさん当然こうした疑問をお持ちだとおもいます。それが次のテーマです。

つづく
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円高トラップに嵌まり込む日本  26.じゃ、どうしたらいいの? その⑨

2012年03月26日 | 資産運用 

  前回お約束した「投資にあたって、本当に肝心なことは何か」についてのお話です。
  
  『必勝法』ではない
ことを最初に申し上げておきます。そんなものは世の中にはありません。賢い投資家はそれがないことくらい心得ているはずです。そうしたことの書いてある本やブログは、だいたいがとるにたらないシロモノです。それでも世の中には必勝法の本があふれています。

・パチンコ必勝法
・株式必勝法
・FX必勝法
・宝くじ必勝法
・人生の必勝法(笑)

「何故こうした本が書かれ、売られているのか?」
答え;なかなか勝てないからです(笑)


そして、

「何故債券必勝法の本がないのか?」
答え;誰でも勝てるからです(爆笑)


  まじめな話に戻ります。私がみなさんにおしらせしたい投資で肝心な事とは、

「バブルの匂いを嗅ぎわけろ」

ということです。

「なーんだ、そんなことか」

という声が聞こえそうです。でもこの匂いを嗅ぎわけることができなければ、いつまでたっても相場に踊らされるだけで終わってしまいます。

  昨年の3月にブログを開始して以来ここまで私は債券の世界についてみなさんにいろいろな情報をさし上げてきました。みなさんは債券を投資対象の一つとして勉強されたことと思います。しかしこの時代の債券は、もっと大きな好ましくない活躍をしています。

それは何か?

  債券はこの数年来、そしてきっと今後の数年も、世界を震撼させる大災害の震源地だ、ということです。05年くらいから盛んになったサブプライム・ローンの証券化商品はバブルとなり崩壊し、世界を震撼させました。10年くらいからはギリシャ国債に端を発したユーロの問題が世界を震撼させています。それらの震源地はいずれもバブルとして膨らんだ「債券」です。そのバブルの匂いをかぎわけろ、というわけです。


  何故債券が世界を震撼させるまでに膨張し、破裂してしまうのか?

  債務がただの単純なローンであれば、サブプライムであろうが国の借金であろうが大したことにはならないのです。例えばサブプライム・ローンだと、銀行が腹いっぱいローンを出してしまえばハイそれまでで、それ以上には出せません。ところがそれを銀行がリーマンのような投資銀行に売却してお金を手に入れると、またローンが出せます。投資銀行はローンを証券化、つまり債券の形にするとことで広く世界の投資家に売ることができます。投資家も債券なら簡単に転売ができるので、容易に投資に踏み切れるのです。
  
  国家も債券の発行で資金調達ができると、銀行から借りるよりはるかに簡単、かつ大量に借入が可能になります。

  発行する側も投資する側も、簡便であるがゆえに債券はローン債務よりはるかに膨張しやすい性質を持っています。

つづく
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円高トラップに嵌まり込む日本  25.じゃ、どうしたらいいの? その⑧

2012年03月22日 | 資産運用 

  10月中旬から始まった今回のシリーズ、「円高トラップに嵌まり込む日本」もそろそろ終わりに近づいています。途中からは「円高・デフレに嵌まり込む日本」とタイトルを変更したほうがよいと考えていました。

 ここまでのストリーをちょっとまとめてみましょう。

1. 円高もデフレも実は居心地がいい状況だ

2. 円高・デフレを克服したら、そこには日本国債の暴落が待っている

3. 円高の克服は外貨投資を誘発し、預金の引出しが国債売却につながる

4. デフレの克服は金利の上昇、国債暴落となって、金融機関の息の根を止める

5. 対処策は外貨への投資、それも超安全な外債のみを対象とするべき

6. 安全な外貨は、米ドルと豪ドルくらいしかない

7. 安全な発行体は米国、豪州政府とスーパーソブリン(国際機関)くらしかない

というようなお話をさし上げました。

  円高の克服もデフレの克服も、日本経済が極端な不均衡状態になければ、「どうぞ克服してください」と私も申し上げるのですが、国家債務の異常な積み上がりが、その「どうぞ・・」を許さないレベルに達してしまっています。円高・デフレの克服は異常な債務に押しつぶされることになるのです。


