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アサハカなるかな、「オルカン」投資

2024年02月10日 | 株式市場へのコメント

  株価の上昇が止まりませんね。今年NISAを開始された方にはよいことなのか、よくないことなのか。長い目でみないと結論は出ませんが、日本経済全体の雰囲気を盛り上げるには格好の材料です。

 一方、為替は予想に反してドルが上昇していますね。23年の終わり頃には大半のアナリスト予想は、「24年には140円を割り込み130円台前半まで行くだろう」となっていました。ところが意外や意外、ドルは150円をうかがうほどの堅調さを示しています。アメリカ経済やアメリカ株の堅調さがその原因です。

 

 ドル高の要因としては、新NISAの開始で海外株に投資が集まったことも一つの要因としてあげられています。新NISAが始まることは昨年から決まっていたことですし、その人気の中心は日本株ファンドではなく、海外株式を中心としたファンドであることも予想されていました。海外株に人気が集中するのは日本株だけに頼るのは心もとないからで、世界に分散投資しようというわけです。株屋さんもこぞって世界の株への分散投資を推奨していました。

2月2日の日経ニュースを引用します。

「新しい少額投資非課税制度(NISA)を通じた個人の海外投資が新たな円安圧力になるとの見方が外国為替市場で出てきた。新NISAのもと、個人が毎月3000億円超を株式など海外資産に投じるとの試算がある。円を外貨に替える需要が発生し、円相場を押し下げる方向に働く。」

 政府と金融界こぞってあれだけ新NISAを宣伝すれば、投資が増加することはわかっていました。上記ドル高の解説は、お勧め商品である積立型NISAの契約が非常に多額になっているからです。毎月の投資額を決め、以降ずっと継続という投資ですので、何か月という単位ではなく何年も継続されるので、ドル円レートをコンスタントに押し上げる力を持っています。

 

 そして年初に新NISAが開始されると人気の中心となったのは「オルカン」と略して呼ばれるファンドで、世界中の株式を対象とする「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」です。世界の株式に分散投資すべしというリスク分散の考え方を実践するファンドというのが謳い文句です。

 ところがオルカンは各国の株式時価総額の大きさに比例して投資をするため、現状では約60%が米国株への投資になっています。果たしてそれが分散と言えるのでしょうか。2番目に配分が多いのは日本株ですが、なさけないことにたった6%でしかありません。一国に偏っているファンドを本当に分散投資の代表選手と呼んでいいのだろうか、疑問を感じます。

 さらに私に言わせていただければ、本来「分散投資とは、国を分散させるのではなく、リスクを分散させる投資」であるべきだということです。

 リーマンショックを思い出してください。アメリカのダウ平均株価はなんと3分の1になり、日経平均株価も2分の1以下になりました。もちろんその他の国の株価もすべて大暴落。株式投資だけではいくら国を分散したところで、リスク分散など絶対にできないのです。このことはオルカンだけでなく、どの株式投信を買おうがリスクの分散などできません。すべてが株式だからです。

 

 ではどうしたらリスク分散投資ができるのか。いつも申し上げているように、片方で株式を買っていたら、もう片方では債券を買うことです。

 リーマンショックはアメリカ発でしたが、株価が大暴落する中、米国債の価格は暴騰したのです。資本の逃避先はいつでも米国債です。株価と債券価格は反比例して動くことがほとんどだからで、それでこそ本当のリスク分散になるのです。しかし何度も申し上げているように、NISAはそもそも債券投資を認めていません。

 それに対して投資をよくご存じの方から、「債券のETFであればNISAでも投資できる」との指摘を受けました。たしかに債券のETFファンドはNISAの投資枠対象として認められています。

 しかしその方は米国債券のETFファンドが株式ファンド同様のリスクを持つことをご存じないようです。債券ETFの値動きは、株式同様大きな上下動を繰り返し、運用に失敗すれば大きな損失を出します。生の米国債なら償還まで持ち切れば必ず100で償還されますが、そうした運用はしていません。金利の上下動をうまく利用して常に利益を出し続けようと無駄な努力をするのです。

 

