ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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劣等生さんへの回答 その2.米国債か社債か(長文です)

2014年09月18日 | 2014年の資産運用
読者のみなさんへ

 前回の記事にたくさんのコメントをいただいています。ありがとうございます。まずは前回に引き続き、劣等生さんの質問に回答させていただき、その後にみなさんへのコメントを書かせていただきますので、しばしお待ちを。

劣等生さん

 私からの質問に回答いただき、ありがとうございます。それと買った時の考え方も説明いただき、だいぶクリアーになりました。ありがとうございます。

 今回の社債・金融債への投資はこれまでの豊富な投資経験や、様々なリスクの認識もお持ちの上の投資なので、さほど大きなコメントはありませんが、きっと他の方にも参考になると思いますので、私の考えを回答させていただきます。

 まず、劣等生さんのおっしゃるとおり償還までの持ち切り投資であれば、あとはクレジット・リスク(信用の多寡)と為替のリスクだけですが、それを飲み込む覚悟の元に投資されているので、それはそれで私は反対はしません。せっかくですので、ここではクレジット・リスクについてだけ詳しくコメントします。

 債券の専門家としては個別の社債などではなく、やはり米国債をお薦めします。理由の第一は、我々が個別株式の将来を予測できないように、会社・銀行などの個別会社の債券の安全性も予想は難しいからです。これについては後ほどもう少し詳しく解説します。プロの見方も参考になると思います。

第二は、社債に付与されている条件は極めて個別性が高く、シロウトの方が債券の内容を理解するのはほぼ不可能だからです。一応簡単にご説明します。

劣等生さんの保有されている社債は以下のように書かれています。

>銀行や生命保険の発行した社債です。投資適格債です。私の購入債券は金融機関の普通の債権と劣後債、両方があります。劣後債コーラブルで、ファーストコールまで10年程度です。社債の中では比較的安全な金融機関の債権にしました。リーマンを見ろと言われるかもしれませんが、リーマンがあったからこそ金融機関はより安全な投資先になったと思っています。トゥービッグトゥーフェイルだと思っています。甘いでしょうか。


 まず債券の条件ですが、コールが10年だとしてそのままコールされない場合、償還は何年先になるのでしょう。とてもつなく長いと、その間に世の中がどうなるかわかりませんよね。高いと思った金利がとてつもなく低いことになっているかもしれない。これは長期の米国債でも同じだと思われるかもしれませんが、コールをするかしないかの権利を相手に渡してしまっているリスクはとてつもなく大きいのです。コールなしの債券は、発行体と保有者の権利義務は同等です。コールのリスクの理論的大きさは、実際にはオプション理論で計算可能ですが、われわれは計算もなにもできませんから、言い値で買わざるをえません。

 この際なのでみなさんにもお知らせしますが、債券の発行体は実はコールの権利行使権限を債券の発行を仲介した投資銀行に売って、なにがしかの利益を得ています。その分、債券投資家は損しています。ところが、投資銀行などの債券の仲介者にとって、世の中でオプションほどオイシイ商売はないのです。説明はとても難しいのですが、スワップ契約を発行体と結び、発行体のコールの権利を買って、実は巨大なリスクを相手に被せるのです。発行体もそのリスクの大きさを計量する技量は持ち合わせませんので、大きなリスクを背負わされているとは思っていません。ましてや債券の投資家はオプション理論などちんぷんかんぷんですから、投資銀行はオイシサ一人占めなのです。コールのオプションには実はかなりの価値があってそれを投資銀行だけが享受するということです。

 わかりづらいですよね。でもなんとなく煙に巻かれていそうだということは理解できると思います。

 次にクレジット・リスクについてです。

 私の感覚では、クレジット・リスクについてはかなり甘いとおもいます。理由は、たとえばさほど遠くない将来、ネット銀行以外は無用になるかも、といったことがあります。

 より現実的には、リーマンショックで巨大銀行を救ったのは、救わないとシステミック・リスク(金融恐慌になり国が立ち行かなくなる)が大きすぎるからで、単独銀行のデフォルトで済むと思ったら、FRBは潰すことは大いにあると思います。例えば投資銀行だけの破綻は、一般の人にはあまり迷惑がかかりませんので、リーマンは破綻させました。

 アメリカの投資に関する基本的思想は、「自己責任」です。例えばある一行が隠ぺい工作をした上でとんでもないリスクを取っていたのがバレ、巨額損失を出したらお取りつぶしでしょう。預金者も預金保険の10万ドルを超える部分はなにも保証されないと思います。

