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日本の金融政策の危うさ その3.地銀の救済

2019年11月24日 | 日本の金融政策

 本日の日経朝刊2ページ目の見出しは、「地方債、迫るマイナス金利」というものです。これは決して喜ばしい現象でないことは、先日トヨタが金利ゼロで社債を発行したと書いたときにも申し上げました。異次元緩和の異常な歪みが発生させている不健全な事態です。発行体がただで資金調達できるということは、裏を返せば我々を含む投資家側のおカネが価値を持たなくなったも同然の出来事です。

 

  さて、前回の記事の最後に私は次のようなことを書いていました。

 

>地銀連合の大構想がうまくいくか、注目していきましょう。

 しかーし、私はこの動きに実は一つの懸念を持っています。

 

  ソフトバンクから独立したSBI主導の地銀救済と、その後に続くであろう地銀連合の大構想はSBIの慈善動機からではありません。短期的にはSBIは地銀の持つ顧客基盤に対して様々な金融商品を提供する機会を得ることになります。彼らは自前で組成した投資信託を中心とした商品を提供し、販売以降の運営フィーを継続的に得ることが可能になる。一方地銀は投信商品であれば販売時に手数料を得ることができます。

  これまで金融機関は預金を集めそれを貸し付けることで収入の大半を得ていました。従来、預金金利と貸出金利の差はかなりなもので、およそ2-3パーセントは確保できていました。ところが異次元緩和以降その差である利益の源泉は小さくなり続け、特にこの1年程度でいいますと地銀の平均でわずか0.2%くらいに縮小しています。前回の記事では福島銀行の場合、総資金の利ザヤがわずか0.09%とお伝えしました。これでは当然たちゆかなくなります。

  そこでどの銀行もいわゆるフィー・ビジネスに走ることになります。フィー・ビジネスとは、例えば投信を売ったり保険を売って得るフィーに頼ることです。それは金融機関の側からみれば合理的行動ですが、預金者側はどうでしょう。

  いままで銀行は預金を預かって金利をくれる存在だったのが、突然預金者に電話をかけてきて、「投信を買いませんか。保険はいかがでしょう」というセールスを仕掛けてくるいわば迷惑な存在になりつつあります。

  2011年に前著では私はこういう格言を書きました。

 「証券会社の得は投資家の損」

  それが今回は、

「銀行の得は預金者の損」となります。

   すでに都銀ではこの数年、預金者に対して様々な金融商品を能動的にぶつけることをしてきました。みなさんも自宅の電話に銀行もしくは銀行から請け負って商売をしている販売子会社から電話がかかってきた経験をお持ちだと思います。昔はそんなことは皆無でした。

  たとえ金利が付かかなくても、損だけはしないのが銀行預金でしたが、今後はそうした銀行推奨の商品を買うと、得することもありますが、大損することもあります。株式投信はその代表選手です。それだけではなく、地銀の預金者にはほとんど無縁であった外貨建ての預金やジャンクボンドの外国投信など、危険度の高い商品をどしどし薦めてくるでしょう。地銀の顧客はリスクにさらされることになります。こういっては失礼ながら、はっきり指摘しておきます。地銀や信金信組の顧客層は都銀の顧客層に比べて投資経験などないナイーブな方が多いと思いますので、しっかりと注意していただきたいと思います。


   そのいい例は最近大問題になった簡保の詐欺的商法です。昔はお国がやっていた郵便局を黙って信用する顧客に、5年間で18万件も詐欺に及んだのは、顧客層のナイーブさにつけこんだ結果です。保険の新規契約に対するボーナスを得ようと、郵便局員が顧客に解約と契約を繰り返したり、2重契約をさせたりと、やりたい放題の実態が明るみに出ました。

   SBIが地銀の顧客にアクセスするということは、悪く言えば羊の群れの中に狼を放つようなものです。投資の“と”の字、リスクの“リ”の字も知らない人々に何を売りつけるのでしょうか。大いなる懸念を抱きます。

