毎週の出来事をお伝えします
電話室便り
プラテーロ と ぼく / PLATERO Y YO
2020-09-16 / 本
少なくても40年ほどずっと持っていた本を、この夏に読みました。
40年以上昔に読んだときは、途中で寝てしまい、そしてもう一度挑戦しても
またすぐに寝てしまい、結局読み終わることなくその後本棚にて長きにわたり
熟成させていたことになります。
本が熟成? そうですね、本が、ではなく、読み手が熟成してくるのを本が
本棚で黙って待っていた、と言うべきでしょう。
というのも、
岩波少年文庫で出版した 「 プラテーロとぼく 」 ですが、少年少女向けとは
到底思えない、これは大人も大人、自分の人生観がある程度形作られている
40~50代以上の大人のための特上の一冊!でしたから。
作者フラン・ラモン・ヒメネスがろばのプラテーロと一緒に故郷モゲールの
町で過ごした7年間に出会ったささやかな出来事ついての138編など、
若気の至りの10代には何とも退屈で、読み進もうにも眠くて眠くて・・・
となっていたのも今だと肯けます。
これは、万物を創造した大いなる何かと共鳴する心を持つ一人の詩人が、盲目
的で卑小な、時に忌まわしいほどに愚かで、しかし愛すべき人間の営みや、
自らの幼い頃の思い出や、モゲールの町のすばらしい四季と自然についてを、
いつも一緒の銀色( スペイン語で銀は plata=プラータといい、毛の銀色から
Platero プラテーロと名付けたらしい ※訳注より )のろば プラテーロに語り
かける、というスタイルで詠った 散文詩なのです。
地中海の西の出口ジブラルタル海峡を通り抜け、スペインとポルトガルの国境
の北東にモゲールの町はあります。
「 プラテールとぼく 」 の副題には 「 ― アンダルシアのエレジー ― 」 とあり、
100年前のこの土地には、白痴、皮膚病の野良犬、淵、子守むすめ、荷車、
葡萄酒醸造所、ジプシー、闘牛、カーニバル、教会の塔、井戸、泉、こどもと
つばめ、夕暮れ、アーモンドとオレンジの木、リーリアの花といちじくがあり、
人々が汚れと菌、埃や唾とともに、それらにまみれて生きて死んでいました。
「 プラテーロは小さくて、むくむく毛が生え、ふんわりしている。見たところ
あまりやわらかいので、からだ全体が綿でできている、骨なんかない、と言えそうだ。
真っ黒な瞳のきらめきだけが、まるで二匹のかぶと虫みたいにこちこちしている。
手綱をはなしてやる。すると草原へゆき、ばら色、空いろ、こがね色の小さな花々
に、そっと鼻づらをふれて、生あたたかな息でかわいがる・・・・・ぼくがやさしく
『 プラテーロ? 』 とよぶと、うれしそうに駆けてくる。なんだか幻の鈴の音の中
に、笑いさざめくような足音をたてながら・・・・・ 」
詩人はプラテーロにまたがり、「 ごらんよ、プラテーロ、 」 と語りかけます、生命
から永遠へと通じる小道の途中とちゅうで。
138編の珠玉、
それがどんなに尊く儚く美しいものか、また同時に哀しみを湛えているものなのかを
詩人と共に染みいるように味わい、しばしページを閉じて溜息をつく・・・・・
そのような豊かな時間を、40数年という長い熟成期間を経てようやく得ることが
できたようです。
素晴らしい。
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