 たとえTOO BIG TO FAIL銀行であっても、様々な処理の仕方があります。わかりやすいようにJALの例で言いますと、大事な交通インフラなので破綻になっても運行をストップはさせなかった。しかしリスクを取って投資している株主や社債保有者などの債権者はすべてゼロでリターンはなし。しかし運行できる体制は維持させる。

 納税者に負担を強いるには、その前に少なくとも株主と社債権者からはすべてを吐き出させないと説明責任を果たせないからで、そのやり方は日本よりアメリカのほうが一般的にはシビアです。預金者の10万ドルは法的にそこまでは保護する約束をあらかじめしています。そして巨大銀行であれば、決済インフラがなくなると困るのでJALの運行確保同様、通常業務は継続できるようにする。しかし株主・劣後債保有者、金融債保有者はロハ。大いにありえると思います。

 ちょっと脅かしすぎかもしれませんが、可能性はあります。

 次に、投資適格債のデフォルトについてです。

 投資適格債の長期のデフォルト率に関して、ネットで見つけることができたのは、フィッチ・レーティングスの事業会社のデフォルト統計だけでしたので以下にそれを示します。一般的にアメリカの場合、金融機関のデフォルト率も事業会社同様に高いので、当たらずしも遠からずと思われます。

<1990年から2013年末までの累計>

格付け付与から        5年以内デフォルト率   10年以内デフォルト率

投資適格債             1.17%            2.27%
投資不適格債(ハイイールド)  10.70%           13.38%


 上の表の見方は「この23年間の累計では、たとえ投資適格債でも、格付けを付与してから10年以内に2.27%の企業はデフォルトした」と読みます。今大人気のハイイールド債では、10.7%の企業が5年以内にデフォルトしています。

 2%にぶつかってしまえば、すでに自覚されているようにほぼ100%を失います。投資の考え方としては、保有されている金融機関債の利率が同年限の米国債と比べてどれくらいスプレッド(上乗せ)があるかで、リスクとの見合いを判断することになります。金融機関の格付けとスプレッドは見合っているでしょうか?

 とまあ、こうしたことを見ていくのがプロの見方です。すいぶんときびしいことを書きましたが、私の率直な意見です。今後の参考にしてください。

別件の債券計算ですが、

>米国債を買っておけば「3年間で30年債だと8割の儲け、10年債でも5割の儲けがある」とあります。データと式でご説明いただければと思います。

これはこのブログでも何度か説明をさせていただいていますが、四則演算で簡単には示せません。HP17というイールド計算機か、エクセルのイールド計算機能を使います。その計算機のインプットの仕方と計算原理を説明するだけで、本が一冊になるくらいです。原理的にはまず将来償還される元本額と将来に渡るすべての支払いクーポン金利額を現在価値に引き直すという計算をしますが、それを次に市場金利を動かしながら債券価格の変動を率で計算していくのです。

わかりづらいですよね。私の著書(P.171)にもそのあたりの基礎が書いてありますので、参考までに見ておいてください。

以上です。

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14 コメント

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とても分かりやすい説明でした (目白のおっちょこちょい)
2014-09-19 09:35:44
JALをたとえにしたお取りつぶしの説明がとてもよく分かりました。ちゃんと筋道を通して責任を明確にして破綻処理をするのですね。

いや~それにしても急速にドル高が進んでますね。
以前ブログで「利上げとともにドル高が進む」という趣旨を書かれていたかと思いますが、利上げ観測と共に本当にそうなっていますね。
プロの方であれば当たり前の事かもしれませんが、ここで教わらなければ全く分かりませんでした。
早めにドル転しておいて本当に良かったです。

ひとまずお礼です。ありがとうございました。
返信する
ガクブル (おっちょこちょいのななし)
2014-09-19 10:01:08
「このスーパー殻が固い元気卵なのに40円安いぞ」とか「ひえ~~~キャベツ400円ですと?日照不足にかこつけて誰か値を吊り上げてない?」「う~~っ!未だに我が家の金融資産が外貨(ドル)保有率12%だけ@@」
ブツクサ言いながら買い物してると、子供からすかさず「ママ、マジおバカ!話のスケールがいちいち変」と突っ込みが入るおっちょこちょいのななし家です。

