サイード音楽評論について書いたときに、ポリーニの視聴経験をかなりあげたが、確かにベートーヴェンの「ディアベリ変奏曲」あたりでこっちもくたびれてきて、このピアニストのフォローをやめてしまった。
それで考えてみたのだけれど、この変奏曲としては大曲のディアベリは、私にとっても鬼門である。始まってしばらくはいいのだが、最後に行くに従い、あのポリーニ同様、聴いていてもなにかのたうちまわるようで、帰結しない。
作品120だから、ソナタよりはあとである。6つの変奏曲(作品34)、エロイカ変奏曲(作品35)、そして作品番号がない32の変奏曲ではこういうことはない。
それでもディアベリには何かあるのだろうと、これまでグルダ、ゼルキン、リヒテルと聴いてきたが、どうも満足したという感はない。それでもこの3人は、彼らなりの世界に持ってきていてその結果ということなのだから、こういう作品なのかもしれない、私にとって、と思う。
ゼルキンとグルダについては、ベートーヴェンの変奏曲はこれだけしか聴いていない(ほかにあるという情報も持っていない)。
一方、リヒテルはエロイカと6つの変奏曲の録音があり、特にエロイカは素晴らしい。
そしてグールド、上記3つの録音があり(エロイカは確かスタジオ映像もある)、本人も特に好きな曲だろうということは演奏からも伝わってくる。愛聴盤である。が、ディアべリの録音はない。これって彼自身の評価からきているのだろうか。これと「ハンマークラヴィア」は以前聴きたいと思っていて探した。「ハンマークラヴィア」はあまり音のよくないライブ録音があるが、特にどうということはなかった。
ポリーニは最近フォローしていないのでディアベリの他はわからないが、エロイカを弾くとは想像しにくい。本当は弾いてみればよかったのに、と思うのだが。
もっともコンクールの時期は知らないが、ショパンのポロネーズ集を録れる場合でも、「英雄ポロネーズ」や「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」はやらない人である。後者なんかはショパンの大傑作の一つだと思っていて、ホロヴィッツ、ルービンシュタイン、アルゲリッチと皆いいが、あのリヒテルだってオーケストラとの共演ヴァージョンのとてつもなく素晴らしい録音(珍盤?)がある