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イギリスの魔女裁判 (魔女と悪魔の性的関係)

イギリスの魔女裁判
(魔女と悪魔の性的関係)

尋問されたバクトンの村のマリア・ブッシュは、それまで同様、
みずから告白した。連行されたのは月曜で、その夜と火曜の朝に
マルティン氏に、次のように話したとのこと--15年前、
・・・・・・[原文ママ]の死から3週間後、悪魔が彼女の
ところにあらわれ、彼女のからだを使用した。

Maria Bush de Bactõ In. vt ante freely.
taken on the munday confessed that night
& teusday morninge, teste Mr. Maltin,
that ye deuill did appeare to her in ye
shape of a man about 15 yer since and
3 we. after the death . . , [sic] and
had after, the vse of her body.

---
メアリー・スキッパーは、月曜から水曜まで不眠の状態に
おかれた後、白状した--夫の死後、悪魔が男の姿で
彼女のところにあらわれ・・・・・・定期的に彼女のからだを
使用した・・・・・・が、彼女はいつも彼のからだが冷たいと
感じた。

Mary Skipper . . . after watchinge frō
munday vntill weddesday . . . confessed
that deuill appeared vnto her in the
shape of a man after her husbands death
and . . . constantly had the use of her
. . . but she felt him allways cold.

* * *
C. L'Estrange Ewen, Witch Hunting and
Witch Trials (1929), pp. 301, 313.

* * *
スキッパーの証言にある "watching" とは、眠らない
よう監視すること。イギリス流の、あからさまに暴力的では
ない拷問。あからさまに暴力的でないから、ブッシュの自白に
あるように "freely" (みずからすすんで、無理やりで
なく)自白した、という体裁をとれるが、もちろんこれも
暴力であり拷問。他に "walking" (眠らせずに延々と
歩かせる)というものもあった。

確認。スキッパーは二晩徹夜させられて自白。
ブッシュは一晩目の途中から翌朝にかけて自白。

* * *
「悪魔があらわれ、魔女のからだを使用した」ということは
何を意味するか。

1.
この表現は魔女の自白に頻出する定番もの。つまり、
これは、魔女とされたひとりひとりの女性がみずから
発した言葉ではなく、取り調べの担当者が用いたもの。
性行為を婉曲してあらわすために。

取調官
「あなたのところに悪魔があらわれましたね。」

魔女
「・・・・・・はい。」

取調官
「悪魔はあなたのからだを(性的に)使用しましたね。」

魔女
「・・・・・・はい。」

このパターンで上記のような調書をつくることができる。

もちろん、背後にはイギリスの魔女裁判 (なぜ男性より
女性が)
にあるような、性や女性に関する思想・偏見が。

2.
この手の自白に「夫の死後」などという表現が
頻出することもポイント。

強制的な徹夜の後、1のパターンで、「悪魔との性行為」
というありもしないことを認めさせられた、という可能性も
あるが、別の可能性として、夫の死後に別の男性と
恋愛関係・性的関係をもっていて、取調べのなかで
その男性が悪魔とみなされるにいたった、ということも
ありうる。

取調官
「夫の死後、あなたに近づいてきた誰か男性は
いませんでしたか。いましたよね。」

魔女
「・・・・・・いました。」

取調官
「その人と性的関係をもちましたか。もったんですよね。」

魔女
「・・・・・・もちました。」

取調官
「その人は、悪魔だったのでは。そう、悪魔ですよね。」

魔女
「・・・・・・そうです。」

これで、上記の調書をつくることができる。
(魔女の答えは、英語では、みな "Yes" の一言。)

3.
スキッパーの自白にある「悪魔のからだは冷たかった」という
表現もこの手の調書の定番。つまり、

取調官
「悪魔は冷たかったのでは。そうですよね。」

魔女
「・・・・・・はい。」

ということ。

(おそらく、血が通っていてあたたかいはずの人間の
男性とは違う、という点を強調するための表現。)

* * *
つまり、上の自白に見られるのは、「悪魔は魔女と
肉体関係をもつ」という神学思想と、拷問と、
それから(おそらく)魔女とされた女性の記憶
(や、その書き換え)の、不幸な(あってはならない)
コラボ。

加えて、魔女とされた女性は、基本的に貧しく、年老いて、
幸せとはいえない人々だったので、そのような人々の
人生に対する諦観、もうどうでもいい、という感覚も
あったはず。

いずれにせよ、現実にはありえない、この悪魔との
性的関係が彼との契約の証拠、つまり女性が魔女で
ある証拠(のひとつ)とされた。

* * *
以上のような解釈は、トマス『宗教と魔術の衰退』
Purkiss, The Witch in Historyなどの文献からのもの。

(他にもいろいろな文献からの要素があるはず。
今後、思い出した折に追記。)

* * *
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