メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

Love Letter (岩井俊二)

2006-10-23 23:05:10 | 映画
「Love Letter 」(1995、117分)
監督・脚本: 岩井俊二、撮影: 篠田昇、助監督: 行定勲
中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、范文雀、柏原崇、篠原勝之
 
岩井俊二が初めて手がけた長編映画とのことである。
 
婚約者を山の遭難で失った女(中山美穂)が、その三回忌のあと彼の自宅で彼が小樽で過ごした中学校のアルバムを見、その名前があった住所に手紙を出す(これは尋常な行動ではないのだが)。
ところがその手紙に返事が返ってくる。実は彼と同じクラスに同姓同名の女性がいて、彼女は気味悪く感じながらも返事を出したということが、わかってくる。
その女性を同じ中山美穂が演じていることから、映画を見ているものにも不思議な感じがするのだが、それは婚約者が彼女を好きになった理由の一つでもあるらしい。
 
彼女は婚約者の友達だった今の恋人(豊川悦司)と小樽を訪ね、女性二人が対面して物語の秘密が解明されそうになるが、それはすれ違いとなり、後はまた手紙の往還で両方の物語、そして過去が綴られていく。
 
そのうち、見ているものには、この物語の主人公が次第に小樽の女性に移っていることに気がつくが、その感情移入は後から見ると無理ではない。
 
最後は、二人の女性が過去を受け止め再生するところで終わる。これは気持ちいい。
彼が遭難した山に豊川悦司と向かい、雪の中で「お元気ですかあー」と彼女が叫ぶとこだまが返る。そのとき小樽の女性は倒れたあと回復中のベッドの上であるが、この「お元気ですか」は婚約者と同じ名前の彼女にも届き、そしてそっくりの彼女から、叫んだ彼女にこだまで返ってくる、と想像する。さては仕掛けはこのためかと思うのだが、悪い気はしない。
 
中山美穂は、特に小樽の方の役で新境地を開いたようだ。豊川悦司も粗野と繊細のバランスがいい。
あと皆うまくフィットしているが、脇で小樽の家族、つまり彼女の祖父を演じる篠原勝之が愉快、そして母親の范文雀、いい味だけどこの数年後に逝ってしまうとは。
 
篠田昇のカメラはこのときから見事。
 
岩井俊二は後の「リリイ・シュシュのすべて」(2001)などと比べてソフトではあるが、それでも中学生に焦点をあてていること、彼らの世界の不安定さ、いじめの扱いについては、すでにここに萌芽が見られる。
 
実はこの映画、霞ヶ関の官庁街で非常に有名である。
この映画が韓国でヒットし、その後小樽への観光客が飛躍的に増えたとかで、日本のソフトパワー政策、地域振興政策、観光政策などのプレゼンテーションでよく使われてきた。 映画ロケに対する地域の支援団体としてフィルム・コミッションが各地に増えてきたのもこのころからである。

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