レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

『すげかえられた首』

2009-02-20 06:01:20 | 
 光文社の古典新訳文庫でわりに最近出たトーマス・マンの『だまされた女 すげかえられた首』はたいへん面白い。
 前者、たいていは『欺かれた女』という題で呼ばれるだろうけど、敢えてこんなミもフタもない邦題になっている。将校の寡婦である上品な50歳の婦人が、息子に英語を教えに通うアメリカ青年に恋心を抱く。そのときめきのせいで、閉経したものがまた甦った・・・と思ったら、それは病のせいだった。
 後者はインドの話。身分も性格も違う親友の青年二人、シュリーダマンとナンダ。シュリーダマンは美しい娘シータに恋して、ナンダのはからいで結婚。3人での旅の途上、女神に祈るシュリーダマンは、感情の昂ぶりのままに自ら首をはねて死亡、それを見たナンダは自分もあとを追う。シータは女神の命令で二人の首を体に戻すが、首と胴体とをまちがえてしまった。
 --男二人に女一人というと、『こころ』が浮かんでくるのだけど、あの「お嬢さん」と違ってこのシータは心理がなんと詳細に描かれていることか。シュリーダマンと結婚していながら、頭は夫が立派だけど体はナンダのほうがステキだと思っていて、二人の首をつけ間違えたのも全くのうっかりともいえなかったりして、なんとも生々しい女ごころである。その一方、シュリーダマンとナンダもなにやらホモくささを感じるのは作者がトーマス・マンだからだろうか。マンガにするならレディコミ向きか。コメディにもなりそう。
 これからも、多少マイナーな、ほかに文庫に入ってない作品をいれてほしい。マンなら『ヴェルズングの血』あたりまた読みたい。カロッサとかシラーとか、唐突ながらクリスタ・ウィンスローエ『制服の処女』! 『車輪の下』があるならこれも! 
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