馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

種子骨骨折

2006-07-24 | 関節鏡手術

すべての骨は体重を支えるためにいつも圧迫されている。というわけではなく、P7200017 種子骨は繋靭帯の中にできた骨で、いつも引っ張られている。

靭帯の中にある骨なので、血行が悪く(本当か?)、いつも引っ張られているので、骨折すると骨癒合しにくい。

そして、左の写真も良く見ると、種子骨の放射線状陰影、種子骨炎の病変部で折れているのがわかる。

左のような骨折をすると、腫れて痛みがでるが、やがて治まる。しかし、種子骨はしっかり骨癒合することはなく、運動・調教でまた剥がれて腫れて痛くなる。

それで、種子骨の頂部(近位部、上の部分)だと摘出することを考える。

1/3までの大きさなら取ってしまっても、残りの部分で繋靭帯を支えられると考えられている。

球節の掌側、足底側も関節鏡を入れることはできるが、骨片には繋靭帯がしっかり付いているので、それを骨片から剥がさないと摘出できない。もちろん、そのときに繋靭帯のほかの部分には傷をつけてはいけない。

P7200018 左は関節鏡手術による摘出後。

摘出するのに30分ほどかかった。

USAの経験豊富な外科医でも、種子骨の骨折は関節鏡ではやらない人が多い。

「2cmしか切らない。20分で終わる。なぜ関節鏡でやる必要がある。」と言っていた大学の先生もいた。

しかし、関節切開術より関節鏡手術の方に利点が多いのは今さら言うまでもない。

種子骨の関節鏡手術には特殊な器具がいる。

P7200015 左、上の2本は靭帯を切るためのバナナナイフ。一番下は種子骨用エレベーター。

骨と靭帯の付着部をガリガリ、シコシコ切るのですぐ切れなくなる。

ナイフは消耗品なのだろうが、結構な値段する。

P7200012 そして、大きな骨片をつかみ出すための特大ロンジャー。

下のが腕節の骨片で一番良く使う3mmのロンジャーだから、上のロンジャーの巨大さがわかっていただけると思う。

最初見たとき、これは大きすぎて使い道がない。と思ったが、思い直して買った。

2cmを越えるような骨片をつかみだすには、2cm以上ロンジャーが開かないと無理だ。当たり前。

そして2cmの骨片は、2cmは切らないと関節からつかみ出せない。これも当たり前。

P7200007 つかみ出した骨片。

靭帯はほとんど骨片についていない。

大きさは約2cm。

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 昨年同様の手術をした1頭は、「あきらめていたんだけど、勝ってるわ」 だそうだ。

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P7210001 もらった花。

名前は・・・・・・う~ん・・・・・・・


結構な週末

2006-07-23 | 急性腹症

 きのうは競走馬の腕節の剥離骨折の関節鏡手術。気体で関節を膨らませる方法をやってみた。

昨年のAAEPで報告があり、

「気体で膨らませる方法を始めたら、液体に戻る人はいない」

「絨毛に邪魔されず視界が得やすい」

「灌流液のコストが安く済む」

という内容だったが、それほど利点を実感できなかった。しかし、狭い関節では確かに利点もあると思われるので、工夫しながらやってみたいと思う。Hpnx0069

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 午後は喉嚢炎の手術。内頚動脈の結紮とマイクロコイル塞栓術。先月から3例目。

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 今日は昼から結腸捻転の開腹手術。痛みがひどいので、疝痛を発見してすぐ連れて来られ、すぐ開腹手術を決断したが、結腸の血行障害は結構ひどかった。もう少し遅れていたら厳しかっただろう。Photo_118

結構な週末でした。

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 月曜からも、吸入麻酔をかける手術が毎日午前も午後も予定されている。

あ~あ、夏休みはまだか~

 


「馬の」膀胱結石

2006-07-22 | その他外科

Photo_117 なんでしょう。

馬の膀胱内にできた結石です。

こどもの握りこぶしくらいあります。

これほどの結石が作られるのは、それほどよくあることではないようです。

今まで数頭しか診たことがありません。

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はるか昔、育成馬が運動後に血尿が出る。と相談されたので、膀胱結石の可能性を指摘しました。その育成馬は牡だったので、開腹手術して摘出したそうです。

