レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

『鐘は鳴る』市川ジュン

2006-08-20 09:09:42 | マンガ
 市川ジュンの「別冊マーガレット」時代の作品。1975年。
 翠子(みどりこ)は、日本舞踊の家元の次女。体が弱くて踊りはできないが、姉のヨーロッパ公演に特別に同行させてもらう。スイス・グリンデルワルトのホテルに滞在中に、その主人である青年ヘルマンと出会う。ホテルは支配人にまかせきりで山にばかり登っている偏屈なヘルマンには、幼いころに父と共に登頂した際、彼をかばって父が命を落としたという過去があった。それゆえに村でも浮いた存在のヘルマンに、家で孤独な翠子は共感を抱いて惹かれていく。しかし彼にやはり想いをよせる村の娘の「私は健康よ!でもあなたは彼についていけないじゃないの!」との言葉に衝撃を受ける。
 結局、父の遺体を捜す機会を求めて山に行ったヘルマンはそこで還らぬ人となる。彼が愛したのは山だけだった。
「いまも 緑深い森に 野に 幾千年の氷河の山間に 鐘は鳴り渡っているだろうーー」のフレーズが、巻頭とラストを飾る。

 ・・・おお~、まさに古き良き少女マンガ、異国情緒あふれる甘美なロマンス。
私はリアルタイムで読んだのだが、「ヨーロッパ取材旅行」(こんなの、いまの少女誌であるのだろうか?)なんて言葉のキラメキはいまよりはるかに大きかったものだ。(でも、可愛らしい街並にはしゃぐ翠子の気持ちはいまのほうが理解できる)
 スイスが多言語国家でメインはドイツ語であることをこれで覚えたと思う。

 この『鐘は鳴る』というタイトルもいかにもロマンチックなのだが(ドイツ語文学に関する限りは、スイスに「ロマンチック」は実は合わない)、同じ「鐘」でも、柿を食いながらきく法隆寺や煩悩を追い出す108のであってはラブロマンスにふさわしくないのだ。少女マンガのヨーロッパ志向はあのころのほうが強かった、リアリティはともかく。

 市川ジュンのこれの前作は、マタ・ハリの娘が母の復讐を企てる『暁の目の娘』だった。

 あ~、復活しないかな~。
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