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日本の金融政策の危うさ その2.地銀の救済

2019年11月13日 | 日本の金融政策

  前回は日本の金融機関は政府日銀の金融政策により追い詰められ、システミックリスクの懸念があるところにまで至っていると申し上げました。巨大金融機関といえども新卒採用を大幅に減少させざるを得ないところにそれが現れていると説明しました。今回は地銀についてです。

   前回の記事の中で倒産しかかったスルガ銀行を、異業種の家電量販店ノジマが救済することになったとお伝えしました。おととい11月11日のニュースでは、やはり地銀の福島銀行に対し、証券会社であったSBIホールディングスが救済に入ったことが伝わりました。そのニュースでは、福島銀行の総資金利ザヤがなんと0.09%しかないとのこと。総資金利ザヤとは製造業などで言えば売上総利益、つまり売上から原材料費だけを引いた残りで、そこから人件費、管理費や減価償却費を差し引くことになります。0.09%しかなければ、営業利益段階で当然赤字になります。日銀の異次元緩和に加えて地方経済の疲弊や今後のキャッシュレス化の進展などを考えれば、地銀に将来性はほとんどないとまで言える厳しい状況です。

   SBIホールディングスは、もともとソフトバンクグループが野村証券にいた北尾吉孝氏をスカウトして作った投資会社で、名前のIはソフトバンクInvestmentのIでしたが、買収などで証券会社に衣替えし、ソフトバンクから独立。さらに金融関係のあらゆる業務を取り込み総合金融企業になっています。

   創業者というべき北尾吉孝氏は、私が大変評価する日本で数少ない本物のバンカーです。バンカーという言葉、日本では銀行家と訳され、銀行業を専門とするニュアンスが強いのですが、欧米では銀行業に加え証券業や投資事業を含む広い意味合いを持つ言葉です。北尾氏は実は「論語を知る論語読み」で、幼いころから論語を読んでいたそうです。彼はとても多くの著書を著わしていますが、金融業に関するものよりも論語や哲学的なことを扱う本のほうが多く、それも学者並みの立派な見識を有しているため、啓発本としても評価に値します。

  北尾氏の名前を知ったのは、私がソロモンで債券の引き受けをやっていた90年代の半ばで、まだ野村證券で経営企画室長をされていた時だと思います。彼は企業が社債を発行する際に銀行、それもいわゆるメインバンクが介入し、発行体から大きな手数料を得られる仕組みである「社債管理会社」の不要論を唱えました。管理会社である銀行は実質的にたいした役割を果たしていなかったにもかかわらず、それによりショバ代を得ていたからです。

  企業が社債発行により資金を調達すれば、その分銀行からの借り入れを減らすことになります。そこにイチャモンを付けていわばショバ代を取る。その悪習を排除することを当時の大蔵省にかけあって認めさせ、発行体企業からは喝さいを浴びました。

  それまで日本企業の社債は電電公社の電話債券や電力会社の電力債がほとんどでしたが、多くの一般企業が社債の発行市場から直接資金調達することに大きな道筋を付けたと言える出来事でした。株式発行につぐ直接金融のはじまりです。

  銀行は名目上の社債管理料という収入を絶たれ、さぞかし北尾氏を恨んだことでしょう。今は社債発行にあたり、メインバンクといえども元利払いの手続き代理人に過ぎなくなりました。

   北尾氏は野村でソフトバンクの株式公開を手伝った縁で孫正義氏に気に入られてソフトバンクに入社。CFOに就任し、多くの買収資金の調達を手助けしました。しかしボーダフォンの買収は過大な投資であるとして気に入らなかったようで、それをきっかけに、たもとを分かったと言われています。

