テレビの同一番組の中で、SDGs:「フードロス」キャンパーンを張りながら、一方でグルメと称してお店を訪問、何を食べても「美味しい!」と叫ぶが完食している様子はない。「出されたものは全部食べなさい!」と教えられなかったか?
『この国のかたちを見つめ直す』(加藤陽子著 毎日新聞出版 2021年刊) その1 日本学術会議任命拒否 総合科学技術・イノベーション会議
本書は、2010年以降、毎日新聞に寄稿した短いエッセーを集めたものだ。現在生起している事象を解くためには「歴史」を顧みることが重要であるということを主張している中身の濃い一冊だ。本書には新たに知ることができる事実が多々出現する。このブログに備忘しておく価値ありだ。
周知のとおり加藤陽子氏は日本学術会議の名簿から除外された6人のうちのひとりである。従って、この任命拒否問題を当事者である著者がどう捉えているのか、第一にそれを知りたいと思った。
「第1章 国家に問う 今こそ歴史を見直すべき」所収のコラム「『学術会議除外』と日本の科学技術政策の向かう先」(2020.10.17)で、著者は任命除外された6人がいずれも人文・社会科学系の研究者であることから「世の中の役に立たない学問分野から先に切られた」という一般の見方を否定する。(僕もそう捉えている。)著者が指摘するポイントは、科学技術基本法(旧法・1995年制定)を2020年夏に抜本改正した「科学技術・イノベーション基本法」(新法・2021年4月施行)の制定にある。新法では旧法においては科学技術振興の対象から外していた人文・社会科学を新たに対象に含めたのである。その意味を、この国の科学技術がおかれている現状が危機的事態にあり、「人文・社会科学の知も融合した総合知」を掲げざるを得なくなったのであり、そのため「政府の政策的な介入」を招く事態となったと解く。
(僕)以上から、科学技術振興のために人文・社会科学も駆り出され、それが政府の介入のきっかけになったということはわかった。だが、それがなぜ学術会議の人文・社会科学系の研究者6名の任命拒否になったのかはわからない。
「科学技術政策の適正な舵取りを求めて 科学はボトムアップから」(2020.12.19)で、菅首相が持っている学術会議観はどこで形成されたのかを推測している。菅首相と学術会議会長が同席する会議は、「総合科学技術・イノベーション会議」(科技会議)のみだ。この会議は科学技術政策を策定して予算措置につなげる権限を持つ。その唯一の常勤議員で座長の上山隆大氏はあるインタビューで、「エリート大に研究資金が一極集中し、地方大学は疲弊している」と答えている。これは首相の発言と響き合うというのだ。
また、学術会議の在り方を検討する自民党PTの下村博文政調会長は、「学術会議の代表が科技会議に必ず出てきて意見を反映する仕組みは見直すべきだ。大型研究計画のマスタープランを決定する学術会議の力は過大だとし、事実上4000億円の予算を決めている」と問題視している。これらから著者は、科技会議座長や自民党PTの狙いは科学技術行政全般における学術会議の役割の再定義、科学者の意見をボトムアップ式に集約し政策提言を行う学術会議を排除し、国がトップダウンで重点分野を決める選択と集中による科学技術政策に変更したいという思惑が見えるという。
(僕)ここからは、国にとって科学技術政策の決定にあたり学術会議の存在が邪魔だということがわかった。だが、なぜ人文・社会科学系6名の任命拒否になったのかはわからない。
「学術会議問題の政治過程 世論が政府の姿勢を『変えた』」(2021.6.19)では、この間の3つの動きを跡づける。
(1)自民党PT(下村政調会長)(2020.10.14)では、「①2017年に学術会議が発表した「軍事的安全保障研究に関する声明」は問題だ。②学術会議は国の機関から外れるべき。③学術会議が大型施設計画・大規模研究計画を審議するのは問題だ。」と主張されている。だが、2020.12.9のPT提言には②のみが書き込まれるにとどまった。
(2)10月下旬、河野太郎行革担当大臣は、学術会議事務局費を「秋の行政事業レビュー」の対象にして大幅削減すると報じられたが、実際には対象とならず、前年並みの予算が組まれた。(2020.12.21)
(3)学術会議側も、井上信治科学技術担当大臣と折衝を重ねながら、2021.4に組織の在り方の検討結果「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を総会で議決した。そして今後は、総合科学技術・イノベーション会議の有識者議員8人(学術会議会長を含む)に委ねられ、月1回の期限を切らない(*重要!)検討が5月から始まった。
著者はいずれも政府からの圧力を学術会議側がよくしのいでいるとし、世論の力が政府の姿勢を『変えた』と評価している。
(僕)以上からは、学術会議問題で菅内閣支持率が急落し、政府の意図どおりに進んでいないことがわかった。なぜ人文・社会科学系なのかという疑問は解けないが、学術会議の「軍事研究反対声明」が政府に与えた影響は大きかったのではないかと推察する。歴史学者、法学者が戦争に前のめりに突っ込んでいった過去の「歴史」を顧みて現状認識を表明することが政府にとっては好ましからざることと捉えられたのだろう。
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