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Cowley (tr.), Pindar, Olympian 2

エイブラハム・カウリー(訳)
ピンダロス、オリンピック・オード2番

1
女王よ--響きあう音、
踊る言葉、ものいう竪琴の女王よ--
どんな神、どんな英雄の歌を君は歌うか?
君の栄誉に値する幸せ者は誰か?
さあ、気高き女王、決めてくれ。
丘のすべてに君の声の姿を反射させるのだ。
ピサを治めるゼウス、
そのゼウスとピサが君に言う、我らを称えよ、と。
戦勝がもたらした最初の果実として、
ヘラクレスはオリンピック競技をゼウスに捧げた。
そのヘラクレスを歌ってもいい。
が、おおお、彼らと等しく偉大といえる者はいないか!
そうだ、テロンを神聖なる二人に加えよう。
二人に次ぐのは彼、テロンだ。
テロンに勝る者はない。彼こそ
ピサでいちばんの者、神々しき力の競技の勝利者なのだ。
この地においてテロンが、テロンだけが、
足の速い先祖たちよりもさらに速く走ったのだ。

2
テロンの先祖は荒地をこえ、道なき道を拓(ひら)き、
運命の川岸にたどり着いた。
こうして彼らはアグリゲントゥムを建てた。シチリアの
美貌のなか、美しい目のような町を。
まるで近くの川に自分を映し、
その美しさに酔っているかのような、そんな町を。
以降、色あざやかな年月は、楽しげに歌いつつ飛び去っていった、
富と名誉をふたつの翼とする鳥のように。
彼らの心の正しさは、より美しく、透きとおって見えた、
幸運という服につつまれて。
そんな町に、レアの偉大なる子ゼウスよ、かたく
命じてくれ、滅びてはならぬ、と、
もしあなたがオリュンポスの山の頂上から、
あなたに捧げられた競技を見て、
もし飛ぶように流れる銀色の川アルペウスを見て、
もしわたしの歌を聴いて、
オリュンポスのように気高く、
アルペウスのようになめらかなわたしの歌を聴いて、楽しんでくれるなら。

3
このテロン一族は幾多の苦難をのりこえてきた。
いくらあなた、ゼウスといえども、過ぎてしまったできごとを
変えることはできないのだから、
今の彼らに喜びを与えてくれ。
ものいわぬ〈忘却〉の手でやさしくなで、
過去の不幸と苦しみの跡を消してくれ。
ほかでもない、高貴なる
テロンの血筋は、
輝かしき運命の好転が幾多も見てきた。
青い目をしたネレイスたちの
水晶の宮殿で
イノは女神となり、永遠の若さを手に入れた。
そして、海に落ちてよかったとばかりに喜んだ。
美しきセメレもそう。今では、
彼女を殺しつつバッカスを誕生させた雷に感謝している。
不死なる彼女は、天国で今
神々と楽しく遊ぶ。
稲妻ともいっしょに飛びまわる。
燃えて輝くゼウスに抱かれても、もう平気である。

4
が、早い話、〈死〉が未来の危険から解放したということだ。
どんな神も、ああ、
人を守ってくれやしない。
いつ海に欺かれて船が沈むかわかったものじゃない。
日が昇っても、
晴天の下、健やかに生きられるとはかぎらない。
人生の旅のなか、あてになるものなどない。
〈運〉の女神は時にやさしく、時に冷たく、
波のようにおしよせる。昼夜のように入れかわる。
テロン、あなたの一族は数々の試練に見舞われた。
不幸な子オイディプスは父を殺し、
こうして予言を成就してしまった。
神々は嘘をつかない。こうする、こうしたい、ということを予言するのだから。

5
〈復讐〉の女神は見ていた。そして、オイディプスの子に
父殺しの罪を償わせた。
二人の子が殺しあったのだ。
だが、そこから運は好転する。
不幸を埋めあわせるかのように勇ましきテルサンドロスが生まれた。
勇ましきテルサンドロスは誰にも
負けなかった、戦争でも、競技でも。
テロン、あなたのうちには彼の大いなる力がある。
テルサンドロスはわたしの歌のなか、そしてあなたのなかに生きている。
みなの声に沸くオリュンポスの勝利者たるあなた、
コリントスやネメアの大会では二倍の勝利者であったあなた。
そう、恵み深くもあなたが
そこで弟とわかちあった勝利は、
あなたに二倍の栄誉をもたらした。
あなたはそれをひとり占めしなかったのだから。
こうした謙虚でりっぱで栄光により、
先祖の兄弟間の争いが帳消しになるのだ。