自分に知識や教養が無い、その上頭悪いという、最大のリスクにマジ落ち込みます。
でも優秀な方々の脳みそで考えてもらって「借り物ななし」で今後も頑張ります

林様!今回またテーマと関係の無いおバカ質問で申し訳ございません

そんな私がこんな急激な円安時期になると毎回林様にやっちゃうお決まりの質問!
①「もう円安スイッチ入っちゃったの??….ガクブル」です。
なんか近頃、為替と株価のカップリングが怪しいと感じる時がたまにあるんですよ…それで円安の急激さは一時的なものでも無い・・・つまり・・・と

②….とか言いつつ「ユダ金の終焉でドル崩壊?」だの「BRICSが・・プーチンが・・」などの不気味な2チャンネル的?情報にも振り回され少しビビッてます
林様のご見解を・・・

③東京オリンピックって言われてるけどマジそこまで日本は持つのか?
このブログ読者増えれば対策を打つ庶民が多くなる・・時期は早まる。ガクブル・・

④もし近未来に突発的円高イベントって考えられるとしたら何だろう?
スコットランドの独立云々は、一瞬でも円高になれる要因?になり得るでしょうか?全く関係ない?



※あっ!それと数字の林様に①のような2ちゃんねる的オカルト質問は大変無礼は重々承知の上ですのでスルーもしてください

返信する
お詫び訂正 (おっちょこちょいのななし)
2014-09-19 10:10:25
お詫び
>あっ!それと数字の林様に①のような2ちゃんねる的オカルト質問
①→②に訂正です
返信する
円安 (なんだかんだ)
2014-09-19 10:46:53
林さん、
いつもながらハッキリ、キチンとした解答ぶり…とてもためになりました。
それにしても少し速すぎはしませんか?この円安!私は林さんのアドバイスを素直に頂戴して104円前半で99パーセントの円資産をドル転しましたが、あれよあれよという間に250万ほど円換算で利益が出ています。ということはそれだけ円の価値が下がったという「実感」を目の当たりにして、少し当惑しつつ、これから日本の資産はどこまで目減りするのか…私達の生活はどうなっちゃうのか…などなど恐ろしい限りです。ドルを初めて直接保有してみて身にしみて感じる今日この頃です。林さん、ありがとうございました!
返信する
円安スイッチ (目白のおっちょこちょい)
2014-09-19 14:01:47
おっちょこちょいのななしさんへ

ロイターのネットポジショングラフを見ると、2012年末頃には円安スイッチが入って、徐々に円安に進んでいるようですね。

中央のグラフ
http://jp.reuters.com/investing/currencies
返信する
目白のおっちょこちょいさんへ (林 敬一)
2014-09-19 21:16:52
ドル転は正解でしたね。

>「利上げとともにドル高が進む」という趣旨を書かれていたかと思いますが、利上げ観測と共に本当にそうなっていますね。

そうですね、自然な流れです。その時に、「ドルを買ってMMFで回しておき、金利が高くなってから米国債を買う手がある」とお薦めしましたが、それに乗った方が結果的に正解かもしれません。まだまだ今後の推移にもよりますが。
返信する
おっちょこちょいのななしさんへ (林 敬一)
2014-09-19 21:20:34
>①「もう円安スイッチ入っちゃったの??….ガクブル」です。

円安スイッチですが、私とななしさんの定義にはずれがあるなと感じています。前にも書きましたが、私の定義をひらたく言うと、ミセスワタナベがドルを買うレベルの話ではなく、日本中のおばちゃん達が我先にトレぺを買うようにドルペを買って怒涛の円安になる状態を言っています。

それはともかく、私のひとまずの目安は07年のドルの高値120円近辺です。リーマンショック前の比較的イケイケの時期でした。それを超えるとかなり行ってしまいそうですが、なかなかそこまでは行かないと思います。

80円が100円になってアベクロコンビはにんまりでしょうが、110円になったら彼らはやせ我慢、120円になったら真っ青でしょう。それも目安の一つです。

>②….とか言いつつ「ユダ金の終焉でドル崩壊?」だの「BRICSが・・プーチンが・・」などの不気味な2チャンネル的?情報にも振り回され少しビビッてます
林様のご見解を・・・

いつも申し上げているとおり、私は煽り屋さんたちの言葉には反応しません。私が反応するのは数字だけです。

>③東京オリンピックって言われてるけどマジそこまで日本は持つのか?
このブログ読者増えれば対策を打つ庶民が多くなる・・時期は早まる。ガクブル・・

東京が候補地に決まった時期あたりだったと思いますが、私は過去のオリンピックと株価の分析をこのブログでしました。オリンピックに影響を受けるのは発展途上国だけ。先進国はあまり関係ないと思います。政治家や株屋さん達はなんとか煽ろうとするでしょうが、もし株が上昇したらカラ売りしましょう。

>④もし近未来に突発的円高イベントって考えられるとしたら何だろう?スコットランドの独立云々は、一瞬でも円高になれる要因?になり得るでしょうか?全く関係ない?

