バルトーク
「2台のピアノ、打楽器と管弦楽のための協奏曲」、「ヴァイオリン協奏曲第1番」、「ヴィオラ協奏曲」
ピアノ:ピエール=ロラン・エマール、タマラ・ステファノヴィチ
パーカッション:ニール・パーシー、ナイジェル・トーマス
ヴァイオリン:ギドン・クレーメル、ヴィオラ:ユーリ:バシュメット
ピエール・ブーレーズ指揮ロンドン交響楽団(第1曲)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ブーレーズによる一連のバルトーク録音の最後、といっても、まだあったかという感じがしたのだが、地味目な曲ということもあって、むしろ楽しめた。
「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」(1937)というのはあったけれど、こんなのあったっけと思って調べたら(レコード芸術の演奏評でも何も書いてないのは不親切)、作曲者自身による編曲(1940)で、1943年にフリッツ・ライナー指揮ニューヨーク・フィルハーモニー、作曲者夫妻のピアノで初演されている。コンタルスキー兄弟による録音(ウェルゴ)のライナーノートに故・柴田南雄が書いているもの。
さてこうして聴いてみると編曲版は成功のようで、ピアノと打楽器だけだと、部分的には面白くても、バルトークで私の嫌いなところ、つまりやたら攻撃的、表面的に悲劇的なところが長く続いて疲れる、といったところがない。
これはやはりブーレーズによる全体のバランス、そして録音の完成までのレビューによるものだろう。きわめてうまくブレンドされた音である。もちろん、ピアノの一人はエマールだから、ブーレーズの意図を十分理解していたに違いない。
ところで思い出して久しぶりに聴いたのが、作曲者夫妻のピアノによる最初の版の録音で、1941年ころの放送録音を息子の名録音技師ピーターが処理して聴ける状態にしたもの。1971年VOX(日本コロンビア)の廉価盤(1000円)だ。
第1楽章の非常にゆっくりとテンポを早くしていくところなど面白いが、25分ほどかかる曲全体は、第3楽章を除くと単調で、編曲した甲斐があったことをむしろはっきりさせる。
ヴィオラ協奏曲も静かに始まり、しっとりしたところもあるいい曲で、バシュメットの演奏もいいが、やはり聴きものはヴァイオリン協奏曲で、ギドン・クレーメルはいつの間にこんなに角が取れて、しかも甘くはない演奏をするようになったか、この曲こんなに深く入っていける曲だったか、と思わせる。
ブーレーズは1970年代にバルトークのオーケストラ作品ほとんど全部とオペラ「青ひげ公の城」を録音、それらが出るたびに、バルトークの世界を経験していった、という思い出がある。あんまり好きにはなれなかった作曲家だけれど、こういう指揮者がいたのはありがたい。近代、現代の主要な作曲家ほとんどをカヴァーしてくれて、パイロット役をつとめてもらったことになる。
その後90年ころからCDで再録音が続いて、一応買って聴いたものの、最初のものほどこちらも力が入るというわけにはいかなかった。しかし、ブーレーズがかかわってのピアノをはじめとする協奏曲はCDからで、いままでより集中して聴け、少し理解が進んだということはあった。