ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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国際商品相場について 2

2014年10月20日 | 2014年の資産運用

 前回はみなさんにとってあまりなじみのない商品相場の重要性についてお知らせしました。その理由は商品相場が世界経済の先行指標の一つだからです。もちろん世界の動きはそれだけで見えてしまうものではありませんが、商品相場の大きな下落は間違いなく警鐘になっています。

 では、商品市場全体で大きな構成比を持ち、今回の下落を引っ張っている原油価格の下落が世界経済に与える影響をちょっと考えてみます。何故ならそれは悪いことばかりではないからです。

 まず単純に考えて石油の最大の輸入国の一つである日本にとってエネルギーと石油化学製品の原材料である石油価格の下落は大きなメリットです。それは2度にわたるオイルショックのちょうど逆だということからも明らかです。

 ではシェールオイル・ガスに沸くアメリカにとってはどうか。よく考えてみましょう。シェール革命は起こり始めたばかりで、アメリカはまだ石油製品の輸入をしていますから経常収支上はメリットになります。そしてより大事なのは、車社会のアメリカはガソリン価格が下がると消費者には余裕が出てその他の商品・サービスの購買力が上がり、メリットがデメリットを大きく上回ります。そして冬場の暖房費も石油の値下がりによりセーブできます。

 もちろん日本でも特にいなかであれば車社会になっていますので、ガソリン価格の下落は大きなメリットですし、冬場の暖房費もセーブできます。このところ経済のスローダウンが特に心配されている欧州を含め、どの国にとっても石油製品全般の値下がりにつながるため、原油価格の下落は世界経済にとっては大きなメリットなのです。

 前回の記事のコメントで、シェールオイルの採掘コストについて話題になりました。75ドル程度と推定されるコストを下回ると、アメリカの競争力について不安を感じるむきもあるかもしれません。しかしご安心ください。実はアメリカのシェール革命の進展はオイルよりも天然ガスの方が早く、しかも価格もより大きな競争力を持っているのです。


 ちなみに98年をスタートにオイルとガスの相対価格を比べると、オイルに対して98年に100だったガスは現在40程度まで低下しています。そしてすでにアメリカから輸出もされています。

 日本は天然ガスの長期契約がオイル価格に連動していることから、この相対価格の低下メリットを受けることができず苦しんでいます。アメリカからの輸入もしばらくで開始される可能性が出てきていますが、海を渡るのに一度液化させる必要がありそのコストが大きいのがネックです。なにせアメリカ国内での消費や近隣国への輸出はパイプラインでガスのまま移送可能です。

 もう一つ大事なことを指摘しておきます。このところ世界の地政学的リスクの発信源はほとんどが石油・天然ガス産出国です。ロシアもそれに含まれるでしょう。その力の源は石油・ガスで、力は価格によって大きく左右されます。それらの国が価格低下によりことを構えずらくなるのです。「イスラム国」も油田を奪取し、収入源としていますので、価格の低下は戦力低下につながります。それが長期的にみるとアメリカに期待される世界の警察官としての負担を軽減し、軍事費の低下にもつながります。



ここまでの話をまとめます。

・世界経済がスローダウンしてきているがその兆候は国際商品価格の低下が先取りしていた
・エネルギー価格の低下は、世界経済にとって大きなメリットである
・アメリカのシェール革命はオイルより天然ガスが先行していて、原油価格低下はメリットのほうが大きい
・原油価格低下は石油生産国発の地政学的リスクを抑える効果を持つ


ということで、世界経済のスローダウンは心配されますが、先行する国際商品価格の低下はそれを緩和する力を持っていることを頭に置いておいてください。
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8 コメント

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Unknown (Owls)
2014-10-20 18:58:57
こんにちは。

アメリカの火力発電は石炭から天然ガスに置き換わりが進んでいるそうですね。石炭の需要が少なくなってきてるので、石炭価格にも影響が出ているとか。

考えてみれば、先進国の中でアメリカ程恵まれた条件の国はありません。人口は増加し、しかも若年層が多く、石油や天然ガスなどのエネルギーが豊富。しかも先端技術は世界一で投資環境も整っている。

しかし、何故か日本ではアメリカは今にも崩壊しそうだとかいう変な主張がもっともらしく流されます。左がかった某新聞とかならしょうがないですが、金融機関の中にも、宇宙から飛んできたような電波だか、波動だかで円高になって、ドルは機軸通貨から転落するとか主張してたストラテジストがいまだに現役でいられるのが不思議です。
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Unknown (Owls)
2014-10-21 18:54:57
こんにちは。

ロシアのシベリア産の原油の採算ラインは1バレル100ドル程度とのこと。意外にも米国シェールオイルより採算ラインが高い。ロシアの財政も1バレル100ドル程度でないと苦しいとか言われています。石油価格の下落とルーブル安のダブルパンチでインフレ率は8%。食料価格は公式のインフレ率よりも高く11%、ものによっては17%も値上がりしたものもあるあるそうです。