スコットランドの独立問題への反応は円安でしたね。もっともそれがすべての要因ではないと思いますが。

ななしさんの狙いと気持ちはわかるのですが、私には予知能力がなく、突発性円高が見えてきません。すみません。


返信する
なんだかんださんへ (Unknown)
2014-09-19 21:22:15
>それにしても少し速すぎはしませんか?この円安!

ほんとですね。

ただ私のように社会人になって物ごころついた時に円が自由化され、その後は年に50円くらいの変動幅が当たり前の時期を知っていると、なんのこれしき、と思ってしまいます。97年にはファンドなどによる仕手戦のため一日7円動きましたからね。

それにしてもあれよあれよで250万とは驚きです。私のアドバイスより、なんだかんださんの決断ですよ!敬服!

返信する
有難うございます (おっちょこちょいのななし)
2014-09-20 10:23:16
目白のおっちょこちょい様へ
有難うございます
助かります。お勉強になりました。凄く見やすいですね。
すま~して円安スイッチはいっちゃってますね^^。

「ハイパー円安スイッチ入っちゃったかな?」と私はここで書くべきでしたが、ここ数日の急激な円安がそれかな~と私は一瞬あわてました。
林様の
>80円が100円になってアベクロコンビはにんまりでしょうが、110円になったら彼らはやせ我慢、120円になったら真っ青でしょう。それも目安の一つです。
なるほど・・

このブログと出会う前(インターネット知らないとき)は世間が大騒ぎした時のみの売買で十分満足でした。図らずとも長いスパンで見て売買してました

今ななしの米ドル取得平均コストは90円代前半です。それを維持したいがため(欲深い)、口では「今後はドルコスト平均法で買う」とか言いながら、体は円高イベントを虎視眈々と狙ってる私。「お疲れさん」って感じですかねorz... ごうつくババア癖(言葉が汚くてすみません)はなかなか抜けないものですね。


林様
有難うございます
数字の林様にこの質問は失礼と重々承知しておりましたが、やっぱ質問やっちゃいました。アホなので情報に振り回されっぱなし。私にとって情報の取捨選択が難しすぎ。近頃は世の中が煽り記事ばかりに見えてしまってクラクラしてます。

&ななしが数字を追う能力が無いからです。でも買い物籠抱えたおばちゃんって大体「ななし」みたいな感じかな
しけた家計簿の世界からの資産防衛への旅立ち(←かなり大げさ)

今は林様(それもイケメン!)が無知のななしの支えになっております。本当に出会えてよかった(←ご迷惑顧みず)。有難うございます







返信する
結局は米国頼み (Owls)
2014-09-20 11:21:42
こんにちは。

今日の日経新聞に、世界経済米国頼みというタイトルの記事が出ていました。本格的な円安の始まりかはわかりませんが、どうも、円は安全通貨だという認識には変化が出てきたとのかと感じします。まあ、まだ本格的な動きではないのでしょうけど。

ウクライナ問題、中東問題、足踏みするEU圏、そしてスコットランド問題と、ドル買いは当然にしても、今までなら円も買われた話題満載でした。でも、円はかなり売られた。ほぼドル一択状態。2014年上半期が経常赤字転落というのも、円はそれほど安全ではないという認識につながったのかなあと考えています。

そろそろ、目先の景気回復ができれば全て解決みたいな安易な発想の政策と選択は危険性が増してきたように思います。ないとは思いますが、景気が悪いから消費税増税見送りとかは、かなり覚悟が必要と思います。

アメリカの長期金利が3%になるまで待ちたいですが、
円安の保険として残存期間が短い米国国債の購入はどうなのでしょうか?

やはり、外貨MMFで資金を待機させ、好機が来るまで待ったほうがよういのでしょうか?
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