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日本の金融政策の危うさ

2019年11月04日 | 日本の金融政策

  今回の話題は日本の金融機関の危機的状況をみなさんにお知らせする金融関係の話題です。

   人手不足に悩む日本ですが、金融業界では異変が起こっています。それは新卒採用の市場においてです。これまで大量採用を続け、特に新卒市場で圧倒的人気を集めてきた金融業界で、驚きの数字が記録されています。日経新聞調べの金融機関別の内定者数の前年比を並べます。

 ・三菱UFJ銀行         ▲45%

・みずほフィナンシャルグループ ▲21%

・野村証券           ▲45%

・大和証券グループ       ▲29%

   産業界全体が内定者数で大きく減ることはないなかで、金融界だけは別世界です。09年の金融危機の時と同様なレベルに低下しています。このような大幅な減少は危機的状況を反映していると見るべきです。新卒市場では抜群の人気を誇る大手金融機関ですから、採用する気になればいくらでもできるはず。採用しようとしない原因はひとえに将来の収益力の悪化見通しにあります。もちろん原因は日銀が誇る異次元緩和です。

   異次元緩和の旗を降ろさない日銀のクロちゃんによるマイナス金利の嵐は、都銀だけでなく地銀・信金信組を問わず全金融機関を襲っています。銀行はみなさんからの預金をローンで貸し出したり、株式や債券の市場で運用したりして利益を得るのが収益の柱です。金利が低下すると銀行の調達金利も低下するので、一方的に悪いことではなさそうな気がします。しかし一方でローンなどの運用金利も低下しているため、利ザヤは大幅に縮小しています。かねてからその運用対象のメインは日本国債でした。しかしその金利がマイナスになっていますので、買うことができません。

   反対に日本政府は長期物国債の代表格である10年物をマイナス金利で発行することができます。買ったら損をする国債をいったい誰が買うのか。もちろん日銀です。国債の日銀引き受けは日銀の健全性を阻害するとして日銀法で禁止されていますが、政府と日銀はそれを無視しています。手続き上は間に市中銀行や証券会社を入れて、違法認定を逃れています。金融機関は政府から買った国債をすぐ日銀に売却するといういわば出来レースで、雀の涙ほどの利益を頂戴して実質的違法行為の片棒を担いでいるのです。政府は借金をすればするほど得をするのですから、借金に歯止めなどかかりません。

   ところが最近はゼロ金利、あるいはマイナス金利の債券などを、銀行をはじめとする民間金融機関が自身の意思で買って保有する状況が出現しているのです。損してもかまわないと思っている日銀ならまだしも、民間銀行などが何故そんなまねをするのでしょう。

   10月12日付の日経新聞の一面では、トヨタがゼロ金利で3年物の社債を発行したというニュースが流れていました。投資家は銀行です。いくら潰れそうもないトヨタとは言え、一応3年間の倒産リスクを取っているのに、ビタ一文もらえない債券を何故銀行は買うのでしょう。

   もっとひどい例を挙げます。企業は短期資金、例えば3か月物の資金をCP、コマーシャル・ペーパーで調達するのですが、その金利はなんとマイナスのものがあるのです。その買い手は民間銀行です。9月26日付日経ニュースを引用します。

「キリンホールディングスや王子ホールディングスなどがマイナス0.01~0.0001%で資金を調達した。市場関係者によると、CPの発行残高に占めるマイナス金利の割合は3~4割に達する。銀行融資からCPへの調達シフトも一部起きているもようで、日銀のマイナス金利政策が企業の資金調達に変化をもたらしている。」

  資金調達側の企業は得をしますが、それを引き受ける側は損をします。なのに何故? 解説します。

   理由はもちろん日銀による強引な緩和政策です。そもそも日銀による異次元緩和は市中に資金をジャブジャブに供給すれば、物価が上昇し景気も上向くハズということでスタートしました。しかし日銀が銀行保有の国債を買いまくって、いくら資金を市中に放出しようとしても、銀行には資金ニーズがない。つまり企業の資金調達ニーズが薄いので、売って得た資金は貸し出せず、日銀の当座預金口座に積み上がってしまうばかりなのです。よく言われる「ブタ積み」です。日銀はそれをむりやり銀行に押し戻すために、当座預金にマイナス金利を導入しました。当座預金はもともと金利ゼロなのですが、マイナス金利のため預けておくだけで損をする政策を導入したのです。すると銀行の資金は行き場を失います。そのため例えばマイナス0.1%の日銀に預けて損をするより、マイナス0.01%のCPで運用したほうが損失は10分の1で済む、という理由からおかしな運用をするのです。いずれにしろ損失には違いありません。

 

  それがいやな金融機関は例えばスルガ銀行のように「かぼちゃの家への投資」というシェアーハウスへの危うい投資を個人に紹介し、それにローンを付けるという詐欺まがいのローンを積み上げました。しかしローンを組んで投資した個人は目論見通りの成果を上げられず返済に窮し、挙句の果てに貸しまくったスルガ銀行自身が実質的に倒産の憂き目にあっています。今年になってそれが表面化しました。10月末にそのスルガ銀行を家電量販店のノジマが傘下に入れるというニュースが流れました。ついに家電量販店が地方銀行を買収するところまできました。

   その状況になっても日銀の政策に変化はありません。日銀のクロちゃんは記者会見のたびに「打つ手はいくらでもある。必要なら躊躇なく手を打つ」と言い続けていますが、実際には打つ手などありません。金利による政策がダメなら株式の購入だということで大量の株式を買い、その額はすでに30兆円に達しています。国内最大の投資家である我々の年金資金を運用する機関GPIFの保有高が37兆円程度なので、このままでいくといずれは日銀が抜く可能性が出てきています。

  日銀は株式を買えば買うほど株式下落に際しリスクは大きくなります。一方でマイナス金利を深堀すればするほどおかしな金融がまかりとおる。そんな状態が続くと、最後には日銀も銀行も軒並みおかしくなりかねない。このように日本の金融システムは、全体がマヒするいわゆるシステミックリスクを抱えている状況であることを、みなさんも認識しておくべきなのです。

 

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