ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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劣等生さんからの質問への回答、その1

2014年09月16日 | 2014年の資産運用
 劣等生さんから債券投資に関する質問をいただきました。

 「劣等生さん」とか、「○○おっちょこちょいさん」というお名前をそのまま書くのは、読者の方の失礼にあたりそうで気が引けるのですが、それ以外に方法がないので、このまま失礼いたします(笑)。

 質問の主題は「米国債よりちょっとリスクのある社債なども投資対象になるのでは?」という部分だと思いますが、勝手ながらご質問をいくつかに分解させていただき、回答させていただきます。

劣等生さん;株だとかFXだとかリスキーな投資の本はいくらでもある。
債券の本はほんのわずか。


この理由を、私が本を出版する時に編集者と交わした会話の一問一答形式で記しておきます。まずは債券の本がない理由から。

 私も何故債券の本がないのかという質問を出版社にぶつけました。その答えは「債券の本は売れたためしがないからです」とのこと。

 「じゃ何故私の原稿を出版しようと思ったんですか?」と聞いたところ回答は「原稿を読んだ編集局の人はみんな米国債を買おうと思ったから」というものでした。「説得力抜群で、これでは買わざるをえないでしょう」とも言っていました。

 それともう一つ言っていたことは「投資の本はあまたあっても、『次はこの銘柄が上がる』などと具体的銘柄が書いてある本は最初から大外れか、ちょっと経てば賞味期限が切れる。一方、投資の一般論が書いてある本はポートフォリオがどうしたとか書いてあっても、具体的にこれを買えという回答は書いてない。あなたの原稿には投資の基礎プラスこれだという解決編が書いてある」ということでした。

 それでもきっと編集部の方で実際に米国債を買った方がいるかはかなり疑問です。このたった3年間で30年債だと8割の儲け、10年債でも5割の儲けがあると知れば、きっと「買っときゃよかった」と思うでしょう(笑)。もっとも私のブログを読んでいないでしょうから、この事実も知らないでしょう。

劣等生さん;われわれ素人は債券投資に資金を割くべきだと思います。
そうですね、証券会社、銀行、ファイナンシャル・アドバイザーの方々が本当に投資家の立場に立つ人であれば、きっとそれを薦めるでしょうが、彼らの関心事は手数料を稼ぐことなので、「米国債を売らないなら口座を引き上げる」とでも言わない限り(笑)、絶対に薦めないのです。1億円を米国債に投資してもらっても、年間収益は3千円の口座管理料だけです。それでは証券会社は自己否定することになります。その分でもし米国債の投信を買ってもらえば、0.9%として年間100万円近く手数料が入るでしょう。オイシサ300倍です。

では、何故株だとかFXだとかリスキーな本はいくらでもあるのか。

 理由はもちろん「売れるから」なのですが、それだけでは答えとしておもしろくありませんので、私なりの見解をお示しします。

 本屋さんに行くと、投資と限らず○○攻略本があまた並んでいます。株式投資やFXの本の大半はこの攻略本のたぐいだと思います。パチンコか競馬かはたまた宝くじか。リターンの期待値からして勝てっこない賭けごとでも勝つための攻略法を見つけようとする。このブログの読者の方からすれば「アホらしい」の一言で片づけることができますが、のめり込んでいる人は真剣に勉強して勝とうとしているのです。そしてこうした攻略本の多さは、参加者の人数が多いことも影響していると思います。株やFXの本の大半もこの攻略本のたぐいだと思います。

 一方、攻略本とは一線を画す投資本もたくさんあります。そうした本の著者は大学の教授もいれば大手投資会社のアナリストや著名な投資家、中にはちょっと怪しげな株式アナリストもいます。内容的には投資に必要な経済の基礎知識、世界各国の情勢から業界や企業の分析などファンダメンタルズ教えるものから、投資の歴史、成功した投資家のノウハウや投資のABCなど実に様々な本が出版されています。

 こうした内容の本は「投資はバクチではない、科学だ」という標語のもとに、知的好奇心の旺盛な方、勉強好きな方を惹きつけます。刻一刻と変化するファンダメンタルズや相場のテーマを追うため、本屋の本棚もあふれかえることになります。

 そしてここが肝心ですが、私に言わせれば「本の数が多いのは『これが極意だ』という必勝法などないことの証拠」なのです(笑)。必勝法があれば本は一冊で足ります。そんなベストセラーは聞いたことがありません。そして投資の場合はみんなが同じことをしてしまうと、儲からなくなるという自己矛盾を抱えています。ということは、必勝法はあったとすれば誰にも教えないのです。

 最近、HFT(ハイ・フリークエンシ―・トレーディング)という超高速コンピューターを駆使した投資法がはやり、大きな利益を出すヘッジファンドが話題になっていますが、これとてそのうちみんなでやりすぎて儲からなくなるし、規制も入るでしょう。かつて私のいたソロモン・ブラザーズが債券を中心としたアービトラージ(裁定取引)で大儲けをしていましたが、やりかたを他社が学習したら儲けがなくなってしまったのと同じです。