6
大いなる精神と運がなければ、
オリンピックには勝利できない。
この二つがかみあってはじめて
志し高く名声を追うことができる。
運だけでは盲目で、精神だけでは無力である。
麗しき美徳の真の姿もわからない、
金に輝く幸運の光がなければ。
富もどれだけつづくか怪しいもの、
それは人間の短い命よりもさらに早く失われる。
かしこい者は富をもっとも上手(じょうず)に活用し、
名声に捧げて利子を得る。
この世のはかない楽しみを支払って、
永遠の名という確かなものを購入する。
命あるあいだによくよく考える、
死んだら下界でどうなるか。
不正に、強欲にこの世を生きる者は、
下界の心躍らない宮殿で、
然るべきゼウスの命(めい)により、
容赦のない拷問を味わう。
みずから悪をなせば、必ず重い罰を受けることになる。

7
光が消えることがないあの楽園では
神々しき太陽のまなざしがいつも降り注ぐ。
雲のなか瞬きすることも、夜に眠ることもない。
善良なる者たちは永遠の春を楽しみ、
欠乏に悩まされることも、満たされすぎて飽きることもない。
大地を耕すこともなく、海に出る必要もない。
働かなくても
食べものは手に入る。この食べものがおのれを犠牲に人を養う。
みずからを燃やして命の明かりを灯してくれる。
楽園で人は三回生きる。
三度の試練によって
命の不純物が浄化され、
灰になるからだは消えて魂だけとなる。
サトゥルヌスの頃のような黄金時代のなか、
人は聖なる宝を求めて生きる、
詩神によって歌われた幸せな者の島で。

8
そこでは足音も立てぬ風の歌声が
いい香りの空気のなか踊っている。
銀色の川が琺瑯(ほうろう)ばりの緑の牧場を流れている。
そしてその脇を黄金の木々が飾っている。
輝く木の葉は秋にも散ることなく、
果実のかわりに宝石を実らせる。
幸せな人々はこれを集めてつくる、
腕輪や冠を。
これは英雄や彼らを称える詩人の国。
賢きラダマンテュスが法を司る。
正義を貫く彼が
最高神サトゥルヌスともに裁きの座についている。
ここを治めるはペレウスとカドムスで、
あの偉大なるアキレウスもここではもはや怒っていない。
永遠の命を与えるべく母テティスが
彼のからだを浸した(そして失敗した)
ステュクスの川に、今度は魂まで浸したのだから。
かくしてアキレウスの魂は神々しく堅く強くなり、
もはや激情や悪徳にとらわれたりしない。

9
詩の女神よ、どこをさまよう? テロンの歌に帰ってきてくれ。
これら輝かしき人々が彼を待っている。
だがもう少しご辛抱いただこう。
高貴なる狩人よ、あなたは気まぐれに、
視界を横切るすべての鳥に矢を放つ。
もったいぶらずに撃つがいい。
音をたてて飛ぶあなたの矢が尽きることはないのだから。
〈技〉にはよい計画にそって努力させよう。
〈技〉は貧しく弱く、〈才能〉からの施しものがなければ生きられない。
〈才能〉は無限の蓄えをもち、
おのれの富に溺れんがばかり。入り組んだ迷路だって
目にもとまらぬ速さで走り抜ける。
〈技〉は上をめざして舞いあがるかわりに、
低いところを飛んで粗末な餌を求める。
卑しい鴉(からす)のように、残りものをあさり、汚い声で鳴く。
〈才能〉は違う。神聖なるゼウスの鳥のように
稲妻とともに飛ぶ。口には出せぬ期待を胸に抱きつつ、
プリュギアの美しい少年ガニメデとともに、
強き獲物は打ち負かし、逃げる獲物はつかまえる。
ある時は太陽の炎を浴びて休み、
またある時には空飛ぶ羽を
雲のなか包んで隠す。

