馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

フレグモーネの膿瘍化

2018-12-10 | その他外科

馴致、調教を始めている1歳馬。

跛行し、発熱し、その日から抗生物質投与を始めたが、次の日には肢が腫れてきた。

しばらく抗生物質投与を続け、もう良いだろうと治療を中断したら、また跛行がぶりかえした。

柔らかい部分がある、とのことで来院した。

        ー

超音波で観て、皮下に膿汁らしきものが貯留していた。

周囲の腱鞘液や関節液は増量していない。

後肢内側なので全身麻酔した。

穿刺して膿汁であることを確認して・・・・

できるだけ遠位部を切開する。

膿汁からは Staphylococcus aureus が分離された。

コアグラーゼ・ポジティブ・スタフィロコッカス。

コアグラーゼとは、血漿中のフィブリノーゲンをフィブリンにして固まらせる酵素。

この細菌はその酵素を産生するので、感染巣の周りに壁を作る。

壁の中には抗生物質が到達しにくいので、治りにくい。

         ー

この馬は、初期から抗生物質を投与していたようだし、

副腎皮質ホルモンは投与していない、とのこと。

それでも、このように膿瘍化してしまうことがある。

「フレグモーネなんて、抗生物質とデキサうって3-4日で治す」

と豪語する獣医師には経験が足らないのだと思う。

                         ー

2日後抗生物質感受性試験の結果も出た。

初診から投与されていた抗生剤は「S;sensitive」の判定だった。

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あしのふくらみ・・・じゃなくて・・・・

よるのふくらみ (新潮文庫)
窪 美澄
新潮社

この著者の小説は、「ふがいない僕は空を見た」以来。

<大人のための恋愛小説>と帯に唱われていた、けど・・・

20代向けかな。

引き込まれるように読めた。

そう、先月、子牛の骨折内固定を教えに行ったときに読んだのだった。

若いときはたいへんだ。

いやこの小説にはたいへんな年配も出てくる。

男も女も、生きていくのはずっとたいへんだ。

手を抜いちゃいけない。

 

            

            



28 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (はとぽっけ)
2018-12-10 07:19:45
 すぐ耐性菌か?と思いがちだけど、病巣に行かないんじゃ効かないですね。
 たいへんは手抜きしない。ゾ。
Unknown (脱サラの牛飼い)
2018-12-10 13:24:27
学生時代から馬を触って、かれこれ40年になります。馬関係者でも、獣医師でもありますが、多くのフレグモーネの馬を 見ましたが、完治することのない病気のように思います。い1度フレグモーネになったら治療で陰を潜めますが、何か体調を崩す(小さなケガがあるのかも)と必ずのように再発するように思います。何か搾乳牛の黄色ブドウ球菌乳房炎のような。その中には、2年ぐらいフレグモーネと闘い、なんとか競技復帰したのですが、その間や、復帰後も時々程度は軽いフレグモーネを発症しながら競技を続けていたのですが、今度は舌骨関節症による顔面麻痺、誤嚥性肺炎等々で廃用になったものもいます。
舌骨関節症が感染症であるなら、フレグモーネと関係があるのかなと、ふと思いました。
>はとぽっけさん (hig)
2018-12-10 20:06:30
薬理学者が言うように、数日間、有効な抗生物質を投与すれば病気が治るかというと、そうは行きません。じゃあどうするか?というのが臨床医が求める治療です。

とても一言では言えない小説でした。でも、病気の話にも思えました。
>脱サラの牛飼いさん (hig)
2018-12-10 20:08:58
まさしくStaphylococcus aureus のフレグモーネかもしれませんね。微小膿瘍を作り、油断すると再発します。