 出版社は常に「売れそうな本を売る」という使命を負っています。ですので、必勝法という理想郷を求めて出版し続けることが使命であり自己防衛の方策なのです。

 債券投資、特に私の提唱する「持ち切り投資法」は必勝法が存在しいて、しかも方法は一つなので一冊でおしまいです(笑)。

 債券投信がやるような、ポートフォリオの入れ替えをしながら債券に投資する方法は、理屈が難しい割に結局株式投資と変わず、相場に翻弄されることになりますので、私はお薦めしません。

 以上がご質問の前段にあった疑問などへの回答です。


劣等生さんの次の質問は

劣等生さん;投資対象は米国債なのでしょうか。リスキーな投資の対極として米国債はわかります。しかしそれよりちょっとリスクのある社債も投資対象になるのではないでしょうか。私の投資内容に対する評価と合わせてご意見を伺えれば幸いです。

これがご質問の本質部分ですね。回答は長くなりますので、次回にさせていただきますが、一つだけ質問があります。保有債券は銀行・保険などの金融機関債とありますが、その債券は劣後債ですか、それとも通常のシニア債ですか。お答えいただけると、回答しやすくなります。不明の場合は不本意な株屋さんに聞いてみてください。よろしくおねがいします。



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45 コメント

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債券が少ないわけ (たか)
2014-09-16 21:06:55
 債券の本は、そりゃ、少ないでしょう。
なぜなら、初心者は、1年で2倍だ、10倍だ・・・という本についつい目がいってしまうのです。

「10年で1.5倍です。」というのは、頭では分かっていても・・・というのが本音だと思います。

ウォーレンバフェットの言葉は、その本質を突いていますね。(うろ覚えなので間違いありますが)

● 一般の人は、すぐに金持ちになりたがっている。
私は、ゆっくり金持ちになりたいのだ。

● 家を買ったら、次の日から、その売り値を逐次気にするのだろうか? 
 つまり、投資とは家を買う行為と同じである。それが良いと思ったから一生保有するつもりで買うものなのであって、売ることなど考えない。

 貧しくなりたかったら、その逆をやれば良いのでしょう。
「あと、数年で、○○社の株は、2倍になるぞ。」という思惑で買い、少し上がれば、
「俺はなんて頭がいいんだ。しめしめ。まだまだ上がるぞ。」と思い、
「あれあれ下がった・・・。でも、また、上がるはずだ。 よし長期保有だ。」
「ややや・・・!! どへ~~。 退散だ!」

PS. ちなみにバフェットは株で大もうけしたことが有名ですが、バークシャー社は、債券も大分保有している
ようですね。
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Unknown (とくめいせんたい)
2014-09-16 22:57:53
お世話になっております。
ご著書の256ページを拝見して、どの期間でも債券が株を上回りましたが、それはオイルショックの80年代の10%以上の高金利からだんだん低金利に向かうこの30年だったから、ということも一部ある気がします。

今は2.5%程度の金利になっていますが、今後もこの金利で10年、もしくは3.2%で30年の債券でも、今後は株式に勝てると思ってらっしゃいますか?
もしそうだとしたら、株価はこれからほんの少ししか上昇しない前提となります。

また、林様も近年ではなく以前から生の債券に投資されてると思いますが、それらの償還とともにまた投資を考える必要が出てくると思いますが、今後償還されたら今の2.5%の金利水準で引き続き長期債券を購入される予定でしょうか?
よろしくお願いいたします。
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カナダ国債は? (モトカー)
2014-09-16 23:06:35
アメリカは赤字国で、デフォルトも取り沙汰されています。(実際は、政治力によってそうはさせないだろうけど)
そこで、アメリカと経済的に強く結びつき、黒字国であるカナダの国債の「持ち切り投資」というものを考えた場合、アメリカ国債持ち切りと比べて、優劣はいかがでしょうか?
教えていただければ幸いです。
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トルコリラ債は? (モトカー)
2014-09-16 23:52:23
現在、SBI証券で売りに出されているアジア開発銀行発行の、トルコリラ建て債券...
価格は、97.64で、クーポンが7%です。
利回りは、8.47%です。
償還は比較的短期で1年9ヶ月。
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/bond/foreignbond/try/issued02.html

ハイリスクではなく、ミドルリスクだと思うのですが、どうお思いでしょうか???
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モトカーさんへ (目白のおっちょこちょい)
2014-09-17 09:14:43
モトカーさん
はじめまして目白のおっちょこちょいです。

SBI のトルコリラ債券ですね。
実は私も10年ほど前に SBI の南アフリカランド債券を購入しました。
その顛末と林さんのコメントはこのブログに書かれていますので、上の URL (たぶん私の名前)をクリックすると該当記事にジャンプしますので、参考にしてみて下さい。
結論から言いますと、証券会社に載せられているだけなので、米国債を選択せず新興国債券を選ぶ理由はありません。
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米国債の相場 (けいりーまん)
2014-09-17 12:59:41
林さん、ご無沙汰しております。

