メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

デュマ・フィス「椿姫」

2024-01-17 15:37:22 | 本と雑誌
椿姫 : デュマ・フィス 著  新庄嘉章 訳 新潮文庫

椿姫といえばヴェルディのオペラで、この好きな作品は何度も見聞きしてきたが、原作を読むのは初めてである。
 
予想以上によく出来ていて、パリの華やかな社交界にも入っている娼婦マルグリットとうぶで純粋な青年アルマンの悲劇、悲恋の物語。恋敵、パトロン、家(父親)のからみは定番とはいえこの後こうでなくてはになったという面もあるだろう。それでいてくさくなっていくというより、気持ちよくひたれるところもある。
 
作者はあの「モンテクリスト伯」のアレクサンドル・デュマの息子(フィス)(1824-1895)で、私生児だそうである。そういうことも、、、などとは言うまい。1848年の作品。
そしてヴェルディのオペラであるが、これは台本のピアーヴェによって(?)この原作のいろんな場面要素を使って組みなおしあの構成にしたもので、筋立てはかなり違っているが、父親による説得(プロヴァンスの、、、というあれ)などは原作の相当場面をうまく使っているといえる。
 
そしてオペラのタイトルは「La Traviata(道をふみはずした女)」であるけれど、日本ではこのデュマ・フィス原作の「椿姫(La Dame Aux Camelias)」 を使っている。これは成功だろう。
 
ところでこの原作の構成だが、この世界にある程度親しい「わたし」がある女性(実は主人公マルグリット)の遺産整理のオークションに立ち会い、一冊の本(マノン・レスコー)を競り落としたのがきっかけで、女性の相手アルマンを知り、そこからこれまでの物語に入っていくという形になっている。私の乏しい読書経験でも19世紀あたりの小説にはこういう物語の中心から離れたひとからみた話というかたちがいくつかあるようだ。
  
メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」、エミリー・ブロンテ「嵐が丘」、近代だけどサマセット・モーム「月と六ペンス」もそうなのではないか。こういう書き方すべてがとはいわないが、読みだしてから物語への入りがうまくいくようにみえる。
 
ところでこのデュマ・フィスの小説を読んでみようと思ったのは、またしても荒川洋治「文庫の読書」である。魅力ある物語、読みたくさせる紹介だが、ここにはヴェルディの名前はまったくない。それなら本作だけ読んでもと思わせた。まいったである。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ルートヴィヒ(完全復元版) | トップ | モリコーネ 映画が恋した音楽家 »

本と雑誌」カテゴリの最新記事