10
気まぐれな詩の女神よ、ふらふら飛んでさまようのはやめてくれ。
竪琴の弦で羽ある矢を放ち、
的であるアグリゲントゥムを狙うのだ。
真ん中のテロンを撃ちぬくのだ。
さもなければ、詩に書かれたことなど
信じない、という悪い奴らが出てきてしまう。
カスタリアの泉にかけて誓ってくれ。
そんな誓いを
破る詩人はいない。
神々がステュクスへの誓いを破らないのと同じだ。
さあ、誓ってくれ。いつの時代にも、どこの都市にも、
いまだかつてテロンほど優れた、大いなる心をもつ男はいなかった、と。
誓ってくれ、テロンはこう誓っていると、
彼の下、ひとりたりとも貧困に苦しませたりしない、と。
誓ってくれ、そんな手腕をもつのは彼だけだ、と。
〈幸運〉の女神からの贈りものを
けちることなく、広い心をもって分け与えることができるのは彼だけだ、と。

11
だが、この恩知らずの今の世界では、与えれば
なぜか恨まれる。
質素倹約が広まり、
みな感謝の念すら払おうとしない。
それどころか、
妙に器用な芸まであみ出され、
礼をいうかわりに、いじめたり、暴力をふるったりする。
恩があると思われないために。
そんな人でなしに、テロンよ、あなたの善意は通じない。
だが、どんなひどいことを奴らがしても、
あなたの栄誉が傷つくことはない。
あなたが与える無限の恩恵を
彼らは隠すことができないし、数えあげる
ことすらできない。

*****
Abraham Cowley (tr.)
The Second Olympique Ode of Pindar

Written in praise of Theron Prince of Agrigentum (a famous City in Sicily built by his Ancestors) who in the seventy seventh Olympique won the Chariot-prize. He is commended from the Nobility of his Race (whose story is often toucht on) from his great Riches (an ordinary Common-Place in Pindar) from his Hospitality, Munificence, and other Virtues. The Ode (according to the constant custom of the Poet) consists more in Digressions, than in the main subject: And the Reader must not be chocqued to hear him speak so often of his own Muse; for that is a Liberty which this kind of Poetry can hardly live without.

1.
Queen of all Harmonious things,
Dancing Words, and Speaking Strings,
What God, what Hero wilt thou sing?
What happy Man to equal glories bring?
Begin, begin thy noble choice,
And let the Hills around reflect the Image of thy Voice.
Pisa does to Jove belong,
Jove and Pisa claim thy Song.
The fair First-fruits of War, th'Olympique Games,
Alcides offered up to Jove; 10
Alcides too thy strings may move;
But, oh, what Man to join with these can worthy prove!
Join Theron boldly to their sacred Names;
Theron the next honour claims;
Theron to no man gives place,
Is first in Pisa's, and in Virtue's Race;
Theron there, and he alone,
Ev'n his own swift Forefathers has outgone.

2.
They through rough ways, o're many stops they past, 20
Till on the fatal bank at last
They Agrigentum built, the beauteous Eye
Of fair-fac'ed Sicilie,
Which does it self i'th' River by
With Pride and Joy espy.
Then chearful Notes their Painted Years did sing,
And Wealth was one, and Honour th' other Wing.
Their genuine Virtues did more sweet and clear,
In Fortunes graceful dress appear.
To which great Son of Rhea, say 30
The Firm Word which forbids things to Decay.
If in Olympus Top, where Thou
Sit'st to behold thy Sacred Show,
If in Alpheus silver flight,
If in my Verse thou dost delight,
My Verse, O Rhea's Son, which is
Lofty as that, and smooth as This.

3.
For the past sufferings of this noble Race
(Since things once past, and fled out of thine hand,
Hearken no more to thy command)
Let present joys fill up their place, 40
And with Oblivions silent stroke deface
Of foregone Ills the very trace.
In no illustrious line
Do these happy changes shine
More brightly Theron than in thine.
So in the Chrystal Palaces
Of the blew-ey'd Nereides
Ino her endless youth does please,
And thanks her fall into the Seas.
Beauteous Semele does no less 50
Her cruel Midwife Thunder bless,
Whilst sporting with the Gods on high,
She enjoys secure their Company,
Plays with Lightnings as they fly,
Nor trembles at the bright Embraces of the Deity.

