馴致、調教を始めている1歳馬。
跛行し、発熱し、その日から抗生物質投与を始めたが、次の日には肢が腫れてきた。
しばらく抗生物質投与を続け、もう良いだろうと治療を中断したら、また跛行がぶりかえした。
柔らかい部分がある、とのことで来院した。
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超音波で観て、皮下に膿汁らしきものが貯留していた。
周囲の腱鞘液や関節液は増量していない。
後肢内側なので全身麻酔した。
穿刺して膿汁であることを確認して・・・・
できるだけ遠位部を切開する。
膿汁からは Staphylococcus aureus が分離された。
コアグラーゼ・ポジティブ・スタフィロコッカス。
コアグラーゼとは、血漿中のフィブリノーゲンをフィブリンにして固まらせる酵素。
この細菌はその酵素を産生するので、感染巣の周りに壁を作る。
壁の中には抗生物質が到達しにくいので、治りにくい。
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この馬は、初期から抗生物質を投与していたようだし、
副腎皮質ホルモンは投与していない、とのこと。
それでも、このように膿瘍化してしまうことがある。
「フレグモーネなんて、抗生物質とデキサうって3-4日で治す」
と豪語する獣医師には経験が足らないのだと思う。
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2日後抗生物質感受性試験の結果も出た。
初診から投与されていた抗生剤は「S;sensitive」の判定だった。
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あしのふくらみ・・・じゃなくて・・・・
よるのふくらみ (新潮文庫) | |
窪 美澄 | |
新潮社 |
この著者の小説は、「ふがいない僕は空を見た」以来。
<大人のための恋愛小説>と帯に唱われていた、けど・・・
20代向けかな。
引き込まれるように読めた。
そう、先月、子牛の骨折内固定を教えに行ったときに読んだのだった。
若いときはたいへんだ。
いやこの小説にはたいへんな年配も出てくる。
男も女も、生きていくのはずっとたいへんだ。
手を抜いちゃいけない。
たいへんは手抜きしない。ゾ。
舌骨関節症が感染症であるなら、フレグモーネと関係があるのかなと、ふと思いました。
とても一言では言えない小説でした。でも、病気の話にも思えました。
フレグモーネの感染が、後頭骨舌骨関節に波及することは充分考えられると思います。
S. aureusなんかに有効なβラクタム薬は時間依存性で効くものがほとんどですが、畜産領域ではそのような使い方がされているのでしょうか?
特に後肢は完治しませんね。
うちにも数度炎症が活発化し、象みたいな肢になっている馬もいます。でももう31歳ですが、何とか無事生きてます
特に最近は3~4か月置きにオゾンによる自家血清治療を続けています。フレグモーネが再発しても抗生剤投与により、より早い鎮静化?が出来てます。最近は発熱時にエクセネル注が中心ですが、今までセファゾリン系でも3~4日は最低でも投与しないといけませんでしたが、今はほぼ2日間の投与で解熱します。
薬の種類での比較は出来てませんが、明らかに早い日数で解熱しており。予後も変わらず生きながらえております。ちなみに2~3か月に一度は再発を繰り返しておりますが、まだ元気です。
「完」治、というワードに、先生は厳密な定義的意味を持たせていられるのでしょうけれども。
おそらく、フレグモーネが"治って"競走馬になって活躍している馬は、たくさんいるでしょうし。
乗馬ではうまく治って、少なくとも数年以上、再発も、肢が太くなるような後遺症も運動不安もなく、見た目全く左右の違いが分からない肢の細さで、競技やレッスンに普通に活躍できている馬がたくさんいます。
一方で、菌の病巣が残っているのだろう、と思われる、フレグモーネを繰り返す難治性の馬も、います。
一頭は中足骨に、若い頃にできた外傷性の骨柩があるのではないか、と疑われた症例(レントゲンで中足骨の肥厚が見られた)で、
もう一頭は、繋の内側に、肬?があって、反対肢の蹄が当たるのかもしれない、毎回、肬のある付近からフレグモーネが拡大する症例です。
そして残念な一頭は、最初期の抗菌剤選択が適切でなくて、皮下炎症が長く続いてしまい、皮下組織が永久的に肥厚してしまった症例です。
それらの繰り返す症例は、記事のように、抗菌薬が到達しにくい隔離?エリアが、あるように思います。
フレグモーネは、こじらせないように、早期に、効果のある抗菌剤を、効果のある投与量と投与間隔と投与期間で、
菌をしっかり叩くことが肝要だ、と、感じています。
こじらせて皮下組織が肥厚してしまうと、抗菌剤が届きにくい隔離エリアができてしまい、フレグモーネを繰り返す難治性となってしまう、と感じています。
北海道は広いので、βラクタムの頻回投与は難しいのでしょうね。
コアキシン10グラムを12時間毎では再発した馬(それまでも何度かフレグモーネの既往歴あり)が、覚悟を決めて、6から8時間毎コアキシン10グラム投与を決行すると、よく治癒して、6年ほど再発なく健康に維持しているサラブレッド乗馬がいます、
肢もいまや細くなって、左右の違いが分からなくなりました。
「βラクタムの時間依存性」を体で学ばせていただいたのかもしれませんが、
その当時は、私が死ぬかも、と思いました(往復に3時間かかるところの馬でしたので)