   本題に戻ります。そもそもSBIによる福島銀行への支援は、北尾氏の壮大なる計画に基づいています。壮大なる計画とは、低収益にあえぐ日本の地銀を一つ一つグループに取り込み、巨大連合を作るという構想です。実はスルガ銀行にも触手を伸ばしていましたが、不調に終わったようです。しかし島根銀行はすでにSBI傘下に入りました。こうした壮大な地銀救済構想は、いかにも官民再生ファンドが手掛けるにふさわしい再生事業のように思われますが、官民再生ファンドによる事業再生はことごとく失敗ばかりで、そのうち税金で尻拭いせざるを得なくなりそうなため、いまでは委縮する一方となっています。

 

  私は地銀連合構想を見てすぐに、日本のゴルフ場を救済し再生したアコーディアやPGMの例を思い浮かべました。先日も触れましたが、赤字経営にあえいでいたゴルフ場を救済し、いまやそれぞれ130コースを傘下に持つ巨大グループを形成し、大成功しています。私が会員になっているゴルフ場も今般無事PGMによる再生を会員が承認し、来年にはPGM傘下で再生されることになりました。めでたしめでたし(笑)。

  今後果たして地銀連合の大構想がうまくいくか、注目していきましょう。

   しかーし、私はこの動きに実は一つの懸念を持っています。それは次回以降で。

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
あの人ねえ (山ちゃん)
2019-11-16 05:49:48
あの人は、問題処理能力抜群で、ものすごく悪知恵の働く人として理解しています。「飛ばし」を日本の金融機関で初めてやったのも彼でしょう。林さんは普段の物言いから推察すると、「目的のためには手段を選ばず。」というのはお嫌いでしょう。その人物が論語なんていうと笑ってしまいますが。
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山ちゃんへ (林 敬一)
2019-11-17 08:00:22
彼の人となりをかなり確信を持って書かれていますね。

>その人物が論語なんていうと笑ってしまいますが。

以下にちょっと長いですが、ウィキペディアの北尾氏の記述をそのまま載せます。それでも笑ってしまいますか。ウィキペディアがすべて真実とは言いませんし、その旨の記述があります。しかし著書などの一覧は事実だと思いますが、いかがでしょう。

引用

家系
北尾墨香 江戸時代の儒学者
曽祖父 大阪朝日新聞の販売を一手に担う北尾新聞舗を経営
祖父 旧三井物産入社後、東洋棉花(現豊田通商)社長
北尾精造 洋書の輸入販売会社経営
幼少期から「論語」をはじめとした中国古典に親しみ、貪るように多くの文献に目を通し、以後の人生観に大きく影響したという。

孫正義との関係[編集]

この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。(2017年7月)
ソフトバンク・インベストメント株式会社(現・SBIホールディングス株式会社)はソフトバンク株式会社の子会社であるソフトバンク・ファイナンス(のちのソフトバンク・エーエム、現在はソフトバンクテレコム株式会社)の子会社だった。2006年8月2日、ソフトバンク・エーエム株式会社が保有するSBIホールディングス株を全株ゴールドマンサックス証券に売却。このことにより、資本的には完全にソフトバンクとの関係はなくなったことになる[要出典]。

北尾はTV番組で「堀江貴文と孫正義の違い」を尋ねられた際に「人々のために役立つことをしようという意識を常に孫さんは持っている。その結果として儲かっているだけ。」と評している。また孫も「定期的にメシを共にする約束で資本関係の解消に応じた」と冗談交じりに語っている[要出典]。

リーダー論[編集]
現在の日本の道徳教育、その背景を問題視し、第二次世界大戦後の占領政策の影響があって、「過去の一切の日本的精神、武士道のような精神が否定された」と指摘、ゆえに「日本人が持っていた強靭な精神力、厳しい時代を生き抜ける力を身につけたリーダーでなければこの難しい時代の日本を任せられません」[4]と主張する。