   こうしてみると、北尾氏の考える金融大変革というのは地銀などの金融機関を巻き込むだけの変革ではなく、これまで波風を全く知らない一般の預金者も巻き込み、リスクテイクへと舵を切ることになる側面を持つのです。

   北尾氏のように日本の金融界に危機感を抱き、地銀だ保険だ証券だなどの狭い商圏から脱することを考えることは、業界にとって悪いことではありませんが、しかし一方で一般の預金者にとっては必ずしも喜ばしいことにはなりません。

  提供する商品は投信だけではありません。地方に行くと依然として普及率の低いクレジットカードのビジネスがあります。クレジットカードは、キャッシュの安易な代替手段となるため、預金の額を越えて使ってしまう消費者ローンの世界へと預金者を導きます。サラ金から借りるのは抵抗がありますが、銀行の薦めるカードローンだと借り入れをするハードルはグンと低くなります。

   さらにある程度の資産家には相続税対策としてアパート経営を促したり、資産家でなくとも不動産への投資を促し、それも自己資金がほとんどなくとも物件担保でローンを付けることで金利を得ようとします。それがシェアーハウス「かぼちゃの馬車」につながりました。

   一昨日のニュースによると、シェアーハウスかぼちゃの馬車への投資で大きな借金をしょってしまった人に対して、担保物件の放棄により借金を棒引きすることにする方向だそうです。これはほとんど騙されたようにして投資した人々にとってはグッドニュースです。きっと騙したスルガ銀行の発想ではなく、テコ入れを始めたノジマの思い切った発想なのでしょう。

 つづく

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6 コメント

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銀行の投信 (山ちゃん)
2019-11-24 14:43:24
証券会社から投信の営業に来た場合、乱暴な言葉で追い返してもさして問題はおきませんが、相手が事業会社の取引銀行だとそうは行きません。下手をすれば借金で当該の事業会社の首根っこを掴まれているケースが多いですから。だから今のうちに消費生活センターなりの指導をえておくべきでしょう。私も最近、不動産の売却をしましたが、事業資金を返済したら早速、次に投信を購入するように言われました。9月にです。世界的に金利水準が最低に落ち込んだ時であり、債券投信であれREITであれ、すっ高値を付けていました。それから若干、下げはしましたが、いまだ高値圏にあるように思われます。買うのはイヤだけど、断りづらい。私はどうすべきでしょうか。買い手の自由意志は認められるのでしょうか?
返信する
地銀の投信販売 (山ちゃん)
2019-11-25 09:02:26
一言で言うと、地銀の人たちは現段階では、全くナイーブで、投信のこと、投信つまりは金利と投信価格の関係とか、金利の動向とか、為替の問題とか、中進国のリスクの問題とか、何も分かっていないまま、顧客に積極的に販売攻勢をかけているということなんです。酷い時は、素人の私に、多少、知識がありそうだというだけで、「この投信は、先行き、いかがなものか。」なんて聞いてくる始末なんです。また、一時、ブラジル等の中心国の投信が金利が高いということで販売に積極的だった頃、確か10%くらいの利回りだった投信を私が、「金利が7%を超えた債券なんぞはジャンクでしょう!」と切り返したら、「そういえば、そうですね。」という返答でした。その程度なんです。
返信する
山ちゃんへ (林 敬一)
2019-11-27 10:06:34
私は儒教も論語もよく知りませんし、このブログのテーマではありませんので、議論はしません、あしからず。

ご質問の件、

>買うのはイヤだけど、断りづらい。私はどうすべきでしょうか。買い手の自由意志は認められるのでしょうか?

