メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

エレーヌ・グリモーのバッハ

2008-10-19 18:26:12 | 音楽一般
バッハのオリジナル曲として、平均律クラヴィーア曲集Ⅰから2番、4番、Ⅱから6番、20番、9番、ピアノ協奏曲第1番
ヴァイオリン・パルティータ第2番からシャコンヌ:編曲ブゾーニ
オルガンのためのプレリュードとフーガイ短調(BWV543):編曲リスト
ヴァイオリン・パルティータ第3番からプレリュード:編曲ラフマニノフ
ピアノ:エレーヌ・グリモー  
(2008年録音、DG)
 
こういうアルバムはこれまでなかった。バッハの鍵盤曲アンソロジーも最近はあまりなくて、カテゴリー別に全曲というのが多いのだが、コンサートでは、そういう順序が多いわけでないし、あるまとまりて提示してくれるのは、鑑賞する側としてうれしい。
 
それにしても、編曲されたものと一緒とは、どういうことなのか。ブゾーニ編曲のシャコンヌは比較的よく演奏されるが、その前後がバッハということはおそらくない。
 
聴いているうちにわかってきた。これはバッハ・オリジナルにたいしては、モダン・ピアノを弾くピアニストとして最初から臨むということだ。グリモーがグレン・グールドを聴いていることは確実だが、グールドがバッハをあえてピアノで弾くには彼なりの理屈があった。しかし彼女はここできわめて自然にブゾーニ、リスト、ラフマニノフを弾くピアニストとしてバッハの楽譜に向かう。
 
結果として、バッハの数曲、ブゾーニ、バッハ、リスト、バッハ、ラフマニノフの順になるこのアルバムは、違和感なくバッハの「ピアノ音楽」を楽しめるものとなっている。
 
平均律などは、グリモーが少女のころから親しんでいるラフマニノフから逆に照射された曲、演奏になっているのだろうか。それによってバッハ原曲の魅力がよりよく味わえるものとなっているのだろう。
 
シャコンヌでは、何かが鮮やかに速度を増して立ち上がってくる。そしてバッハの曲一般にプレリュードからフーガに入るところがたまらなくいいのだが、このリスト編のものでは、オルガン曲のよさを髣髴とさせ、しかもプレリュードの豪奢な暗闇から始まるフーガの恥じらうような美しさ、そして終盤の絢爛!
 
ラフマニノフ編をいくつかのヴァイオリン演奏と比べてみたが、ピアノというのは利点の多い楽器であることがあらためてわかった。この素晴らしい楽譜を前にして、ラフマニノフが何を思ったか、おそらく腕が鳴ったであろう。アルバム最後を飾るグリモーの演奏もそれを感じさせて余すところがない。

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