著書[編集]
『実践FinTech フィンテック革命の戦士たち』(日経MOOK)(日本経済新聞出版社、2017年)
『古教 心を照らす』(経済界、2017年)-ブログ書籍化第10弾
『成功企業に学ぶ 実践フィンテック』(日本経済新聞出版社、2017年)
『修身のすすめ』(致知出版社、2016年)
『日に新たに』(経済界、2016年)
『自修自得す』(経済界、2015年)
『実践版 安岡正篤』(プレジデント社、2015年)
『強運をつくる干支の知恵』(致知出版社、2014年)
『人生を維新す』(経済界、2014年)
『時弊を匡正す』(経済界、2013年)
『出光佐三の日本人にかえれ』(あさ出版、2013年)
『先哲に学ぶ』(経済界、2012年)
『仕事の迷いにはすべて「論語」が答えてくれる』(朝日新聞出版、2012年)
『日本経済に追い風が吹いている』(産経新聞出版、2012年)
『ビジネスに活かす「論語」』(致知出版社、2012年)
『北尾吉孝の経営問答!』(廣済堂出版、2012年)
『時務を識る』(経済界、2011年)
『日本人の底力』(PHP研究所、2011年)
『森信三に学ぶ人間力』(致知出版社、2011年)
『活眼を開く』(経済界、2010年)
『起業の教科書 次世代リーダーに求められる資質とスキル』(東洋経済新報社、2010年)
『安岡正篤ノート』(致知出版社、2009年)
『逆境を生き抜く名経営者、先哲の箴言』(朝日新聞出版、2009年)
『窮すればすなわち変ず』(経済界、2009年)-ブログ本の第二弾
『君子を目指せ、小人になるな』(致知出版社、2009年)
『時局を洞察する』(経済界、2008年)- ブログの内容を単行本化
『何のために働くのか』(致知出版社、2007年)
『進化し続ける経営-SBIグループそのビジョンと戦略』(東洋経済新報社、2005年)
『中国古典からもらった「不思議な力」』(三笠書房、2005年)
『人物をつくる―真の経営者に求められるもの』(PHP研究所、2003年)
『不変の経営・成長の経営―伸びる会社はどこが違うのか』(PHP研究所、2000年)
『E-ファイナンスの挑戦Ⅱ』(東洋経済新報社、2000年)
『E-ファイナンスの挑戦Ⅰ』(東洋経済新報社、1999年)
『「価値創造」の経営』(東洋経済新報社、1997年)



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論語 (山ちゃん)
2019-11-19 19:15:14
やはり笑ってしまいますね。そこまで「俺には論語があるぞ!」というようなことを言いたいのは何故なんでしょうか?表看板は金融なんでしょう。そもそも儒教と商売は矛盾しますよね。



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論語 (山ちゃん)
2019-11-19 19:15:29
やはり笑ってしまいますね。そこまで「俺には論語があるぞ!」というようなことを言いたいのは何故なんでしょうか?表看板は金融なんでしょう。そもそも儒教と商売は矛盾しますよね。



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儒教 (山ちゃん)
2019-11-19 19:24:45
儒教にとっては、「商は詐なり。」なんですがねえ。
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儒教 (山ちゃん)
2019-11-20 11:09:40
江戸時代の徳川幕府を滅ぼしたのも儒教なんですが。
言うならば米本位制だった徳川時代ですが、世の中は途中から商業経済に移行します。しかし徳川吉宗や孫の松平定信等の為政者は骨の髄まで儒教に毒されていて、「商は詐なり」というわけで商業経済に課税するということが最後までできず、米の増産に励み、結果的にコメの価格は随時、下げ続け、俸給を米でもらっていた武士階級は困窮し、幕府財政はひっ迫し、とうとう政権の維持ができなくなりました。
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Unknown (Owls)
2019-11-23 15:24:20
こんにちは

確か渋沢栄一も『論語と算盤』とかいう本を書いてた気がします
いちおうは日本の資本主義の父とも呼ばれてる人も経済と論語を結びつけてます
賛否は私にはわかりませんがそういう論語と経済を結びつける人は昔からいたみたいですね
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論語と経済 (山ちゃん)
2019-11-26 20:54:24
こじつけでしょう。いいとこどりと言うか。

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