膀胱を開腹手術創まで引っ張ってくるのはたいへんなようです。膀胱がまだ臍にくっついている子馬の膀胱破裂のようにはいきません。

牡馬の場合は、直腸のわきを切って腕を挿入し、膀胱を引っ張ってくる手技が教科書に記載されています。

ただ、種牡馬では副生殖腺を傷つけてその後の繁殖能力に問題が出る可能性が指摘されています。

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 牝馬の場合は、膀胱結石を器具で壊して小さくしておいて摘出するか、膀胱括約筋を切開して摘出するようです。

しかし、膀胱内で結石を壊す作業では膀胱粘膜に傷をつけますし、膀胱括約筋を切ると、その後縫合しても尿を少しずつ垂れ流すようになったり、膣内に尿が貯まるようになったりすることがあるようです。

 今回の馬は、以前に繁殖牝馬の膀胱破裂(5月26日)に書いたように、膣底を切開し、膀胱を膣内に引っ張り上げ、膀胱尖を切開して結石を取り出しました。

膣内での膀胱の縫合は、長い持針器があれば難しくありません。これからは、牝馬で結石が大きい場合はこの方法で摘出しようと思います。

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Kiri先生に捧ぐ http://blog.livedoor.jp/paulownia07/

経過良さそうでなによりです。


夜中の結腸捻転

2006-07-21 | 急性腹症

 最近は厩舎も住宅も立派になって、夜中に馬が疝痛でドタバタやっていても気が付かない牧場が多いようだ。

しかし、ゆうべ来たのは「幸いなことに」、夜飼いも終わっていたのに、馬が暴れる音で疝痛馬を見つけたそうだ。

1ヶ月前に結腸捻転の手術をしていた馬だった。再発。Colopexyをしていたのだが、有効ではなかったようだ。

小腸も巻き込まれ閉塞状態になり、小腸の色調も悪くなっていたので、整復し、内容を推送するのに余計な時間がかかった。

腹壁は健康とは言いがたい。分厚くなり、固くなり、しかし丈夫ではない。閉腹には神経を使った。

11時半に起こされ、日付が変わってから手術。手術が終わった3時過ぎ、外へ出たらもう薄明るかった。

あ~あ、長い一日が始まる。

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P7070086家の周り、キャンプをした川原にも咲いている。

ムシトリナデシコ。だそうだ。白いのもあるらしい。 http://had0.big.ous.ac.jp/~hada/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/caryophyllaceae/musitorinadesiko/musitorinadesiko.htm


ステロイドと筋間膿瘍

2006-07-20 | その他外科

Photo_115 左の馬は、フレグモーネから化膿した。

腫れているだけではなく・・・・・・ブヨブヨ、グチュグチュ。

Photo_116 全身麻酔して、切開した。

クリーム状の膿があふれ出た。

肢がシュークリーム、いやエクレアかな?

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上の症例のようにフレグモーネ(皮下織の感染・炎症)が化膿することもあるし、筋肉の中に膿瘍ができることもある。たいていはエコー(超音波画像診断装置)で位置と大きさ、内容を見当を付けておく。針を刺して膿を吸引する。で、たいていは切開することになる。

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 気になっているのは、原因だ。半数以上の例では、副腎皮質ホルモン(ステロイド)が使われていた症例だった。

ステロイドは、腫れを引かすには有効だが、免疫能を抑制する。感染性の炎症に使うと、一時的にすっきりするが、うまくいかないと長期化、膿瘍化する。

競走馬の背筋、腰にステロイドを分注した後が膿瘍化した例。

育成馬の頚部に抗生物質とステロイドを筋注した部位が膿瘍化した例。

フレグモーネにステロイドを使い膿瘍化した例。

速く治す、見た目を良くすることが本当に大事か、害がないか、リスクがないか、良く考えるべき薬だと思う。

私はショック以外でステロイドを使うことはない。