  そして最後の前のお話として、

「じゃ、具体的にはどのようなタイミングで投資をしたらよいか」について、ななしさんからの質問にお答えする形で私の考えをお知らせしました。それは、具体的に言うと

「米国金利がさほど高くなく、しかし円安に振れ始めたいま現在の時点で、果たして投資に踏み切るべきか?」

という質問への回答です。私の回答を、解説を交えて再度まとめますと、

1. 米国金利の変動はせいぜい2・3年の景気循環のサイクルである


2. 本格的円安要因である日本の財政破綻や経常収支赤字化は構造転換で、ずっと長期的かつ非常に大きな波となる可能性がある

  従って、若干円安には振れているものの、今回の局面では米国債金利を優先して見ておき、投資タイミングを判断するのがよかろう、とのアドバイスです。つまり、米国金利が高くなった時には、どうしても同時並行で円安に振れてしまうが、米金利高が原因の円安は巨大津波のような円安ではないので、多少の円安でも投資に踏み切り、巨大津波に備えるべきだ、ということでした。

つぎの3つの選択肢を参考にしてください。

米国金利が高くなった時に

1. まだ円が高ければラッキー

2. 多少の円安レベルなら将来の超円安を期待して、投資に踏み切る

3. 日本国債に動揺がないのにうーんと円安に振れていたら、投資を見送りにして、次のチャンスを待つ


そしてブログの読者であるU3さんが取っている戦略、

4. 円レートが高いと見たときに米ドル建てMMFに投資してドルで資金を待機させ米国金利上昇を待つ

これが特に今回の局面では効を奏するかもしれません。

  米国金利上昇と円安スピードのどちらが早いかを的確に予測するのは無理です。特に為替の予測が困難だからです。私がみなさんにアドバイスできるのは、米国金利は景気循環に連動するサイクル要因で、大きな円安は構造変化による長期要因だ、というところまでです。それが上記3つの選択肢につながっています。

 次回は「投資にあたって、本当に肝心なことは何か」についてお話しします。それを心得ておけば、世の中を渡るのに大きな間違いは起こさずに済みます。

つづく
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円高トラップに嵌まり込む日本  25.じゃ、どうしたらいいの? その⑧

2012年03月19日 | 資産運用 


  一週間あまりの海外出張の間に相場はずいぶん動いていますね。特に米国経済の順調さを裏付けに世界の株が買われ、米国債の金利も順調に上昇してきています。それに連れ円レートは、居心地の良さそうなレベルに下がってきつつあります。

  ななしさんからは、

「ところで円安スイッチもう入っちゃったのかな?」

とのコメントをいただいていますので、私なりの返答をさせていただきます。

 質問への直接の回答は、

「本格的円安スイッチはまだだと思います」


  本格的円安は経常赤字と財政の破綻による大転換ですが、今回はそこまでに至っているわけではありません。円高修正の原因は、以下のとおりだと思います。

・経常黒字幅の鈍化
・日銀の追加緩和発表
・米国景気回復と米国金利上昇


  前も申しあげましたが、米国債の金利上昇と円高が、両方タイミング良くくるのを捉えるのは、とても難しいとおもいます。両者は基本的には反比例するからです。投資タイミングを探るには、どちらかを優先して考えざるをえません。どちらを優先するかと言えば、私のおすすめは米国金利優先の判断です。理由は、両者の変動要因の差にあります。

  米国金利の変動はせいぜい2・3年の景気循環のサイクルで、そのまま金利が高止まりしたままになることはありません。一方、本格的円安の要因である日本の財政破綻や経常収支赤字化は構造転換で、ずっと長期的な要因です。そして、変動幅は構造転換の場合は非常に大きいものです。
  ですので今回の局面では米国債金利を優先して見ておき、投資タイミングを判断する。

米国金利が高くなった時に
1. まだ円が高ければラッキー
2. 多少の円安レベルなら将来の超円安を期待して、投資に踏み切る
3. うーんと円安に振れていたら、投資を見送りにしましょう

