メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ネオンと絵具箱(大竹伸朗)

2007-01-28 17:11:26 | 本と雑誌
「ネオンと絵具箱」(大竹伸朗 著、2006年10月、月曜社)
先月、東京都現代美術館で大回顧展「大竹伸朗全景」に驚かされたが、これはその作者が2003年から2006年、展覧会を予定に入れながら、雑誌に連載していたもの。
 
時に子供の頃、北海道でアルバイトをしていた頃、それをもとにロンドンに行っていた頃、それらのことを織り交ぜながら、多くは現在の創作拠点である宇和島での、創作者の生活、あるいは生活者の創作が語られ、興味深い。
 
彼も書いているが、現代アートの、時にあっといわせるものを作ったりしていても、それは白い紙にひらめきで描くというものではなく、小さい思いつきや気になったものを集めて(それが彼のあの膨大なスクラップなんだろうが)、それらのなかから、ある流れが、ある結果が出てくるというものなのだろうか。
 
この回顧展を開くにあたり、過去の作品、スクラップなど、順に並べて、カメラマンとともに延々と記録したようで、計測によればスクラップは1万ページ以上、重量200kg以上だったという。
自身驚いたそうだが、やはり日々の営為が利いてくるということだろうか。何か道徳的な響きになってしまうが。
 
彼はメモをよく取っていて、好きであるらしく、その9割はまだ作品に反映していないと言っている。
 
こういう当人による、生きている内の自分のアーカイブというのは、その当否は決めがたいけれども、一度やってみたくなるという誘惑は理解できる。
 
最後の方の、宇和島に張り付いたようないくつかの話は、話そのものとして面白い。展覧会場でギターを弾いていた作者はきわめてまじめそうな風貌だったけれど。
 
昨年末、朝日新聞の読書欄で、多くの有名人によるその年の3冊というのがあった。その中で角田光代さん(「対岸の彼女」)は、カズオ・イシグロ「私を離さないで」と「ネオンと絵具箱」をあげていた(もう一つは忘れた)。彼女とは波長が合うと思っていたが、2冊までとは。
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