メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ショスタコーヴィチ「鼻」

2015-05-19 11:17:33 | 音楽一般
ショスタコーヴィチ:歌劇「鼻」 原作:ゴーゴリ
指揮:パヴェル・スメルコフ、演出:ウイリアム・ケントリッジ
パウロ・ジョット(コワリョフ)
2013年10月26日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 2015年4月 WOWOW
 
題名だけはきいていたが、見るのも聴くのも初めてである。1930年の初演(作曲家24歳の年)で、このころジャズの要素が入った曲をずいぶん書いているけれど、これはそれに加えて、20世紀音楽のエクセントリックな面、諧謔、洗練、、、と、あらゆる要素が才気煥発に飛び交う。
 
ある役人が床屋で顔剃りの際に鼻をとられてしまい、鼻は自分でいろんなところに出没、それを探し、追いかけ、騒ぎは広がる。さてこの「鼻」とは何ぞやと観客としては考えてしまうが、部分的に思い当たっても、次には別の展開となる。辻褄があってなくても、そこは上記の音楽の展開で先へ先へと進んでしまう。
 
結局全体として何をいいたいの、というのは多分野暮で、全体としてはなんだかよくわからないようにしてそろそろうるさくなってきた体制側の批判をかわし、見る人の方で自由に選択組み合わせするようにと、結果的になっているのかもしれない。とはいえ、その後この作品はあまり日の目をみなくなり、「雪解け」後にまた再評価され、今ではロシアで人気演目となっているらしい。
 
さて、優れた作品だとは思うけれど、音楽に身を浸して楽しむというわけにはいかないから、ここでの見ものは才人ケントリッジによる舞台、特に映像で、一部では映像が主役ではないかと思えてしまう。それも、ドンキホーテ風の影絵や、作曲家の肖像、批評的で象徴的な画像、またロシア語上演でもメトの観衆にうまく衝撃を与えるためか通常の字幕ではなく前記の映像の中にうまく英語メッセージを込める。スカラ座の「魔笛」でもこの人の映像を多用した演出を記憶しているけれど、あれより数段いい。
鼻は影絵でもまた舞台上にも出てくるが、ずいぶん大きくて動きもいい。ふなっしーを思い出してしまった。
 
役人コワリョフ役のジョットはブラジル出身のバリトンだが、見栄え、勢い、いじめられキャラ、、、なかなかいい。
 
そしてなんといっても印象深いのは、ショスタコーヴィチという人、なんという才能とそれをためらいなく発揮していく強さと勇気をもった人か、ということである。20世紀の作曲家としてなかなか好きな作品というと難しいところはあるのだが、評価としては今までよりだいぶ上げないといけない。

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