これまで同様の議論をまずしてみたらどうでしょうか。それは山ちゃんが書いている以下のことです。

>世界的に金利水準が最低に落ち込んだ時であり、債券投信であれREITであれ、すっ高値を付けていました。それから若干、下げはしましたが、いまだ高値圏にあるように思われます。

それでもあなたは薦める理由はなんですか、と。
さらに山ちゃんはこうも書かれていますよね。

>一言で言うと、地銀の人たちは現段階では、全くナイーブで、投信のこと、投信つまりは金利と投信価格の関係とか、金利の動向とか、為替の問題とか、中進国のリスクの問題とか、何も分かっていないまま、顧客に積極的に販売攻勢をかけているということなんです。酷い時は、素人の私に、多少、知識がありそうだというだけで、「この投信は、先行き、いかがなものか。」なんて聞いてくる始末なんです。また、一時、ブラジル等の中心国の投信が金利が高いということで販売に積極的だった頃、確か10%くらいの利回りだった投信を私が、「金利が7%を超えた債券なんぞはジャンクでしょう!」と切り返したら、「そういえば、そうですね。」という返答でした。その程度なんです。

であれば、これまで同様、こんこんと諭してみるのはどうですか。

もっとも企業と銀行の付き合いは千差万別。それぞれヒストリーも違えばどの程度世話になったかも全く違います。

もし断るのが不安であれば、一般論では以下の対処があります。

すべての銀行、信金信組は貸出先に窮しています。他の銀行や、公的な金融機関などをまず当たってみる。それで融資してもらえそうなら強気にでるという手です。

私はこれまで数々の中小企業経営者の方々のお手伝いをしてきましたが、この十数年でメインバンクの呪縛から逃れた企業は数多くあります。

あくまで一般論ですが、

「案ずるより産むがやすし」
返信する
Unknown (Ricky)
2019-12-08 10:19:23
はじめまして。
フィー・ビジネスのことを仰られていますが、
ご存知の通り直近では、証券会社の売買手数料の値下げ(というよりゼロ化)競争が雪崩を打ったように広がっていますね。
北尾氏のSBIも例外ではありませんが、フィー・ビジネスに代わる何か秘策を持っているのか、はたまた相変わらず情報弱者を食い物にするトルコリラ建、南アフリカランド建などの金融商品、或いは高い手数料の投資信託を売りつけるのか。
そして、そもそもメガバンクですら疲弊している状況で地銀を束ねたところで果たして勝算はあるのか?
林さんの見立ては如何なるものでしょうか。
返信する
Rickyさんへ (林 敬一)
2019-12-08 17:53:26
初めまして。
私のブログをお読みいただき、そしてコメントをいただき、ありがとうございます。
グッド・ポイントを突かれていると思います。
では私からの回答です。

>フィー・ビジネスのことを仰られていますが、
ご存知の通り直近では、証券会社の売買手数料の値下げ(というよりゼロ化)競争が雪崩を打ったように広がっていますね。

そのとおりですね。日本の証券会社でも投信関係のフィー、特に販売手数料はほとんどなきに等しいものになるのでしょうね。しかし運営管理費と呼ばれる信託報酬はなくせないでしょう。インデックス連動のETFで、何も運用上の技を必要としないものでも、年間0.1%-0.2%程度はどの投信でもかかります。

>北尾氏のSBIも例外ではありませんが、フィー・ビジネスに代わる何か秘策を持っているのか、はたまた相変わらず情報弱者を食い物にするトルコリラ建、南アフリカランド建などの金融商品、或いは高い手数料の投資信託を売りつけるのか。

SBIにもこれはという秘策はないと思います。
リスクが高く手数料の高い投信は商品の一つとして提供はすることでしょう。儲けることを宿命づけられている証券会社であり銀行ですから。

>そもそもメガバンクですら疲弊している状況で地銀を束ねたところで果たして勝算はあるのか?

大きな束になることは、確実にメリットになる分野があります。
最も単純なものはコストの削減です。組織を運営する費用は、会社を束ねれば節約できます。

人件費などもさることながら、大事なのはITシステムです。特にバンキング業務を支える基幹システム関連の莫大な投資抜きに競争力は保てません。メガバンクは毎年1千億円台の投資を続けていますが、それは地銀レベルでは全く無理ですので、束になるメリットは大きいでしょう。