4.
But Death did them from future dangers free,
What God (alas) will Caution be
For Living Mans securitie,
Or will ensure our Vessel in this faithless Sea?
Never did the Sun as yet 60
So healthful a fair day beget,
That Travelling Mortals might rely on it.
But Fortunes favour and her Spight
Rowl with alternate Waves like Day and Night.
Vicissitudes which thy great race pursue,
Ere since the fatal Son his Father slew,
And did old Oracles fulfill
Of Gods that cannot Lye, for they foretel but their own Will

5.
Erynnis saw't, and made in her own seed 70
The innocent Parricide to bleed,
She slew his wrathful Sons with mutual blows;
But better things did then succeed,
And brave Thersander in amends for what was past arose.
Brave Thersander was by none
In war, or warlike sports out-done.
Thou Theron his great virtues dost revive,
He in my Verse and Thee again does live.
Loud Olympus happy Thee,
Isthmus and Nemea does twice happy see.
For the well-natur'ed honour there 80
Which with thy Brother thou didst share,
Was to thee double grown
By not being all thine Own.
And those kind pious glories do deface
The old Fraternal quarrel of thy Race.

6.
Greatness of Mind and Fortune too
The' Olympique Trophees shew.
Both their several parts must do
In the noble Chase of Fame,
This without that is Blind, that without this is Lame.
Nor is fair Virtues Picture seen aright
But in Fortunes golden light.
Riches alone are of uncertain date,
And on short-Man long cannot wait.
The Vertuous make of them the best,
And put them out to Fame for Interest.
With a frail good they wisely buy
The solid Purchase of Eternity.
They whilst Lifes air they breath, consider well and know
Th'account they must hereafter give below.
Whereas th'unjust and Covetous above,
In deep unlovely vaults,
By the just decrees of Jove
Unrelenting torments prove,
The heavy Necessary effects of Voluntary Faults.

7.
Whilst in the Lands of unexhausted Light
O're which the God-like Suns unwearied sight,
Ne're winks in Clouds, or Sleeps in Night,
An endless Spring of Age the Good enjoy,
Where neither Want does pinch, nor Plenty cloy. 110
There neither Earth nor Sea they plow,
Nor ought to Labour ow
For Food, that whil'st it nour'ishes does decay,
And in the Lamp of Life consumes away.
Thrice had these men through mortal bodies past,
Did thrice the tryal undergo,
Till all their little Dross was purg'd at last,
The Furnace had no more to do.
Then in rich Saturns peaceful state
Were they for sacred Treasures plac'ed, 120
The Muse-discovered World of Islands Fortunate.

8.
Soft-footed Winds with tuneful voyces there
Dance through the perfum'd Air.
There Silver Rivers through enamell'd Meadows glide,
And golden Trees enrich their side.
Th'illustrious Leaves no dropping Autumn fear,
And Jewels for their fruit they bear.
Which by the Blest are gathered
For Bracelets to the Arm, and Garlands to the Head.
Here all the Hero's, and their Poets live, 130
Wise Rhadamanthus did the Sentence give,
Who for his justice was thought fit
With Soveraign Saturn on the Bench to sit.
Peleus here, and Cadmus reign,
Here great Achilles wrathful now no more,
Since his blest Mother (who before
Had try'd it on his Body' in vain)
Dipt now his Soul in Stygian Lake,
Which did from thence a divine Hardness take,
That does from Passion and from Vice Invulnerable make. 140

9.
To Theron, Muse, bring back thy wandring Song,
Whom those bright Troops expect impatiently;
And may they do so long.
How, noble Archer, do thy wanton Arrows fly
At all the Game that does but cross thine Eye?
Shoot, and spare not, for I see
Thy sounding Quiver can ne're emptied be;
Let Art use Method and good Husbandry,
Art lives on Natures Alms, is weak and poor;
Nature herself has unexhausted store, 150
Wallows in Wealth, and runs a turning Maze,
That no vulgar Eye can trace.
Art instead of mounting high,
About her humble Food does hov'ering fly,
Like the ignoble Crow, rapine and noise does love,
Whilst Nature, like the sacred Bird of Jove,
Now bears loud Thunder, and anon with silent joy
The beauteous Phrygian Boy,
Defeats the Strong, o'retakes the Flying prey;
And sometimes basks in th'open Flames of Day, 160
And sometimes too he shrowds,
His soaring wings among the Clouds.