林さんが数年前にダイヤモンドオンラインに連載された記事を読みました。

米国債を購入しようと大手証券会社のサイトを見てみましたが、「買い」か「待ち」かが感覚的によく分かりません。

10年物ゼロクーポン債で利回り約2.6%、22,3年物ゼロクーポン債で利回り3.1%弱、という感じです。

この程度の場合で購入するメリット、デメリットは、何でしょうか? 
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オーストリア債券 (なんだかんだ)
2014-09-17 13:31:41
林さん、

米国リート売却→ドルMMF待機の状態です。ケイリーマンさんのご質問とダブるかもしれませんが、米国の現状から金利はどの程度で債券投資に踏み込む適格レベルなのでしょうか?10年債、3パーセントあたりかな?と個人的には思っていますが…。それと、オーストリア債券に投資する際のリスクは為替変動だけですか?それは金利の利を容易に喰ってしまうほどのリスクでしょうか?←以前、林さんが米国債の代替えとしてご提案されていましたので、ほんの僅かだけ、オーストリア債券にも入れてみようかな?と思っています。
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米国債のデフォルト (山ちゃん)
2014-09-17 20:08:19
モトカーさん、こんにちわ。山ちゃんです。
 米国債のデフォルトの可能性が十分にありそうとのことですね。本来なら林さんが、お答えされるべきところですが、この件は、林さんが、何回も繰り返し、説明されてきたことです。結論から言えば、極めて可能性が低い、ということです。まず、「米国債を買え!」の153ページをお読みください。それで納得できなかったら、更に質問をしてください。
 なお、アメリカ政府が、デフォルトしそうになったら、政治力で抑え込むということですが、もしも、本当にデフォルトしそうなら、そんな政治力なんて、マーケットの前にあっては、蟷螂の斧でしかありません。
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回答 (モトカー)
2014-09-17 21:18:41
モトカーです。
まず、トルこリラ債について。
南アフリカとトルコは、かなり違うと思います。
ユーロ圏との距離に、イスラム世界との距離。
隣国が、南アフリカと違う。
そして、ドイツを中心にいるユーロ圏への出稼ぎ者の存在。などなど

米国債について。
林先生の著書は読んでいますが、それでもデフォルトの可能性は無くもないと考えています。
しかしそれを、”政治力”で抑えています、すでに。
橋本元総理がアメリカ国債を売りたいといった際、アメリカは裏で動いて、橋本政権を失脚させたと言われています。
また、日本政府が、今まで何度か売らせてくれと水面下で頼んだが、断られてきました。
日本政府のアメリカ国債は、塩漬け状態なのです。
これが、政治力で抑えている具体例です。
これが無ければ、デフォルトの可能性が現実味を帯び始めていたと思います。



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お答え (劣等生)
2014-09-18 10:38:31

お答えありがとうございました。

私の購入債券は金融機関の普通の債権と劣後債、両方があります。劣後債コーラブルで、ファーストコールまで10年程度です。

債券投資の意思決定過程も申し上げておきたいと思います。
確実な儲けということで債券投資を選んだわけですが
リスクがないわけではない。債券投資のリスクを確認しておきます。
発行体リスク、価格変動リスク、為替リスク、こんなところだろうと思います。

発行体リスク。これが一番怖い。デフォールトになれば、ハコですので。
一番固いのは国債、それも最強国アメリカの米国債ということになるのでしょうが、もうちょっと金利がほしい。そこで社債を探しました。社債の中では比較的安全な金融機関の債権にしました。リーマンを見ろと言われるかもしれませんが、リーマンがあったからこそ
金融機関はより安全な投資先になったと思っています。
トゥービッグトゥーフェイルだと思っています。甘いでしょうか。ちなみにジャンクではなくBBB以上の投資適格債です。

劣後債というところもリスクはありますが、元がつぶれれば優先も劣後もあるかと思い、つぶれそうにないなら金利の高いもの、劣後債を選択しました。

価格変動リスク。
金利上昇は債券価格の下落。これからFRBが利上げをしようというわけですから、途中で売れば債券価格は下落。従って、満期まで持てる物、そんな観点で選びました

為替リスク
外債となればこれがつきます。
これが嫌だとなると日本国債となり、ほとんど儲けがない。外債に行くしかない。いくしかないとなれば、為替リスクの少ないもの、出来れば為替で利益の得られる通貨の債権を。ということで数年前は豪ドルを選びました。
中国がきな臭くなってきているので、持ちきれず、しかも豪ドルも上げてきたので売り。米ドル建ての債券を購入しました。


ところでお答えの中で
米国債を買っておけば「3年間で30年債だと8割の儲け、10年債でも5割の儲けがある」とあります。
データと式でご説明いただければと思います。

私の豪ドル社債投資も失敗だったとは思っていません。
気楽に1割儲かれば正解です。しかし到底8割にはなりません。米国債でこういう成果が得られれば
改めて投資方法を検討しなおす必要が出てきます。
ご説明よろしくお願いします。
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