経済制裁下であり、これといった資源以外の輸出品が無いため、通貨安のデメリットをもろに受けているようです。さて、これでは領土的野心を満足させても、はたして損得勘定では得なのか疑問です。昔、日本も朝鮮半島や満州を植民地にしましたが、内容的には大赤字で何ら経済的には得なことはありませんでした。

今のところ、アメリカのシェールオイル・ガスが最大のロシアへの経済制裁になっています。それと、財政問題絡みで日本で通貨安が進んだ時、ロシアみたいな感じでインフレが進むのか注目しています。ロシアでもドルやユーロを保有する人が増えてきているとも言われています。やはり有事のドル保有なんですね。
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学資用に米国債 (ティムティム)
2014-10-22 12:50:42
林様、皆様こんにちは。
いつも拝読させて頂き勉強させて頂いております。有難うございます。

私事なのですが、5歳の一人息子がおります。その子の学資を作る手段として米国債を使おうと思っています。

来年2月に住宅ローン(年上の旦那が私と結婚する前に購入した家の)が完済するので毎月20万ほど積み立てられる予定です。そこで、20万を毎月米ドルMMFにして、10年債の金利が3.5%くらいになったらゼロクーポン債を買おうと思っております。

質問させて頂きたいことは年限を10年債にすべきかもっと長い30年近いものにすべきかということです。

使途が決まっているお金なのできっか2027年に償還するものにすべきなのか、途中売却も視野にいれたほうがよいのか、考えたのですが私にはわかりませんでした。

林様、皆様のお知恵を拝借できれば幸いです。
勝手なお願いで恐縮ですがよろしくお願い申し上げます。
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大和外貨MMF(米ドル建て) (ティムティム)
2014-10-22 15:55:27
Genrecht様、めじろのおっちょこちょい様、証券口座をどこに開設するとお得なのかの情報、有難うございました。
さっそく、D和証券に口座開設しようと思います!

今までM菱モルスタで大和外貨MMF(米ドル)を買い付けていたので、それはD和証券に移せるのかな~と思って、D和のコールセンターに電話してみたら「できません」とのことでした。

ちょっとショックですが仕方ありません。

ものすごく有益な情報有難うございました!!!
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ティムティムさんへ (林 敬一)
2014-10-22 16:06:31
こんにちは。ブログをお読みいただき、ありがとうございます。

ご質問の件に回答させていただきます。

学資という目的での運用とのことですが、使う金額と年限が決まっている運用ですので、金利が低くても必要な時期に合わせた運用期間にすべきと思われます。例えば18歳になれば入学金など一時的に大きな金額が必要でしょうから、今5歳でしたら13年物のゼロクーポン債を探す。その後も年限になるべく合ったものにしたらよいと思います。
30年債を13年目に売却する場合、その売却時に残りの17年物金利が上昇しているとドル建てでは損失が出る恐れがあります。金利差の累積よりキャピタルゲイン、あるいはキャピタルロスのほうが大きい可能性があるのです。

私のアドバイスは、「少しの金利差を得るためにリスクを取るのは避けるべき」です。
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Unknown (ティムティム)
2014-10-22 16:40:26
林様、早速のご回答有難うございました。

やはり、使途の決まったお金はきっかりの年限のほうがよいのですね! 
教えて頂き、本当に助かりました。

大学の資金は10年以上時間があるので、米国債で運用でもよいと思うのですが、それ以前の中学校用・高校用(それぞれ入学年は2022年・2025年)はもうあまり時間がないため、日本円でコツコツ貯めたほうがよいのかどうか迷っております。

為替リスクが高すぎるのも。。。と思っております。この点もアドバイス頂けたら大変助かります。

なんだか、ずうずうしいお願いのようで恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。
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ティムティムさんへ (林 敬一)
2014-10-22 18:20:54
2022年、2025年の為替レートを的確に予想するのは不可能です。
50円になると言っていたエコノミストが一転115円だ、というのをみれば明らかです(笑)

私は傾向的に円安になると思っていますし、みなさんにもそう申し上げていますが、こればかりは当たるも八卦です(笑)

>為替リスクが高すぎるのも。。。と思っております

ということであれば、ご自身でドルを保有することがストレスにならない程度に保有するのが一番だと思います。

例えば大学分が全体の半分だとすれば、それだけでもかなりの保有額ですよね。

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Unknown (ティムティム)
2014-10-23 10:20:51
林様、本当に有難うございます。

林様のように丁寧かつ的確に物事を判断できる方にただでアドバイス頂けるなんて。
神レベルの親切さです。

何より大切なのはストレスフリーなことですよね、そのバランスがわかるのは自分自身だけですよね。

本当に有難うございました\(^▽^)/
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