メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

スワンの恋

2018-10-15 21:00:12 | 映画
スワンの恋(Un Amour de Swann、1983仏・独、110分)
監督:フオルカー・シュレンドルフ、脚本:ピーター・ブルック/ジャン・クロード・カリエール、音楽:ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ
ジェレミー・アイアンズ(スワン)、オルネラ・ムーティ(オデット)、アラン・ドロン(シャルリュス男爵)、ファニー・アルダン(ゲルマント公爵夫人)
 
原作は「失われた時をもとめて」(マルセル・プルースト)の第一篇「スワン家の方へ」、この超長編は、先に「戦争と平和」(トルストイ)をようやく読んだとはいえ、読むことはおそらくないだろう。もっとも鈴木道彦による抄訳版(集英社文庫)は持っていて、これを読む可能性はゼロではない。
したがって原作と比べてどうということは言えない。
 
19世紀末の貴族社会、作家でもあるスワンとオデットの恋が描かれるのだが、盛り上がりはそんなにあるわけではない。感情の起伏は大きくないし、疑心暗義、あてつけが続き、主人公たちの想いは美学であり、それもスノッブなそれのように見える。そこから感情をあらわに相手にぶつける欲求がないわけではないが、あくまでその一歩手前で止まっている。これがプルーストについてよく言われる「意識の流れ」なのかどうか、ともかくこれでは衣装、建物その他風俗はおそらく詳細に再現しているようだが、それでもちょっと退屈が続く。と思っていたら、だんだんとこちらの注目もとどまるところがなくなっていく。これは演出とカメラの秀逸なところで、主人公たちの動きに途切れがなく次から次へと関心が続いていく。
 
そうして少しずつ主人公たちの半分かくれた本音が動いていく。この時代のこの社会、貴族たちの社交の中に高級娼館が密接に入り込んでいたことが次第に分かってきて、オデットの背景が徐々に明らかになっていくのだが、それでも話が一挙にどこかへ行くというところはない。
 
そして興味深いのは、スワンの馬車の御者やオデットの侍女などが、余計なことはしないし言わないが、適宜観察していることが見て取れることで、彼らが少なくともこの映画の作者を幾分か代表しているということができる。
最後のところで、十年ほど飛んで、スワンとオデットのあいだに生まれた娘が登場し、馬車の世界に自動車が登場している。ここで、あの動かない起伏の少ない社会も大きな変化の予兆をはらんでいた、あの御者たちはそれらの観察者、証人であった、ということがわかってくる。これを感じさせる映像の作りはなかなかいい。
 
作り手側は豪華キャストで、脚本にはピーター・ブルック、音楽はなんとヘンツェである。1960年代、ベルリン・ドイツ・オペラの来日で、出し物の一つがヘンツェだったこともあり、わが国では現代音楽のスターというイメージがあった。もっともこの映画では、誰かがピアノを弾く時を除くと、音楽が流れるところは多くない。
 
スワンのジェレミー・アイアンズはまだそんなにキャリアはないころだが、スノッブさ、ちょっと弱そうなインテリの感じ、細かいしぐさなどは、ピタリで、最後までよく持続した。
 
オデットのオルネラ・ムーティ、最初は彼女?と思ったが、オデットの背景がわかってくるにつれ、またそれでも恋になるということで、この多面性を持つ役を演じ切った。
 
アラン・ドロンはこの中に入るとスノッブなところが不足で、むしろいい人の面が出ていた。ファニー・アルダンは適役だと思うが、この私が好きな女優、もう少し見たかったのだが、出番は多くなかった。

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