チムどんどん「明石通信」&「その後」

初孫との明石暮らしを発信してきましたが、孫の海外移住を機に七年で区切りに。現在は逗子に戻って「その後」編のブログです

「暑いのは好きくない」と言う人もおり

2011-07-15 11:31:42 | ことば・あれこれ
7月15日(金)

 KAZU君も大きくなって、よくおしゃべりするようになりました。それにしても、子どもの成長はすさまじく、お話をすることばの数がどんどんと増えて行きます。

 ことばの数が増えると、自己主張が強くなって手こずることもある半面、ことばで言い聞かせられる場面も多くなります。


 ところで、KAZU君がどのようにことばを身に付けて行くのかということに興味を持って接していると、「なーるほど」と思ってしまうことがよくあります。

 赤ちゃんが最初に覚える単語はもちろん名詞です。「ママ・パパ」「マンマ」「バイバイ」・・・
 2年くらい前の記事で書いたような記憶がありますが、単語になる前はほとんど母音のみの発声。単語になっても初めは上の名詞のように、子音は両唇音系の「ハ行」「マ行」「バ行」「パ行」で、母音は「ア段音」が主の発音でした。。
 とにかく「カ行」「サ行」「タ行」「ラ行」などの子音の発音を習得するのはとても難しいのです。したがって、「パイパイ」が「ミルク」になるにはかなり時間が必要でした。KAZU君は「パパ・ママ」を「おとうさん・おかあさん」と教えられていたので、それよりも先に「ハンシンデンシャ」と言ったのにはびっくりしましたが、その発音は、実は「ハンチンジェンチャ」くらいだったのです。

 さて、物の名前が言えるようになると、次は「それがどうした」とか「どうなんだ」と伝えたくなります。
 私は、KAZU君が次に覚えることばは「来た」とか「見た」とかの動詞だろうと思っていたところ、その予測は見事に外れました。

 「お茶、あっちい」「おいしい」「からい」「まずい」「ほしい」等々、ほとんどが形容詞だったのです。中学生の時に「形容詞ってやつは活用が覚えにくくて訳わからん」と文法が嫌いになったことがありました。文語文法の「○・く・し・き・けれ・○」に出会って、少しわかったような気になりましたが、実は形容詞というのは大事な品詞だったのです。幼児が名詞の次に身に付けることばだったのですから。

 もちろん、「ジュース、飲みたい」とか「お父さん、帰って来ないねぇ」とか「電車行っちゃった」とか、動詞を使った表現もだんだん言えるようになるのですが、動詞の場合は、単独で用いられることはまずなく、上の例のように、希望や打消や過去や完了の助動詞が付いてきます。助動詞などと言うと、またやっかいな品詞の登場ということになってしまいますが、おそらくそんな事情もあって、単独で使える形容詞が先に出て来るのかもしれません。

 そんなことを考えたりしながらKAZU君とお話していると、次々と新しい発見にめぐり合います。
 その例が何回か前の記事の中にあった会話。
 「カーくん、危ないよ、走っちゃダメよ」
 「ダメくないの!」

 「ダメ」の反対は「イイ」くらいでしょうか。そもそも子どもとやり取りをしていると、まあ、注意、催促、制止の場面のいかに多いことか。そして、そのかなりの場面で大人の気持ちと子供の意識や欲求が対立するので、どうしても反対の表現が必要になるのです。

 そこで、反対の概念のことばとなるのですが、例えば、形容詞なら、「からい」-「あまい」、「おいしい」-「まずい」、「さむい」-「あつい」。動詞でも、「行く」-「帰る・来る」、「立つ」-「座る」、「乗る」-「降りる」というように、ことばにはそれぞれ対立する意味のことばが存在します。
 ところが、実際の日常会話では、逆の気持ちを表す場合にいちいち反対語を持ち出すことは滅多になく、下に「ない」を付けて済ませてしまうことがほとんどです。「からい?」「からくない」とか、「こわい?」「こわくない」とかいうように。動詞の「行く」だって「降りる」だって、いやな時は「行かない」「降りない」と言うのが自然です。それに適当な反対語がなく「ない」を付けざるを得ない時もあります。「食べる」の反対?「する」の反対?となると、「食べない」「しない」ぐらいしか浮かんで来ません。

 ここで、動詞に付く「ない」が助動詞で、形容詞に付く「ない」は形容詞で・・・などと解説しても始まりませんが、とにかく動詞でも形容詞でも「ない」を続けると簡単に反対の概念になるので頻繁に使われることになるのです。「ない」は、動詞には未然形に、形容詞には連用形に続きます。形容詞の場合、連用形は全て「・・(し)く」となるので、反対の概念は「・・・くない」という言い方になります。
 さらに、動詞の表現に出て来た「見たい」「行きたい」「乗りたい」の「たい」も活用は形容詞型なので、逆の気持ちを伝える時は「見たくない」「帰りたくない」のように、同じ「・・・くない」という言い方になってこれも多用されます。

 このように、子どもにとっても、「・・・くない」という表現はとても便利で、使う頻度も自然に多くなります。そうすると「それはちがうよ」と言われた時に、思わず「ちがくないよ」と言ったりしてしまうのです。「違う」は動詞なので「・・・くない」とはならないのです。
 最初の「ダメくない」の「ダメ」は形容動詞の語幹なので、名詞に「ない」を付けるのと同様に「ダメじゃない」と言うのが正しく、例えば「好き」を否定する時に、「好かない」「好きじゃない」と言わずに、この記事のタイトルのごとく「好きくない」と言ったりするのと同じなのです。

 「だから文法なんて大嫌いだ」と思ってしまうか、「ことばの仕組みも少しは知っておいたほうがいいかもしれない」と感じるかどうかは脇に置いといて、そんなことには無関係の子どもにとっても、日本語にはややっこしいところがいっぱいあるので大変です。

 KAZU君と遊んでいて、「あと一回でおしまいだよ」と言うと、今のところ「おしまい、しない」と言いますが、そのうち「おしまくないの!」と言ったりするのではないかと内心期待をしちゃったりする、ちょっと意地悪なおじいちゃんのお話でした。



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