「REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方」(ローレンス・レッシグ著、 山形浩生訳、翔泳社、2010年2月)
ローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig 1961-)はスタンフォード大学ロースクール教授の時代から、インターネット時代におけるコピー・ライト(複製権)の新しいありかた、特にパブリック・ドメインとの関係をクリエイターが自主的に表明できる仕組みとそれを運営する組織として「クリエイティブ・コモンズ」を立ち上げたことで、この分野では有名である。
私も代表作の「CODE」、「コモンズ」、「FREE CULTURE」を読んだことはないが、著者の講演を聴いたこともあり、またクリエイティブ・コモンズ・ジャパンとは過去に付き合いもあったから、その主張についてはおよそ理解している。
今回の「リミックス」は、この分野での最後の著作(?)だそうだ。スタンフォードからハーヴァードに移っていることから、次は政治の分野に行くのではとも言われている。これまでの主張もまとめているということから読んでみた。
どうもこれはいくつかの講演をベースに、口述筆記を加えたような感じだ。事例は多いが、饒舌であり、繰り返しが多く、体系的なところがないから、訳が日本語としてこなれていないこともあって読みやすくはない。
まず最初のあたりから、この本は子供たちを犯罪者にしないために書いたというような記述がある。インターネット上で得られるものをリミックスした創作が多少評判になると、それがコピー・ライトの許諾を得ているのかどうかが追求され、有能な弁護士がよってたかる。その創作が金儲けを意図したものでなく、オリジナル素材の権利者に実質的な損害がなくてもである。そして子供たちは犯罪者になってしまう。
喫煙、飲酒、多少の暴力などと変わらない。インターネット時代に、誰もがやりがちなこんなことで、こうされていいのか。なるほど。
そこから、いっそのところアマチュアにはコピーはフリーにしてしまったほうがいいのでは、というのが一つの主張。
これは社会的なコストから、そして実質的に経済的損害は非常に小さいということから、そういう主張も出てくるのかな、とは思う。
ただし、ここで訳者があとがきで言っているように、いささかレッシグの言い方は暴走気味で、そこまでの主張で進んでは現実味があるのかどうか。
学術論文なんかは彼が言うように、いくらでもコピーしてくれたほうが原著者には役にたち、損害はおそらく誰にもない、という場合もあるから、一律にコピーの規制ということはないほうがよいし、フェア・ユースというものも、いちいち法的適合性を神経質に判断してということがあるから、彼がいうように逆に考えてもよいかもしれない。
このあたりは、著作権領域の学者というより憲法学者という感じがする。
クリエイティブ・コモンズのようなクリエイターが自主的に権利を主張できるようにすること(多くの場合は、非営利ならフリー、ただしクレジットはつける、そしてその成果も非営利ならフリーとする)、長期的には著作権を自動付与から申請による付与にする(これは後に著作権を捜しても見つからず合法な再利用が困難になることを防ぐため)、非商業的な利用は著作権の対象からはずし規制を全体にもっと単純にすること、などである。
ただもう一つ言われているファイル共有を合法化してしまうというのは、いくつかのケースで現在有罪とされているものに疑問はあるものの、ここまでラディカルに合法としていいものかどうか。
なお、インターネット文化の中で見られるさまざまな事例、リナックス、ウィキペディア、フリッカー以外にもあるさまざまな協働の動き、こういう非営利で始まったものとビジネスとのハイブリッドなど、参考にはなる。
そして日本でも、世代が変わりつつあって、行政も、法律家も徐々に変わりつつあるのを感じている。旧来のコンテンツを扱う企業の警戒心は依然として強いようだが。