「殯(もがり)の森」(2007年、日・仏、97分)
監督・脚本:河瀬直美、撮影:中野英世、音楽:茂野雅道
うだしげき、尾野真千子、渡辺真起子、ますだかなこ
カンヌ映画祭審査員特別グランプリ「殯(もがり)の森」、5月28日(日本時間)に受賞が知らされ、29日午後8時からNHKハイビジョンで放送された。NHKグループが製作にかんでいるらしく、おそらく何かあったら急遽放映ということになっていたのだろう。
カンヌは未公開作品が原則だから、本邦初公開、こういうのも珍しい。
カンヌは未公開作品が原則だから、本邦初公開、こういうのも珍しい。
奈良の郊外、30年ほど前に妻を亡くし認知症になっている男と、彼をケアしているこれも子供を亡くした若い女性の介護士が、その過程で森に迷い込み、いろいろな葛藤と自然の中でそれぞれの近親の死を受け入れるという物語である。
こういう話だから、ドラマとしての大きな展開というほどのものはないが、森の中の場面などは男の監督だったらもっとおどろおどろしくなるところだろう。
そのあたり河瀬直美の、進行としては淡々とした、ある意味ではしつこい演出が効いたかもしれない。テーマを決め、場面をある程度決めると、観察しながら、ドキュメンタリー風にとるのだろうか。見かけとしては。
うだしげきと尾野真千子は、その中にしっかり浸っていて、見ていてこちらも彼らの中に引き込まれた。
そして評判になったように、とにかく奈良の茶畑と森が美しい。森は「蟲師」(監督 大友克洋)の(確か)滋賀県の森ほど神秘的ではないが、人間との交感という面も含めればこっちがよりふさわしいといえるだろう。
東京ではこれから1館のみの上映らしい。全国でも10館はないので、おそらくそれほどフィルムは作ってないのだろう。
こういうときの対処はデジタルシネマになるとうまく出来るだが、一方今回ハイビジョンで見た限りでも、この映像のラティテュード(露光のふところの広さとでもいうか)は、まだデジタルではちょっとという感じがした。
こういう話だから、せりふの音量が小さくききとりにくいところもあるため、劇場で見るか、DVDが出たら(持っていないが)5.1サラウンドを使うと一層よく味わえるはずである。