  その点、U3さんが取っている戦略、円レートが高いと見たときに米ドル建てMMFに投資して資金を待機させ米国金利上昇を待つ、これが今回は功を奏するかもしれません。

  米国金利上昇と円安スピードのどちらが早いかを的確に予測するのは無理です。私がみなさんにアドバイスできるのは、両者にはサイクル要因と構造要因という違いがある、というところまでです。

  回答になりましたでしょうか?
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タイへの出張から戻りました

2012年03月19日 | 日記
  今回の目的はタイの若手経営者との会合と、バンコク在住の日本人ビジネスマン向け講演会です。洪水問題はすっかり片づいて、次の発展の妨げにはならない様子でした。タイは親日的だという話は聞いていましたが、25年ぶりに訪れると街中を走っている車がほとんど日本製だということから改めてそれを実感させられました。

  タイの若手経営者たちとの会合は新鮮でおどろきに満ちたものでした。日本やアメリカ経済の話しを30分くらいで終えるやいなや熱心な質疑応答がはじまり、それが食事時間にも食込みながら3時間半におよびました。

  彼らの興味はまず日本の長期停滞と政府の負債の肥大化が今後自分たちのビジネスにどんな影響をもたらすのかです。なぜそれを聞きたがるかといいますと、彼らの企業グループが日本の企業とも非常に密接に繋がっていて、日本の存亡は彼らにも大きな影響を与えるからです。日本企業の進出は大企業による単独進出だけではなく、中小企業がタイの企業と合弁会社を作る形態が多く、今回の経営者たちも合弁のタイ側のパートナーです。

  彼らの心配に対する私の回答は、

1.日本の財政破綻はもちろん世界を震撼させるし大いに悪影響をもたらす

2.日本企業はそうした災害を想定しながらすでに海外への分散投資を進めている

3.むしろ海外投資が日本を救う道になるため、財政破綻があってもなくても、日本企業の海外進出は加速する。タイ企業との繋がりは強くなる一方なので安心してほしい

  というものです。

  それに続き私が10年あまりM&Aの仕事を行っていたことを知り、自分たちもM&Aに積極的に挑戦をしたいということから、さまざまなチャンスのつかみ方について教えてくれ、とリクエストされました。円が今後安くなったら日本企業の買収も考えてみたいし、日本での合弁事業も追及したいとのことです。彼らの事業意欲は、日本人が30年くらい前に抱いていた意欲に似ています。新興国の若手経営者のエネルギーを目の当たりにして、目を覚まされた思いです。


  タイ在住日本人向け講演会でも私の日本国債を巡る話しはとても新鮮だったようで、熱心な質疑応答がありました。講演内容はみなさんに紹介した日本経営合理化協会の講演内容のサマリーに近いものです。そして私の本をすでに読んだ方が何人かいらして、債券投資の具体的やりかたにまで質問が及びました。
その中で面白かった議論を一つ紹介します。それは、

「日本が将来財政問題で混乱したら、我々はどうしたらいいんだ?何か明るい展望はないのか?」

というものです。私の回答は、

「大丈夫、展望のヒントはみなさんのいるタイにあります。政府がだめでも日本企業は非常にたくましく、タイでこれだけ大きくビジネスを展開しています。こうした海外への展開が経営リスクを分散し、母国に頼らないモデルを築きつつあります。タイへの進出は、将来の日本の生き方モデルです。きっと将来の日本はみなさんが背負って行くことになると思いますよ」と回答しました。

  私は老大国イギリスがたどった道、つまりマネーゲームに近い金融投資に頼る生き方より、日本に向いているのは実物投資に頼る生き方だと思っています。

  タイの洪水は、日本企業のサプライチェーンの浸透ぶりを我々に気付かせてくれました。現地に行ってさらに気づかされたのは、進出は大企業ばかりでなく、中小企業も非常に多いことです。そしてタイの企業経営者も、そうした日本との繋がりをさらに進めて行こうという意欲に燃えていました。日本への期待はとても大きく、それに応えることが日本の新たな展開につながることを確信しました。
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