 今の株屋さんたちの債券に対する基礎知識のなんと浅はかなことか。あきれてものが言えません。株屋さんはしょせん株屋さんにすぎませんね。

 NISAの掛け声に踊らされて高くなっている株式に投資を開始している日本の素人投資家さんたち、どうぞお気をつけあそばせ。

 そうした方々にもう一度言っておきます。

「人の行く、裏に道あり、花の山」

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6 コメント

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Unknown (Jake Jack)
2024-02-10 20:03:09
かつては有事の円買いと言われ、円を現金でもってればリスク分散になったんですがねえ...
日本の衰退を感じます。

NISAについては、積立投資枠が非常に不満です。暴落時に一挙に投資がしにくいうえ、買えるのはリスク分散にもならない様な愚にもつかない投資信託ばかりです。
新NISAを機に稼ぎたい証券会社の工作で、こんなややこしい制度になったんでしょうね。
日本は国としてはともかく、優良企業は多いので、個別銘柄が積立枠で買えればなあと思います。
返信する
Unknown (債券派)
2024-02-13 11:10:43
おっしゃる通りだと思います。
今のこの株高に株関係の投資は怖いです。

私は若い頃から「安くなっている商品を買う事が分散投資である」をモットーとしているので、その考え方が功を奏しております。

世間に踊らされない事が分散投資だと思います。
返信する
Jake Jackさんへ (林 敬一)
2024-02-13 21:24:24
>かつては有事の円買いと言われ、円を現金でもってればリスク分散になったんですがねえ...

そんな時代もありましたね。

>NISAについては、積立投資枠が非常に不満です。暴落時に一挙に投資がしにくい

そうですね。同じ金額をひたすら注ぎ込む。
暴落時は成長枠で別途投資するほかありませんね。
逆に暴騰時に金額を少なくしたくても、強制積立ですからね。

>新NISAを機に稼ぎたい証券会社の工作で、こんなややこしい制度になったんでしょうね。

そのとおりだと思います。
返信する
Unknown (とんき)
2024-02-16 15:06:57
先生質問です!

来年のNISA制度改定で投資枠が5年1200万円(成長投資枠のみ)に増え期限も無くなりました
米国債は生債券、米国ETF、日本の投資信託・ETFなどどれで買うべきなのでしょうか?
もちろんNISAの範囲内の少額投資で期間は10年以上とします

★生債券のメリット・デメリット
・保有にコストが掛からない
・税金がかかる。為替手数料がかかる。個人レベルだと購入時のスプレッドが広い

★米国ETFのメリット・デメリット
・NISA利用で非課税
・信託報酬がかかる。為替手数料がかかる。売買手数料がかかる(ネット証券等は購入時無料)

★日本の投資信託・ETF
・NISA利用で非課税。内包する為替手数料がゼロに近い。為替差益も非課税。投資信託の場合再投資しやすい
・信託報酬がかかり米国ETFに比して高い

御教授のほどよろしくお願いいたします。
返信する
とんきさんへ (林 敬一)
2024-02-17 09:04:29
コメント、ありがとうございます。
ご質問の件、

>米国債は生債券、米国ETF、日本の投資信託・ETFなどどれで買うべきなのでしょうか?

本文をもう一度お読みください。ここで繰り返しますと、

引用
それに対して投資をよくご存じの方から、「債券のETFであればNISAでも投資できる」との指摘を受けました。たしかに債券のETFファンドはNISAの投資枠対象として認められています。
 しかしその方は米国債券のETFファンドが株式ファンド同様のリスクを持つことをご存じないようです。債券ETFの値動きは、株式同様大きな上下動を繰り返し、運用に失敗すれば大きな損失を出します。生の米国債なら償還まで持ち切れば必ず100で償還されますが、そうした運用はしていません。金利の上下動をうまく利用して常に利益を出し続けようと無駄な努力をするのです。
引用終わり

生の債券以外、ありえないのです。
以上です。
返信する
ご返信ありがとうございます (とんき)
2024-02-17 23:19:08
きちんと読み切れていなく申し訳ございませんでした。様々なコストや税制を勘案しても生債券の方がいいのですね。生で買わせていただきます。やはり男は生が好きです!
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