馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

輓馬  雪に願うこと

2006-07-19 | 図書室

輓馬  文庫本を買って読んだ。実はこの本、以前に図書館で借りたことがあった。しかし、輓曳競馬の描写が長く、途中で読む気をなくして読まなかった。

 重種馬の迫力、輓馬競走の説明は、そばで見たことがある者には長すぎたかもしれない。

それと、妙なことなのだが、私には文庫本の方が読みやすいことがある。学生時代からの習慣もあるし、寝転んだり悪い姿勢でも本が軽いため読みやすい。

さすがに、最近は紙が悪かったり、活字が小さい文庫本は御免こうむりたいが。

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 宮本輝の作品にもある魂の再生と癒しの物語。男兄弟同士の複雑な思いと、思いやりの話。

映画「雪に願うこと」の原作でもある。映画も見たくなった。

どうも、映画が大ヒットとか、輓曳競馬が注目されているとかはあまり聞かない。明るいストーリーではないこともあるかもしれない。

しかし、全国から重種馬や輓曳競馬を見に北海道へ来るツアーがあっても良いだろうと思う。

あの巨大な生き物は、馬を見慣れている私でさえ「すごい」と思うのだから。

私は、重輓馬も好きだ。

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ホリエモンや村上なんとかさんも読んだら良いんじゃないの? 冬の帯広に輓曳競馬を見に来たくなるかもよ。


陰睾 Cryptorchid

2006-07-18 | その他外科

Photo_113 精巣が陰嚢の中に降りてきていないのを陰睾という。

陰睾の馬を去勢するには、精巣を腹腔内から引っ張り出さないといけないので、当たり前の去勢のようには行かない。

片方だけの陰睾でも、陰嚢に落ちている側だけを去勢し、陰睾の側だけを置いておくのはやめた方が良いとされている。

簡単に探り当てられれば良いが、苦労するようだと、傷を切り広げてでも去勢したいのか、あまり大変なようなら去勢するのをあきらめるのか、関係者と話をしておく必要がある。

非常に珍しいことなのだが、本当に片方しか精巣が形成されていない馬の報告もある。

実際に一度あったのだが、片側の睾丸が見つけられず、後で調べたら子馬の時に鼠径ヘルニアで片側だけ去勢されていた馬だったこともあった。

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Photo_114

たいていは、陰睾の摘出もそれほど難しくはない。鼠径部を切って索状物を引っ張ると、鞘状突起と呼ばれる袋になりそこねた管状の組織が見つかる。これをたぐっていくと腹腔の中から精巣が出てくる。

引っ張って出てこないときでも周辺を探ると精巣の独特の触感で探りあてられることが多い。

正常な組織が形成されていないが、精巣上体と間違えたりせずに精巣を摘出しなければならない。

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 競馬主催者は、雄、雌、去勢馬、の確認に神経を使っているようで、「できれば陰睾の馬は去勢して欲しくない」と言われたことがある。去勢されているのが自分達で確認できないからだそうだ。

が、去勢が必要な馬はいるし、確立されている技術だから・・・・・・


質問したいとき

2006-07-16 | How to 馬医者修行

 馬の症例について質問したいとき、相談したいとき、どうするか?

日本語で相談できるのはウマ医療センター エクウス

http://www.equusequus.co.jp/index.html

有料だけど。

 海外ではこういうのもある。

http://www.horseadvice.com/

有料サイトだが、無料で読める部分もある。

 馬の獣医さん達は、馬の臨床家のメーリングリスト Equine Clinician's Network に参加すると良いと思う。http://listserv.vetmed.wsu.edu/read/all_forums/subscribe?name=ecn

毎日、5~10通の馬の診療についての質問、回答が送られてくる。読んでいるだけでも勉強になるし、質問を送ることもできる。

大学の先生達も参加していて、しっかりした回答をもらえる(いつもとは限らないが)。

画像を送るためのページもある。

キーワードから過去のやり取りを検索することもできる。

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 このブログ馬医者修行日記やアドレスに相談、質問を送っていただいても、しっかりした回答ができるかどうかわからない。日記ですので。

 メールで来た相談、質問も、記事として公開させていただくこともあるかもしれないのでご了承ください。公開日記ですので。

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P7150014 P7150017 だいぶ、サンショウウオらしくなってきた。

後肢が前肢より発達してきた。

餌をやるとバクバク食べる。ゆっくり食べれば良いのに瞬間的にパクつく。

生き餌を逃がさないための習性なのだろう。

エラはいつなくなるのか? 陸へあがれるようになるのはいつ頃だろう?

 


生産地護蹄なんとか会議

2006-07-14 | 蹄病学

 おとついは生産地シンポジウムの前夜祭。きのうは生産地シンポジウム。きょうは、なんだっけ?長い名前の生産地の装蹄師と獣医師と牧場の連携をどう作っていくかという研修の準備の意見交換会。

 会議でも出ていたのだが、そんなに問題山積というわけではないのだ。獣医師と装蹄師も中が悪いわけではない。

意見が食い違うことはある。それは獣医師同士でもそうだし、装蹄師同士でもそうだろう。ただ、意見が違ったときに、共通の認識を土台に検討しあう関係は必要だ。

 それぞれに仕事を持っているので、自分のペースを乱す仕事はしづらいのだ。

1頭こなしていくらの仕事をしているのに、人との面倒な共同作業に時間をかけていられないのが現状なのだ。

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 一方、競走馬の最高の装蹄とは。とか。子馬、育成馬でも、理想の蹄管理とは。とか。重症の蹄葉炎や蹄の疾患をどう管理するか。など、最高レベルの技術、知識、経験を求めようとすると、日本ではまだまだと言う部分もある。