フレグモーネの感染が、後頭骨舌骨関節に波及することは充分考えられると思います。
Unknown (脱サラの牛飼い)
2018-12-10 20:53:01
自分の投稿を読み直したら、馬関係でも獣医師でも無いと書いたつもりが反対になっていました。ーーーー本当はおっちょこちょいの牛飼いです。
>脱サラの牛飼いさん (hig)
2018-12-11 03:43:55
一旦フレグモーネになったら完治はしない。治ったようでもしばしば再発する。というのは鋭い指摘です。Staphylococcus aureusの感染の特徴を示していると思います。まさしく黄色ブドウ球菌(SA)の乳房炎と共通するわけで、牛飼いさんは実感しておられるのですよね。
Unknown (眠狂四郎)
2018-12-11 11:32:27
人医療に携わるものですが、いつも興味をもって拝見しております。
S. aureusなんかに有効なβラクタム薬は時間依存性で効くものがほとんどですが、畜産領域ではそのような使い方がされているのでしょうか?
フレグモーネ (やまおく)
2018-12-11 22:29:53
蜂窩織炎!
特に後肢は完治しませんね。
うちにも数度炎症が活発化し、象みたいな肢になっている馬もいます。でももう31歳ですが、何とか無事生きてます
特に最近は3~4か月置きにオゾンによる自家血清治療を続けています。フレグモーネが再発しても抗生剤投与により、より早い鎮静化?が出来てます。最近は発熱時にエクセネル注が中心ですが、今までセファゾリン系でも3~4日は最低でも投与しないといけませんでしたが、今はほぼ2日間の投与で解熱します。
薬の種類での比較は出来てませんが、明らかに早い日数で解熱しており。予後も変わらず生きながらえております。ちなみに2~3か月に一度は再発を繰り返しておりますが、まだ元気です。

Unknown (きなこ)
2018-12-12 20:23:54
フレグモーネは治らない、というように、一般に印象づけてしまうのは、よくないのではないでしょうか。
「完」治、というワードに、先生は厳密な定義的意味を持たせていられるのでしょうけれども。
おそらく、フレグモーネが"治って"競走馬になって活躍している馬は、たくさんいるでしょうし。
乗馬ではうまく治って、少なくとも数年以上、再発も、肢が太くなるような後遺症も運動不安もなく、見た目全く左右の違いが分からない肢の細さで、競技やレッスンに普通に活躍できている馬がたくさんいます。

一方で、菌の病巣が残っているのだろう、と思われる、フレグモーネを繰り返す難治性の馬も、います。
一頭は中足骨に、若い頃にできた外傷性の骨柩があるのではないか、と疑われた症例(レントゲンで中足骨の肥厚が見られた)で、
もう一頭は、繋の内側に、肬?があって、反対肢の蹄が当たるのかもしれない、毎回、肬のある付近からフレグモーネが拡大する症例です。
そして残念な一頭は、最初期の抗菌剤選択が適切でなくて、皮下炎症が長く続いてしまい、皮下組織が永久的に肥厚してしまった症例です。
それらの繰り返す症例は、記事のように、抗菌薬が到達しにくい隔離?エリアが、あるように思います。

フレグモーネは、こじらせないように、早期に、効果のある抗菌剤を、効果のある投与量と投与間隔と投与期間で、
菌をしっかり叩くことが肝要だ、と、感じています。
こじらせて皮下組織が肥厚してしまうと、抗菌剤が届きにくい隔離エリアができてしまい、フレグモーネを繰り返す難治性となってしまう、と感じています。

北海道は広いので、βラクタムの頻回投与は難しいのでしょうね。
コアキシン10グラムを12時間毎では再発した馬(それまでも何度かフレグモーネの既往歴あり)が、覚悟を決めて、6から8時間毎コアキシン10グラム投与を決行すると、よく治癒して、6年ほど再発なく健康に維持しているサラブレッド乗馬がいます、
肢もいまや細くなって、左右の違いが分からなくなりました。
「βラクタムの時間依存性」を体で学ばせていただいたのかもしれませんが、
その当時は、私が死ぬかも、と思いました(往復に3時間かかるところの馬でしたので)
>眠狂四郎 (hig)
2018-12-13 18:27:19
時間依存性の抗生剤を1日3回投与しているか、セフェム系の抗生剤を点滴静注できるか、というとしていない、できない、のが現状です。ヒトでは経口投与される抗生剤でも動物では吸収が不安定で経口投与できない抗生剤も多いです。

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