基幹システムではないその他のシステム、例えば新たなモバイル関連のサービスシステムなどでも構築するのに一行ではコストがかかり過ぎるのではないでしょうか。

  それでもRickyさんが指摘されるように、カネ余りに加えてキャッシュレス化の進展による銀行の存在意義の劣化に立ち向かうのは難しいでしょうね。
  そこで伝統的な銀行業務ではなく、SBIが将来に向けて展開しつつある様々な金融サービスの助けが必要になると思います。
  SBIがどれほど幅広く様々な金融サービスを手掛けているかを書き連ねるのはちょっと面倒なので、SBIのHPからそのまま引用します。
  みなさんも下記のすべてに目を通すのは面倒でしょうが、今の先端の金融サービスとはどういうものか、よい勉強になるとおもいますので、すべてに目を通すことをお勧めします。項目は後に行けば行くほど最新のフィンテックが必要な分野になっているようです。

引用
金融サービス事業
SBI証券;オンライン総合証券
住信SBIネット銀行;銀行業
SBIインシュアランスグループ;保険子会社の経営管理
SBI損害保険;損害保険業
SBI生命保険;生命保険業
SBIいきいき少額短期保険;少額短期保険業
SBI日本少額短期保険;少額短期保険業
SBIリスタ少額短期保険;少額短期保険業
日本アニマル倶楽部;少額短期保険業
SBIマネープラザ;保険代理店業務・金融商品仲介業・住宅ローンの代理業務・銀行代理業
SBIリクイディティ・マーケット;外国為替証拠金取引等のマーケット機能の提供・システム開発
SBI FXトレード;外国為替証拠金取引業
SBIジャパンネクスト証券;私設取引システム(PTS)運営業務
SBIオートサポート;オートローン推進事業、自動車保険広告事業
SBIレミット;国際送金事業
SBIソーシャルレンディング;ソーシャルレンディングサービスにおける出資募集業務、貸金業務
SBIビジネスサポート;教育研修事業、コンタクトセンター運営及びBPO事業、人材サービス事業
SBIビジネス・ソリューションズ;バックオフィス支援サービスの提供
SBIベネフィット・システムズ;確定拠出年金の運営管理業務、人事・福利厚生関連業務及びシステムアウトソーシング業務
SBIアートフォリオ;美術品仲介・販売事業、美術品展示販売事業の企画・運営
SBIトレードウィンテック;金融機関向けコンサルティングサービスとシステムソリューションの提供
SBI FinTech Solutions;EC決済事業及びフィンテック関連事業のグループ統括
SBI BITS;情報通信機器およびコンピュータソフトウェアの設計、開発、運用、販売、保守管理、監査およびリース業務等
SBIプライム証券;第一種金融商品取引業
SBI Ripple Asia;ブロックチェーン/DLT技術等を活用した各種フィンテックソリューションの企画、開発、制作、販売、保守、運用、輸出入、およびそれらに関するコンサルティング業務
SBIリーシングサービス;オペレーティングリース・アレンジメント事業
SBIネオファイナンシャルサービシーズ;フィンテックなど新技術の導入支援および関連事業の運営・統括
SBIプロセス・イノベーター;RPA・AI-OCR等テクノロジーを活用した業務改善(BPR)、業務受託(BPO)及びコンサルティング
SBI VCトレード;仮想通貨の交換・取引サービス、仮想通貨関連サービス・情報の提供

引用終わり

なんという多様なサービスを手掛けているでしょう。もちろんこれらがすべて成功するビジネスモデルになるかはわかりませんが、特にフィンテックが必要な分野は、失礼ながら地銀が手に負える分野ではないと思います。

私が地銀の経営者でこれを見せられたら、ウーム、参加してみようかな、となると思います。

以上、回答になりましたでしょうか。
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Unknown (Ricky)
2019-12-10 12:21:31
林さん、こんにちは。
返信ありがとうございます。

統合、合併を行う中、AIのようなものの導入により、コスト削減によるメリットはあるということですね。
ただし、行員にとってはレイ・オフや配置転換の嵐・・・となるのでしょうね。

北尾氏のSBIが取り込めなかった(デジタルに弱い)層を取り込み可能とし、地銀にない幅広い商品を提供することで収益増を見込む・・・
といったような理解でよろしいでしょうか。

今後ともご教示いただきたく、よろしくお願いします。
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