 Barbaroは蹄葉炎を予防するための特殊な装蹄をしているが、日本で同様なことを誰ができるのか。

ペンシルバニア大には有名な獣医師にして最高の技術を持った装蹄師がいるのだ。

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 私はこの10年近く、手術に来る馬の蹄に問題があると自分で削蹄してきた。疝痛で開腹手術した馬の蹄がひどくて蹄葉炎になる危険が多いと思ったら蹄尖部を切る。

子馬の肢軸異常の手術をするときには、樹脂剤でエクステンション(蹄壁の一部を伸ばしたもの)をつけて、蹄の処置による矯正も併用している。

 剥離骨折した競走馬の手術をして、ロングツー・アンダーランヒールが問題だと思うと、術後の覚醒室で蹄を切って、この休養中に蹄の形を直したほうが良いとアドバイスしてきた。

子馬用の接着蹄鉄 Babi-cuff も買い込んで、腱がゆるくて蹄球が着き蹄尖が浮いてしまう新生子馬には蹄踵を伸ばしたBabi-cuff を着けてきた。

 それは、他にやってくれる人がいなかったから。

 今は、自分ではあまりやらなくなった。

私がやってもあとあと、数週間ごとに経過を追って処置することができない。

子馬も、育成馬も、競走馬も、蹄の問題で泣かないように、関係者が連携しレベルアップして行こうというのは素晴らしいことだ。

具体的にどう研修を進めて、いかに成果を出していくかというのは大変だろうが、大いに期待できるのではないだろうか。

みんな勉強熱心だし、生産地はそれほど閉鎖的でもなく、伝統や因習に囚われてもいない。

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 確立された技術や知識を教える。というわけには行かない。本当に理想的な蹄管理はどのようなものかというのは、子馬の肢軸の問題、蹄葉炎の問題、競走馬の装蹄の問題、いずれをとっても答えはない。

関係者が切磋琢磨しながら、すくなくとも無関心で放置しているとか、伝統的だが明らかに間違っているという状態をなくしていかなければいけないだろう。

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って、いうことでしょうかね。青木先生!

 


DDSP軟口蓋背方変位の手術

2006-07-12 | 呼吸器外科

 喉鳴りは喘鳴症と呼ばれ、これは喉頭片麻痺の同義語としても使われたりする。しかし、育成段階から含めて、いわゆる「喉鳴り」の中で最も多いのはDDSP軟口蓋背方変位だ。

左の披裂軟骨が麻痺する喉頭片麻痺の喉鳴りはヒューヒュー。一方、DDSPはゲロゲロ、ゼロゼロ、ブルブルというように表現される。

 DDSPは若い馬に多いのだが、馬が肉体的にも精神的にも強くなってくると、ほとんどの馬が自然に治る。

それで、DDSPの喉鳴りだと診断しても、あまり積極的に手術は勧めていない。

ただ、3歳になってもDDSPが治まらないとか、2歳でも調教が進められないとか、悠長に待っていられない。という場合はなんとかしなければいけない。

 昨年からは、コーネルカラーhttp://www.vet-aire.com/を使ってみるように提案してきた。ほとんどの馬はDDSPを起こし難くなるようだ。

ただ、コーネルカラーを付けたまま競馬をするのは日本では無理なようなので、治してしまいたければ手術を考えるしかない。

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 DDSPの手術方法は何種類も行われている。

喉頭を引っ張る筋肉を切除する方法。その筋肉の付着部を切断する方法。これらはいずれも、喉頭が後(尾側)へ引っ張られて、軟口蓋の下へ落ちるのを防ごうと言う考えだ。

P7100007 軟口蓋の辺縁を切除する方法。軟口蓋の鼻側を焼烙する方法(左)。軟口蓋の口側を焼烙する方法。軟口蓋の口側を舟形に切り取り縫い縮める方法。これらは、軟口蓋を固くしたり、持ち上がらないようにして、喉頭蓋が落ち込むのを防ごうとする方法だ。

これらの方法は、いくつかを組み合わせて行うことができる。

しかし、いずれの方法も成功率は6-7割と考えられている。

私の経験でも、喉頭蓋が薄いとか短いとか弱いなどの問題がなければほとんどの馬が手術で良くなったが、喉頭蓋の異常がある馬では、良くならない馬がいた。

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 コーネルカラーを開発したグループは、同じ考えによる手術も考案し報告している。その成功率は8割以上としている。

P7100002 左はその術式を示した図。甲状軟骨を舌骨へ糸でひっぱることで、喉頭を前(鼻側)へ牽引し、喉頭蓋をしっかり軟口蓋に乗せ、落ち込まないようにする。

前へ引っ張るのでTie-forwardと呼ばれていくだろう。

この手術にあわせて、甲状軟骨を後(尾側)へ引っ張る筋肉の付着部を切ることもできる。

P7100004_2 舌骨にドリルで孔をあけ、そこに通した糸で甲状軟骨を引っ張る。

この傷は縫って閉じてしまうので、喉頭切開した傷のように開けっ放しにはしない。

 全身麻酔したついでに、鼻から入れた内視鏡に高周波焼烙器(電気メス)を通して、軟口蓋の焼烙もあわせて行っている。

以上、図と写真はEquine Surgery 3ed. http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1416001239/httpdrhiblogj-22 より

自分とこでやってる写真は今度撮っておきます。なかなか写真撮ってる余裕が無いんだよな~。