因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

仙台シアターラボ三都市ツアー『特別な芸術』

2017-12-09 | 舞台

*野々下孝構成・演出・選曲 芥川龍之介原作 劇団サイトはこちら 板橋・サブテレニアン 10日で終了
 
芥川龍之介の『歯車』を中心に、いくつかの短編をコラージュしつつ、古典の現代劇風上演ではなく、今を生きている人間の日常に潜む違う顔、言葉にならない言葉、自分でも気づかずにいる心の奥底をあぶりだし、曝け出すかのような80分である。じゅうぶんな理解や把握ができたか、まことに心もとないのだが、見る者を引き込む強烈な力があり、笑える場面も随所にありながら笑う余裕が持てなかったというか、これはネガティブな意味ではなく、舞台から発せられるものを受けることに集中したため、笑うリアクションにまで自分を持っていけなかったためだ。

 この三都市ツアーは、地元仙台で6月に始まった。相当な稽古が積まれていることが察せられ、公演が始まってからも演出が変わることがあるとのこと。非常に独自性の強い舞台であるが、野々下孝はじめ出演俳優の方々は、日常を描いたもの、翻訳劇、古典劇等々いずれにも柔軟に対応されることと想像した。複数の役の演じ分けも、この作品の場合、単に二役、三役やるということではなく、この役でありながら、この役ではない浮遊性や、ひとりの人物の、本人も知らない別の顔であるという捉え方もできる。数多の舞台を見ることのできる東京にあってさえ、類似のものを体験した記憶がない。終演後は出演者による短いトークがあり、仙台シアターラボの成り立ちや活動状況、仙台の演劇事情などを聞くことができた。

 予備知識のない劇団や、想像のつかない内容に触れるのは非常に緊張するものである。しかしサブテレニアンに入った瞬間、黒を基調とし、濃い青や赤がところどころを切り裂くように彩る舞台に、自然に溶け込めた。当日リーフレットに掲載された劇団の紹介文には、「多様なテクストと、俳優達が創りあげたシーンを、抽象的な関連性によって連鎖させ、ある印象を作りだすスタイルは、『演劇の暴走』と称される」。「常に『演劇とは何か?』を突きつけながら、美しさと暴力性を兼ね備えた作品によって、演劇の未来を切り開き続けている」と結ばれる。

 自分が体験した舞台はまさにこの通りであった。何とかこれを自分のことばにできないものか。みちのくの劇団から受け取った骨の折れる、しかし嬉しい課題である。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ヒノカサの虜 第10回公演『白... | トップ | 文学座12月アトリエの会『鳩... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事