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エマニュエル・トッド 『帝国以後―アメリカシステムの崩壊』

2019-08-27 15:03:12 | Weblog

今年のJAL123事故報道で、例年と比べてマスコミの伝え方に変化があったとご教示をいただいた。青山透子氏や森永卓郎氏の功績だと思うが、今のマスコミの中でも何とか真実を伝えようと努力している方々がいるのだ。僕らにできることは彼らを応援すること、真実と思われるかすかな動きを察知する感性を鍛えることだと思う。戦時中にあれだけ統制された報道からでも日本の敗戦を確信していた人を見習いたい。

 

『帝国以後―アメリカシステムの崩壊』(エマニュエル・トッド著 藤原書店 2003年刊) 

日韓関係は今やチキンレース、北朝鮮との対話の糸口見えず、ロシアとは北方四島問題の見通しが立たず。この国はアジアの片隅で孤立を深めている。香港の市民運動と習近平体制、米中対立、イラン問題、英国のEU離・・思いつくままでも今世界が流動化しているのがわかる。

遅ればせながら10数年も前に刊行されたトッドの『帝国以後』を読んだ。その理由は、世界が荒れているからだ。僕には、世界戦争に向かっているようにも感じるからだ。日々の新聞には各国が対立に向かってまっしぐらの見出しが並ぶ。歴史のメインストリームを掴みたい。マスコミは真実を伝えているか。操作された情報に右往左往するだけでは不安ばかりが増進する。

フランスの歴史人口学者である著者は、『最後の転落』(1976年刊)で、ソ連共産主義の崩壊を予見した。(P62引用)「ソ連邦での出生率の低下、住民1,000人当たりの出生数が1923~27年では年間42.7人が1975年には18.1人に減少したことから、正常なロシア人の出現が確実であることを演繹した。こうした正常な人間には共産主義を打倒する能力がある」。さらに、(P158)「乳児死亡率というのは社会ないし社会内の個別的セクターの中で最も弱い個人の現実の状況を明らかにするものであるゆえに、決定的な指標なのである。1970年から74年までの間のロシアの乳児死亡率のわずかな増加によって私(トッド)は、すでに1976年にソ連邦の国内状況が悪化していることを理解することができ、ソ連体制の崩壊を予言したのである。」という。

本書は書名のとおりアメリカに注目している。(P44)「世界が民主主義を発見し、政治的にはアメリカなしでやって行くすべを学びつつあるまさにその時、アメリカの方は、その民主主義的性格を失おうとしており、己が経済的に世界なしではやって行けないことを発見しつつある。先ず世界とアメリカ合衆国の間の経済的依存関係の逆転、そして民主主義の推進力が今後はユーラシアではプラス方向に向かい、アメリカではマイナス方向に向かうという逆転である。」ここから、アメリカがもはや他国のことを面倒みる余裕を失い、を謳って登場したトランプ政権が掲げるアメリカファーストの意味が見えてくる。アメリカ観を変えなくてはいけないのである。

また、(P120)「アメリカの軍備は、一つの国民国家の安全を保証するには規模が大きすぎるが、一つの帝国を統制するには、そしてより広範に、遠方のユーラシア、新世界からかくも遠いユーラシアでの覇権を持続的に維持するには規模が小さいのである。」(P129)「武器販売がアメリカにもたらす通貨資源は、まさに政治的・軍事的手段で徴収される貢納物に相当する。しかし、それだけでは、量的にアメリカ人の現在の消費水準を維持するのは全く足りない。」すでにアメリカは世界の警察官ではなく、各国に配備している米軍の撤収も想定される。ただただアメリカの言いなりに武器を買えば良いというものではない。

ではアメリカは今後どうなっていくのだろうか。(P143)「最も考えられるのは、前代未聞の規模の証券パニックに続いてのドルの崩壊が起こるという連鎖反応で、その結果はアメリカ合衆国の「帝国」としての経済的地位に終止符を打つということになるだろう。」(P117)「2050年前後にはアメリカ帝国は存在しないだろうと確実に予言することができる。」とトッドは述べる。そのアメリカに徹底的に忠誠を誓ってべったり外交を続けているこの国はどうなるのだろうか。

ロシアについても触れている。(P207)「ロシア社会は全面的に識字化されており、中等および高等教育がかなり進んでいる。しかしロシアは依然として貧しく、極めて暴力的であり続けている。」ヨーロッパはロシアを(P268)「ヨーロッパは徐々に、ロシアはもはや戦略的脅威でなくなっただけでなく、己の軍事的安全に寄与する存在となりつつあるということに、気付いていく。」また、ヨーロッパから見たアメリカについては(P239)「ヨーロッパの指導者たちのアメリカ合衆国に対する関係は愛憎背反的である。」(P241)「それは、彼らがまだアメリカシステムに統合されるか、アメリカの後見から抜け出るかを本当には選んでいないからである。」

トッドの凄さは、識字率の上昇⇒受胎調節の実施⇒出生率の低下、乳児死亡率など、わずかな統計的な変化を読み取り、そこからその国の地下で起きつつある変動をつかみ、先を見通すことができるところにある。日々混迷を深めていく情況を掴むためにトッドの最新作も読みたい。

 

 

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