10.
Leave, wanton Muse, thy roving flight,
To thy loud String the well-fletcht Arrow put,
Let Agrigentum be the But,
And Theron be the White.
And lest the Name of Verse should give
Malitious men pretext to misbelieve,
By the Castalian waters swear,
(A sacred Oath no Poets dare 170
To take in vain,
No more then Gods do that of Styx prophane)
Swear in no City e're before,
A better man, or greater-soul'd was born,
Swear that Theron sure has sworn
No man near him should be poor.
Swear that none e're had such a graceful art,
Fortunes free gifts as freely to impart
With an Unenvious hand, and an unbounded Heart.

11.
But in this thankless world the Givers 180
Are envi'ed ev'en by the Receivers.
'Tis now the cheap and frugal fashion,
Rather to Hide then Pay the Obligation.
Nay 'tis much worse than so,
It now an Artifice does grow,
Wrongs and outrages to do,
Lest men should think we ow.
Such Monsters, Theron, has thy Vertue found,
But all the malice they profess,
Thy secure Honour cannot wound: 190
For thy vast Bounties are so numberless,
That them or to Conceal, or else to Tell,
Is equally Impossible.

http://cowley.lib.virginia.edu/works/olympian.htm
(一部修正)

*****
古代ギリシャのピンダロスのオードから「ストロペ・
アンティストロペ・エポードス」という三部構成を
とり去り、もりあがり高ぶる感情や雰囲気・明確な
論理の不在のみを特徴とする「ピンダロス風」の
オードを考案したのがカウリー。

参照:
Jonson, "To Sir Cary and Sir Morison" (日本語訳)
ピンダロスのオードの形式を完全に模倣している。

もりあがり高ぶる感情や雰囲気をあらわすため、
カウリーは一貫して形式を不規則化した。

1
スタンザの長さが不規則

2
行の長さも不規則……五歩格(10音節)・六歩格(12音節)・
四拍子(ストレス・ミーター)の不規則的な併用

3
脚韻も不規則

つまり、これは17世紀イギリスにおいてもっとも自由な
形式だった。

(別の意味で当時最大限に自由であったのが、ブランク・
バース。脚韻がないかわりに10音節縛り。)

*****
このような詩形の考案は、たとえば16世紀イギリスに
おけるソネットの導入と並ぶ文学史上の偉業、あるいは
大事件。たとえば20世紀のアメリカで白人系の民衆
(フォーク)音楽や黒人ブルース(など)から
ロックン・ロールやR&Bが生まれたことと同様の
一大文化現象としてとらえられるべき。

後の時代への影響という点でオードとソネットを
比較する。

ソネット:
10音節14行という明確な形式があるので
今でも残っている、書かれている。

ピンダロス風オード:
明確な形式がないので、またホラティウス風のオードとの
競合のなかで、(さらには20世紀の自由詩との競合のなかで、)
その影響は諸方に拡散し、今では他のジャンルに溶けこんで
しまっている。(が、それでも20世紀初めまではカウリーが
あみ出したかたちで書かれつづけていた。)

*****
内容的には、古代ギリシャのピンダロスのオードの特徴は
以下の三点。

1
運動競技における勝利者(あるいはその後ろ盾である権力者)
の称賛

2
神々の話(勝利者・権力者の家系に関係するもの・しないもの)

3
道徳的教訓

ここから、ピンダロスのオードはある意味で現代における
スポーツ中継(テレビ・ラジオ・インターネット)と同様の
娯楽であったと想像できる。

「ゴオーーーールッ!!!!!」
とか、
「逆転満塁ホーーーーームランッ!!!!!」
とか、
「勝ったあ! 勝ちましたあ!!! 金ですぅーーー!!!!!」
などという高ぶった実況を思い出してみる。

「誰々選手のお父さんも実は箱根を走っていまして……」
「誰々選手のおじさんも実は日本チャンピオンでして……」
「何々県出身、どこどこ部屋……」
などという家系・出身地に関する解説を思い出してみる。

「絶対に負けられない戦いが……」などという道徳的?
教訓的? な雰囲気をもつキャッチ・コピーを思い出してみる。

厳格な三部構成の形式は、いわばテレビの長方形の枠の
ようなものととらえられるだろう。

もちろん、現代のスポーツ実況の内容は、オードに比べれば
往々にしてはるかに軽く、薄いのだが、そのかわり選手の
戦う姿を見て泣くほど感動したり、いろいろ考えたりする。

*****
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

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商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


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